57.新しい世界の扉3
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今回も遅れ気味ですが何とか二日以内で上げられました。
これからもよろしくお願いします。
巫女たちが白亜の館にやって来た翌日夜明け前。
ジーナは零司の願いを叶える為に楓の世話をした筈だったがそれは楓によって拒否された。
そして『零司がこの後風呂へに入るから間違えない様に』と指示されたので楓たちと別れた後でもう一度風呂へ入り零司が入浴するのを待っていた筈だった。
しかしその零司がいつまで経っても現れず、巫女たちは馴れない大きな風呂の膨大な潜熱にやられて逆上せてしまい気を失ってしまう。
◻
気が付いたジーナが目を開けるとそこは視界の全てがスラゴーだった。
心地良い温かさを感じながらスラゴーの海に漂っているかの様だ。
ジーナは無心で美しく雄大な景色を眺めている。
キラキラと瞬く星は祖先の囁き、広がる光は地上の人々を優しく包み込む温かな想い。
そんな風に言い伝えられるスラゴーに包まれているジーナの心は安らぎ、ただじっと宇宙を見上げていた。
しかしそんな夜空も次第に白み掛かり、スラゴーは幕引きを迎える。
ジーナの心を温かく包んだスラゴーは次第に青色へとその姿を変えて行く。
ここで初めて残念に想う自分を認識して起き上がるジーナは風呂で見た何の為にあるのか不明だった四角く大きな台の上にクーリスたちが寝かされているのを見てこれは儀式だったのではないかと考える。
逆上せてしまったのは自分達のミスだがその後やって来たのは零司しかいない筈なのだから、これは自分達を生まれ変わらせる為の異世界の儀式と捉えるのが正しいだろう。
何故ならリジカーネスによって失われたものが、乙女に戻っていたのだから。
この事は全員が起きた後に行われた緊急会議で全員一致の『復活の儀式』説推しで決着し、零司を再生と繁栄の魔王として崇めるとした。
実際には謁見室で受けた回復により修復されていたが、その時は確認していなかっただけである。
これは出産後にネコの回復を受けたミティも同じだった。
◻白亜の館、裏の正面玄関前
「これより神待宮へ行って参ります。帰りは半月後になります」
ジーナたちは来た時と同じ正装で馬車の前に並んでいる。
「行ってらっしゃい、気を付けてね」
楓は優しく彼女たちを送り出す。
「それではまた」
ジーナが深くお辞儀をするとお付きたちも揃ってお辞儀をする。
「ラチェット、着いて行ってやれ」
「そうですね、その方が良いですよね。それじゃ私も行って参ります。楓さん、後はよろしくお願いしますね」
「ええ、行ってらっしゃい。よろしく頼むわよ」
ラチェットは猫になって御者席に乗った。
それを見た御者と護衛は最初に見た時の威厳に満ちた御姿と違いフレンドリーさに驚いたが、かわいい動物に変身したその見た目に何故か心が和らぐ。
もう一度礼をして三つの馬車に別れて乗り込んだジーナたち。
今回はリジカーネスが居た席にクーリスが居るのでジーナも心が軽い。
だがそれはお付きたちも同じである。
扉が閉まりゆっくりと出発する三台の馬車はサーラの誘導で門を抜け、神待宮へと向かうのだった。
◻学校
「おはようございますケイン先生」
「おはようにゃ!」
「おはよーケイン」
「おはようございます」
「皆さんおはようございます。校長は今日から一週間お休みの筈では?」
元聖職者で語学教師のケインが教員室に入る楓たちに挨拶をする。
「予定がキャンセルされたのでいつも通りになりました。代わりにラチェット先生が暫く休みになりますが宜しくお願いしますね」
「そうでしたか、こちらこそよろしくお願いします」
全員集まった教師たちは今日の連絡事項を話し合い、特に問題が無い事を確かめると後は鐘が鳴るのを待つだけになった。
教員室には今のところ二学年向け授業で午前午後の部の二時間ずつ、外部から招いた補助講師として以下の人材が来ている。
農業と服飾の授業に農業組合から老練な農家の主人と奥さん。
商業の授業にモールの商店を預かるチーフのダリル。
工業の授業ではこの街唯一の鍛冶職人のヤテルと、木工が盛んな隣街のリーデルから招いた特別講師。
この人材により当面は教師不足を埋め合わせながら、いま育てている生徒が実践を積んで学校教育にフィードバックする方向にしている。
それは零司たちが言わなくても既に生徒自身が感じている事なので態々押し付けなくても大丈夫だと零司は考えている。
鐘が鳴り、各教師は各々が担当する教室へと向かう。
楓とネコは二年服飾クラスへ。
零司は二年工業クラス。
ケインとマルキウは一年の語学授業へと向かう。
◻二年服飾クラス
この学校の服飾クラスでは服の基礎となる糸作りから始まる。
綿花については農業に分類されているのでその生産方法などは省かれている。
現代日本に於いては服飾は『工業』に位置するのだが、ここでは授業の分類として工業は金属や木工を扱うものとして分類された。
今は四月下旬であり、製品が出来るまでの基礎的な流れとそこで使われる道具の種類や材質についての話が終わった所であり、黒板に書かれる説明をノートに書き写してから手動で糸車を回し、最終的に自分が作る衣装に必要な生地を織り上げるだけの十分な量の糸を確保しているところだ。
そして卒業までに学校で配布される機材は全て自分で組み上げるキットとして格安で販売し、卒業後はそのまま仕事を始められる様にと配慮されていた。
組み立てキットなのは問題が生じた時にどこを見れば良いのか自分で理解させる為でもある。
◻二年農業クラス
『農業の基礎は土造りから』を合言葉に始まった授業は零司が講師の意見を元に用意した二つの農場と牧場、山間地を使う、四クラス中で最も広い敷地面積を要する。
農場は比較的平坦な畑造りに向いている土地をマルキウと共に探して講師から許可を貰った場所であり開墾から体験させる。
これから畑を増やすとなれば当然開墾が必要になるので、安全で効率的な伐採や根っこを抜く方法を教えた。
そして土の中の異物を取り除く作業と、肥料を撒き、土に馴染ませるところまで進んだ。
今はもうひとつの零司が神術を使って用意した農場で種まきをしているところだ。
こちらは零司個人の農場と同じ様式の農場であり、栽培の学習用に特化したもので、何の問題も無く育つ作物がどんな物になるかを自然農法と比較する事で将来自分が持つ畑の理想像を持ち易くしている。
道具はもちろん末永く使える物を零司が用意して格安販売している。
◻二年工業クラス
このクラスでは最初に木工を習って貰う。
素材の種類と確保、保管方法と切り出しなどの基礎。
実際の工作では正確に計り、正確に切り出し、正確に仕上げる事を学ぶ。
講師が実際に行う作業をその目で見る事でその精神を感じて貰う。
この手の職人は、きちんと仕上げる為に多くの手間を掛けるという所を確りと見るのが大事なのだ。
きちんと仕上げられない理由の多くは、その手間を掛けていない事に由来するのだから。
現在は木工職人の指導と零司の知識から作り出した新しい木工道具を元にして複製を創り、生徒に格安で販売して実習がスムーズに進む様にした。
いま作っているのは小さな子供が座るくらいの椅子だが、基礎を学ぶ為の物なので小さくても問題無い。
要は如何に正確に仕上げられるかなのだ。
正確に出来る様になったら本格的な製作に入る予定である。
◻二年商業クラス
『商売は愛情』を合言葉に生徒を育てている。
零司の知る限り、利益を優先すると戦争が起きるのは確実なので、この世界に合った商売の理念をダリルの情熱と零司で組み立てた。
最初は経済の基本を教え、物流と資金の流れを説明しており、生徒からの質問が最も多いクラスでもある。
現在は出納記録の作り方と記載方法を教えている。
因みに、零司の元に集まる実用的な学習用品の販売で得たお金は学校でプールされて保険的な扱いになる。
◻一年 一時間目 語学授業
ルールミルとイーノにとっては文字や単語、文章組み立てなどは既に習得済みではあるが、時折その言葉の由来をマルキウが解説する時など、王女のルールミルでも他の生徒と一緒に楽しんでいる。
◻一年 二時間目 算術授業
この時間は偶々ネコしか空いてる教師が居なかったので任せたが、いつも楓の補助として付いていたのでやっていた内容をきちんと覚えていてそれなりに授業は出来たし、好感のある授業だったらしい。
それにルールミルのサポートもあり問題は無かった様だ。
◻一年 三時間目 生活授業
今日は調理で、作るのはシチューである。
具材のジャガイモは零司が果樹園で栽培試験をしていた物で、最近この世界に一般解放しても大丈夫だと確認が取れた作物である。
他にも玉ねぎとニンジンが併せて解放されて、今は農業組合向けに用意された試験農場で組合員が栽培に関する指導を受けている最中だ。
その三種の食材を楓が持ち込み、生徒の教材として提供した。
当然初めて見るその食材に生徒は興奮しながらも黒板に書かれる数々の注意点を書き留めていく。
最も注意を要するのは日の光りが射す場所で保管してしまったジャガイモの扱いだった。
紫の芽が出たら確実に削り落とさないと命を落とす危険があると言うもので、これは日本の学校なら小学生の時に学ぶ内容である。
そして玉ねぎを切る時の注意。
解決法は幾つかあるのだが、一番簡単なのは『鼻で息をしない』事だろう。
原因は玉ねぎに含まれる刺激物が空気中に飛散し、それを鼻に通す事で涙が出るので、最初から鼻ではなく口で息をすれば良いだけである。
しかしこの対処法を知った生徒たちでも意識が呼吸から離れると鼻で呼吸してしまい惨事が発生していた。
それでも出来上がったシチューは美味しく、神の世界の料理を自分達で作ったというのもありどの生徒も満足している様だ。
◻二年 選択科目 社交 月曜日
二年の三時間目は事前に予約を入れておく事さえ忘れなければ誰でも参加自由であり、大抵はその一時間で完結するか複数回の連続した授業で同じ内容を繰り返す。
内容は事前に一覧が貼り出されているので、その時の内容によって参加を決められるシステムだ。
月曜日の社交の担当は語学教師のケインが元々王都に隣接する街の聖職者だったので礼儀作法を身に付けている事から抜擢されて、他にも天使のラチェットが担当なのだが、出張の為に今回を含め、可能性としては最長で三回欠席する事になったのでケインは一人で女子たちの相手をしなければならなかった。
社交は男子には人気が無いのである。
この社交の最初の授業ではラチェットは姿勢などの動きを教える為に本来の姿を見せた。
猫のラチェットが実は天使だったと、このとき初めて知ったケインは驚き、その驚く姿に生徒からの笑い声が漏れる一幕もあったがその後の関係性は良好で問題は無いらしい。
サーラはこの選択科目では全てを受講する様に言われているので一年の時と同じ様に毎日三時間授業を受けていた。
そうして今日も午後の授業まで終えて、生徒の質問や相談を聞いたり今後の授業の準備をしている内に五時のメロディが流れる。
日本の学校とは違い部活動など無いので基本的にこのメロディで閉門するが、天文の授業だけは延長で泊まりの活動をする事になるので、当初は金曜日に設定されていたのを土曜日へ移動し、翌日余裕を持てる様にしてある。
当然だが徹夜明けでモールへ出勤はさせられないので、日曜の出勤については考慮されていた。
◻白亜の館
「今日もお疲れ」
マルキウはリビングのソファに座ったネコの頭の上に胡座をかいて楓とネコに言った。
「「お疲れ様」にゃ」
「ねー、楓」
「なに?」
「楓たちってそんなに四六時中働いてて疲れないの?」
「うーん、どうなんだろ? こっちに来る以前だったらとてもじゃないけどここまで何かをしたりはしなかったでしょうね」
「じゃあ何でやってるのさ」
「そうねぇ、多分気を紛らわせる為かしら」
「なにそれ」
「何もしてないと良くない事を考えてしまいそうだから、かな。それに大変だけどやり甲斐を感じるのよね」
「ふーん」
解せないながらに納得はした模様。
「戻った」
「お帰りなさいリリさん、いつも大変な仕事ご苦労様」
楓が労うが、当のリリは少しボーッとした感じで『何が?』と言いたそうだ。
今まで約一年、リリは監視カメラで客たちの映像を見続けているが、問題と言える事案は発生していなかった。
ただ人々が幸せそうにしているのを見るのは純粋に嬉しく、あの血塗れの世界での出来事を思えば苦労だとは全く思っていなかった。
「お茶を入れるわね」
楓が立とうとするとネコが楓の肩に手を置き、それを制する。
「ネコが煎れるにゃ!」
笑顔で言うとマルキウを頭に乗せたままキッチンへと向かった。
「楓、魔王様は?」
リリは住人の数が増えて大きくなった丸テーブルが今は対面で話すには大き過ぎて使い難いと感じながら楓の隣に座り、今日は夕食を共に出来ないのかと心配する。
「何か領主のシエルさんに用事があるそうよ。用が済めば直ぐ帰るって言ってたわね」
「分かった」
楓の返事を聞いたリリは少し頬を染め、零司との食事を楽しみに待つ事にした。
そのあと果樹園での作業を終えて手を繋いで帰ったルールミルとイーノ。
「ただいま帰りました」
「「お帰り」なさい、貴女たちも一休みしてね」
「お帰りなのにゃ、ルーミルとイーノにもお茶にゃ」
「「頂きます」」
ルールミルたちもソファに座ってネコが煎れたお茶を貰う。
「ありがとうございますネコさん」
「今日はありがとうね、ネコをサポートしてくれて」
「助かったのにゃー」
「いえ、私は普通の事をしただけですから」
「ラチェットさんが戻るまで大体半月、これからもお願いします」
頭を下げる楓に慌てるルールミルだが楓の助けになれたのを嬉しいと思う。
その頃、サーラは閉店後の店内清掃していると零司が領主のシエルを連れて門の向こうからやって来たので作業しながらも二人を見ていた。
二人は話し合いをしながら大口商取引窓口があるロータリーの出口側の少し空いていたスペースに小さめの転移門を設置している。
それは北極の建物に置いた門と同じサイズで、その門を守る様に小さな建物が建ち二人はその中へと消えた。
暫くして出てきた二人だがシエルが寒そうに体を擦っているのを見てサーラは零司が願いを叶えてくれたのだと心から感謝したのだった。
そしてレストランの片付けを終えて今日も門の開扉を新しい言葉を使い演出する。
「我が名はサーラ、魔王零司に連なる者也。我が魂に刻まれし魔王の力を以て、古より閉ざされし其の扉に眠る光と風を我が前に見せるが良い。あんろっくざどあー」
(ガチン! ゴゴゴゴゴ……)
重厚な効果音まで聞こえ、開かれる扉の隙間から緩やかな風と目映い光りが溢れ出す。
「楓様、ただいま戻りました」
リビングの扉を開けて規律と会釈する。
今日の社交授業で覚えたての礼である。
「お帰りなさい、サーラさん。貴女も一息ついてから夕食の準備を始めましょうか」
「はいっ!」
元気に答えるサーラだった。
次回も出来るだけ早目に上げられるようにしたいところですがお盆はどうなるか分かりませんので、上げられなかった時はごめんなさい。




