55.新しい世界の扉
開いてくれてありがとうございます! ゜+.゜(´▽`人)゜+.゜
今回は女子18人で風呂回です!
リリの館の住人になった巫女たちは楓から正式に『家族として迎え入れる』と聞かされる。
今まで神に仕える事だけを考えて生きて来たお付きたちは突然神様から家族宣言されて混乱した。
「いきなりの話だからな、時間を掛けて馴れていけば良いさ」
零司にそう言われて多少は安心するが、それでもやはり大恩のある雲上の存在の筈の神と自分達では格が違い過ぎると萎縮しそうだ。
それに巫女候補だった彼女たちは全員が赤子の内に貧しい家から引き取られた者たちで、教育施設内でも家族と言うよりも共同体に近い存在であり、もっとも親しい者は隣り合った候補番号を持つ二人で親友だった。
その親友も今日からは家族なのだ。
彼女たちにしてみれば一般世界の家族と言う未知の組織、父や母、兄弟などの話を聞いた時、興味が無かった訳では無い。
しかし今の生活に不便や不満があった訳でも無かった。
物心付いた頃にはその生活であり、それしか知らないのだから当然とも言える。
ただ、偶に我の強い子が居る。
そう言った子が含まれたグループは丸ごと失敗とみなされ、我が儘を知ってしまったが故に巫女の候補からその時点で外されたりする。
偶々その我欲を良い方に向ける事が出来た者が神待宮へと呼ばれ、ある適性検査を受け合格すると神術使い候補生になる。
こういった子達は巫女候補よりも厳しい教育を受け、それに残った者が特別な地位に就くのだ。
話が逸れたが、リリの館に居る巫女たちは家族と言う響きで驚いたものの、家族がどう言うものなのかが良く解っていない。
血族が代々連なり一緒に生活し、結婚して子を産み育てる、それを知識として知るのみであり、恋愛や結婚の対象となる異性も無く必要な事だけを教えられ純粋に育った、いわゆる『箱入り娘』である。
ただし彼女たちの場合は『超』が付いて、そのうえ神を喜ばせる技術も単に教養のひとつとして身に付けていた。
一般的な生活をしていれば当然見る、知る、考える、行動する事も、育成施設内では雑念にしかならない事として全て省かれていた。
しかしただひとつだけ、ジーナたちが持ったただひとつの自発的な雑念がある。
それが彼女たちの中だけで通じる名前だった。
彼女たちはある意味でこの名前を持った事で他の巫女たちとは違い、より家族に近かったのかもしれない。
今回の歓迎会に用意した室内装飾と料理の数々は先日ルールミルたちに出した物と同じだが、巫女たちは酒とジュースのどちらを選んだかと言えば酒であった。
酒と言っても感謝祭で出された果実酒であり香りが良い。
その酒を少しずつ口にしては僅かに鼻を抜けるアルコールのつんと来る匂いと果実の甘い香りを楽しむお付きたちは、初めて飲むには上品な嗜み方ではあるがそれも巫女候補だった名残りである。
しかしそれはジーナたちだけであり、マルキウやネコはあっという間に出来上がりへべれけになってしまう。
普通に話が出来たのはネコにマルキウ、リリ以外ではあるが、元来お付きとして生活してきただけにそんな彼女たちにも丁寧に介抱したり、リリは零司への募る想いを曝け出して興味を引いていたりと、それなりに歓迎会は楽しめた様であり少なくとも良好な滑り出しであっただろう。
◻
「何よこれ! どーなってるの!?」
裸のマルキウが勢い良く飛び回る。
余りにもべろんべろんになっていた三人は零司が回復を掛けたお陰でスッキリしていた。
「また随分と広げたわね」
楓は白い足場自体が淡く発光し、要所要所を優しくライトアップされた露天風呂を見回す。
「にゃははは!」
さっきと同じで浅い所を走り回るネコ。
「まるで海岸みたいになってますね」
ラチェットは呆れている。
「さすが私の魔王様、揺るぎ無い」
リリの揺るぎ無い信頼を得る零司。
それに賛同するサーラ。
「さすが零司様です!「いいぞ魔王様! もっとやれー!」やれー!」
サーラはリリに手を繋がれて揃って気勢をあげている。
ルールミルとイーノは手を繋いだまま現実離れした拡張に呆れている。
ジーナは自然の光景なのか神工的なのかの区別すら出来ないがその空間を美しいが広過ぎて寂しそうだとも感じていた。
今は周りに二十人近く居るので大丈夫だが、もし一人だったら心細く感じてしまうだろうと。
狭い空間でいつも誰かと一緒に居たからこそ、この広さに少しだが不安を覚えた。
それは他のお付きたちも同じだったらしく、パートナーの手を確りと握っている。
その一方で、リリの館の住人の自由さに驚いてもいた。
リジカーネスしか実態を知らないが、教育課程では神をもてなす為に様々な事を覚えたジーナに役立ったのは演技だけであった。
加虐心で体を求めるだけのリジカーネスが満足するだけの演技をして見せる事しか出来なかった。
その演技もここでは女性しかいないのでどこまで通じるか分からない。
しかし神々を見る限り自分達が居なくても十分に楽しそうであり、自分達に何かを求める素振りも無い。
この気持ちはお付きたちも同じである。
神に仕えるにあたり、零司に巫女と同じ状態を与えられた以上は同じだけの役割を求められる理由も神が四人居るからだろうと推測している。
ジーナは零司に楓を助ける様に言われているのでジーナとクーリスは楓を、差し当たり他のお付きたちでリリとネコ、ラチェットとマルキウなら数が合うと判断した。
「楓様、御体を御流し致します。どうぞこちらへ」
クーリスを従えたジーナが声を掛けるが返事はこうだ。
「私は良いから皆ゆっくり楽しんで良いわよ?」
「そう言う訳には参りません。零司様より楓様の御世話をする様に仰せつかっております」
「あー、そう言う事ね。それじゃお願いしてみようかしら?」
楓は気恥ずかしそうに頼む。
他のお付きたちもそれぞれに付く事が出来た様だが、ネコは何だか判らないと言った風情でなし崩しに体を洗われている。
楓も最初は『さすがプロは違うわ』などと悠長に構えて居たのだが、段々と二人の手の動きや場所、そして体を密着させるなど、ちょっとおかしいと感じて来た。
息が荒くなり、弛緩する体で彼女たちの為すがままにされ、いつの間にか床に膝を着き四つん這いにされていた。
笑顔で楓を包み込む様に身体中をマッサージして行くジーナたちは喜んで貰えている事に喜びを感じている。
零司から受けた恩を少しでも返したいと思っているので、楓が満足してくれたら最高の結果と言えた。
その頃リリやネコたちも同じ様に体を洗われて、流し場は異様な光景になっていた。
それをただ黙って見ているしか出来ないサーラやルールミルとイーノだが、イーノは彼女たちを見て気が乗ってしまったのかルールミルに囁く様に優しい言葉で絡み始める。
「ルー、良いよね?」
「ちょっ、ここじゃダメ……ん、んん」
満更でもなさそうなルールミル。
そんな不健全な空間に一人残されてしまったサーラは、こんな事態をどうしたら良いのか判らず混乱する。
そして首から下げた鍵を両手で力一杯に握り締めて目に前の光景を目に焼き付けながら零司に助けを求めた。
純粋なその瞳は無力な自分に涙を流している。
「呼んだか?」
サーラの目の前にあった光景は零司によって遮られて、声を聞いて安堵したサーラはそのまま抱き着いた。
「ここは風呂か」
零司のお腹に顔を埋めて泣いているサーラに危険な信号を察知するものの引き剥がす訳にも行かない。
泣いているサーラに何が起きたのかと小さな肩を両手で優しく掴まえて上半身を捩って周囲を見回した零司は固まる。
『これが百合か』
それどころではない。
楓もジーナたちに絡まれて大変な事になっている。
今ここで何かをしても大丈夫だろうかと自身の安全を考えなかったと言えば嘘になるが事態は切迫していた。
しかし零司が何かをする前に、正確には零司がジーナたちに直ちに止める様に声を上げようとしたその直前。
「駄目っ!」
楓が声を上げ、全員が動きを止めた。
荒い息だけが聞こえる、余りに開放的なその場所で楓は気怠い身体でゆっくりと二人を押し退け立ち上がると俯いたまま閉じた目で涙を流す。
ジーナたちはそれを不思議そうに見上げている。
「この体は零司だけのものなの。だからもう……止めて」
悲しそうに呟く楓。
お付きたちから解放されたネコやリリたちも上半身を起こして周りを見ると、一人でよろけるサーラが見えた。
結局その後は普通に風呂に入り、お互いの文化の違いから生じた事故として、誤解を解いた楓たちと巫女側で和解し、以後こういったサービスは不要と伝えて了承を得た。
そして毎度の様に生じる事故なのかラッキーなのかは判らないが、零司が入っている風呂に侵入するのを防ぐ為に一言付け加える。
「零司はこのあと入る事になってるから気をつけてね?」
ジーナは了承した。
楓たちは疑似ビーチをたっぷりと堪能して気分良く風呂を上がり、全員を対象に転移で水気を切るネコは嬉しそうだ。
脱衣場で浴衣を着ると楓は中が見える二重ガラス扉の大きな冷蔵庫を開けると牛乳瓶を取り出す。
紙の蓋を小さな棒の先に付いた千枚通しの様に太い針で突き刺し取り除いて見せた楓は、腰に手を宛ててグイグイと煽って一気に飲み干した。
「ぷはー、やっぱり風呂上がりはこれよね!」
それを真似するネコ。
「ぷはー、これにゃ!」
ただしネコはコーヒー牛乳だった。
「んぐ、んぐ、んっん、ふー、私はこれだな」
リリが選んだのはももジュースの『ネクター』だ。
「アタシはこれが一番ね!」
マルキウは密がたっぷりのリンゴジュースを丸一本飲みたくて大きくなっている節がある。
「私はさっぱりした甘さのこちらでしょうか」
ミカンジュースを選んだラチェット。
「毎回悩みます。今日はどれにしましょう?」
サーラは他の人の邪魔にならない様に遠巻きに冷蔵庫を見て、凡そ二十種類ある飲み物を吟味している。
「私たちはこれを」
そう言ってレモンティーを二本取り出すイーノはルールミルに一本を渡す。
牛乳を飲み終った楓はマッサージチェアで骨休め、じゃなく骨をゴリゴリされている。
マルキウも特に疲れた訳でも無いのにゴリゴリとされて『あー』とか『うー』とか声を漏らしていた。
他は拡張された脱衣場のリラックスエリアに設置されたファブリック地で肌触りの良いソファに腰掛けて話をしている。
サーラはジーナたちに対して、自分はまだ決めかねているので先にどうぞと促した。
ジーナは未知の飲み物に対して果敢に攻める、とは行かずに冷蔵庫の横で見ているサーラに相談した。
「どれを選ぶのが良いと思いますか?」
聞かれたサーラはどれを選ぶか悩んでいる最中である。
だが、だからと言って助けを求める初心者に対して無下になどできる筈も無く、将来モールを背負える様にと零司と楓が育てたサーラは優しく受け入れる。
「好みの食べ物や飲み物は何でしょうか?」
まるでレストランのウェイトレスの様だ。
「お魚とお茶でしょうか」
お魚ジュースは無かった。
なのでルールミルたちと同じレモンティーを薦めてみる。
「有難う御座います」
ずっと年下のサーラに対して丁寧なお辞儀をして、蓋が取り除かれたレモンティーの瓶を受けとり横にずれてクーリスを待つ。
「宜しくお願いします、私は草餅とお茶でしょうか」
草餅、お茶、早くも行き詰まる。
もちろん草餅ジュースは無いのでレモンティーを薦めたいところだが、どうも巫女は飲み物と言えばお茶だけの様に思える。
そう言えば、とサーラはここに来るまで、やはりお茶と水しか飲んでいなかったのを思い出す。
この冷蔵庫には一種類につき十本入っているのだが、このままだとルールミルたちが持って行った二本分が足りなくなるのは火を見る様に明らかな事だった。
そこで一案を提示した。
「こちらはどうでしょう。巫女様と飲み比べてみるのも良いかもしれません」
差し出したのは『ネクター』だった。
芳醇な香りと濃厚な味、そして滑らかな舌触りの正に神の飲み物を推薦する。
「それも良いですね」
嬉しそうに笑顔で受け入れたクーリスは蓋を取ったネクターの瓶を受け取り、ジーナと二人、楽しそうに飲み比べしている。
それを見た他のお付きたちも同じ様にパートナーとは違う物を選んで受け取り、嬉しそうにその分厚い瓶に口付けでもするかの様にジュースを堪能している。
全員が受け取り、ついに最後になったサーラは零司が好んでいると言う『禁断のジュース』、コークに手を伸ばした。
この飲み物だけは特別な瓶に詰められ、蓋も頑丈な金属製であり見るからに違っていた。
そのコークを取り出すと扉に付いている突起に蓋の端っこを引っ掛け抉ると『王冠』が外れてシュパッと音がした後に王冠は突起の下にある箱の中に落ちて回収された。
以前零司から直接レクチャーを受けているので『禁断のジュース』を飲む心構えは出来ていたが、それでも、既に魔王の蓋は開かれてしまっているのに少しだけ手が震える。
『振ってはいけない、衝撃を加えてもいけない、一気に飲んではいけない、飲み終わったら早急にうがいを繰り返さなければいけない』
数々の『いけない』が羅列されたジュースをサーラは小さなその口に一口だけ注ぎ込む。
(じゅわー)
口の中に広がる不思議な痛みにも似た感覚と、僅かに苦味が混じった甘い果実の様でありながら香りと呼べる物が殆ど無い不思議な黒い液体。
瓶の中で次々と生まれてくる不思議な泡を見ながら、さっき助けに来てくれた零司を思い出してはもう一口笑顔で飲むのだった。
そろそろ百合タグ必要か。




