54.巫女たちの新しい門出
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先月末辺りから多くの方に見て貰える様になり驚きつつも気を引き締めております。
巫女たちは自分達の為に零司が用意した二階の北東にあるジーナとクーリスの部屋に向かい、他の部屋より広めのリビングに集まる。
そして改めてもう二度と見る事は無いと思われたお互いの素顔を見せ合い、喜びを分かち合う。
みな互いに名前を呼び合い、記憶にある顔と名前を一致させようとしている。
その喜びの中、嬉しさに涙を流し抱き合ったり両手で手を握り小さかった頃に手を繋いで一緒に歩いた事を思い出したり、それぞれに懐かしさとこれからを思う。
その喜びも一段落して落ち着くと次はこの館での基本的な器具などの取り扱い方をホテルに泊まっていた先触れ組が実演したりしながら説明してゆく。
一応はさっきの館の案内の中でも説明を受けてはいたのだが、ハッキリ言ってしまえば説明が早くて良く分かっていなかった。
部屋の入り口と奥の部屋を繋ぐ扉の横に『照明スイッチ』があり、このスイッチ二つがペアでどちらを押しても交互に点いたり消えたりする。
これを見る彼女たちは不思議そうで、そして楽しそうだ。
照明は消える時には時間をかけてゆっくりと消え、点けるときは蝋燭に火が点く感じで『ぽわっ』と明るくなる。
照明自体は花の形をした物で、部屋の四隅と中央の天井に据え付けられていた。
花は部屋の主であるジーナとクーリスの名の由来となった花をモチーフに創られており、零司はインフォメーションチップを元に該当する花を探り当て、それらの花を意匠にした数々のインテリアを設置してあった。
それにシャワーだ。
湯船に浸かるのが入浴、濡らしてきつく絞った手拭いで身体を拭く清拭しか知らず、シャワーの様な物は見た事が無い。
しかしその利用時の独特な気持ち良さと簡便さは比べる物が無いと先触れ組には好評だった。
とは言え長年静かな環境で生きてきたので情報を伝えるのに無駄に長いキャピキャピとした表現では無く、例えて言うならばサムアップに近いシンプルな同意だろうか。
それとトイレは以前もこの世界で初めてモールで一般向けに導入した時の『モールの謎』として、ある意味有名な排泄したものが見える水洗式トイレ。
それまでのこの世界でのトイレと言えば穴が開いているだけなので臭いも当然するのだが排泄物は暗い穴の中に落ちて排泄物その物を確認する事の無かった在来式に対し、水洗式トイレはまるで野外で致した後の様に見えるのが神の国の常識なのかと不思議に思うのだった。
数々のとても手の込んだ緻密な生地や壁紙、大胆な、と言うより、継ぎ目の少ないシンプルなデザインのシャワールームなど、部屋全体は一見とてもシンプルでありながら実はとても繊細な品で構成されている。
今まで生活してきた神待宮の居室は巫女の部屋の様に神が直接やって来る事も想定された部屋以外は非常に簡素なものであり、お付きとして必要な物と清潔な環境である以外には何も無かった。
そしてそれらの直接神が関わらない環境を維持していたのは、タイミングその他諸々の事情で巫女やお付きに成れなかった者たちである。
当然ながら他の世代の候補たちと鉢合わせが起きない様に時間をずらしてお付きたちの部屋の清掃と使用済みの衣装などを洗濯済みの物と差し替えるシステムが取られている為、情報が漏洩する危険性を極力減らされている彼女たちは狭い範囲で極めて質素な生活をしていたのだ。
そんな彼女たちがこの館で与えられた部屋は神待宮での巫女の部屋を越える物であった。
忌紋を綺麗に消し去られた事などを考えると今後それに見合う働きを零司が求めているのだと考えている。
何故なら彼女たちはリジカーネスとは異なり心身を優しく包み込まれる様に零司が所有するものになったと実感していたのだから、これに異を唱える者など彼女たちの中に居る筈も無い。
巫女たちの統一認識が決まった事で各部屋に移動し、ここで生活する為の準備が始まった。
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面を被り直してジーナの部屋を出たお付きたちはいつもの様に儀式的な様式美の二列横隊で巫女の部屋の扉に向かいお辞儀をすると、全員その場で左を向いて二列縦隊になり西方向へと廊下を進む。
見た目も足運びも揃える姿は日が射し込む美しく静かな館の廊下という事もあり、社を並んで歩く日本の巫女を思わせ美しさと壮厳さを感じさせる。
最初の扉の前で立ち止まり扉側へ寄る先頭の二人は壁に倣って二人が並び、クルリとその場で向き合う様にして百八十度向きを変えお辞儀をすると、残った六人がまた西へ向かってそのまま歩き出す。
六人が通り過ぎると二人は頭を上げて扉に向かい、二人揃って両開きの扉を押し開けて部屋の中に消えた。
ジーナの部屋から数えて三番目の扉の前、候補番号三番と四番だったミーリとカーシャは立ち止まり、さっきの候補番号一番と二番だった者たちの様に扉側に移動してお辞儀をすると残りの四人が進んだので部屋に入る。
二人で揃えて扉を静かに閉めると大きく息を吸い込み、そしてゆっくりと吐き出した。
荷物を奥の寝室へと運び一段落すると面を外してもう一度お互いを確かめ合う。
「ミーリちゃん」
「カーシャ」
二人は抱き合い涙を流しながらキスをした。
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一人用のシャワーを一緒に浴びて汗を流した二人はある事を話題に恥じらいながらまた抱き合っている。
「無くなってたね」
「うん、綺麗にね」
「これも零司様の望みだよね?」
「それ以外考えられないよね」
身体中に入れ墨の様に描かれた忌紋だけでなく、一般的に大人の印などと呼ばれるそれも綺麗に消失していた。
年頃になってから教育担当から教えられた神との戯れの知識から、候補同士での行為も行き過ぎの無い程度に推奨されていたが、忌紋をつけられてからはそういった事もほとんど無かった寂しさから、口付けした瞬間からそれが止まらないのだ。
夕食までまだ時間はたっぷりとあるのだからゆっくりと楽しもうと零司に感謝しながら積もった想いを果たす二人だった。
この『大人の印』が無くなった件では零司が術を掛ける時に、彼女たちの現状と回復後のイメージをまるで素体の様にぼんやりと考えていたのが原因である。
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荷物の片付けも済んだミーリとカーシャはもう一度巫女の部屋へと向かう。
(コンコン)
扉が中から開かれ半分面を見せて相手を確認してから中に通されたそこには既に全員が揃い、面を外して静かに談話していた。
その光景は幼年期を想起させ、文字の習得や針仕事、算術や礼儀などを教育係の現担当者に勉強を教えられていたのを懐かしく思い出し、心が少しだけ温かくなるのを感じた。
その中にはジーナも立場上の制約はあるものの、同じく楽しそうに話をしている。
そんなジーナを見るのは巫女選定前以来だなとカーシャは思った。
(コンコン)
カーシャが対応に出て扉を少し開けるとそこにはサーラが見えた。
サーラは会釈してから楓が今までに試作した服を多目的ルームに用意したので気に入った服があればサイズを合わせた上で無償引き渡しすると言う。
今までは支給品だけで生活し、精々庭から持って来た花を自室に飾るくらいしか個人の物を持った事が無い巫女たちは衝撃を受ける。
『気に入った服』
初めて神待宮の外に出た巫女たちは人々の様々な服装を見て驚いていた。
多くは白と茶や緑系で染色された簡素な服を着重ねた物であったが、中にはヒラヒラとした目に鮮やかな赤いドレスなども見て来たので外の衣装も気になっては居たのだ
それが今、これから仕える魔王零司の将来の妻であり、手伝う様にと言われている『救済の女神モリヤマ・カエデ』から贈り物が来た。
いつもは静かで落ち着いている彼女たちもこれには色めき立ち、巫女として育てられたとは言ってもやはりそこは年頃の女性たちであった。
サーラに案内されて南側の多目的ルームにやって来た巫女たちは、扉を開けたその室内に所狭しと並んだハンガーラックに吊るされた洋服の数々に悲鳴に似た小さな声を上げた。
「皆ようこそ。ここには私の世界を基にした服を置いてあるから変わってるとは思うけど、気に入った服があれば吊るしてあるハンガーに番号が付いてるからそれをこのメモ帳に書いて後で渡してね。数は幾らでも用意出来るし大きさも合わせられるから気にしないで選ぶと良いわ。それに暫くはここに置いておくから空いてる時間で選んでも良いわよ」
服を見る前に楓とネコ、サーラの三人で採寸するが、まさか全員がほぼ同じサイズだとは思ってもいないだろう。
そしてここにあるのはこの世界ではまだ早いかなと思う物も含まれているので、彼女たちが選ぶ服ならこの世界でも普通に使える可能性があるかもしれないと思っている。
それに時代的にはまだ早そうなデザインだったとしても彼女たちをショーモデルの様に使えば、新たな分野の開拓が出来る可能性もあった。
何せ彼女たちは粒揃いの美人なのでとても目立つのだ。
それから巫女の衣装が着付けなどで大変だと思い二人で入れる様にとゆったりとした大きめの試着室を用意したが、零司が話した予想通りに二人一組で入り色々試着して楽しんでいるのだった。
巫女たちが服選びで夢中になっている頃には外はとっくに暗くなっていたが、室内灯が明るめに設定されている多目的ルームではそれを感じさせなかった。
「そろそろ夕食の時間になるから切り上げましょうか。それと館内の普段着はこれ、お風呂の後はこっちの浴衣を着ると楽で良いわ。サーラが普段着を用意してるから受け取って着替えたら食事に行きましょうか」
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物々しい巫女たちの外向きの衣装から館内でなら普段着に便利な日本のインナーと、ドレスに見えなくもないシンプルなロングのワンピースに着替え、楓を先頭に移動して一階南リビングルームの扉の前に来た。
楓とネコが扉を押し開けて両脇に避けるとジーナたちに室内が見えた。
明るい部屋にクリスマス会場の様な装飾と料理で飾られた美味しそうな臭いが立ち込める室内。
それはルールミルたちが受けた歓迎と同じだったが、今回クラッカーは無しである。
さすがに巫女たちに対してルールミルとイーノの様な事態を発生させるのは止めておこうとなったからだ。
全員が室内に入りきったのを確認して扉を閉める楓たち。
ジーナとクーリスを挟む零司と楓、二人ずつ挟む様にして大きく丸いテーブルを囲んだロングソファーに座って行く。
「改めて、リリの館へようこそ。私たちは貴女たちを新しい家族として迎え入れるわ、これからよろしくね」
古参住人側から拍手が起き、面を付けていないお付きたちが皆驚いているのが良く判る。
それからは在来住人側が積極的に話し掛ける形で柔らかな会話が続いて親交を深めようとしているが、隣り合う零司とジーナはあまり話さないまま、ジーナが見慣れぬ料理を零司に取って貰い食べる時に僅かなうんちくを話すに留まっていたため、楓は零司に対して『何か話しなさいよ』とは思うのだが、反面でそんな零司をやたらに女性と話したがらないパートナーとして信頼していたりする。
そんな零司でも隣に座るジーナには不満など無い。
寧ろ隣に座って居る零司が望んだ事をいつでも出来る様にと指示を待っているくらいだ。
リジカーネスの横暴な欲求から見れば極めて紳士的であり、知らない様式の食事でも優しく静かに教えてくれる零司に、顔も知らなかった教育係の女性に対する様な温かな想いを寄せていた。
裏設定:
吊るされた服は楓が所有していた零司用以外の服全てが含まれていました。
その中にはこれまでに何度も楓に没収されたリリの衣装も含まれています。
フォルダごとまとめて取り出したので楓はそのミスに気付かず、サーラが真っ赤になりながらリリの衣装を吊るす作業をしています。
『神様って凄い』
そんな事を思うサーラと巫女たちでした。(笑)
おまけ:増えた住人は十人。 ふふふ。




