表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/186

52.魔王零司

ブックマークありがとうございます! (*´∀`*)

「大丈夫にゃ」

 巫女の声以外、静寂なこの謁見室にネコの声がした。

「ご主人様はそんな事絶対にしないのにゃ」

 零司に抱き着いて甘えるネコが幸せそうにそんな事を言う。

 平伏(ひれふ)したまま呆然とその言葉を聞いていた巫女はまだ零司の言葉を聞いた訳ではないので安心は出来ない。


 ネコの細く小さな背中を左手で引き寄せて優しく抱いている零司は、ネコの頭を撫でながら言った。

「俺は楓にいつも幸せで居て欲しいと思っている」

 巫女はクーリス(お付き長)の無事だけを祈りながらただ静かに零司の声、審判を待っている。


「楓の願う普通の、人としての生活を護りたいだけだ。……ただ、この世界とは違う部分があるからそこに手を加えているだけで、人々に施しをしているなんて思ってはいないだろう。楓も、俺もな。……楓はみんなに喜んで貰いたいんだよ。元々俺たちは別の世界の人間で、あんたたち巫女よりもお気楽なただの一般人だったからな」


 その言葉に巫女はショックを受ける。

 自分達が担当するリジカーネスは()の世界では主神に次ぐ地位にあると言っていたが、零司たちの様な知識と力を持つ神がただの一般人でしかない世界など想像もつかなかったのだ。

 だがまだ話は続いており予断を許す状況ではない。


「そこで巫女のお前に訊きたい事がある」

 『来た』

 ここで選択を間違える訳にはいかない。

 この返答次第であの子たちの未来が確定するのだ。


「こいつは必要か?」

 何を言っているのだろうか。

 その神が居なければ私たちの存在価値など無いと言うのに。


「お前たち巫女が神から異世界の知識を得る為に存在しているのはラチェットや人々の話から知ってはいるが、お前たちはそいつ(・・・)でなければいけないのかと聞いているんだ」

 神待宮(しんたいぐう)からそう言いつけられている以上は従わなければならないし、それが当然であり神も他神が使った(・・・)巫女など誰も望みはしない。

 本当は神の質問に対して質問を返すのは無礼なのだが、今は我が身の安全よりも守らなければならない大切な者の為に、正しい答えを導き出す為に敢えてそれを口にした。


「わたくしたちにはそれしか選べませぬ。何故その様な事をお訊ねに為られるのでしょう」

「言い方が悪かったな。簡単に言えばその男に仕えるのではなく、ここに来る気は無いかと言っているんだ」

 巫女は選択肢として存在しなかったルートを示されて困惑する。

 一本道だけだと言われて育てられたのに突然二又に差し掛かったのだから当然である。

 そしてこれは自分も含んでいるのかはまだ判らないが少なくとも親友のクーリスが助かるのなら選択しない理由は無かった。


「ここに来れば、ってそうか、この部屋じゃないぞ。俺たちの住む家で楓の助けになって欲しい。その条件を飲んでくれるならお前たちに異世界の有益な情報を与えよう。これは違える事の無い約束だ。それといい加減顔を上げろ」

 死を覚悟していたのに結果は真逆だった。

 だがこんな約束を自分一人でして良いとは思えない。


「望外の御配慮に感謝致します。なれどわたくし一人で決められる事では御座いませんのでせめてお付き長のクーリスを呼んで戴ければと存じます」

「解った、少し待て」

 その言葉の直後に零司の姿が消えてネコがよろける。

 僅か四秒後にはクーリスを連れて戻って来た。


「着いたぞ。少し待てば目も馴れる」

「御意」

「クーリス!」

 思わず叫ぶ巫女。

 リジカーネスにさえ知らされていないし見分けられない彼女をどうやってこんなに早く見つけたと言うのか。


「ジーナ?」

「クーリス、目を閉じて絶対に開けないで、お願い」

 クーリスは巫女がどんなに酷い仕打ちを受けた後でもそんな事を言った事は無かったと思いながら素直に従うが、神の意思が優先されるのはお付きの長であるクーリスも十分に解っている。

 それでもこんな願いを口にする巫女に、普通では考えられない事態が発生しているのだと感じさせられ緊張した。


「ふむ、俺の趣味はお前たちには刺激が強過ぎる様だな。お前は目を閉じているのを許可する」

「ありがとうございます」

 再び平伏す巫女。

「だからお前は顔を上げろ、そこまでする事じゃない。それにこのあとリジカーネスを復活させるが、それはこっちでやるから後はさっきの話だな」

 いつの間にかネコはまた零司に抱き着いている。


「巫女と話したんだが、お前たちにはリジカーネスの担当を外れて楓の手伝いをして貰いたいと巫女に要請したところだ。その判断にクーリスが必要だと言われ連れて来た訳だが。ネコ、クーリスを巫女のところまで連れて行ってやれ」

「零司様、それには及びませぬ。クーリス、此方へ」

 呼ばれたクーリスは目を開けているとしか思えない動作で巫女の下へと進み零司へ向き直ると正座した。


「よし、二人でさっきの話を決めてくれ、このままこいつに付くのも、楓の下に来てくれるのも、どちらでも好きな方を選べ。ただし、こいつは許さん。神の力を奪い、泣かせて地獄に叩き込み、二度と出て来られない様にしてやる」

 恐怖する巫女たちに残された選択肢など事実上ひとつしか無かった。


 巫女とクーリスの話し合いは短時間で終わり、零司と楓の下へと移籍する事を決めた。

 受け入れた巫女たちにはそれを正式な契約である事を示す一枚の書面を作成して日付と共に著名する。

 その契約書を渡された巫女は条文を確認するが、そこには巫女たちを拘束する内容は一切書かれていなかった。




 【 契約書 】


一、魔王零司はこの契約書が本物である事を保証する。


二、魔王零司の要請により巫女ジーナを含む十名は、本日まで仕えたリジカーネスの担当を外れ、下に記載する本日の日付を以て戦の女神リリの館で受け入れる。


三、今回受け入れる巫女ジーナに対し、今後一年間に限り、最低でも一月一回の異世界の有益な、その時点で公開されていない情報又は製品の製造方法又は製品その物を提供し、一年経過後も魔王零司が居る限り必要に応じてこれらを提供する事を約束する。


四、戦の女神リリ、救済の女神楓、慈愛の女神ネコ、魔王零司に対して無礼を働いたリジカーネスの扱いは魔王零司の権限で二度と戻れない様に追放とする。


 以上


 日付:

     ル王朝二三五期二九年四月二一日

 

 著名:

     魔王零司

     神待宮所属 第三二五期 巫女

     神待宮所属 第三二五期 お付き長




 返って来た契約書を見て二人の著名を確認した零司は指摘する。

「お前たちの役職だけしか書かれてないぞ、きちんと名前を入れろ。そうしないとこの契約書は無効になるぞ」

 その言葉に巫女が答える。

「我らは本来名前はありません。施設で育てられる際に番号が与えられ、神の下へと赴任する際に巫女が選出されます。その役職名が名前であり「良いから書け」……御意」


 差し戻された契約書に名前が書き込まれ、二人は向かい合い巫女は微笑んでいる。

 恐らくお付き長も面の下で同じ心境なのだろうと判るくらいには二人の重なる手がそれを示していた。


 巫女から契約書が零司に手渡され、今度こそ零司に受理される。

 無限倉庫に納められた契約書は即コピーを二つ作り出して巫女に手渡す。

「それじゃその二枚はお前たちに渡す。一枚はお前たちで管理しろ、もう一枚は神待宮に持って行け、無くすなよ? それと……」


 零司はネコを離し、正座して自分の足元に目を向けている巫女に近付くと、目の前で片膝を着けて右手を差し出す。

 巫女はこんな事をクーリス(お付き長)以外にされた事が無く、神である零司に対して同じ事をして良いのか判らず零司を見上げると笑顔で自分を見ていた。

 涙で化粧も落ちている酷い顔になっている筈の自分に向けられた優しいその笑顔に惹かれるまま、差し出された零司の右手に自分の右手を差し出す。

 触れたその手はクーリスと同じ人の温もりがあった。


 巫女は淡い緑の光に包まれる。

「あ、あぁ……あぁ……れぃ……さまぁ……あぁ……」

 ジーナはリジカーネスなどとは全く異なる、お腹の内側から熱く優しい何かで掻き回され、自分が魔王零司の望んだ体に変えられて行くのを感じた。

 続いてクーリスも巫女の誘導を受けて零司と手を重ねて術を施されると、裸で零司に抱き締められた様に身体中が火照るのを感じた。

 二人にしてみればこれが魔王との契約なのだと心と体が捧げられたのだと実感していた。

 しかし零司は皿洗いと同じ要領で巫女たちのインフォメーションチップに示された状態異常を回復させただけである。


「さてと、畏まった喋り方はもう要らないぞ。俺たちに対しては普通にしていい。街の皆も同じだからな」

 巫女たちはその言葉に一抹の寂しさを覚える。自分達の存在意義である根幹が崩されるのだから。

 神と共に在る様にと様々な教育を受け、それしか知らない彼女たちにとっての共通の意義なのだ。

 それを感じ取ったのか零司は付け足した。

「まあそれも、お前たちが望めば、だがな。好きにして良いぞ」

「魔王零司様に心よりの感謝を」

 それから化粧直しを済ませた巫女ジーナはお付き長クーリスと手を繋ぎ、共にネコに連れられてロータリーへ転移した。


「さて、こいつはどうするか」

 リジカーネスのボロボロの遺体の様な物を見つめている零司は自分もこんな感じだったのだろうかと魔王の玉座で起きた撲殺事件を思い出していた。

「まあ、あいつらにああ言った手前、戻られても困るから自分の世界にお帰り願おうか」

 零司はリジカーネスの遺体の様な物に触れて『皿洗い』する。

 ただし一部改変を加えてだが。


「よお、目が覚めたみたいだな、リジカーネス」

「んっ、んん? 誰だ貴様は」

「何だ覚えてないのか?」

「何を言ってる、何の話だ!」

 即席の台の上に仰向けで寝かされ手足がガッチリと固定されて動けないリジカーネスは身を捩り何とか抜け出そうとするが神の力が封じられているのか転移も出来ない。

「これは何だ!! 貴様何をしている!!」

 事態が飲み込めずに困惑し暴れるリジカーネスは固定された頭で必死に見える範囲に目を走らせ状況確認を試みる。


「ひぃっ!」

 リジカーネスの目に入ったのは壁際に立つ、紅い目が爛々と光る巨大なミノタウロスの像であった。

 裸の上半身は黒光りして、はち切れんばかりの筋肉量を備えてこちらを見つめながら『ハアハア』と荒い息を吐き、今にも襲い掛かって来そうな程にいきり立っている。

 手に持つ巨大なハルバートはブルブルと震え、あんな物が振り下ろされたら真っ二つになってしまうだろう。


「何だ! 何が望みだ!」

「思い出せ、お前が今まで何をして来たのか」

「何!? どう言う事だ! どう……ヒィィ!」

「……やっと思い出したか。俺の女に手を出して悲しませた罪は重いぞ? これからじっくりその罪を(あがな)って貰おうじゃないか」

 ニヤリと笑う。

「もしここから逃げ出しても俺が行ける世界なら確実に居場所を突き止められるからな、くく。また捕まえて何度でも貴様を切り刻んでやる。あいつらでな」

 零司は目線を変える。

 その先には壁際に見えた一匹のミノタウロスが、二匹、三匹とその数を増してリジカーネスに近付く。

 しかしその数は決してこんなに少なくはないのが足音と台座を揺らす振動で判る。


「ひゃー!! あぁあああ! 止めろ、止めてくれ!!」

「そんな訳に行くか、死んだらまた復活させてやる。今でもう百回は越えてるから慣れたもんだ。ハハハハハハハ!」

 既に視界の全てがミノタウロスであり、荒く熱い息が吹き付けられて息をするのも苦しい。

 涙を流し、叫び続けたリジカーネスは、一体が振り上げたハルバートを見たのを最後に気絶した。


 リジカーネスが完全に沈黙したのを確認した零司は操作していた像を元の場所に戻して拘束具を消した。

 つまりお人形さんで遊んでいたのだ。

 暗い部屋なので少しばかりリアルにしただけでも細かい部分はだいぶ誤魔化せただろう。

 後はもう一度目を覚ませば、自分がいま何度目の復活なのかと恐怖して逃げ出すだろう。

 それをきちんと確認してこの世界に存在していないかを全域走査で確認するだけだ。

 もしこの世界に居たのなら即捕縛して何度でも同じ目に遭わせるだけだ。


 そして零司は影に隠れ、気絶したばかりのリジカーネスが自ら目を覚ましたかの様な起こし方で気付かせたら予定通りに転移を確認、全域走査でも存在を確認出来なかったので撤退したものと見なす。

 当然だが一度術を使ったら神力が消える呪い付きで、契約を違えない様に細心の注意を払っている。

 そして魔王の謁見室と言う名の『拷問部屋』へ来てから十五分も経っていなかった。


 片付けと確認も済んだ零司は楓たちが待つモールのロータリーへ帰還するのだった。

やっぱり魔王だった(笑)



元の世界に帰ったリジカーネスは神々から見放されたあと、ただの人間として一生を終えたそう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ