48.新しきもの8 始業と先触れ
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(*´▽`*)
そろそろ二期生の生徒たちも学校に馴染み始めた頃。
生活の授業で汗だくになって校庭を走るルールミルたち。
「零司、先生、今日も、厳しい、ですね」
「そうね、ほんとに、サーラ、さんの、言う通り、だわ」
ルールミルとイーノの二人は大量の汗を流して息遣いも激しく、温室育ちの二人は走ると言うよりも歩くより遅い足取りになっている。
「がんばって、ルーミル! イーノ!」
クラスメイトのマーリに追い抜かれる度に声を掛けられる。
ルールミルとイーノは双子の様に二人一緒に手を挙げて応えるが、マーリは既に疲れきったルールミルたちの声が届く距離には居ない。
マーリは地元ファーリナ生まれで去年の一期生として入学したかったが、家の手伝いの方が忙しく今年入学になったルールミルと同い年の女性だ。
去年、モールで手に入れた給料で家の方が楽になったので今年入学した。
元々家の手伝いで街の外れなどに行く用事も多く毎日の様に歩いていたし、同僚から学校の様子を聞いていたので手伝いで移動する時も薪などを背負いながら軽くジョギングくらいの感じで走っていた事もあり足腰には自信があった。
「よーし、ラスト! もう少しだ、がんばれー!」
ルールミルたちが残り四分の一を残した所で声が掛かる。
しかしもうヘロヘロの二人には今のペースが限界だった。
「こ、これなら、ずっと、歩いて、いた方が、早い、かも、しれない、わね」
最初から他の生徒と合わせて飛ばし過ぎたのが原因のひとつではあるが、基礎体力の無さは誤魔化しようがない。
結局最後にゴールした二人はその場で膝を着き、当人たちは死ぬんじゃないかと思うくらいに息を荒くしている。
その二人をマーリと親しい友達が途中で応援したりタオルや水を用意してあげたりしながらその時を待っていた。
「お疲れ様、がんばったわね」
返事を返したいが息切れで声も出ない。
「よく頑張ったな」
零司に誉められて余計に心拍が増えそうになるがこれが目一杯だ。
「体が温まっている内にシャワーで汗を流して着替えておけよ。それじゃ今日はこれで終わりだ」
「「「お疲れ様でした」」」
零司は全く疲れてはいないのだが、モールと同じでこれが通例になっていた。
連絡事項は最初の授業前に通達されるので、三限目が終わればあとは解散、各自自由だった。
さて、今年から二学年同時に授業があり、二年生は二限目までは四つの専門科目に別れ、三限目は選択科目で受けたい者だけが参加する。
つまり下の様になる。
一限目:一年(語学)、二年(服飾、農業、工業、商業)
二限目:一年(算術)、二年(同上)
三限目:一年(生活)、二年(社交、芸術、機械、化学、天文、神術)
全体では二限目までは五組に別れて行われるが二年の三限目、選択科目は曜日毎に科目が替わる。
一限目:五クラス
一年語学担当 ケイン
二年服飾担当 農業組合の派遣、楓
二年農業担当 農業組合の派遣、零司、果樹園の派遣
二年工業担当 零司、鍛冶屋の主人
二年商業担当 ダリル、零司
二限目:五クラス
一年算術担当 楓、零司、ネコ
二年 同上
三限目:二クラス
一年生活担当 楓、零司
二年選択科目担当
月曜日 社交担当 ラチェット、ケイン、楓
火曜日 芸術担当 零司、楓
水曜日 機械担当 零司、ネコ
木曜日 化学担当 零司、楓
金曜日 神術担当 零司、リリ、ラチェット
土曜日 天文担当 零司、楓
夜間:モールでチーフクラス専用(ネコの回復と癒し付き)
担当 都度必要な教師
ひと教科に複数の教師が割り当てられる場合は交代で担当する事が多いが、中には一期生の一学年同様に複数で担当する事もあるだろう。
そしてサーラは専門科目は商業、選択科目は全てを受ける様にと零司に言われている。
二年でとりわけ選択率が高かったのは神術魔術科目だ。
これは最初から予想されていたが、事前の説明で適性検査を行い合格したものだけが受講可能としたのだが、全員が申し込んでいたのは零司にとっても予想外だった。
この検査はある意味ではサーラを実験台として開発したものであり、サーラが持つ鍵と同じく零司の力を籠めた神光石を持たせ、事前に受講者全員でイメージを揃える為に体育館で幾つかのパターンを覚えさせる。
具体的にはボールを弾ませ、それが頂点に来た所で停止させるとか、授業で習った空気の概念から、目の前に紙一枚を垂らし、風を起こして靡かせるなどの、目に見えて肌で感じるイメージを『見せて』、それを真似して貰うのだ。
炎弾を出すとか、氷槍を飛ばすとか、彼らがイメージし難いものは避けてある。
その結果、事前に鑑定で見るインフォメーションチップから予想されたよりも多くの六人が合格したが、これはあくまでも零司の石を使っての話であり、単独で使える者は居ない。
そして何故予想が外れたのかは今後彼らを育てながら解明していく事になる。
そうすれば今回の検査で発見出来なかったかもしれない者を掘り起こす鍵になるかもしれない。
今後四半期毎に希望者に対して検査を行う事も約束した程、強く残念に思う生徒が多かったのを付け加えておこう。
◻午後、白亜の館
楓に仕立てて貰ったメイド服を着てルールミルとイーノが掃き掃除している。
掃除するのは主に裏の玄関から門までのブロックが敷き詰められた道だが、基本的には零司が領域内全てを『皿洗い』と同じ要領で綺麗にするのでこの様な掃き掃除の必要性は無い。
「筋肉痛が酷いですけど、何とか馴れて来たわね」
「はい、それにこの後は果樹園の記録を採れば良いだけですから」
果樹園の記録と言うよりも、隔壁の中にある新品種開発の為に経過観察している数百の試験株を見て、決められたフォーマットに従いノートに記録を書き込んでいくのだ。
これは毎日ノート一冊分のデータが集まり、後でデータベース化する助けになるものだ。
当然だがこの区画全てのデータを直接取り込みデータベース化出来る零司には正確性も含めて意味の無い物だった。
しかしこれは将来同じ作業をする人々の手引きになる重要な情報なのでルールミルたちにとっては決して無駄などと言う事は無い。
基本的には異種交配や突然変異で出来た株を分け、それを幾つもの異なる条件で育てる、試合で言えば『総当たり戦』形式で良い結果を探し出すのだ。
これはどこにその『良い結果』が出るか判らないので、とにかく広い範囲の考えられるだけの条件を用意している。
そして良い結果にならなくても、更に他の条件で育てた品種と掛け合わせてみたりするので、とにかく膨大な数になるのだ。
全ての苗木は系統がハッキリと判る区画分けがされており、どこに在るかだけでその元になった親木が判る。
その作業が終わる頃には午後の授業も終わり住人が帰ってくる。
そしていつも帰りが遅く、場合によっては帰って来ない日も多い零司に楓は心細く感じているのだろうとルールミルは思う。
その零司は農業組合や鍛冶職人の所へ行ったりと様々な新規事業に関連して精力的に動き回り殆ど休む暇が無く、夜はサーラの勉強も見ている事を思うとその精神的な強靭さや肉体的な疲れ知らずだけで無く、人々を想いながら楓を最優先にする零司はやはり神なのだと畏敬の念と共に憧れや好意を懐かずに居られない。
そして今日も夕食の席には姿が無く、楓はいつもと同じ様に見えてもやはりどこか寂しそうだ。
それは周りも同じく感じている様でそんな楓を元気付けようと楽しい話題を振るのだった。
◻数日後の夕方
「零司様、先程モールに巫女様の使いが到着し、明日昼には巫女様も到着するそうです」
サーラは果樹園でルールミルたちに教育している零司のところへやって来た。
モールが再開して一週間ほど経った頃に神待宮の巫女から『モールを見学したい』と言う旨の手紙を持った使者がやって来た。
モールを見学したいと書いてあるものの、巫女が来る以上は当然神も来る事になる。
巫女もこちらが神である事を知っており、かなり丁寧な言い回しで都合の良い日を訊ねている。
それに対して今年から導入した一週間制度があるので休息日となる日曜日から一週間の滞在を許可し、使者が早目にとの要請で、往復十日掛かる事を考えて二週間後の日曜日を指定していたのだ。
その前日の今日、先触れとして先の使者が来たのだった。
「解った、ありがとうサーラ」
いつも通りの普通のやり取り。
「零司様少し宜しいですか?」
ルールミルは慌てて零司に訊ねた。
「何だ」
「巫女が来るとはどういった話でしょうか? 良ければ聞かせて下さい」
少しばかり焦りを感じるルールミルとイーノの視線に対して至って普通に答える。
「明日から一週間、王都に居る神と巫女が遊びに来るだけだ」
二人は嫌な予感が当たったと言いたげに悔しそうな顔をする。
「どうかなされたのですか?」
サーラが二人を心配そうに見ている。
「何があった」
零司も二人に訊ねた。
「零司様あれは、いえ、リジカーネス様は王城でも良くない話しか聞きません。どうかお気を付け下さい」
それだけ言うと二人とも深く頭を下げるのだった。
二人からしてみれば、零司や他の人々がリジカーネスと接触する事で嫌な思いをして欲しくないだけなのだ。
その頃、先触れの巫女はホテルでリジカーネスたちを受け入れる為の準備に掛かっていた。
「今回は当ホテルで最高級グレードのスラゴーを三部屋全て貸し切りで受け入れさせて頂きます」
バンが緊張しながら部屋を案内する。
「よろしい、ではこちらの部屋に荷物を運びなさい」
完全に上から目線である。
とは言っても、目は仮面の下なので良く判らない。
そしてその晩、先触れの四名はレストランへ食事を届ける様に命じる。
しかしとっくにラストオーダーを過ぎて閉まっていたので巫女の接待を担当するサーラは楓に相談し、楓がストックしている中でお気に入りのメニューを出すとネコにコピーさせて台車に載せて運ばせた。
サーラはお付きが待つ部屋に到着した。
(コンコン)
「お食事をお持ち致しました」
程無くして一人のお付きが出てくる。
サーラと台車を確認すると横に避け、簡単に一言だけ。
「中へ」
部屋の奥で三人のお付きの者が整列したまま身動きせずにずっとその作業を見ている。
その光景は一種不気味ではあるが悪意など感情と呼べるものは一切感じなかった。
菊人形の様に立ち尽くす彼女たち。
サーラはただこの食事を美味しく楽しんで貰いたいと思い寧ろ喜んでテーブルに置いて行く。
(じゅる)
何か聞こえたが気にしない。
最後にサーラが果実酒とネクターの瓶を二本ずつ、グラスもそれぞれに八つ取り出す。
「こちらが今回のメニュー『ようこそファーリナへ』セットになります。ファーリナで採れる食材だけを元に作った、自信を持ってお薦め出来る内容となっております。そしてこちら」
また何も無い所からレストランのラミネート加工されたメニューを取り出してペラペラと中を捲って見せる。
「当モール一階のレストランが営業時間中でしたら常時取り寄せ出来るメニューとなります。営業時間はこちらの『時計』でこの青い帯で記された場所に針がある時間です。営業終了は先程の音楽でお知らせしていますのでご注意願います」
淡々と笑顔で説明を続けながら丁寧にメニューをテーブルの角に置くサーラ。
「下げる時はお呼び下さればいつでも参ります、担当はわたくしサーラと言います。それではどうぞごゆっくりお楽しみ下さい」
サーラはお辞儀の後、部屋を出る時に入り口に居たお付きの彼女にも向き直りお辞儀して離れた。
◻
食事が終わり呼び出されたサーラは皿類全てを収納してテーブルをキレイに拭いた後で部屋を離れたが、今回の彼女たちは全く無口でありながら平伏して身動きしなかった。
不審に思うサーラだが、どの皿もキレイに食べてあり欠けなどの傷も無い。
さっきとは一体何が違うのだろうと思うがサーラには全く思い当たらなかった。
ついにやって来るリジカーネス。
リリの時の引っ張っておきながら呆気ない終わり方をしたのを思い出すとなんか涙が。
今回の裏設定:
メイド服は軽装で動き易い物で、空調が効いている敷地内ではそれで十分。
果樹園では作業服の『ツナギ』に着替えています。
「じゅる」お付きだって人間です。この後スタッフが美味しく頂きました。




