47.新しきもの7 ルーミルとイーノ
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歓迎会では食べて飲んで喋ってジャンクフード故の味の濃い美味さに釣られお腹一杯にした面々は、二次会よろしく露天風呂へと向かった。
零司は当然片付けである。
「モールも広いですがこちらも随分広いのですね」
「ええ、全部零司が創ったのよ? モールはここよりも大きめに、人が管理し易い様にしてあるの」
天幕の下、湯に浸かりながらルールミルと二人で話をしている楓は、あの事を話そうかと思案している。
そして僅かな沈黙の後。
「楓様」
「なに?」
ここまできてから言い淀むルールミルが何を言いたいのかは分かっていても、彼女が聞きたいのならその言葉を待とうと優しく微笑んでいる。
その笑顔に踏ん切りが着いたのか楓に訊ねた。
「楓様は零司様と婚約していると聞いています」
「そうね」
正式な婚約ではないが、お互いの共通の未来像としてそれは確かにある。
「神々の婚姻がどの様なものかは私には分かりませんが、今日、その、零司様から求婚の言葉を頂いたのですが、もしかしたら、その、間違いだったのではと思っているのです」
「そう、その話は零司から聞いているわ」
「そうなのですか?」
「ええ、貴女たちが去った後にマルキウさんに言われてそれが求婚の言葉だと初めて知ったそうよ」
やっぱりそうだったのかと肩を落として小さくなってしまったルールミルを優しく抱き締める楓はルールミルが泣いているのを悟った。
その頃イーノはルールミルから楓と二人で話がしたいと言われ離れていたのだが、元のサイズに戻った小さなマルキウが泳ぎ、ネコがそれを捕まえようと暴れたり、学校では猫の姿だったラチェットが美しい天使の姿でお風呂ではほのぼのとしていたり、目の前に居るサーラと喋っているが彼女は何処にいても変わらなかったりと周りを観察しながら中々賑やかな湯を楽しんでいた。
最初は浄化を使える神が何故風呂なんて返って汚れる事をするのか不思議だった。
しかしここの風呂は一般向けとは大分異なり石鹸だけでなくシャンプーにリンスなんて物まであり、それらは全て良い香りと滑らかな手触りの髪になるのだ。
これなら神だってただ清浄化するよりも楽しめるのだろうと思う。
もしかしたらあのゴールデンラビットが原料に含まれるのだろうか、とも考えたが流石にそれは無いと思いたい。
そして先程から楓に抱かれて小さくなっているルールミルを見るに、やはり上手くは行かなかったのかと残念に思う。
部屋に戻ったら一杯慰めて、明日の朝にはいつもの姫様に戻っていられる様にしようと思うイーノだった。
◻
風呂を上がり、いつも通りにキレイに片付いたリビングへ戻る楓たちと入れ替わりで風呂へ向かう零司。
自室へ戻るルールミルとイーノは歓迎会のお礼と就寝の挨拶をして別れる。
二人で二階の廊下を歩いていると中庭側の窓に灯りがあるのに気が付いたイーノは窓に寄って外を見た。
そこにきれいな花壇を見つけたのでルールミルの気分転換に夜の中庭へと誘った。
中庭をゆっくりと歩く二人。
「きれいですね」
「本当にきれにいね。どなたが造ったのかしら、まさか零司様?」
零司が造園している姿を思い浮かべて小さく笑っている。
隣でそれを見ていたイーノは思っていたよりも随分軽傷なのかもしれないと少しだけ安堵した。
「イーノ、あのね、零司様からの求婚はやはり思い違いだったわ。零司様はあの後でマルキウ様にお聞きになり初めて知ったそうよ」
「そうでしたか。思い違いだったとしても私たちだけの良い経験だったと思いましょう。だから……」
『悲しまないで』と言いたかったが、それでまた悲しみを振り返させたくはなかった。
「そうね……だけどそのあと楓様に言われたの。今はまだその願いを叶えてあげられないけれど、これから家族になりましょうって」
『今はまだ』
それは何を意味しているのだろうか。
イーノは僅かな希望を持たせながらもルールミルの立場が宙に浮いてしまう言葉に強い憤りを感じてしまう。
一国の第一王女ではあっても神からみれば取るに足らない存在だと解ってはいるし、こちらは恩返しとして参上している、ある意味で巫女の様な身上ではある。
王都に居るリジカーネスが巫女をどう扱っているかは聞いているので、それよりはずっと良い方だとは思うのだが。
ここでイーノははたと気が付く。
ルールミル大事さに神とは何なのかを忘れていた。
神と人間の立ち位置を解っていた筈なのに、あまりにも優しく親しいあの人たちに対していつの間にか同じ人間として考えていたのだ。
確かに彼らは自分達を同じ人間として扱う様にと言っては居るが、やはり違うのだと。
しかしそれも続くルールミルの言葉にまた考え直すのだ。
「それでね、イーノ。彼らは元の世界では普通の人間だったそうよ」
ルールミルは花壇を見つめ、悲しそうに話す。
イーノはこの言葉に絶句する。
人が神になる事などあるのだろうかと思うがその謎は解ける筈も無い。
「理由も分からず突然私たちの世界に二人だけで投げ出され、とても怖かったと楓様が仰られていたわ」
少し考える様に目を閉じ黙るルールミルを見つめ、次の言葉をイーノは待つ。
「それは今でも変わらなくて零司様だけが心の支えなのだと私に教えて下さったの」
静かに深呼吸するルールミル。
「私はそんな楓様のお心を傷付けたくはない。そんな中でも私たちの国の人々と同じ立ち位置で救いの手を差し伸べて下さる楓様のお役に立てない王女など、何の為に居るのでしょう」
イーノはこの言葉でルールミルの気持ちが伝わった。
それから二人は少し中庭を散策して純粋に花を楽しみ、心を落ち着かせてから部屋に戻った。
窓から射し込む優しい天幕の輝きに照らされながらベッドの中で慰め合いながらいつの間にか眠っているのだった。
◻
今までよりも数段明るい部屋で早目に目覚めたルールミルは各部屋に備え付けの簡易シャワーを浴びている。
何も考えずに眠ってしまい乾いてしまった汗をきれいに流してバスタオルを巻き寝室へと戻る。
イーノはまだベッドで夢を見ているがじきに目を覚ますだろう。
それまでの間に昨日あった事を僅かに微笑みながら日記に記した。
今はイーノも起きて既にリビングの扉前である。
「準備は良い?」
ルールミルの声に気を引き締めるイーノ。
そこに横から声を掛けられた。
「おはよ」
『『!!』』
心臓が飛び出しそうになるくらいに驚き、声がした方へ向いて一歩下がる二人。
声を掛けたのは小さいながらも美しい戦の女神リリだ。
「そんなに畏まらなくても良いのだぞ」
リリは二人の前に立ち、扉を開けると手招きして中へと入って行く。
ルールミルは緊張していたところに突然声を掛けられ声が出ない。
「はい! 姫様、行きましょう」
声が出せないならそれなりにと頷いて見せ、息を飲んでから深呼吸した。
「大丈夫。行くわ」
ルールミルを先頭に片方だけ開けてあった扉の取っ手に手をやりながらリビングに入る。
そこにはリリと小さなマルキウが相向かいにしていた。
「おはようございます」
「おはよー。アンタたち昨日はゆっくり眠れた?」
「おはようございます、リリ様、マルキウ様。昨日はあのあと中庭の花壇を散策してから休みましたので、今朝は快調です」
イーノの言葉にリリとマルキウは一瞬だけ緊張した様に見えたがさっきまでと変わらず笑顔で接している。
「なら良かったわ。でも今日は授業が始まるから気を引き締めなさいよ」
「「はい!」」
そこに零司がやって来る。
「おはよう」
「おはよ」
「おはよー」
「「おはようございます」」
零司はルールミルの顔色を見るがどうやら問題は無い様だと感じた。
「ルールミル、あの部屋はどうだ? もし使い難い所があれば何時でも言ってくれ、出来るだけ早目に改善しよう」
「お心遣いありがとうございます零司様」
「ふむ……ここなら気楽に話して良いんだぞ?」
「でしたらひとつ提案があります」
「なんだ?」
「私の事は以後『ルーミル』とお呼び下さい」
「姫様!」
「どう言う事だ?」
「おおっ、強いな、私も見習わなけ痛っ!」
「アンタねぇ……」
零司は昨日の夜、楓とベッドを共にしていた。
ただ手を繋いで居るだけでそれ以上の事は何も無いが、それでも今回の件で話す事は沢山あったのだ。
そんな零司は昨日風呂で楓とルールミルが話した事も、一部暈しながらだが要所はきちんと聞いていた。
求婚の話は無かった事になってもルールミルはリビングで明るくしている姿を見て安心していたのだ。
だからこの『ルーミルと呼んで』発言では何か考えがあるのだろうと冷静に聞く事にした。
ルールミルはリリがチョップされて喜んでいるのを見て、そのショックから一瞬だけ引いたが心を落ち着けて話を続ける。
「私はファーリナの街で普通の女性として生活する事にしました。だから零司様も私の事は気軽に『ルーミル』とお呼び下さい」
規律と締め括るルールミルに要領を得ないと再度問う。
「ルールミルをルーミルと呼べと言うのは分かったが、お前が一般人として生活すると言うのが結び付かない」
「それは私の名前、ルールミルは明らかに王族の名前だからです。普通の名前は二音から三音なので気軽に呼び会うにはその方が良いでしょう?」
零司はルールミルから言外に『名前が長くて呼び難いからルーと言ったのではありませんか?』と言われている気がした。
そしてルールミルの方は零司から『お前』呼びされたとき、何か分からない痺れの様なものを感じていた。
「ですから私の事は以後ルーミルとお呼び下さい。幸いな事に公の場ではまだ誰にも名前を言ってはいませんので」
理屈は解るのだがここは田舎街なのだ。
あんなに目立つ専用馬車が来たら誰でも分かりそうだし、何より領主のシエルの館に居たのだから噂くらいにはなっているのではないだろうか。
「了解した。ルールミルの意思を尊重し、これからは本名で呼ぶ必要があるとき以外ではルーミルと呼ぶ事にする。学校の方もそれで良いんだな?」
「勿論です零司様。これからルーミルを宜しくお願いします」
仕事を遣りきった様な良い笑顔を見せる。
「こんな大事な事を勝手に決めてしまわれて良かったのですか?」
困った姫だと言いながら何だか嬉しそうなイーノ。
「こちらの皆様に恩返しが出来るのならば、それくらいの事は王も許してくださるでしょう。そ、れ、に。イーノも私の事をルーミルと呼んでね。これは命令じゃなくて私の大切な人にお願いしているのよ?」
「姫様……「ほら!」ああぁぁ済みません、ル、ルーミル……」
「うん、これから宜しくね、イーノ」
満面の笑顔で挨拶した。
「はい! ルーミル!」
仮染めではあるが、二人は初めて出会った時の様に幼い日の友達に戻ったのだ。
その後、本来は必要ないのだがルールミルたちは学校以外の空いた時間を家政婦として館の手入れと零司がやっている果樹園の品種改良の手伝いをしている。
それから半月経つがルールミルが王女だと騒ぎになる事も無く、平和な日常が続いた。
修正:王族の名前の辺り、「二音から四音」→「二音から三音」




