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43.新しきもの3 王と玉

ブックマークありがとうございます!

(*´▽`*)

 入学式と説明、教材配布が終わり、二期生たちは出会った同期生たちとかたまって話をしながら帰って行く。

 それを見送りつつ零司たちも教員室へと戻ろうとした時、窓際の少女の隣に居たイーノと言う少女が呼び止めた。


「零司先生」

 呼ばれた零司だけでなく、マルキウとサーラも振り返る。

「何か用か?」

 生徒から呼ばれる事に既に馴れていた零司は質問でもあるのかと気軽に返事した。

「少しお話をしたいのですが宜しいでしょうか?」

 微笑んではいるが真剣な目で零司に伺いを立てるイーノ。

「ああ、構わない。それで話とは何だ?」

「ここでは少し話し難い事なので何処か人の居ない場所が良いのですが」

「分かった。それじゃ屋上へ行こうか」




 学校は三階建てなので屋上に出る扉は直ぐそこだが、扉を開けるここまで無口でやって来た五人。

 零司とイーノ、それにマルキウとサーラに窓際の少女。

 窓際の少女と呼称しているが、イーノが溢した言葉を信じるならば、その少女と言うか十五を越えているその女性は姫と言う事になる。

「普段は立ち入り禁止だがここなら良いだろう」

 そう言って扉を開く零司に続いて全員が屋上に出る。


 そこには目の前の少し離れた場所に半径五メートルの丸いドームの屋根があった。

 それに先程の教室からも見えていたが、こちらの方がリーデル方面に向かって更に遠くの地平線まで見える気がする。

 そう、ここはファーリナの街では一番高い建物で、街を一望出来る代わりに街の何処からでも見える場所だ。

 それでもモールの所在地である元禁足の地にあるモールと白亜の館は見えない程に遠いのだが。


 皆が外に出た後で扉を閉める零司。

「それで話とは何だ?」

 イーノは窓際少女と並んでいたが一歩前に出て深呼吸すると零司に向かって(ひざまづ)き、話し始める。

「魔王トキザキレイジ様、先程は大変失礼致しました。私はガーデナ領主、テュリエ・キデルの三女、テュリエ・イーノと申します。今はこちらの「ちょっと待て」……は?」

 零司は深いため息を吐くと、両手を組んで神に祈る様に跪き零司を見上げるイーノに近付き腰を下ろす。

 イーノの両肩を掴んで強制的に立たせた。

 意味が解らないイーノは零司を見上げたまま言葉が出ない。


「最初に言っておくが、俺はここで普通の人間として生きている。だからそれは止めろ」

「え?」

 今の言葉に更に呆然とするイーノ。

「横から失礼致します」

 そこへ窓際少女が綺麗にカーテシーを()めて話し出す。

「私はこの国の王ウィゼル・ル・ホウシランの第一王女、ウィゼル・ル・ルールミルと申します。王の命により魔王トキザキレイジ様の下に参りました。その者はわたくしの侍女として連れて参りました」

「その王女様が俺に個人的な話とは何だ?」

 零司は当たり前だがインフォメーションチップをチェックしているので今彼女が言った事など『王の密命』と一覧にあったので既に知っている。

 ただ密命まででそれ以上は見ていない。

 この世界の住人は破壊的な思考形態を持たないのであまり心配する必要は無いしプライベートに干渉する気も無いのだ。


「はい、王は焔の魔神討伐をして下さった『戦の女神リリ』様、ファーリナの街を救い発展までして頂いた『救済の女神モリヤマ・カエデ』様、そして一般的にはその功績があまり知られてはいませんが、人々を気遣い健康を授けて下さった『慈愛の女神ネコ』様、焔の魔神と闘いその侵攻を防いで頂いた『ミテールヌ山脈の(あるじ) 精霊マルキウ』様、人々の生活向上に極めて多大な影響を与えて下さいました『魔王トキザキ・レイジ』様に心から深く感謝されております。この恩に僅かながらでも報いる為に、わたくし第一王女ウィゼル・ル・ルールミルが参上致しました」


 カーテシーの姿勢を極めたまま長々と話す王女を見て

 零司は『姿勢がブレない辺り、かなり鍛えているな』

 マルキウは『あぁー! 長ったらしいのよ!』

 サーラは『素敵です! さすが第一王女様!』

 と思っていた。


「ルールミル」

「はい」

「普通にして良いぞ」

「それは出来かねます。王より最大の礼を持って接する様にと仰せつかっております」

「どうしてもか?」

「はい」

 領主のシエルと同類だった。

 深い溜め息を吐く零司。

「そうか、残念だ。それならルールミル、お前は本日を持って退学とし、王都に送還する」

 これにルールミルは驚き目を見開くと一歩前に出た。

「そんな! わたくしはただ恩を返したく王都より参ったのです。このまま帰る訳にはいきません!」

 胸に手を宛て真剣に訴える。

「ここは知識と技能を高める場だ。教師に対する敬意なら受け取るが、個人的な事なら他でやれ」

「出来ません! それにこれはわたくしども王家だけでなく、この国すべての民が思う事でもあるのです! 今は王都を離れる事が出来ない王に代わり継承権第一位のわたくしがこの場所で、皆の前で忠誠を尽くす事で民たちの手本となり、より善き「なら退学だ」、ぐっ……」


 進退行き詰まり、いつの間にか手を握り締めて(うっす)らと涙を浮かべ、怒っているのか泣いているのか睨んでいるのかが分からない真っ赤になった顔で零司を見ているルールミル。

「なあルー、「はうっ!」俺たちは普通の人としてこの街で生きている。それを察して欲しい。それにこれは楓の願いだ、その願いを俺は叶えるし邪魔をするなら……解るな?」

 零司はルールミルの長い名前を言い辛いと略した。

 すると回りから小さな驚きの声が聞こえ、それはルールミルも同じであり突然しおらしくなる。


「あーあ言っちゃった。アタシは知ーらない」

「ゴニョゴニョ(私も言って欲しいです)」

「あの、零司様」

 イーノが声を掛けてきた。

「何だ?」

 周りの様子が変わったが授業では良くある事なので零司は気にしなかった。

「今の言葉、それは本気でしょうか?」

 女たちはある一点のみを重要視して問い掛けている。

「ああ、当然だ。今の言葉に二言は無い」

 零司の言葉にルールミルは両手を口に宛て顔を真っ赤にして、さっきまでの威勢は全く見られない。

「そうですか、ルールミル様は如何なさいますか?」

 先程までとは打って変わり、とても落ち着いた静かな口調でイーノは訊ねた。

「は、はい。トキザキ・レイジ様の要望を慎んでお受け致します」

 恥ずかしさで一杯だったが、ルールミルは辛うじてカーテシーを極めて応える事が出来て安心し、涙を流した。

「おめでとうございます姫様」


 零司は知らなかった。

 この国に於いて女性の名前を短縮して呼ぶのは『とても親しい親類』または『婚姻を求める』ときなのだ。

 つまり零司は『私の家族になって欲しい』それか『私は貴方の家族になりたい』、そう言っているのである。

 零司はこの世界に来てから他人の色恋沙汰に関心も無く、そういった場面に出会(でくわ)した事も無いので今回の件は全くの事故だった。

 しかしこの場にそれを理解している者は一人もおらず、淡々と事が運んでしまったのである。


「それじゃこれからは普通に接してくれるな?」

 つまり、ここに居る零司以外の者にとっては家族として普通に接して欲しいとルールミルに言っているのであった。

「は、はい。それが零司様のお望みであるならば」

 ルールミルの認識はマルキウの件でもそうだが、当然零司の事も非常に素晴らしい神であり、正にこの世界の救世主として位置付けられていた。

 ある側面で世間知らずではあるが、それなりに人付き合いもあるルールミルでもその位置付けは年頃の女性に十分な淡い恋心を抱かせていた。

 王宮で王から直々に命を受けた時も、以前から王宮内で話題に上がっていた事もあり歓喜に心が打ち震えた程だ。

 馬車で五日の道中でもファーリナに降り立った神々の話で盛り上がりつつ、未だ見ぬ魔王零司との日常に想いを馳せていたのだ。

 それはイーノが端から見ても判る程に。

 そしてホームルームで零司と親しそうなサーラを見た時、自分では全く気付いていないが嫉妬していた。

 その嫉妬がマルキウの自己紹介の時に普通ならとりあえず静観して真偽を確かめるといった事も忘れさせていたのだ。

 ルールミルの中では何段階ものステップを一気に飛び越しているのだが、真実を知った時、どちらに転ぶのだろうか。



「そう言えば今どこに住んでるんだ?」

 その言葉の最中にもファーリナで王女が住むに相応しい物件を探したが見つからなかった。

 規模的に一番大きかった住宅は領主のシエルの館で、それ以外ではこの地域でごく普通の家と去年と今年、二ヶ所に建設した協同住宅と家族向け戸建て住宅だけだ。


「ファーリナ領主、ネセラ・シエル様の館で一室をお借りしています」

 イーノが答えた。

「シエルの所は確かに客室はあるが手狭だろう」

 確かに客室は二つあった筈だが王女が住むとなれば、あのシエルが今頃どんな顔色をしているか目に浮かぶ様だ。

 これから最低でも二年間は住むのだから恐らく死ぬのではないだろうか。


「シエルの所か……仕方ない、家に来い」

 周りが総出で驚く。

「驚く事じゃ無いだろ? あのシエルの事だ、今頃顔色が真っ青どころか真っ白になっててもおかしくない」

「あー、確かにそうね。シエルじゃ荷が重いわ、ぷっ」

 マルキウもシエルの事を考え、ちょっと笑ってしまった。

「そうなのですか!? 快く受け入れて下さったとばかり」

 イーノは自分の考えが至っていなかったのではとか悩みそうだ。

「シエルなら快く受け入れるだろう。だが、彼の体が持つかどうかは別だな」

「そうですね、シエル様は優しい方でいつも皆に心を砕いて下さる立派な方ですが、健康面が優れませんので」

 あれが素らしく、ネコの回復、治療などを使っても変化がなく健康的にならない。

 そのうち生徒と一緒に運動させてみようかと零司は考えている。

「と言う訳で、ルールミルとイーノは今日から家の住人だ。このあと帰ったら荷物を持ってモールの有料厩舎に馬車で来い。そこから裏に回して貰う様に手筈を整えておく」

「何故モールなのですか?」

「モールから自宅に直通の通路があるからな。俺たちもそこを通ってこちらに来てる、だから心配するな。それとこれを渡しておこう」

「これは?」

 受け取ったイーノが訊ねる。

「モールの一日無料券だ、通常は発行しないものだから無くすな。夕食が出来るまでそこで楽しんで来い。モールで働く第一期生を見ておくのも悪くない。サーラ、これから一緒に行って案内してやれ」

「わかりました零司様」

「また夕食で会おう。行っていいぞ」

 慌ただしく引っ越しが決まり、サーラはルールミルとイーノを連れて扉の向こうに消えた。


「ねえ」

「何だ」

 屋上に残された二人、意味ありげにマルキウが零司を呼ぶ。

「あんな事言って良かったの?」

 目の前のドームを見上げながら零司に訊いた。

「あんな事とは?」

 零司もドームを見上げ、少し嬉しそうだ。

 理由は簡単、このドームは今年から始まる選択授業の天文学で使う小型天文台だからだ。

 週一回、日中の授業に加え、モールが閉店になってから夜だけ稼働する予定だが、その前に零司が動作確認で夜間に使っていた。

 だがそんな夜の楽しみを思う気持ちも吹き飛ぶ話が出る。


「求婚よ」

「・・・どこにそんな話があった」

「アンタ気付いてなかったの? あーあ、あの子本気にしてるわよ? どう責任取るのかしら」

「責任も何もどこにそんな話があったんだ」

「まさか知らなかったの? 女性の名前を短くして呼ぶのは『家族になって下さい』って意味よ?」

 零司にある二つの何かが縮み上がる。

新キャラ登場も、いきなりトラブルです。

零司は無事で済むのでしょうかw


修正:お兄様で有名な『魔法科高校の』に似たやり取りがあったので削除しました。

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