39.新たな動き
利益還元が決まったその夜、何故か女どもは全員で中庭にある零司の小屋でお泊まりする事になった。
もちろん主導権は楓だが一番良い所はリリが素早く掠め取りちょっとだけ楓と対立したりするが仲違いするのでは無く、仲良く奪い合うと言った方が正しい。
もちろんそこにはサーラも居るのだが、暴れる楓とリリの腰紐が緩み薄い生地の浴衣がはだけ、素肌をさらけ出して戦う二人の姿を見ながら自分もきっと零司を満足させられると確信する。
△ローマンジャングル銭湯風露天風呂
零司の部屋で女どもがエキサイトしている頃、零司は湯船に浸かりながら還元についてもう少し考える。
まずは王都を差し置いて話を進めるのは不味いだろうから最初に話を伝えるとして、実際にその連絡をするのはいつ頃にすべきかを考える。
人伝でなら春だが自分で伝えるなら場所は判っているのでいつでも行ける。
相手の準備期間を考えるなら、こちらで講習と実習を始めるのはいま頃で時間的に余裕のある季節にするべきだ。
冬季の閉ざされたファーリナで講習に参加するには参加者が生活する場が必要になり、モールに比べ質は落ちるが生活できるだけの環境はモールの従業員に任意で参加して貰いながら基本は零司たちが提供する事にする。
そして最も問題となるのが機材を用いた講習をどこで行うかなのだが、これは専用の施設を構築する事で済ませよう。
詰まる所、広大な黒い土地にまた新しく長期講習施設を建設して転移門で繋げる感じにしようと考えている。
各街に転移門を直接置いてしまえば良いと思うかもしれないが、その中心地が最果ての田舎街ファーリナでは中央都市の王都からしてみれば良く思わない事だろう。
故に講習に参加する担当者には自力でお越し願うが、それに見合う以上の対価が用意されているので悪い気はしないだろう。
「何故ここにいる?」
目を開けて一言。
零司の目の前を泳ぐマルキウは羽を消して気持ち良さそうにすいすいと進んで行く。
「アタシが居たら悪いのかしら」
プカプカと立ち泳ぎしながら面と向かって寄ってきた。
「お前は女なんじゃないのか?」
沈黙して考え込むマルキウ。
「アタシが?」
「お前以外に誰が居るんだ」
「んー、どうなんだろ? 大体精霊に人間みたいな性別なんて無いわよ? 動物みたいに交尾する必要なんて無いんだし」
「まあ小さなお前のは見えないからどっちでも良いか」
「何よそれ! でもレージが見たいって言うなら見せてあげても良いわよ?」
「いや、いい」
「何よー、零司は見せたのにアタシのは見ないって言うの?」
「見せた覚えは無いが?」
「さっき見せたじゃない、堂堂と」
「……マルキウ」
「何よ」
「いつから居た?」
「最初から?」
「そうか」
「だからアタシのも見なさいよ!」
ニヤっと笑ったマルキウは突然光ったと思ったら零司の目の前に仁王立ちしていた。
そう、胡座をかき壁に凭れ掛かっている零司を跨いで、零司の目の前にマルキウのソコが来る、そんな大きさに成っていた。
「・・・」
「どう!?」
「・・・」
「・・・」
ゆっくりと目を閉じる零司。
「何とか言いなさいよ! こっちが恥ずかしいじゃない!」
怒っているのか恥ずかしいのか真っ赤になっている。
深く吸い込んだ息をゆっくりと吐き出す零司。
「あんっ」
零司の息がソコに掛かって、変な感覚に出てしまった自分の変な声に更に恥ずかしくなって座り込んでしまう。
逆ギレしたマルキウは人のサイズになった両手で零司の頭を叩いた。
「何すんのよ!」
やっと目を開けた零司は答える。
「何も無いんだな、ふっ」
ソレはネコを人形にするときに見た素体の様に何も無く、ただツルリとしていた。
それを見ての「ふっ」である。
マルキウが怒らない筈が無い。
「それってどう言う意味よ!! もー、零司のバカバカバカ!」
零司にしてみれば『女でなくて本当に良かった』である。
もしこれが露呈しても真実が『マルキウは女ではない』のならば、最悪の事態は避けられると判断したのだ。
それは利益還元事業よりも優先度の高い思考実験が繰り返された結果であった。
そして確認の為の発言が『何もないんだな、ふっ』であった。
ずっとマルキウのバカバカ拳骨が続いているが、楓のラチェットレンチに比べたら蚊が刺す程にもならない。
これなら逃げ切れる、そう思えた時が零司にもありました。
「やっぱりここに居た! って、何でマルキウさんが大きくなってるのよ! それにーギギギギ」
零司とマルキウの位置関係がアウトである。
「魔王様は私に焦らしプレイを望むのか?」
モジモジとして意味不明である。
「ひっ……陰欲の魔王」
地下の部屋を思い出す。
「ネコも混ぜて欲しいにゃ!」
浴衣を脱ぎ捨て零司に向かって駆け出す。
「待って下さい! わ、私も……」
恥ずかしがりながらもネコの後を追う。
「待って!」
楓が冷静になってネコを止めようとしたがサーラやリリまで行ってしまい、楓は取り残されてしまうのに気付いて反射的に後を追ってしまった。
「零司様ぁ」
「ちょっ! ネコ抱き着かないで、狭いわよ!」
「零司様……」
「魔王様、今なら私を慰めてもいいんだぞ?」
「ちょっと、みんな零司から離れなさい!」
「おまえら、ぐぁ……(ゴボゴボゴボ)」
皆を柱の影から震えて見守るラチェットだった。
◻
女たちに囲まれ、プカプカとうつ伏せで浮いている零司。
「何でこんな事に」
楓がアチャーと言いそうな感じで額に手を当てながら。
女に囲まれて揉みくしゃにされ、逃げ出そうとした所に女たちが背中に乗って水底へ。
そのまま女たちが零司の上で暴れ続けた結果である。
「レージ、大丈夫?」
さすがに少しだけ気になるマルキウ。
「魔王様ならこれくらいは大丈夫。保証付き」
リリの神術『ホワイトノヴァ』を無傷で耐えた零司を知るだけに。
「零司様! 零司様! 目を覚まして下さい!」
浮いている零司をひっくり返して床に揚げようとする健気なサーラは本気で心配している。
当然露になるソレにサーラ以外の全員の目が釘付けになる。
マルキウに至っては顔を近付けて手を出し確認しようとするも、楓の浴衣を懸けられてしまい断念する。
床に揚げられた零司はまな板の上のマグロであった。
いつ料理されてもおかしくはない。
しかし楓が居る以上、誰も零司に手出しは出来なかった。
そして楓は零司から話を訊けない以上、マルキウから何故零司と対面座位だったのかを訊ねなければならない。
「それで、なんでマルキウさんが零司と対……向かい合って座ってたのかしら、しかもその体で」
楓が心配しているのは当然だが、してしまったのかどうかも含めた話だ。
マルキウはその記憶力を使い、包み隠さず楓に話した。
そしてマルキウにはその証言に『誓う』という意味は無く、全て真実だと言い切っている。
楓も最初はどうしようかと迷ったが、今までマルキウが嘘を吐いた事が無いので信じる事にした。
だがマルキウは今まで通り女と同じ扱いと全員一致で決まる。
「楓」
不意にリリが楓を呼んだ。
「何かしら?」
「思うのだが、魔王様、いや、零司と二人だけで入るのが許せないならいっそのこと皆で入ってしまえば良いのではないか? 今も零司に抱き付いていたのだし、寧ろ常に監視が出来て良いと思うのだがどうだろうか」
『おおっ!』と色めき立つ周囲と、一人だけは離れて蔭で震えている。
「ダメよ」
楓は零司の部屋にあった異世界転生チートハーレム物の漫画を読んだ事がある、こっそりとだが。
そんな事になってしまったら後戻り出来ないので、そこは絶対に死守しなければならない防衛線なのだ。
結局リリの案は退けられ、楓は零司を独り占めする権利を守ったのである。
◻
あれから零司は部屋に運び込まれてネコの治癒を受けている。
楓は当然溺れた人の救い方、人工呼吸を知っていたが、人前でなんて出来ないし、もしそんな事をしてしまったら他の女子が待った無しで即実行してしまうだろうと危惧して、今の零司とネコなら何とでもなるだろうと思い放置したのだ。
これが人の体だったらとっくに死亡である。
楓は零司が治癒されているにも関わらず今夜は看病という名目で付き添うと言ってネコを含めて全員追い出した。
◻
今夜もスラゴーの天幕と小さな照明たちが中庭に幻想的な美しさを与え、零司の小屋にもその恩恵を届ける。
窓から差し込む光は室内をぼんやりと照らし出し、ベッドにひとつの膨らみがあるのが判る。
仰向けに寝かされた零司の左腕を抱き込んで眠っている楓。
零司は楓の頭を撫でながら窓から見えるスラゴーの天幕を眺めて利益還元事業の続きを考えるのだった。
△王都某所
沢山の蝋燭の光に照らされて金色に輝く豪奢な部屋。
天蓋から三層の如何にも数年単位で手間が掛かって織り上げられたカーテンが下がるベッドの上。
「ほう、中々面白そうな話だ。早速明日にでも行ってみようではないか」
「リジカーネス様、ファーリナは王都とは違い冬は雪に閉ざされる最貧の街。今頃はその店も閉店している事でしょう。お行きになられるのでしたら来春の雪解けをお待ちになってからにしては如何でしょうか?」
「私が自ら向かおうと言うのに閉店だなどと」
「異界の神の寵愛を受けたとは言えど、運営しているのはひとの子なれば、その行いは神の力の足元にも及びませぬ。故にその者たちが十全に働ける時期を選んで最高のもてなしを受けるのが宜しいかと」
「確かに、お前たちひとの子に我らの様な完璧さを求めるのは酷であったか。ならばその時を待つとしよう、としたいところではあるが、そんな面白そうな話を聞いては今すぐ行きたいと思うのは仕方の無い事であろう?」
「それでしたらリジカーネス様も同じ物を御作りに為られては如何でしょうか? 幸いな事に、こちらにその店舗で無償配付されたと言う案内書が御座います」
巫女が話したタイミングを見計らって面を被った巫女のお付きが案内書など数枚を巫女へ差し出す。
「こちらを」
巫女が受け取った案内書をもう一度確認してリジカーネスと呼ばれた美丈夫な神に渡した。
「なっ……何だこれは!」
あまり興味は無かったが案内書をチラリと見たリジカーネスはその品質に眼を剥く。
「きゃっ!」
急に巫女を押し退けて案内書を置く場所を確保すると、ベッドの上に一枚ずつ並べて真剣な目で見回す。
「これは一体……」
この田舎の世界は兎も角、自分の世界でも見た事の無い白く滑らかな大きさもキチッと揃った綺麗な紙と、そこに書かれた本物がそこに在るとしか思えない見事な絵や斬新な建物の簡略図など、これが一般人向けに無料で配られたと言った巫女の言葉を疑わなければならなかった。
しかし巫女が神である自分に嘘を吐くメリットなど無く、もう一度じっくりとその品質を検分した。
◻
「こちらには『カエデとリリのショッピングモール』と書かれております。リリと言えば先の焔の魔神を倒したと言われる『戦の女神』様の御名で御座いますが、当時『戦の女神リリ』と並び立つ名として、これまでカエデと言う名を聞いた事がありません。そこで調べさせましたところ、カエデとはリリと親しい友人関係にある『救済の女神』である事が判りました」
リジカーネスは真剣に巫女の言葉に耳を傾け次の言葉を待っている。
「現地人の噂話ではありますが、『戦の女神リリ』の話を聞いた人々が彼の地『ファーリナ』へ押し寄せ、街が崩壊する危機にあったと聞いております。それをお救いになられたのが『救済の女神カエデ』であり、『戦の女神リリ』と共にショッピングモールと言う商店を立ち上げに為られた理由だと言われております。リジカーネス様ならばこれらを越える新しき物を御創りになれるとわたくしは存じ上げます」
眼を瞑って顎に手を遣り、少しいい気分の顔付きで考え込んでいたリジカーネスは巫女の話が途切れるとゆっくりと目を開けて、如何にも良い事を思い付いたと言わんばかりの悪い笑顔を見せた。
ついに現れる別世界の神と巫女。
でもどう考えても……ぶふっ




