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38.冬の訪れと

秋の体育祭と感謝祭が終わり、次のシーズンへ。

 感謝祭から既に二ヶ月ほどが過ぎ、大地には真っ白な雪が五十センチくらい積もり、真っ黒に焼けた大地も今は純白の大地へと様変わりしている。

 ここまで積もると唯一の隣街へと続く街道も突然の大雪を警戒して交通が無くなる。

 そう、ファーリナの街は積雪で孤立したのだ。

 そして街から離れたミテールヌ山脈の麓にあるギャロの家も孤立する筈だったが転移門のお陰で特に問題を感じる事も無く毎日学校へ通っている。


 ショッピングモールは観光客も居ない事から既に冬期閉店しており、唯一地元民のための銭湯とバーだけが稼働していた。

 銭湯の使い方は既に街の皆が知っているので指導員もおらず、ただ入り口に、口の開いた小さな箱と、大きめの段ボール箱みたいな物が置かれているだけだ。

 田舎に良くある無人販売所みたいな感じで適当に何か対価を入れて貰えば良いだけで、生活が厳しいなら特に支払わずとも問題が無かった。

 どうせ冬期の管理は零司一人で一分も掛からずに済んでしまうのだから。


 そしてあれ? と思った事だろう。

 冬は積雪で閉じ込められる筈なのにと。

 確かに積雪はまだ深い所でも膝上程度しかないのだが、ファーリナの街で人が住む範囲では、アスファルトやコンクリートに代わる第三の舗装で道を固めて温水を常時流しており、それは日本でも一部の豪雪地帯で採用されているくらい実積があるのだ。

 そのお陰でファーリナの人々は夏期と変わる事無く活動ができているが、それはあくまでも道だけであり、畑などは当然雪を被ったままだ。


 今までは冬と言えば家に閉じ籠って暖炉に薪をくべながら適当に手仕事をするだけだったのだが、道が使えるお陰で街に繰り出せる様になっていた。

 お陰で仕事が無いモールの従業員は午前午後と学校で学べる様になり、学習速度が著しく向上し始める。


 今まで各教科を毎日一時間だったのが二時間になり、体育の授業などは若干寒いながらも体育館で体を動かしていたのだが、さすがに二時間も柔軟体操とランニングだけと言う訳には行かず、体育祭で見せた競争心にもう一度火を着けるべく、ルールが簡単なドッジボールを採用。

 その場でボールを創りだしてからルールを説明したが、人に向かって物を投げ付けるなど考えた事も無かった生徒たちは戸惑う。

 そこで二人一組になって貰い、ボールをひとつずつ渡してキャッチボールの様に投げ合いをさせたが殆どの生徒が物を投げた事すら無く、まともに相手側に届くのは稀であった。

 それでも一時間近く投げ合っていればそれなりに様になってくるものである。


 ついでに時間があるのを利用して来春予定している二学年での授業の内容について軽く触れている。

 一年は基礎を一学年全員が同じ内容で受けているが、二学年では四つの専門科目に別れて授業を行う。

 そしてそれぞれの科目で特に必要とされる基礎項目を提示して時間を復習に使わせた。


 また、生徒だけでなく暇を持て余していた人々も学校や銭湯に集まる様になり、その中で次の新しい産業の話が零司から齎されたりする。

 零司たちが最初にファーリナにやって来たときに予定していた銭湯の建設に必要な部品作りなどもある。

 銭湯は今のところ楓と零司が建造した物しか存在していないが、将来的には他の地域でも利用できる様にこの世界の人が自分たちで作れる様になって貰いたいのだがこれには賛否意見が別れた。

 賛成派は新しい産業に乗り気で、今ある経済的にも時間的にも余裕のある内に次の事をやってみたいと思う人たち。

 反対派はファーリナの街に外から人が来なくなってしまうのではないかと不安に思う人たちだ。


 零司は街の人々の話し合いを聞きながら、煮詰まった辺りを見計らってある情報を住人に与えると、人々は驚愕して黙り込み、そのぶっ飛んだ事実にどうしたら良いのか分からなくなって居たので、今のところは他に漏らさない様にとだけ言っておいた。




◻白亜の館


 中庭に集まった白亜の館の住人たちとマルキウは、冬の夜だと言うのに風呂上がりの薄い浴衣姿で楓が創った植物が巻き付いたような装飾の白いテーブルを囲んで座り、零司が用意した書類を眺めながらサーラが煎れた緑茶を飲んでいた。

 白亜の館の周囲は零司の高度に発達した高機能シールドによって護られ、まるでエアコンでも使っているかの様に温度と湿度が快適な状態に調節されているのでこんな姿でも風邪をひくような事は無かった。


「……と言う訳で開店から今までにモールで産み出された利益はこの国の国家予算に匹敵する額になっていた事が判明した訳だが」

 マルキウとネコは特に気にする事も無く聞いている。

「零司、ちょっと待って、これって……」

 楓は頭を抱えている。

「つまりどう言う事なのだ?」

 戦と人々を眺める(・・・・・・)のが専門のリリには難しかった様だ。


「零司様、宜しいでしょうか?」

 サーラが控えめに小さな手を挙げる。

「ああ、サーラの意見を言ってくれ」

 零司に許可を貰ったサーラは喜び、自信を持って答える。

「つまり楓様とリリ様のショッピングモールは、この国を動かすだけの財力があり、また、それだけこの国を疲弊させている。と言う事ですしょうか?」

「良し、包み隠さず良く言えたな。素晴らしいぞ、っと言う訳だ」

「なにが『っと言う訳だ』よ。確かに街を救いたくて始めた事業だけど、こんな事になるなんて思いもしなかったわ。はぁー」

 最後に大きく息を吐いてテーブルに突っ伏し、脱力してしまった楓の背中は小さかった。

 それを横に居たネコが優しく抱き締めて癒し(・・)を掛ける。

 ブルッと震えた楓はさっきより一層脱力していた。


「楓、ネコの癒しは反って疲れてないか? ネコに禁止命令出し「いやー、なんか快適だわ! これならもっと頑張れそうね!」」

 上気した顔で冷や汗を掻いている様にしか見えないが楓がそう言うならと禁止はしなかった。

 それに安堵する女性たちに何か隠し事があるのだろうと思うだけで、それを取り立てて聞き出そうなどと言う無粋な真似はしない。


「続けるぞ。それを解決するにはこの金を本来あるべき場所に還元しなければならないと言う事だ。だが、ただで返す訳にはいかないので彼らから何か商品を購入したいと思う」

 零司の言葉に耳を傾けていた皆は黙って次の言葉を待ったが出てこない。

「何か目当てはあるの?」

 待ちくたびれた楓が訊いた。

「ああ、だがその前に皆の意見を聞いてみたいんだが誰か意見はあるか?」

「何でも好きなもの買えば良いじゃないの、レージも回りくどいわね」

「それじゃ駄目なんだ、この世界の経済はあまり広い範囲にお金が動かないし金額も大した額じゃない。その証拠がモールの実積と言う形で出てるんだが」

「それじゃどうすんのよ!」

「まあ落ち着けマルキウ、これなんかどうだ?」


 零司は(おもむろ)に無限倉庫から小皿を取り出す。

 その小皿には真っ白な何かがペタッと平らに張り付いている様に見えるが、皿を置く時に傾いても溢れないので少なくとも液体ではない。

「何よこれ」

 小皿に近付いて臭いを嗅いでも良く分からないらしい。

「これは何でしょうか?」

 サーラも興味があるようで、じいっと見つめているが、ただ白いだけで全く分からない。

「これはヨーグルトだ。家畜の乳から作られた発酵食品でマルキウでも食べられる筈だぞ?」

 そう言いながら全員分の小さなカップとスプーンを取り出して、最後にハチミツのビンを取り出す。

 カップにはヨーグルトと(さい)の目切りになったシロップ漬けの各種フルーツが入っており、そこにハチミツを流し込む。

 それを見ていたマルキウはハチミツを入れる前からスプーンを持って自分の目の前に置かれた皿の前で待っていた。

「食べて良いのよね?」

 ヨーグルトを見つめたまま言うマルキウはスタートラインでクラウチングスタートの姿勢で合図を待つランナーの様だ。

「ダメだ……とは言わない」

 笑顔で。

「レージのバカ!」

 怒って見せるマルキウの仕草が可愛くて皆が笑うとスタートの合図になった。


「美味しいわねこれ!」

「本当に、不思議な味ですが美味しいです(零司さん)ゴニョゴニョ」

「酸っぱくて甘い不思議な味ですよね!」

「美味しいのにゃ!」

「ん、んまい。さすが私の魔王様」

「思ったよりも美味しいわね、ヨーグルトなんていつの間に作ったの?」

「プール開きの後くらいに思い付いてな、生徒たちと試行錯誤してたんだが今日やっと満足行くのが出来てお披露目になった訳だ。殆ど生徒の努力だから一杯誉めてやってくれ」

「うん、頑張ってるのはちゃんと誉めないとね」


「さて、ヨーグルトを食べながらで良いからさっきの続きだ」

「いきなり来たわねレージ」

 皆一様にヨーグルトを口にしながら笑顔で『うーん』と考えている様に見える。

「要は他の街と常時流通する物がないとダメって事よね」

「そうなるな。モールで必要とする物が理想的だが、この街で必要な物でも構わないぞ」

「出来るだけモールの消耗品が良い、と言う事でしょうか?」

「ああ、一点購入で終わってしまう物よりも消耗品の方が継続して還元できるからな」

「ねえ、レージとサーラは何を話してるの?」

「消耗品って言うのは使うと無くなる様な物ね」

「フーン」


 それから少しの間は幾つか意見が出たものの、決め手に掛けた。

「仕方ない、俺の意見を言わせて貰おうか」

 零司が何を考えていたのかを黙って待っている女性たち。

「今まで俺が創ってきた物の製造を各街に代行させる」

「「「「えーっ!」」」」


 零司が創ったモールの消耗品と言えば、まず第一に果物だ。

 広大な果樹園はそっくりコピーしてモール専用に直接アクセスできる場所に設置し収穫させている。

 植林の規模も拡大しているので来春のモール開店に合わせて大口商取引窓口を開業できそうだった。

 そして零司の個人的な果樹園はあくまでも楓のためであり、今後も品種の再現と、この世界の土壌で他の植物類と共生できるかを調査する為の実験場としても使われ品種改良されている。

 次にホテルと銭湯で使われる高品質な布団カバーやシーツ、タオル類とシャンプー、洗濯石鹸などの洗剤類。

 それにこの世界ではまだ造る事が出来ない高品質な紙と、印刷技術を必要とする案内書。

 後はバーで消費される酒類だろう。

 これら酒を除きほぼ無料で無制限に産み出していたので、必要なのは従業員に支払う給金だけだと思うと、如何に利益率が高かったかが解る。

 しかも管理者たる自分達は実質無給だったのだ。


 だがこれらを代行させるにはこの世界の技術ではまだまだ時間が掛かるので、各街に呼び掛けて人員をファーリナに派遣して貰い、製造機械と必要な材料のリストを与えて教育する。

 更に製造機械は人間が複製を製造できるレベルの構造にしなければならないので出来上がる製品は品質が落ちるが、そこは零司が今まで通り提供する高級品か一般向けの廉価品かを客が選択すれば良いのだ。

 ついでに学校で住人と話した銭湯の部品製造の話も付け加える。


 果物は零司の果樹園で進めて来た共生実験の結果から、多少劣化してしまうが共生可能な品種を産み出す事に成功している。

 既に各街の調査は済んでいるので街ごとに育ち易い品種を選び出して二種類ずつ無料で配ろうと考えているが、こちらはモールで買い取ると言うよりもこの果物を他の土地間で流通させる為である。

 零司の果樹園の様に土壌管理しなくても確実に育つ程度になった品物では楓の料理には使えないのだから。


 バーで消費される酒は元々隣街のリーデルから大量に取り寄せていたので、この部門だけは還元されていたと言える。

 ツマミも様々な街からリーデルの業者を通して厳選された木の実などが運び込まれていたので問題無いだろう。


「でもそれじゃ来客が減るんじゃない?」

「まあ減るだろうな。提供する技術で大量に製品が出回って同じ様な商業施設が出来るかもしれないが、それはそれで良い事じゃないのか?」

「うーん、良く分からないわ」

「今まで沢山の人がリリと楓の話を聞いてこの街にやって来たが、今度はその街に俺たちが遊びに行ってみたいだろ?」

「「「「「!」」」」」

 楓、ラチェット、マルキウ、リリ、そしてサーラが反応する。

「それ、良いわね!」

 マルキウの決まり文句。

「街の皆を連れて団体旅行って言うのも面白そうだな」

「零司……ありがとう」

「ふっ、感謝するのは実現してからにしてくれ」

 ちょっと格好つけたりする。

「もう、零司のばか」


 零司の左腕に抱き着いて肩におでこを押し付けて照れ隠しする楓を右腕で抱き寄せると宣言する。

「必ず一緒に行くぞ」

「うん」

 楓は零司の胸で頷いた。


 零司はこの言葉を言う時、かなり神経を削っていた。

 理由はもちろん日本に一緒に帰る約束の方が先だからだ。

 転移門を創り出してから半年を越えているのに、いまだに元の場所に繋ぐ事が出来ていない自分に焦りに似た感覚を味わっている。

 楓に帰還への可能性があるとも無いとも言えないこの現状に。


 しかしその楓は帰りたいと言うのが本音ではあるものの、あれから半年以上が経ち親たちを想う時でも気持ちは大分落ち着いてきていた。

 帰れないのならばこの世界で零司と共にこのまま生きていく選択肢も視野に入っている程度には考えが柔軟になっている。

 零司が言ってくれる楓を想う言葉が今でも楓の心のよりどころなのは今でも変わらないのだ。

 現に今では寝る時に寂しさを覚えると、零司のベッドへ潜り込んだりもする。

 ただし『ネコが一緒に寝たいって言っているけど私が見張ってるからね』とか口実を付けてだが。

 その時には零司を挟んでいるので小さな頃に一緒にお昼寝した様なその安心感と+α(プラスアルファ)は楓の心を十分に満たしていたのだ。

次回は来客かもしれません。

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