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37.体育祭と感謝祭

ブックマークありがとうございます。とても嬉しいです!

それでと言う訳でもありませんが今回は『お祭り』だ!

 朝早く、爽やかに晴れ渡る空にはポンポンと音が響き、今日が体育祭当日だと街中の人々に知らせている。


「それじゃ行こうか」

 ギャロは大きくなりつつあるお腹を抱えたミティの手を引き、反対の手には収穫を神に感謝する感謝祭の捧げ物を入れた籠を持つ。

 家の戸締まりを終え、倉庫の扉を開けて中に入ると扉の横に荷馬車が一台通れる程度の小さな転移門があった。

 倉庫の扉も閉めて転移門を二人で潜ると白亜の館の裏口に出る。

 目の前には館から風呂に続く綺麗なアーチを描く渡り通路と果樹園の入り口が見える。


「おはよう、お二人とも」

「おやようにゃ」

「おはようございます、今日も仲が良いですねぇ」

「ほーんと、アンタたちっていつも仲が良いわよね」

「おはよ……」

「おはようございます」

「おはようございます皆さん、今日はよろしくお願いします」

「おはよう、そんなに畏まらなくてもみんなの祭りだ、楽しめばいい」

「はい!」

 零司たちも丁度裏口から出て来たところだった。

 そしてみんな揃ってモールへの転移門を抜けて扉を開け、学校への転移門へ向かう。


 まだ早いせいか学校の校庭には生徒や住人、観光客がちらほらと見える程度で、話をしている姿はあっても特に動きは見られない。

 前日の内に大まかな準備は終わっているから今日になって慌てる必要は無いのでまあこんなものなのだろう。

 ただし校庭の一区画だけは状況が違っていた。


「そろそろ人が増えてきたわよ」

「俺たちの新作料理が世に放たれる瞬間が近付いているっ!」

「そう言うのは良いから……みんな準備は良いかしら」

「テーブルと椅子はオッケー」

「食器も大丈夫、いつでも良いわ」

「あ、ちょっと待って。コップが無いわ、直ぐに取ってくるから誰か手伝って!」

「俺が活躍する時が来たっ!」

「はいはい、あんたで良いから直ぐ来てね」


 テーブルと椅子がひとクラス分並んでテーブルクロスが掛かっているそこは臨時レストランとなって無料で食事が出来る。

 しかも競技に参加した人にはチケットが配られ、特別なお菓子やデザート、お土産を手にする事が出来るのだ。

 元々ファーリナにあった収穫感謝祭に体育祭を掛け合わせて出来たイベントなので、街の人はもちろんモールの客も参加すれば美味しい企画であった。

 そしてここには生徒たちが自主開発した自信作が用意されて、ファーリナの街の新しい料理としてお披露目されるのだ。

 これは今後毎年開かれる体育祭の恒例行事となり、観光客によって新しい食文化が世界に発信される事となる。


「おはよう、順調みたいね」

「あ、楓先生! おはようございます、味見してもらっても良いですか?」

 渡されたスープの小皿に鼻を近付け香りを確認した後で口に入れた楓は生徒に笑顔で頷き答えた。

「やったぁー!」

 臨時レストランのスタッフとしてそこに居たメンバー全員が歓喜の声を上げる。

「これだけ良い味が出てるなら十分合格だわ」

「楓先生、ありがとうございます!」


「サーラとギャロたちは食べて行くか?」

「なんでアタシが含まれてないのよ!」

 零司の頭に座りながらペシッと叩くマルキウ。

 結局サーラが零司の袖を掴んで誘っていたので生徒がコップを持って来たあと皆で朝食を美味しく頂いた。


 最初から楓たちが大人数で集まっていた事もあり臨時レストランが始まるとあっという間に席は埋まり、後からやって来た人々が列になって順番待ちをしている。

「やあ今日は天気が良いね、これならちゃんとお祭りが出来そうだ」

「良い匂いがするな、どんなのが出るか楽しみだよ」

「これはこれはお久し振り、前の感謝祭以来だね」

「朝食はこっちでも良いって言われて来たんだがここで良いのか?」

「あらあら、沢山の人で賑わってるのね。今年はどんな感謝祭なのかしら」

「おかーさん、あれなぁに?」

「何でしょうねー、何するのか楽しみにしてましょうね」

 段々と人も増えて臨時レストランの列も長くなってきた。


「ごちそうさま、美味かったぞ」

「ありがとうございます零司先生!」

「俺たちの努力が「そう言うのは良いから」……」

 零司たちの『美味しい』の声に並んだ客たちもかなり期待しているのが手に取る様に分かるが、実際は客の予想を超えた美味さなので何も問題は無いだろう。

 臨時レストランを離れた楓たちは一旦教員室へ向かう。

 サーラとギャロたちは生徒に混じり、プログラム通りに進められる様に手順を確認している。


 教員室の扉を開けて入ると元聖職者の語学教師ケインが居た。

「おはようございます」

「おはようございます、ケイン先生」

 楓に続き室内に入る順で挨拶する零司たち。

「ついに体育祭ですね、この学校の教育で育った生徒たちの素晴らしい力を街の皆さんに見て貰える良い機会です」

 少し感動しているケインは最初は運動の意味が分からず懐疑的であったが、この半年で鍛えた生徒たちの能力が素晴らしい事に驚き今ではケインも自ら空いた時間で授業に参加して体力が向上している。

 そんな事を話しながら開会式の時間を待っている。

 準備は生徒たちが自主的にやっているので教師は呼ばれた時だけ出て欲しいと言われていた。

 教師も生徒から見たら客扱いだった。


 そして開会式の時間を知らせる鐘が鳴る。

 教員室の扉を開け、教員たちが廊下に出ると丁度サーラが呼びに来た所だった。

「楓先生、最初に開会式の挨拶をお願いします」

「はい、それじゃ皆さん行きましょうか」

 ゾロゾロと教師たちが廊下を歩いていると外は沢山の人々の声で溢れていた。

 外に出るとそこには校庭一杯の人々が楽しそうに話をしているのが見える。

 サーラに案内されるまま校長の楓が壇上に上がると黄色い声援が上がったのが聞こえた。

 楓はそれに軽く手を挙げて応えるとにこやかに話し始める。


「みなさん、今日は体育祭とファーリナの街の収穫祭をみんなで一緒に楽しみましょう!」

 その一言で大きな拍手や声援などを貰いながら降りる楓は次を待っている領主のシエルと挨拶を交わして後ろに下がった。

 続いて領主のシエルは壇上に上がるとまた声援が大きくなる。

 シエルも優しい笑顔で手を挙げて応えてから人々に発する。


「最初に、楓様のご厚意で街の発展と住人の生活が改善された事、そして立派な若者を育て、大きな収穫感謝祭を開ける事に感謝します」

 領主の言葉を肯定する声援が乱れ飛ぶ。

「それでは始めましょう!」

 シエルの掛け声に合わせてポンポンと空に音だけの花火が打ち上がると人々の掛け声は最高潮に達した。



 ある程度人々に落ち着きが戻った頃に、人々はオーバルトラックの外に移動させられて何が始まるのかを楽しみに見ている。

 そして最初に行われる競技は徒競走だった。

 生徒が百人に満たないので事前に一般参加者を募り、列の最後の方に待機して貰っていた。

 横一列に並んだ五人の生徒たちが掛け声で一斉に走り出すとトラックのカーブを曲がって反対側のゴールのテープを切っている。

 最初は何なのか、競争する概念に乏しい人々は困惑したが、一位を取った生徒の雄叫びを上げた喜びに感化されて声援を送り始めた。

 これで火が着いた観客たちは、走る生徒に声援を送って自分の事の様に喜んだり残念がったりしている。

 『正に俺の思惑通り、くはははは!』

 そんな中二魔王設定を心で演じて悦に浸る零司と、皆に喜んで貰えた事に安堵している楓がいた。


 走者には参加者全員に楓特製のお菓子が配られる事もあり、走るのが苦手な女子も全員が参加している。

 走る女子を見た若い男が考える事などどこでも同じで、それを見ては興奮してあの娘が良いとかあっちの方が良いとか、そんな事を話している。

 『正に計算通り、ぬははははは!』

 一位になると果樹園で獲れた未発売の高級フルーツを貰えるチケットを入手出来るのでみんな本気である。

 そして零司の心は体育祭の間、ずっと魔王だった。


 その後、玉入れや障害物競争、借り物競争など、暴力性の無い競技が続いていたが、人々は応援するのが好きなので全く問題は無かった。

 もしこれが日本のある種の高校や大学であったなら、棒倒しや騎馬戦は絶対に外せなかっただろう。

 人々が白熱して沢山のチケットとお菓子やデザート、学習用具が捌けて行く中で、全くその恩恵に預かれない人たちも居た。

 運動競技に参加するには体力的に無理がある人たちだが、ここで全員参加マルバツクイズが行われる。


 クイズは年寄りほど良く知っている質問や、一般人が予想不可能なリリの趣味とか、マルキウだけが覚えている過去の偉人の言葉とか、新しい知識の塊である学生が有利にならない問題を並べる事で分配が出来るだけお年寄りに傾く様にしてあった。

 一問正解する毎に正解者が持つ紙に押される記念のハンコ。

 最終的に集めたハンコの数で様々な特典が得られるのだが、その最高特典はホテルの高級グレード『スラゴー』の、家族で二泊三日宿泊券であったが実際には家族でなくとも一組最大五名までが許可されていた。

 最後に楓から公表された最高特典を得られたのは老人二人で、半端ではない祝福を貰いながら楓から直接手渡され涙を流して喜んでいたのである。


 こうして午前の体育祭は幕を閉じ、昼食を挟んで二時間ほど時間を置き、午後の収穫感謝祭が始まる。



「ねーねー、アイツの目、見た?」

「見た見た、走ってるあんたを見てる時のアイツの目、血走ってたよね

「そーそー、応援してるのか貴方の胸見てるのか分からなかったよね!」

「このおっぱいか! このおっぱいなのか!」

「きゃぁー、やめてぇー」

 シャワー室で仲良し女子がちちくり合う姿を横目に、自分の平らな胸を見て手で覆う仕草をするサーラ。

 『貴方はまだ諦める時間じゃない。ぐはっ!「楓様! どうしたにゃっ!」』と楓の家で一緒に風呂に入った時に楓が言った言葉と表情が思い出されて心に響く。

 不意に何故か零司の笑顔が思い出されて溜め息を吐いた。



 皆が休んでいる間に校庭の真ん中に土が運び込まれて少し高くなったその場所に、次々と木材が運び込まれて井形に組まれて行く。

 その中にも細かい木片や枝葉が放り込まれた。

「後は火を着けるだけだな」

 見た目はキャンプファイヤーだがファーリナの人にとっては、神と祖先に収穫の感謝と息災を伝える光の粒(火の粉)を届ける儀式であり、とても大切な行事なのだ。


 祭りの意味としてはそうなのだが、実際には酒を飲んで沢山食べて騒いで踊って、これからやって来る雪に閉ざされた冬を前に、街の皆と言葉と心を交わしてまた春に会おうと誓い合っているのだ。

 それだけ冬の積雪は多く、冬の間に心細くなりがちな気持ちを暖め合っているのである。


 日が沈み掛けて東の空にスラゴーの天幕が引かれ始める頃に火が着けられて、その火を囲んで人々は肩を組み、飲み、食い、唄い、朝まで騒ぎ続けるのだ。

 スラゴーの天幕から見守る祖先が自分を見付け易い様にと願いながら。

次回は一気に冬へ。

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