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3.初めての神術と一輪車の事実

「私たちがですか?」

「はい、確かに神の眷属、それもかなり位階の高い世界の力を感じます」

「因みに、失礼とは思いますけど、わたしとラチェットさんを比べるとどうなるのでしょうか?」

 楓は本当に申し訳なさそうに尋ねた。


「申し訳ありません、とても比べる事は出来ません」

 軽く頭を下げて謝意を表すラチェット。

「そうですよね。私達と天使のラチェットさんを比べるなんてごめんなさい。気を悪くする様な事を聞いてしまって」

 楓は頭を深々と下げて謝っている。

「何を言ってるのですか? わたしなどでは到底おふたりに及ばないのですが」

 何か不思議なものを見る様に楓を見つめ頭を横へ傾げるラチェットに楓も理解が追い付かず頭を傾げる。


「それは俺たちの方が上って事か?」

「はい、その通りです!」

 何か嬉しそうにハッキリと答えるラチェット。

「そうだったのか。俺はこの時の為に訓練を積んできたという事クファ!」

 楓のラチェットレンチが零司の腹に突き刺さる。

「グェッホッ、楓、いきなり何を」

 蹲った零司が楓を見上げる。


「そういうのはいいから」

 怖い笑顔で零司を見る楓。

「はわわ、喧嘩は良くありませんよ~」

 突然の楓の暴力に怯えるラチェット。

「大丈夫よ、いつもの事だから」

 平然と言ってのけクルクルとラチェットレンチを放り投げて弄んでいる楓に更に血の気が引いて怯えるラチェットは次は自分なのではと凶器のラチェットレンチから目が離せないまま一歩下がった。



 それから少し落ち着きを取り戻して座って話をしようと、今は神術の初級講座により産み出された簡素な椅子にラチェットが座っている。


「簡単ですがこれで椅子の創り方を終わります」

 ラチェットが教えたのは、どこにでもある土と石を材料にして椅子を創る為に必要な工程と、そのイメージ方法だ。

「ふむ、俺に相応しい素晴らしい出来映えだ」

 レクチャーを受けて零司が創り出した椅子は、まるで魔王が座る為に用意された様な禍々しいデザインの豪華で奇異な装飾の大きな物で、立った零司の倍はある大きさだ。

 零司は元々が中二病なので、こういったイメージは当然の様に得意だ。

 デザインもそれっぽい物を中心にアニメや漫画で研究し独自の様式美を確立しているので特に苦もなく作り上げてしまった。

 これを見たラチェットは恐怖し、その場でひれ伏して零司に媚を売るかの様に涙目で対応している。


「やっと出来たわ」

 楓が何度も失敗しながらも納得がいくまでやり直して創り出した椅子はソファーの形をした横に広めの低い物だが素材が硬いので実質ベンチである。

 しかしそのベンチには肘掛けと背もたれの上に生きているかの様な猫が5匹、それぞれ違うポーズで取り付けられている。

 完成の声にラチェットが目を向けた時、ラチェットは目を輝かせて駆け寄った。

「この生き物のような物は何ですか?」

「これは猫と言って、私達の世界ではどこにでもいる普通の動物でペットとしても人気があるんですよ」

「猫って言うんですか~、可愛いですね」

 そう言って嬉しそうにそれぞれの猫像を見て回るラチェット。


 猫と聞いてある物を思い出す零司。

 そう、工事現場で掴んだまま持って来てしまった、あの一輪車だ。

 なぜ猫と一輪車が結び付くのかと言えば、何故かは分からないがあの一輪車を工事現場ではネコと呼ぶからだ。

 そう思い、座っていた零司は一輪車(ネコ)を両手で掴んでラチェットの前に持ってきて尋ねた。

「ラチェット、ちょっといいか」

「はい、何でしょう零司さん」

 猫を見ている時に声かけられ、にこやかな笑顔のまま零司に振り向いて応えた。

「これも何かあったりするのか?」

 零司はある疑問を持っている。

「これ、ですか?」

 言葉の意味を探るように聞き返す。

「そうだ、これもこちらの世界では何か特別な何かを持っているのか? 俺たちの様に」

 真剣な眼差しでラチェットを見つめ、自分の望む答えを引き摺り出そうとする零司に、何故か楓が横から割り込んで零司を睨む。


「なに訳の分からない事言ってんの、ラチェットさんが困るでしょ」

 ラチェットへの視線を遮ろうとしたが背が低くて意味がなかった。

 しかし、零司の真剣な眼差しはそのまま楓に注がれ楓は慌てて目線を逸らした。

 いつも零司は真剣な目で楓を守ると言い続けていたがそれは楓に対してだけ言って良い言葉であり、真剣な眼差しも自分に対してだけであって欲しいと、いま気付いた。


 高校を卒業して以来ずっと家で零司が言う所の鍛錬を続けていたから、零司が他の女性と真剣な目で話す事など見た事が無く、それは楓の特権と変わらなかったのだから。

 他人、特に自分以外の女性に対して真剣な目で話しかける零司を見ていたら、それを阻止しなければいけないと本能的に体が動いてしまったが零司に見つめられて自分の心に湧いてしまった嫉妬というやましい気持ちに気付いて目を逸らしてしまったのだ。


「楓さん、わたしは気にしませんから大丈夫ですよ? それよりもこちらの車輪が付いた不思議な物は、零司さんの言われる意味について言えば、そうですね、神器と言うのが当てはまるのではないでしょうか?」

 一輪車(ネコ)が神器だと!?

 どうしたらこんな物が神器になるんだ。

 って、そんなこと言ったら俺たちもこの世界から見たら、いや、この世界に来たら俺たちが神レベルの存在になるのだから、もしかとは思ったがまさか神器だったとは。

 それに神器とは言っても何の力があるのだろうかと考えるが全く思い付かない。


「そうか、ありがとう。何かあるんじゃないかとは思っていたが、まさか神器だったとは驚きだ。しかしどんな力があるんだ? ラチェットには分かるのか」

 疑問をそのままラチェットに聞いてみた。

「ん~、重い物を軽い力で運ぶ事が出来るみたいですね」

「「そのまんまだろ(でしょ)!」」

 真剣に聞いて損した。


「いえ、荷車としてではなく、言葉そのままの意味で、です。それともうひとつ、とても重要な事です。『これ』は意思を持っています」


 驚愕の事実が判明した。

2019/03/27 再開に向けて若干の修正をしました。内容に変化はありません。

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