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25.戦の女神と魔王

水曜投稿し忘れてました。

 楓たちはあのまま零司の屋敷に家具を用意して泊まる事にした。

 リリは初めて他人と同じ屋根の下でベッドに入るのを嬉しく感じる。

 寝室には食器にあったユリの花の立体的な造形を素直に綺麗だと感じ、零司が用意したリリのための部屋は女神復活の門出に相応しくリリの心を明るく弾ませ、思い付きで自分の美しい銀髪に薄いピンクを重ねてみるとシャイニングピンクへと変わった。



 翌朝、リリは夢見ることなく深い眠りから目覚める。

 この数百年の間、リリはこれほど安心して眠った覚えがなかった。

 窓から差し込む明かりは優しく、仲間と共に同じ家で眠るのがこれ程心に余裕を持たせてくれるものなのかと魔王零司に感謝した。


 立ち上がるとベッドと共に身を浄化すると、風呂上がりとは何かが違っていると気づいた。

 香りが違うのだ。

 楓が使っていた石鹸や香料の匂いがきれいに掻き消えてしまった。

 それを残念に思いながらも服選びに移る。

 生まれた世界でなら薄くヒラヒラとした如何にも女神らしい装いでもいいのだが彼らは神然とした衣装ではないし折角仲間になった彼らとの間に溝ができそうで躊躇われた。

 だからといってリリが自分で衣装を選択する、つまり零司たちの様な服を創造するのは難しい。

 以前、女神であったときにはその薄くてヒラヒラがあれば良く、魔神であれば服など必要もなかったのでどうしたものかと思案する。

 リリが思案と閃きで答えを導き出してこれなら大丈夫だろうと食卓に向かう。


「おは……リリさん、もしかしてその格好は零司のためかしら」

 思わぬ言葉を掛けられた。

「これは零司好みなのだろうか?」

 楓に言われ零司が喜ぶのかと思ったらもう一度確認したくなり、身体中触りつつ装備をチェックして忘れないように覚える。

「そうね、大抵の男は好きなんじゃないかしら、ただ……」

 リリには人の常識と言えばマンガが殆どで何が正解かも何故楓の言葉に怒気が含まれるのかも判らなかったし、何より冒険者仲間の女性と言えばこれともうひとつしか知らない。

 そしてリリの格好とは、そのマンガの女性冒険者の姿であり、動き易いとされる所謂ビキニアーマーであった。

 しかもリリの体型でとか、映倫に抵触しそうだ。

「それは却下よ」

 楓は着替えさせようとリリを部屋に押し戻すとき、後ろ姿を見てこれは完全にアウトと確信する。



 楓の検閲を済ませたリリは髪の色については問題とされなかったので寝室の装飾にある花の色を真似したシルバー地に薄ピンクのシャイニングピンクに染まったままだ。

「「いただきます」にゃ」

 ラチェットの発案でみんな一緒に言おうと打合せして楓の言葉に合わせた。

 リリは昨夜の初めての食事に続き、今朝は楓と一緒に調理を体験して心踊る朝食を迎えている。

「これがあの材料でできた物か。人間の工夫とは素晴らしいな、むぐっ」


 実は楓たちが手持ちの少ない材料で朝食を作ろうとキッチンに向かうと、そこには卵から野菜、調味料と肉までが大量に置いてあった。

 これは零司が昨晩の内にファーリナで手配したもので、早朝に食材が集まり屋敷まで運んで来たのだ。

 楓は目元が緩み、零司の気持ちに応えようと確りとした朝食を用意したのだが朝食の席に零司の姿はなかった。


 零司は早朝の荷運び以外は昨日の夜からずっとファーリナの街にいた。

 小鳥のさえずり亭で報告をしたら夜にも関わらず街を挙げてのお祭り騒ぎになったのだ。

 そして零司は店内で魔神討伐の様子を披露した後は領主のシエルと銭湯の建設に関する技術的な話が進められていた。

 零司としては自宅の風呂のようにパッと創る気はなく、現地の住人が自分達で作れるようになってもらおうと考えている。

 そのためにはこの街では存在していないだろう製造に関する技術的な問題があったのだ。


 その第一段が金属製の風呂釜、続いてシャワー、次に蛇口だ。

 これは街外れにある鍛冶屋を呼んで話し合ったが零司が求める物は前例はないそうで、鋳造や穴明け加工、旋削など、金属を叩いて砥石で仕上げ加工する鍛冶屋では難しいと言う。

 この解決にはある案を用意してあるので零司はあまり心配していない。


 平行してガラスと鏡の安価な製造方法の開発だが、現状では問題が多く解決策を探りながら零司が大量に創ってファーリナの倉庫に置くことにした。

 これの利用については一定の制限を設けて自由に利用してもらおうと考えている。


 一通り領主と銭湯建設事業に直接関わる職人との話し合いが終わり、一旦屋敷に帰るとギャロに伝えて飛び上がる。



「あら、お帰りなさい。どこに行ってたの?」

 楓たちが客間でジャングル風呂の話をしているところに零司が戻る。

 朝一番にやって来たリリの衣装を零司が見なくて良かったと胸を撫で下ろしながら聞いた。

「後始末に街まで行って来た」

 楓は納得する。

 だが零司は話の続きを匂わせる。

「それで何かあったの?」

「それなんだが……」



「私が魔神を倒したと言えばいいのだな?」

「そうだ。それが一番話の収まりがいい」

「よく考えたわね」

「うーん、何か癪だけどアタシも賛成するわ」

「私もそれでいいですよー。スポークさんにもそう伝えておきますね」

 ラチェットはそう言って光の粒を散らし天界へと戻った。

「ラチェットが戻ったら街へ行くが、騒ぎになるから覚悟してくれ」

 零司は昨夜を思い出して話すと皆が頷いた。

 本当は人として暮らしたかったが起きてしまった事は仕方が無いしリリの事情を考えると皆もそれで良いと受け入れてくれた。


 天界に戻ったラチェットは上司のスポークに今回の件を話す。

 これから人々に対して行うことも話し合い、零司の案で許可が出る。


「ここからはこの車で行くぞ」

 零司たちは今、屋敷から街を挟んだ反対側の街道にいる。

 そこにはSUVのリムジンがあり、零司は運転席に近寄りドアを開けた。

「この荷車は何だ? 馬がいなくては動かないではないか」

「そーよね。レージ、こんな物どうするのよ」

「これはネコさんの出番ですね」

「流石にラチェットは解ってるな」

 楓は後席のマジックミラーが嵌まった観音開き式の分厚いドアを両手で開く。

「はぁっ。まさか異世界でこんな高級車に乗るとは思わなかったわ」

 がっしりとした車体に純白なボディ、輝くオーナメント、そして高級感溢れる広い室内だ。


 リムジンの周りを回りながら、あーだこーだと言い合いながら全員が乗り込み、零司が運転手、ネコがエンジン代わりのかなり変則的な乗り物が音もなく発車する。



 リムジンは街に入り、馬車より少し早い程度のゆっくりとしたペースで進み、広場に集まった住人たちがリムジンを見つけると騒ぎになった。

 しかし零司が戦の女神を連れてくると伝えてあったので神の乗り物だろうと直ぐに分かり広場は歓声に包まれた。

 その歓声の中を更にゆっくりと進み、領主シエルの誘導で指定された場所に音もなく停車する。


 まずは運転席と助手席のドアが開き零司とネコが外に出る。

 ネコは歓声に笑顔で大きく両手で手を振って後部ドアに近づく。

 零司と二人で助手席側にある両開きのドアをそれぞれに開けた。


 最初に出たのはマルキウで、飛び出したと思ったら広場の人々の頭上を飛び回り、零司が用意していた大きめのクラッカーを鳴らして彩りを添える。

 初めて見るクラッカーに、一瞬の静寂のあとキラキラテープが舞う(さま)に歓声は更にヒートアップ。


 そこにネコとそっくりの楓が登場して零司が手を取りエスコートする。

 エスコートされる楓は恥ずかしさもあるがとても嬉しそうだ。


「おかえりなさいませ零司様、そして婚約者であらせられる楓様……」

 領主は丁寧な迎えの言葉を述べるが、日本からやって来た元一般人のしかも少し前までは学生だった零司と楓にとっては居心地が悪い。

「シエルさん、そこまでにしてくれ。話した通り俺と楓とネコは普通の人間として扱ってくれればそれでいい」

「仰せのままに」


 次に天使ラチェットが登場する。

 初めて天使を見るファーリナの人たちはその美しさに見惚れながらも歓声を送り、ラチェットは笑顔で小さく手を振って応える。


 ドアの両脇に二人ずつ並んだ前に現れたのは、小さな少女だった。

 少女はキラキラで長いヒラヒラの服に腰に細い帯を巻いただけの後光が射すような美しい少女で、如何にも女神らしいその出で立ちに彼女が女神だと歓声は最高潮になる。


「それではラチェット様、よろしくお願い致します」

 領主のシエルはラチェットにリリの紹介を願う。

 本来は零司たちもラチェットから紹介される筈だが先の通りなので今回はリリだけを紹介する。

 静かになった会場で小さな子供も親に倣って膝を着く中、広場には今回だけ特別に設置された壇上にラチェットとリリが上がった。


「ファーリナの街の皆さん、私は天界の使者ラチェットです」

 天使の声が聞こえると何人かの小さな子供が女神と天使を見たくて立とうとするが、隣にいる親に言われて直ぐに戻る。

「今回の魔神討伐は、異界からのお客様である戦の女神、リリ様のご尽力によるものです。永きに渡る驚異が払拭され、以前のような平和な時が訪れたのです。私たちは女神リリに感謝し、今日この日を女神リリの日と定めます」

 人々はラチェットの言葉を心に刻み、女神リリに深く感謝する。


 リリは本来そこに立っているだけの筈だったが一歩前に出て話した。

「ファーリナの人々よ、私がこの地に来たのは零司と友になったからだ。私が倒したと言ってはいるが彼のお陰で魔神を倒すことができたし、心から信頼している」


 『おいちょっと待て、俺を巻き込むな』

 雛壇の下からリリを見るそんな零司の思いは見事に吹き飛ぶ。


「そんな零司を私は敬愛し、魔王様と呼ばせてもらおう」

 『やりやがった、あれだけ根回ししたのに!』

 流石の零司もこれにはガックリと肩を落とし項垂れる。

 そんな零司を壇上から微笑んで見つめるリリと楓たち。

 『してやったり』そんな言葉が聞こえそうだ。


 これはリムジンの構造を利用した女どもの企みであった。

 運転席と客席空間は仕切られ、通常は話し声が聞こえない。

 それに気づいた楓を発端とする仕込みだったのだ。

 因みにこの話は天界には届けてないので今はファーリナだけの話だ。

 そしてこれは直ぐに世界中に知れ渡ることだろう、リリの言葉と共に。


 広場は戦女神リリと魔王零司を称える歓声で沸き上がり、この人々の喜ぶ様を止めるなど無粋だと事実上の被害者である零司でも分かる。

 まあ、魔神本人が認めたのだからそれはそれで正しいのだが。

 こうしてリリは名実共に魔王零司たちの仲間としてこの世界に知れ渡ることとなった。


 ところで今度は魔王が現れたことに問題はないのかと当然思うだろう。

 だがこの世界に魔王の概念は無く、魔神を倒した王と言う意味で受け入れられることになる。

 魔神を討伐した戦の女神リリの歓待と魔王零司の誕生の瞬間を共に祝福するファーリナの住人たちであった。

努力も虚しく魔王に決定w


次回はいつも通りに土曜になります。

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