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22.焔の魔神

 ソースが掛かっただけのハンバーグだったが歓声を上げながら食べるその様は正に豚と言うべきか。

 あっという間に食べ切ったバロー兄弟は物足りなそうにサーラと楓を見た。

 その視線を浴びた楓にしてみれば肉は零司が大量に持っているので作ってあげたいとも思うのだが、流石に鞄の大きさを越える肉を出したら感づかれてしまうので仕方なしと両手を開いて見せ首を振り諦める。


「まだ足りないならクリーテル獲ってきな、そうしたら作ってやる」

 しかしサーラに言われてやる気になる兄ども。

 やる気になった勢いのまま明日の準備をするために家に帰ると言う。

「あんたの『はんばーぐ』は最高に旨かった、コイツらの兄として礼を言う」

 要らないと言うのに彼らの畑で採れた大量の野菜を置いていった。

 そして店を去るとき最後まで残ったサーラがさっきまでとは違い丁寧なお礼を言ってから兄たちの後を追った。


「ふー、何か疲れたわね」

 大きく息を吐いて元の席に座る楓は疲れたと言う割には嬉しそうだ。

「お疲れ、これでうちの肉は品切れだ」

 零司も適当に楓に合わせる。

「あれ、どうする? 私たちあんなに使わないわよ?」

 麻袋のような目の荒い大きな袋が山積みになっている。

「それならうちで買い取らせてくれないか?

 さっき貰った肉も宿代にしたらそうだな、十日分でどうだ?」

「是非お願いします」

 笑顔で即答する楓にバンも嬉しそうだ。


「それで相談なんだが、良かったらさっきのソースも教えてくれないか」

 楓は少し思案するが了承する。

「でもまだ未完成なのよね。もう少し足りないって言うか、それがないと完成しないのよ」

「はは、あれでもまだ足りないなんて姉ちゃんは王都のお嬢様なのかい?」

「そうじゃないけど、あと一品、胡椒が必要なのよ」

「コショウ……聞かないな、それはどんなもんなんだ?」

「そうね、小粒でピリッと辛くて鼻にスーっと抜ける感じかしら?」

 店主はそれを聞くと厨房に入りすぐに戻ってくる。

「コショウは分からないがこれなんかどうだ?」

 確かに小粒だが緑色をしているし何かに似ていた。

 それをバンが一粒口に放り込みかじってみせる。

「うっは、効くー」

 涙目のバンが楓に差し出すが、ミティが楓の手を引き首を振る。

「俺にくれないか」

 零司が一粒摘まんで口にする。

「かっは……これは胡椒と言うより山椒だな」

 涙眼でサムアップして見せるバン。

「零司さん大丈夫ですか? ツンツクの実を丸ごと食べるなんてバンさんだけだと思ってたのに」

 ミティがその言葉を言い終わる前に事件が起きる。


 季節柄特に寒くもない夜が続くこの街で夜も営業している宿屋兼飲食店は扉も解放しているのだが、その入り口が突然明るくなり店内の全員が強い熱を感じた。

 零司たちが座るテーブルに寄って立ちながら話をしていたバンはソレ(・・)が上から落ちてきたのを見た。

 信じられない物を見る眼で戦慄(わなな)くバン。

「魔神、なのか?」

 一同がその声に反応するように一斉に顔を向けると、入り口の外側に炎を吹き出す人形(ひとがた)の何かがあった。

「ククッ、ようやく見つけたぞ」

 人形は声を発して零司を指差した。

 それを零司の頭の上で寝そべっていたマルキウが受けて立つ。

「アンタ、まだ懲りてないの!?」

 零司の頭から飛び降りて皆の前に出る。

「ん? 誰だ貴様は」

 間を置き答える魔神。

「覚えてないって言うの? それならこれを食らえば思い出すかもね!」

 マルキウは両手を前に開いて突き出して叫ぶ。

 消防車のホースから真っ直ぐ伸びる高圧水の如く焔の魔神に直撃する。

 魔神に当たる大量の水はその場で蒸発して爆発的な水蒸気を産み出した。

「きゃぁ!」

 百度を越える大量の水蒸気を浴びるマルキウが叫ぶ。


 だがそれは一瞬だった。

「レージ!」

 零司はマルキウを捕まえて引き寄せ、店自体にシールドを張った。

 一時的に店内は吹き込んだ蒸気で白くなったがすぐに消え去る。

 しかし高温の水蒸気を一瞬でも浴びたら火傷をする。

 突然の火傷に阿鼻叫喚状態へと陥る店内。

「ネコお願い!!」

「我は願う、我が友の健康を。にゃ」

 目を閉じて唄うネコを中心に薄い緑の光が広がって行く。

 それまで目を閉じて苦しんでいた皆が回復する。


「なん、だ? 痛みがなくなったぞ」

 顔に両手を充てていたバンが自分の両腕を見て不思議そうに眺めネコを見た。

「ネコさんありがとう」

 ミティはネコに抱き付き感謝するが、初めて他人から抱き付かれてネコは戸惑っているが更にギャロも両手を取り感謝していた。

 その姿を見てバンは自分の痛みを取り去ったのがネコなのかと混乱する。

「ありがとうね、ネコ」

 優しい笑顔でネコに感謝する楓を見てバンは更に混乱する。

「お嬢ちゃんたちは何者なんだ」

 楓がバンに答えようとしたとき、


「じゃっじゃーん! はっ!」

 楓の肩にいた猫がテーブルにシュタっと飛び降りてバンに向き直る。

「それは私がお答えしましょう!」

「うおっ! なんだこいつ、喋ったぞ!」

「そうでしょうそうでしょう、驚くのも無理ありません。キュートな小動物があなたのハートを撃ち抜いているのですから!」

「そうじゃねえよ!」 


 店内のゴタゴタに痺れを切らした魔神が横槍を入れる。

 いや、本来はこちらが先なのだがそう感じる。

「いい加減にしてもらおうかの。我はそこの男に用があるのじゃっ!」

「えっ!? 何で零司なの?」

 零司と魔神を交互に見る楓に零司が答える。

「きっと一昨日の晩の話じゃないか?」

 何のことか全く解らない楓は覗き見した件を思い出した。

「なっ! まさか貴方も一緒に覗き見してたの!?」

「だーれーがぁー、覗き見なんぞするかぁー!!」

 その場で地団駄を踏む魔神は本気で憤り、その怒号に地元民は店の奥に逃げ込んだ。

「まったく、とんだ濡れ衣を着せられたわ。

 じゃが一昨日の晩だと気づいたのなら貴様で間違いないようじゃな」

 炎で見えないがニヤリとしたのが雰囲気で分かる。

「ワシと闘え」

「断る」


 呆然としているのが何となく判る。

「な! 何故じゃ! あの夜のお主のあの熱い想いは嘘じゃったと言うのか!」

 パシッ!

 いつの間にか魔神の目の前に移動して頭にチョップを入れる零司。

「カハッ」

「人聞きの悪いことを言うな、そんな事実はないぞ」

 冷静そうに見える零司だが、楓に勘違いされても面倒なので速攻で黙らせた。

 たたらを踏んで下がり身構える魔神。


「おのれ! 戦う気もなく攻撃するなど意味のわからんことをしおって、許さんぞ! それともお主は面と向かうと逃げるような腰抜けなのか!?」

「腰抜け、だと?」

 零司は楓に助けられていた過去を思い出した。

「零司、ダメよ!」

 楓の声は遅く、既に零司と魔神の姿はなかった。



△黒い土地


「ここならいいだろう」

 魔神を抱き抱え街から数秒で黒い土地の上空に到着して魔神を放り投げる。

「く、何と言うデタラメな奴じゃ。じゃがこれで面白くなった、精々ワシを楽しませてくれ」



△小鳥のさえずり亭


「ラッチェットさん、零司が何処に行ったか判る?」

「うーん、ちょっと待って下さいね」

 目を閉じて零司の居場所について何かしているらしい。

「楓様、零司様は向こうにゃ!」

 事実上の零司の眷族であるネコがすぐに反応する。

 ネコが指差したのは当然黒い土地だ。

「ネコ、私を零司のところに連れてって」

「分かったにゃ!」

 店の外に飛び出す楓とネコ。

 ネコは楓と手を繋ぐと笑顔で出発を告げる。

「行くにゃ!」

 ふたりは重力に逆らい加速をつけて零司のいる場所へ落ちて(・・・)いく。

「私を置いていかないで下さーい!」

 ラチェットも外に飛び出すと本来の姿に戻り翔んだ。

「もー、何なのよアイツ! 私も連れていきなさいよー!」

 マルキウも後に続いた。


「行っちゃったね」

「どうしよっか」

 ふたりの反応に違和感を覚えたバンは訊ねた。

「あ、あの人たちは何なんだ、何か知ってるのか?」

 自分のうっかり発言に気づいたギャロだが、まさかの事態だったので仕方ないと思うことにした。

 帰ってきたら零司自身に説明して貰えばいいのだし、と。

「僕たちから言っていいのか判らないので本人に聞いてください」


△黒い土地


 零司と魔神は離れて睨み合っている。

「この世界に閉じ込められて何年経ったか分からぬが久し振りの戦いじゃ、存分に楽しませてもらうぞ」

「こっちにその気はないんだが」

「あれだけの力でワシを痛め付けたんじゃ、戦う気は無いなどと誰が認めると言うのじゃ、分かったら決闘を受け入れるがいい、ではゆくぞ!」

 言葉とは裏腹になぜか楽しそうな魔神は、待ちきれないと言わんばかりに零司に炎を放つ。


「ファイヤーボール!」

 しかし零司のシールドを通過することはできない。

「これくらいではまったく通じぬか、お遊びが過ぎたかの。

 じゃがこれならどうじゃ、スパイラルインフェルノ!」

 三つの火柱が螺旋となり零司目掛けて放たれる。

「なんじゃと! これでもダメか、ならばこれならどうじゃ! ヘルズガーデン!!」

 一帯が炎と岩が真っ赤に焼けた世界に変わるが零司は涼しい顔で魔神を見ている。

「貴様は一体……おのれ、これならばただでは済むまい。グランドクラープス!!」

 大地が崩れ落ち、岩と共に零司はマグマに飲み込まれてしまった。

「実戦で一度も使わんかったが、我ながら良くできておる。これなら奴もただでは済むまい」

 魔神の足元は広大なマグマの湖と化していた。

 しかしその溶岩の湖の一部が妙に盛り上がる。

「ん、あれは何じゃ?」

 溶岩の盛り上がりから零司が飛び出してきた。

 そして魔神の前に戻ってくると服はボロボロでほとんどが焼失していたが零司自身には損傷ひとつないのが分かった。

「それだけか?」

 腕組みして更なる攻撃を誘う。

「くっ、ブルーワールド!」

 青く高温の焔の世界を創り出す魔神。

 しかし零司は顔色ひとつ変えない。

「おのれ、ホワイトノヴァ!」

 恒星で発する核融合にも等しい光を放つ超高温状態に溶岩が蒸発する。


 しかし、魔神は最後の術では力が反転するほどに力が枯渇してしまう。

 大地を熱したエネルギーは魔神に還元されマグマの湖も消え去る。

 力を失った魔神は身に纏う焔も失い落下して地面に叩き付けられた。

 零司は魔神が攻撃できないと判断して傍に降りる。

 顔を覗き込み様態を確かめようとした時、疲れきった声で魔神が話し出す。

「今まであれだけ本気でぶつかったことは無かった。だが貴様は強かった、私など到底敵わない、遥か高みだ。せめて手が届くところにいてくれたら良かったのに」

 力なく横たわる真っ黒で小さな魔神のその目には涙が溢れていた。

 魔神は自爆を決意し消滅するために自らの命をエネルギーに変える。

「巻き込まれぬよう下がるがいい、これで私もやっと解放される。さらばだ」

 ボロボロと溢れ落ちる涙がいまだ高温の地面に落ちて蒸発していく。

 魔神の体が輝き、世界を白と黒に塗り替える。

 その瞬間、魔神の記憶が零司に流れ込んだ。



▼魔神の世界


 私は望まれその世界に顕現した。

 世界に影響を与える漂う無意識のようなものから神として産み出された。

 その世界は戦乱に明け暮れ、人々は自らを勝利へと導く女神を求めた。

 ルールなどない戦場で死に行く多くの魂の叫び、勝者の歓喜と怒号。

 多くの者に望まれ私は戦場で生まれたのだ。


 その世界で繰り返され留まることのない戦は、より強力な兵隊、兵装、魔法の発見とその活用により単純な殴り合いから複雑な組織戦へと変貌を遂げる。

 人々はより戦の女神の力添えを欲し願い奉り、勝利すれば感謝し敗れたら見放されたと涙する。

 私は望まれ顕現はしたが戦に関わったことなど一度もない。

 彼らはただ願い、そして最後には死んで行くのだ。

 戦争で生き残る者など僅でしかなく、多くの新兵は偶々生き残った一部の者を女神に祝福された英雄として担ぎ上げれた者に憧れてやってくる。

 しかしこれまでの多くの者がそうであったように彼らもまた死んで行くのだ。

 人は死ななければ判らない、しかし死んだ者は誰にもその思いを伝えられない。

 生き残った者だけが雄叫びをあげ、勝利の美酒を浴びて喝采を受ける。

 私にしてみれば戦の女神とはただの傍観者だ。

 そんな世界で彼らを千年以上見続けていた私は、ある意味で神になる前の漂う無意識と同じ存在だと気づく。


 知り合いの神が異界旅行のお土産として数十巻に及ぶマンガと呼ばれる本を寄越した。

 文字は複雑だったが永い時間を掛けて何度も読み直して本から習得し、その物語は戦う人々がいかに仲間を思い合い、殺し合う敵であっても仲間になれるのだと言いたいのだと理解した。

 そして私は決意する。

 『この世界には人類の生存を脅かす魔神が必要だ』と。

 終わることのない人間同士の戦を止め、手を取り合って未来へ向かわせるためにはそれしかない。

 そして年頃を迎えた私もそんな戦いの中で強い絆で結ばれた伴侶(パートナー)が欲しかった。

 私は戦ったことなどないが、人々の争いを見ていたことや、マンガに描かれる想いが私に力を与えてくれるだろう。


 そしていつか、私と仲間に、パートナーになってくれる強い男が現れると信じて行動を開始する。

ついに現れた魔神。

でもあれだけ引っ張ったのに展開早すぎw

どうしてこうなったのか。



2021/12/11 修正

 グランドフラクチャー -> アースクラープス

 掲載時に大地崩落をグーグル翻訳したら|グランドフラクチャー《Grand Fracture》と表記されたので何も考えず使いましたが、いまいち怪しかったので先ほどもう一度確認したら、グランドフラクチャーは大地骨折と表記されたw

 なので、改めて大地崩落を翻訳してみると|アースクラープス《Earth Collerpse》と表記されたので変更します。

 グーグルさん、勘弁してください。orz (自分で勉強しなさいwww)

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