21.咽び泣くがいい
なぜか投稿予約が失敗して日付を越えていたので再投稿しました。
楓は零司と一緒に風呂作りの職人になり細かい所をやって貰いたいと言う。
零司は現地人の手ではできない部分の解決に知恵を絞る事になった。
具体的には楓邸の風呂では神術で自動化されている部分を人の手でできる平易な技術へ換えなければいけない。
例えば蛇口やシャワーなんてパッキンやホースに使われる柔軟な部品を用意するのは無理だろうし、この世界の技術で代用する構造物ができたとしても精度の関係で大きく重い物になってしまうだろう。
そういった部分を作り易い材料、扱い易い形にするのだ。
楓は全体の造りを、零司が水回りなど、細かい所を担当する。
とりあえずこの技術水準や人口、来館予測など調査してなくてはならない。
ダリルとギャロはやって来るのは早くても夕方くらいだろう。
それまでに一度出掛けて周囲を軽く見ておこうと思った。
「どこから回ろうか」
外に出た楓は零司と手を繋ぎ周りに訊ねた。
「人が集まっている場所……でしょうか?」
楓の肩でだらしなく伸びながらチラリと零司を見て、他に聞こえないように小声で発言するラチェットは猫化済みだ。
「どこでも案内するわよ」
零司の頭の上に寝そべるマルキウはそこを定位置にしてしまっている。
「にゃん!」
何が嬉しいのか笑顔で零司の背中に抱き着くネコ。
「ネコ、こっちに来て」
楓に呼ばれ、零司にしたように後ろから抱き着く。
「もう」
楓は零司と手を離して間にネコを入れた。
耳隠しの帽子を被り、大好きな二人に両手を繋がれて上機嫌になる。
「そうだな、最初はラチェットの言う通り人が集まる場所、広場だな」
広場に戻ってもう一度周囲を見渡した。
目立たない服を選んだつもりでも地元民でないのがまる分かりの行動をしていたら目立つものだ。
「マルキウ様」
物腰の柔らかい声で後ろから声が聞こえる。
揃って後ろを振り向くと、そこには一般人よりも明らかに身なりの良い服装をした零司より少し年上くらいに見えるヒョロッとした感じの若い男性が立っていた。
「マルキウ様、お久し振りでございます」
胸に手をあて軽く会釈する。
「シエルか、この子つまんないのよね」
「ご期待に添えず申し訳ございません。先代より失礼があってはならぬと言われておりますのでご容赦ください」
とても男性とは思えないナヨっとした感じだが芯は強そうだ。
「それで何の用なの?」
「はい、先ほど街を見て歩いていたところギャロの方から相談を持ち掛けられまして、そちらの方々と風呂を建設したいと言う申し出を受けたのですが事情が良く分かりませんでしたので直接聞く機会はないものかと思案しておりましたところちょうどそこにお姿を見掛けましたので話しかけた次第です」
「あんた長ったらしいのよ。もっとこう、スパッっと言えないのかしら!」
「誠に遺憾ながら」
「あーっ、もうっ! でっ? レージはどうなの!」
「今回の話は楓が主導するからそっちで頼む」
「え!? いきなり私に言われてもこれから調べ物するって話でしょ?」
「そうでしたか。それでは大体で良いのでその話を聞かせていただけませんか? ギャロの話では皆が幸せになれるとか雲を掴むような話でしたので」
「ギャロはちゃんと聞いてたのかしら」
ぽそりと言うマルキウの記憶力は大したものだが、それとギャロを比べるのは可愛そうだろうと零司は普通に思う。
□
「なるほど、ギャロとミティだけでなくマルキウ様もお入りになられて感じ入るものがあったと……ふむ」
腕を組んで考え込んでいるシエル。
「ギャロの話では街の皆が普段から入れるようなことを言っておりましたが」
「ええ、誰でも毎日でも入れますよ」
楓は笑顔で答える。
「もちろん対価は必要ですが日常的な利用が前提なので高くはないですね」
「それは素晴らしいですね。ですがそうなりますと規模はどのくらいになるのでしょうか、それにコストはどれくらいを想定しているので…」
「ああー、もうっ! チマチマめんどくさいわね! パパーっとやっちゃいなさいよ」
マルキウはシエルの回りをすごい勢いで飛び回り鬱憤を発散する。
「申し訳ありませんマルキウ様。これも皆のためですのできちんと聞いておかなくてはなりません。今暫くお待ちくださいますようお願い致します」
ゆっくりと礼儀正しく答えるシエルに我慢の限界が来たらしい。
「もうぃやっ!」
マルキウはどこかに飛んでいってしまった。
「ふふっ、あっ、申し訳ない。マルキウ様があまりに可愛らしかったもので」
さっきまで真剣な姿勢で対応していたシエルが笑顔を見せる。
「それでは話の続きを……」
その後、まだ構想でしかないと分かると話は零司たち自身の話に移る。
「ところでお二人は双子ですよね?」
突然話を振られた楓だが朝食で打ち合わせた通りに対応する。
「性格は違いますけどね」
「本当に瓜二つの双子と言うのも初めてなものでつい、気分を害されたなら申し訳ない」
「いえ、良く言われるのでなれてますから気にしないでください、あはは」
「それでえーっと、そちらの男性はレージさんと言いましたか」
「ああ、時崎零司だ。よろしく頼む」
「ファミリーネームをお持ちで?」
「ええ、私は森山楓です、よろしくお願いします。
こっちが森山ネコです」
「ネコにゃ」
「ああ、皆さんお持ちでしたか、これは失礼しました。それでは私も、私の名はネセラ・シエルと申します。この街の領主をしていますよろしくお願い致します」
この国はファミリーネームが先に来るのでシエルも違和感がなかったようだ。
「それで皆さん仲が宜しいようご結婚なさっているのですか?」
楓は想定していなかった質問に驚いてそっと零司を見る。
「いや、まだだ。そうだな……俺たちはいつか故郷に帰る。結婚はきちんと家族に報告してからだな」
「零司……」
零司は頬を染めて見つめる楓に笑顔で応えた。
□
シエルは相談があればいつでも来てほしいと言い残し屋敷へ帰った。
それに明日、詳しい話ができる者を宿に派遣するとも言っていたのでこの後の予定はキャンセルされた。
「初めから領主と出会えるなんて運がよかったわね」
「話が通りやすくなったのは良いですよねぇ」
そこでまだ露店にいるギャロに会いに行くことにした。
他の露店も出ているし何かしら情報は得られるだろう。
「きゃー、何この子、かわいいー!」
楓の腕に抱かれる猫に女性が集まっている。
「この子なんて種類なんですか?」
「猫よ。この辺りじゃ見ないのよね」
「ネコもネコにゃ!」
「双子の妹さん? その帽子もかわいいですね」
パッと笑顔になると母に甘える小さな子供のように楓の後ろに隠れて抱き着く。
「ありがとう、嬉しいのにゃ」
ただの四角い袋だが縫い目を横にしてやると角が耳の形になるので耳隠しにちょうどよかった。
猫の話で盛り上がる女たちはギャロから聞いていたらしく風呂の話にも食いついている。
「こっちはどうだ」
「そうですね、まあまあでしょうか」
他の店に目を向けると目立つ零司に注目が集まっているのを知る。
「よお兄ちゃん、誰でも入れる風呂を作るってのは本当なのかい」
ギャロの隣に店を構えるガッシリとした体格の中年男性が話し掛ける。
「ああ、そのつもりだ」
「そいつは嬉しいねぇ、だが金がいるんだろう? この辺りの稼ぎじゃ風呂なんて高級なもんに入れんのは領主様だけなんじゃねーか?」
「毎日でも入れるのを作るから気にしなくていい」
「そりゃいい。それで、いつできる予定なんだ?」
「そこはまだ決まってない。明日領主が人を寄越すからきちんとした計画はそれからだな。それと必要な物が調達できるかだろう」
「どんなもんが必要なんだ?」
「まずは湯釜だな」
「何だそりゃ」
「水を循環させながら温める」
「難しい話は分かんねえや、まあ楽しみに待ってるぜ兄ちゃん」
「ああ」
露店を見て回るうちにマルキウも帰ってきて定位置に戻った。
△黒い土地
『ふん…… こっちか? 回復するのに丸一日も掛かるとはどれ程の者か楽しみだわ、ククッ』
黒い土地で真っ黒になって苦しんでいた焔の魔神は本来の力を取り戻して全身に焔を纏って空にいる。
あの光が飛んできた方向をにらみながら思考すると緩やかな風に背を押されるように加速し、あの時の感じを探しながら東へと進む。
魔神が飛び去った大地は直径一キロのクレーターと言うより穴があいていた。
あのあと更に陥没して大穴になったが、生ける者が存在しないこの土地ではそのことに何の意味もなかった。
ゆっくりと注意深く進む魔神は三十分ほど掛けて零司たちが降り立った山腹に到着する。
そこは比較的平坦な岩場で草しか生えていない。
空から見たとき三ヶ所に不自然な四角い跡を見つけ、その一つの跡地前に降りた。
目の前にある四角く均された土地は他の二ヶ所よりも広く、例の『匂い』を感じるし何より神の痕跡である神光石を発見した。
『なるほど…… 相手は神か。ならば不足あるまい、ふふっ、ファーハッハっあがっ!』
久し振りに大きく口を広げ高笑いしたが顎が外れそうになり笑いも止まった。
△ファーリナの街
明るいうちにギャロと共に宿に帰ってきた零司たちは、まだまだ余っている鹿に似た大型のクリーテルの肉を使って今夜のおかずを作ろうとお店の調理場を借り楓がハンバーグを作ったのだがバンやお店にいた常連客にもお裾分けしたところ目を剥いて驚かれた。
差し出された皿の上にあったハンバーグは楓が厨房にエプロンを置いて皆と一緒にテーブルで食べようと席に戻る前には無くなっていた。
妙な視線を感じながら席に座る楓。
バンと常連客は皿を見つめて拳をギュっと握り締める。
「お、おい、姉ちゃん!」
常連客の中年男性が我慢できずに声を上げた。
何事かと楓は振り返り声がした方を見た。
楓の目に入ったのは、いい笑顔でサムアップする男たちだった。
男たちはいい気分で家に帰り、やっと食事ができる楓たちは今回も美味しいご飯にありつけることに感謝する。
「ダリルさん来なかったわね」
「そうだな。ま、その分は家族で楽しめてるなら良いじゃないか」
「ちょっと、お客さん、いまダリルって言ったか?」
「ああ」
「ダリルが帰ってきたのか!」
「街まで一緒に来たからな」
「懐かしいな、それでやつは元気だったかい」
優しい眼で話を聞くバン。
「出会ったときは大変そうだったが今は元気になってると思うぞ」
「どう言うことだ?」
「ギャロの家に近いところで立ち往生してたんで助けたんだ。それだけさ」
「そうか、そいつはありがとうよ。やつとはガキの頃に遊んだ仲でな、うちに出入りしてる商人に見込まれて街を出たんだが……そうか、帰ってきたのか」
「俺たちと合流することになってるからその内ここに来ると思うぞ」
「「「ごちそうさまでした」」にゃ」
「マルキウさんは本当に木の実だけで良かったの?」
「アタシは動物の死骸なんて食べないわ、あっでもハチミツなら頂くわよ?」
「そうなの、今は持ち合わせがないから出せないけど覚えておくわね」
厨房からは零司たち以外客もいないのに調理の音が聞こえてくる。
衝撃的な肉料理を味わったバンはかなりの量の肉を分けてもらっていたので食事中の楓たちからハンバーグの作り方を聞いて自分なりにやってみたがうまくいかなかった。
「うーん、練りが甘いのかしら?」
楓に味見してもらうバンは何とかあの味を自分のものにしたいと考えていた。
そこへ継ぎはぎの目立つ服を着た、恐らく兄妹だろう若い男五人、少女一人のグループがやって来て期待に満ちた眼で店内を見回しテーブルに座った。
「お前らが来るなんて珍しいな、何の用だ」
「バンさん、あの、ひとつ聞きたいんだが」
「ん? なんだバロー」
「ハンバーグはあるか?」
「ああ? 何でそんなこと知ってんだ。あるにはあるがそこの嬢ちゃんじゃないとまともなのはできないぞ?」
「ええっ、バンさんこんな干からびた店で手伝いを雇ったのかよ!?」
「何が干からびただ、失礼な。その娘は客だ」
バローは楓を見て真剣な顔をする。
「あ、あの、失礼なのは分かってるんだけど、そのハンバーグって言うのを是非食べてみたいんだ。もしよかったら作って貰えないかな、だめか?」
楓は零司に振り返って目を合わせる。
そこにこれはチャンスとバンが話に割り込んだ。
「嬢ちゃん、勝手な話だが俺からも頼む。あんたが作ってるところを一度見てみたいんだ」
一旦バンへと目線を移した楓だが零司へ戻すと微笑む。
「いいわ、作ってあげる。でもお肉は良いの?」
ちらりとバンを見る。
「ああ、元々あんたらに貰ったもんだし手本まで見られるなら寧ろありがたいくらいだ」
「おおー、ありがとう姉さん!」
「そんな、大袈裟よ」
怯む楓。
「いや、あれはそれだけの価値はある。だからこそ見てみたいんだ」
「バンさん、しっかり覚えてくれよ! そしたらずっとここで食べられるんだからな!」
「まかせろ」
力こぶを作ってニヤけて見せるバン。
「ミティさんも来てくれる?」
「はい! お手伝いします」
もう一人、やって来たグループの中で一番年下だろうまだ小学生くらいの女の子が加わった。
狭い厨房での作業は無理と分かり、焼き以外は店内のテーブルでやることになって男たちもその作業風景を見ながら喋っている。
楓は肉を切り刻んでからよく磨り潰していく。
家では本を読んだり母親に聞いたりしながら何度も失敗して覚えたのだ。
失敗するところが分かれば、そこを回避するために考えるようになる。
環境が多少変わっても回避すべき場所が分かれば問題ないことも分かる。
こうして何が必要なのかの最もシンプルな芯を捉えれば、あとはいくらでもアレンジできると解った。
それから楓の料理の腕は上がり、初めて作るものでも失敗はしないと言えるレベルに達している。
楓は要所を分かりやすく教えながらミティともう一人の少女サーラと一緒に作業を進めるが、この世界では女子は普通に料理ができるし真面目に取り組むので教えるのに苦労はなかった。
あとは焼くだけとなり厨房へ向かうと二つのフライパンを使って最初に楓が焼いて見せ、空いていた時間で作った現地調達素材で作るソースを掛けて試食させた。
その仕上がりをきちんと知って貰うために表面の焼け具合や火の通り具合を見て一つ一つ丁寧に確認して食べさせる。
「ん! んー、んー、んー!」
目を瞑って両腕をバタバタと振るサーラ。
「ん、これは何度食べても本当に美味い」
バンも目を閉じて静かに食べてから言った。
「それじゃミティさんとサーラさん、やってみて」
ふたりは並んでフライパンに火を通して準備する。
「焼きますね」
「わ、わたしもっ!」
真剣な眼で取り組むサーラ。
結果、楓が監修したせいもあり焦げ付くこともなく完成した。
出来上がったハンバーグは楓のソースが掛けられ、暖まったソースから立ち昇る香りでサーラの目元とお口はさっき食べたハンバーグを思い出して緩んでいた。
「お待たせ、クリーテルの特製ハンバーグができたわよ」
楓を先頭に厨房から出てくるミティとサーラが持つ薄茶色の浅い皿。
「おおお、これがハンバーグか!」
店内で待たされていた男たちは厨房から漂うハンバーグの匂いに我慢していたので、目の前に並んだ皿の上にある大きめのハンバーグに男たちは歓喜の声を上げた。
サーラは楓が頷いたのを見ると、楓に感謝の笑顔で応え男たちに向かって言い放った。
「待たせたな、この豚野郎ども! ピーピー咽び泣きながらムシャぶり付くがいい。さあ、宴の始まりだ!」
あまりにもイメージが違うサーラの言葉に楓は引いてしまった。
それに気づいたミティがフォローを入れる。
「サーラさんの家は五男一女で家のことをサーラさんがひとりで切り盛りしてるから大変なんですよ。ふふっ」
ミティは嬉しそうにサーラを見ている。
サーラが生まれたとき家は貧しく、巫女にどうかと親に打診が来たらしい。
巫女は神の相手をするのに機嫌を損ねることのないように厳しく育てられるのだそうだ。
そして多くの巫女候補の中から選出されて巫女になれたら家族が普通に生活できる程度の報奨が与えられると言う。
もし巫女になれなくても、巫女のお付きとして生きることになり、その時も僅かだが報奨が与えられるらしい。
なので普通の親なら娘を差し出して生活を建て直したいと考えるそうだが、サーラの親は絶対に手放さないと断り頑張ったそうだ。
しかし当時まだ小さかった男兄弟を抱えて苦労した母親は他界し、普通の子供たちよりも小さい頃から家の仕事をしてきたサーラに五人の兄たちは頭が上がらないと言う。
「それにしても凄い掛け声だったわ」
楓はあの掛け声との関連性がどこにあるのだろうかと少し悩んだが考えても仕方ないのでスッパリと切り捨てた。
そんな六人の兄妹が肉を噛み締めている頃、ファーリナの街上空に魔神が急速に接近していた。
ストーリーを決めずに始めたので色々と小説の説明を変更してしまいます。申し訳ない。
でもその度に内容に近い説明になってると思いたい。
修正 2019/09/24 一部発言、言い回し、修正漏れで残った文字を削除など




