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173.成果発表会 7

「ねえ、お昼はどうする?」

 一般校舎での見学も終わり、工業関係が集中する別棟へと向かう途中で講習会参加の女三人集のひとり、男品定めのリーダーだったキニーが問い掛けると同じく盛り付け担当だったミーナが食事内容に関心があるのか人指し指を唇に当てながら即答する。

「んー、ここでしか食べられない物ってあるのかな」

 そう言って思い出した様に前を歩くイーノに向かって話し掛けた。

「ここだけって話になるとうーん、どうなんでしょう?」

 日頃あんなに楽しそうにメニューを選んでおきながらと、呆れて横から話に加わったルールミル。

「学校はモールのレストランのメニューを安価にした物だからここでしか食べられないって言ったら全部がそうだと思うわよ?」

「「「「つまり…」」」」男品定め三人集とルーミナルがつられて言葉にする。

「より美味しく手間が掛かってるのって意味ならモールの方が良いわね」

「それじゃモール行こう!」

 盛り付け担当だったミーナが一票を投じると特に反対意見も無くモールへ向かう事になった。

 そこへ。

「あー、あたしたちは先に食っちゃったから良いかな」

「じゃなぁ、流石のギーツも昼だけで三食は無理じゃろ。わはは!」

 軽くギーツの背中を叩きながら爺も辞退する。




 王族と三人集を見送って工業科の校舎へと辿り着いたギーツと爺。

 こちらも見た事も無い代物があると事前周知されていたのもあって、物作りに強い興味を示す二人はこれまでと同じく案内地図を見ながらどこにするか考えるがやはり一番手近な会場から順に回る事にした。


 最初に向かうのは工業棟で最も近い場所にある専門科目の工業科である。

 この棟では現在のところ工業に分類される専門(・・)科目の工業科に選択(・・)科目の機械科と科学科がある。

 教育の内容的に大きな音がしたり異臭がするので一般棟からは離れているのは仕方が無いだろう。

 ついでに言えば怪我などの危険を伴う科目が集まっている。

 だが離れであってもこの発表会で見る限り人の流れは絶えず、人々の賑やかな声が多方面から聞こえてくる。

「ふむ、ここからがワシらの本命じゃな」

「だね、噂話だと結構面白いのがあるって言ってたんだよね」

「芸術科で気に入ったのがあったじゃろ。あんな感じかもしれんのう」

「うん、楓様の薔薇城は凄かったもんな。そんでさ、その後に行ったアヤ何とかってのも凄かったんだよな」

「三人組が言っておったあれじゃな。どんなもんなんじゃ?」

「うん、えっとアヤ…ソフィア!ってのはモールよりも大きな建物でなんてーのかな、もう全然ちげーんだよね。こうさ、高い天井から光が差し込んでさ、天井に綺麗な絵が描かれてんだけど、こう、うーん。そう、スラゴーを見上げるみたいな気持ちにさせられんだよね」

「ふーむ。良く分からんが凄そうじゃな。ワシも機会があったら見てみたいもんじゃ」

「それなら多分だけど零司様が暇な時なら頼めば見せてくれるんじゃないかな」

「ははっ、零司様が暇な時なんてあるのかのぉ」

「あー、そだね。あん時は楓様が頼んだから来てくれたの忘れてた」

「まあそんなもんじゃろ、わははは!」

 楽しそうにまたギーツの背中を叩く爺。


「っと、ここかな」

「うむ、工業科と書いてあるのう」

「こっちも随分並んでるね」

「じゃの」

「お、ギーツだな」

 前方から聞こえた覚えのある声。

 何となく嫌な予感はするがそちらに目を向けた。

「本当だわ」

 そこに居たのは食堂で席を譲ってくれたフラニと婚約者のアーニャだ。

「なんだフラニかー」

 ギーツは心底深いため息を吐き出す。

「おいおい俺ってそんなに嫌われてたのか?」

「ちょっとギーツ、あんたさっきの恩も忘れたの?」

「うぇっ!? いや、そうじゃないけど」

 その言葉に慌てて釈明しようとするがアーニャの圧しが強い。

「それじゃ何よ」

 目の前までやって来て上から押さえ付けられている感が凄い。

「ははは、さっきまで王妃たちと一緒だったからの、またかと思って焦ったんじゃろ」

 爺の助け船にアーニャが威圧を解いた。

「なーんだ。ふんっ」

「そこまでしなくても良いんじゃないか」

 フラニはギーツが冬期講習会で男然として男たちに混じり馴れ合っていたのもあり『同胞』としてはアーニャに責められているのを見て哀れに思えた。

「ま、フラニがこう言ってるし許してあげるわ。フラニに感謝しなさいよね」

「お、おう」

 突然湧いた災難にどうして自分がと思わずに居られない。


「それで、こっちには来たばかりか?」

「あ、うん。さっき天文と神術魔術科を見たんだよね」

「こっちと逆回りか」

「みたいだね。天文や神術魔術は凄かったな」

「そうか、こっちはギーツが好きそうな物だらけだったぞ」

「へー、それは楽しみだな」

「こっちも期待して行ってみるか」

「そうね、それじゃそろそろ行きましょうか」

「ああ。ギーツ、足止めして悪かったな。こっちは行ってみるよ」

「うん、あたしたちも行こっか」

「じゃな。そっちは特に楽しめると思うぞい」

「「?」」

「あー、行ってみれば分かると思うよ。んじゃね」



「おお、なんじゃこれは」

 列に並んで少しだけ待ったがすんなりと展示会場へと入った二人は大量に並ぶ木製の品々を眺めて驚きを隠せない。

 特に中央にある小さな小屋は多くの場所を取り目立っている。

 その小屋に付いている大きな十字の物体が何なのかギーツたちには全く見当がつかなかった。


 じっと見つめて考察しているギーツに気付いた案内人が声を掛ける。

「いらっしゃいませー」

「あ、ども」

「こちらは風車と呼ばれる物で、人手を使わず粉挽き出来る装置が納められた建物の模型になります。実際の大きさはこちらの人形と比較すると判り易いですね」

 案内の男は横に置いてあった人形を掴み、飯事(ままごと)でチョンチョンと歩いて来た様な動きでギーツの前に移動させる。

 目で追うギーツを確認すると、出入り口になる正面の壁を取り外した。


「ほおぉ…何やら良く出来ておるわい」

 隣に居た爺もギーツと並んで見える様になった中身を真剣に考察している。

 案内人は手で風車を回すと、風車の軸は垂直に下に延びた縦軸を回転させて、下にある臼を回転させる。

 ミニチュアサイズではあるがきちんと調整されたそれは、本来のサイズの装置と遜色の無い機能を披露した。


「なるほどなー」

 腕を組んで前のめりに装置の動きを観察するギーツは後ろに居た男たちの視線に気付かない。

 爺は男たちが何を考えているのか分かっていながら知らぬ振りしてギーツの考察に参加する。

「見る限り弱そうなのはあそこじゃろうな」

 爺は少し奥まった場所を指差してギーツにもっと乗り出す姿勢に誘導した。

 するとさっきから展示物そっちの気でギーツの突き出される腰回りを見ていた男たちがざわめくが当の本人はそんな目で見られた事など無いものだから全く気付かない。

 男たちにサムズアップする爺。

 頬を染めながら爺に感謝して良い笑顔で応える男たち。

 爺は本人にその気が無いのならと、こんな機会にでも目を向ける男たちがギーツに対してどんな感情であれ好感を懐く様に誘導してみたのだ。

 実際のところギーツは筋肉質で体格は良いが、それでも女性らしいラインを持ちながらスッキリとした体つきをしている。

 引き締まったボディは男として見ても素直に『良い体』だと思える。

 講習会での作業服ではそれほどラインが出る事も無いし、今日はちょっと良い服を着て薄着なのもあり、普段見ないギーツの姿に女らしさの一端だけ(・・・・)を垣間見た。

 いつもは気にする筈も無い男勝りな奴だが、こうして見ると何故か心惹かれるのは、やはり本当は女性なのだと意識したからだろう。

 これ以降ギーツに対する男たちの反応に変化があったのは言うまでもないが、ギーツにしてみれば扱いが妙に生暖かいものになって気味の悪いをする羽目になった。


 その後も時間を掛けて風車小屋の模型を丹念に観察するギーツは独自の解釈で実際に建築する時どこに注意が必要なのかを真剣に考察する。

 零司に連れていかれたアヤソフィアでの良く解らなかったアーチ構造の話も今ではそれなりに理解出来ているし、既に職人として働いているからこその素材工学的な教育も講習会で受けていたので素人でしかないファーリナの学生が作った作品を見れば、やはりその拙い仕上がりなどから自分ならどこまで出来るのかを考えると楽しくなって来た自分に気が付いた。

 いつの間にか上機嫌で案内に対して同好の士と言わんばかりに模型に関する質問を繰り返しているギーツは、素直なその笑顔と真剣な眼差しに心惹かれる男たちに囲まれているなど分かる筈も無く、色恋に無頓着どころか巻き込まれると録な事にならないと常日頃から感じているが、意図せずこの場に居合わせる男たちからは普通の女とは違う『良い女』として心を鷲掴みにしていた。

 その理由のひとつには男同士の様な気軽さで付き合えるのもあるのだろうがギーツが女として見られるのを望むのかはまた別問題だ。


 それからも見た事も無い木工品の数々を楽しそうに見ているギーツを見る限り、フラニの言う通りこの場所はギーツにとっては楽しい場所以外の何物でも無かった。

 授業で扱う主要な課題作品や副読本で解説されている物などが整然と並び、物によっては実際に使う事も可能な為、それが何なのかが解り易い。

 そんな作品群を眺めたり手に取ったりしながら納得するまで検分しつつ進むと一線を引いて乱雑に並ぶ作品帯に突入する。

 最初に目に入ったのは指輪だ。

 既にファーリナの特産商品と化している分野であるものの、目新しさこそあれ特に秀でた物では無い。

 ギーツに色恋フィルターは存在しないのでその仕上がりを見ても何故これが売れるのかが分からなかった。

 ただ『そういう物』とだけ見て流される。


そして例の圧気式着火具(ファイヤーピストン)だ。

 図を交えた簡単な説明文によれば、これを勢い良く押し込む(叩き込む)だけで火種を作れるとあり、本当に?とつい手を伸ばす。

 二つの部品に別れた手のひらサイズのこんな木の棒にそんな力があるとは思えない。

「なんじゃ、これで火が着くじゃと?」

「そーみたいだね」

「神具なんかいの」

「んー、神光石は…無い…かな」

 ギーツたちが言う神具、それは一般に神光石が使われた道具全般であり、サーラたちが持つ鍵も神具と言える。

「何で火が着くんじゃろか」

「えーっとね、空気を一気に押し込むと火の玉になるって書いてあるね」

「たったそれだけで?」

「ん、それだけだね」

「ふーむ」

 なぜそれで火が着くのか理解を越えた話に二人して疑問だらけの形相になる。

 そこへ。

「何か問題がありましたか?」

 さっきの風車の案内とは別の男が話掛けて来た。


「こんな棒で火が着くってのが良く分かんなくてさ」

 手の中にある着火具を見ながら答える。

「ああ、それは…ちょっとお待ち頂けますか?」

「ん? ああ」

「それでは」

 そう言うと男は足早に教室を出て行った。

「なんじゃろな」

 二人で男が出て行った方を見ながら爺が言ったその時、ギーツの足元に何かが落ちる軽い音がした。

「ん?」


 音がしたそこにあったのは見覚えのある小さな木の棒で、手に持ってる発火具の一部だった筈だ。

 それを拾い上げて手の中の発火具と見比べる。

「・・・やっべ」

「なんじゃ」

 爺はギーツの目線を追い、その手にある発火具のパーツを見る。

「壊れておるのう」

「あははは・・・。どーすっかな」

「別にお前さんが壊した訳ではないじゃろ」

「うぇっ! 何で分かんの?」

「そりゃ分かるじゃろ。その木が何か知っとれば触っとるだけで壊れるなんぞあり得んでな、ははは。もし何か言われたらワシが言ってやるから安心せい」

 爺はまたギーツの背中を勢い良く叩く。

「どぇふっ!」

 叩き過ぎとは思うが誰が見ても壊したのが自分だと思うだろう状況で、自分のせいじゃないとその場で分かってくれた爺に、嫌な思いをせずに済むと年寄りの知識に有り難みを感じた。

気が付けばギーツの物語になってる様な? (;゜∇゜)


今回もまた前回からかなり経ってしまいましたが読んでくれた皆様ありがとうございます。

不定期ですがこれからも続くのでよろしくお願いします。.+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.

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