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172.成果発表会 6

 ギーツと爺は天文科で合流した王族たちと共に同じ階にある神術魔術科へとやって来た。


「少ないな」

 先頭を歩くギーツは有名な割に入り口に並ぶ客を見て肩透かしを食らいそんな言葉を口にする。

 服飾科とは違い神術や魔術など人が持ち得ない筈だった力の獲得にはギーツも興味を持っているので多少行列が出来たところでスルーしたりはしない。

 しかし『それにしても』とほぼ全ての人が興味を持つ科目だけに逆の意味で驚いていた。

「そうじゃな、天文科よりも多いと思っとったが」

「まぁ良いじゃないですか。その方がゆっくり見られるかもしれませんよ?」

「入ってみないとわからないけどね」

 爺にイーノ、ルールミルも同じ感想を抱いていたらしい。

 そして当然の様に先に天文科を出ていたターナたち三人組もそこにいた。


「あらギーツもこっちに来たのね」

「あ、うん」

「なに? その歯切れの悪い返事は」

 分かってはいたけどやっぱりまた同じ所にいるのは居心地が悪い。

「あれ、そっちにいるのはルーミルさん?」

 ギーツの影で見えなかったターナとは別にキニーがルーミナルの存在に気付く。

「こんにちは」

「こんにちわですよー」

「こんにちは皆さん」

「あらあらお知り合い?」

「はいお母様、同じ料理部門の方たちです」

「こんにちは。娘たちがお世話になったみたいね」

 ルーミナルの『お母様』の言葉に王妃だと察した三人はその場で姿勢を正し、片ひざを着いて頭を垂れた。

「今日はただの見物客だから気にしないでね。んふふ」

 そこには娘たちと一緒に楽しい時間を過ごす普通の母親がいた。


「なにしてんの?」

 言葉通り、ギーツはターナやキニーが何をしているのか良く解らなかった。

「ちょっ、ギーツ」

「あんたはっ」

「はぁ…」

 三人はギーツのあまりに普段と変わらない反応に呆れている。

「んふふっ、ギーツさんも家の子にならない?」

「「「「えっ!」」」」

 どこからそんな話になったのか全く見当がつかない三人組だけでなくルーミナルも一緒に驚いた。

 三人は『そんな馬鹿な』と思う反面、ルーミナルはギーツを慕っているという違いがある。

「あー、いや、あたしは大工になるから。その、ごめんなさい」

 ギーツにしては礼儀正しく冷静にお辞儀をして見せる。

「そう? 残念ね。でも気が変わったら言ってね」

 ギーツに優しく微笑みかけるミラに王族の後光が見える三人の女たち。

 ルーミナルは嬉しそうに母の腕に抱き付きながら見上げてウンウンと頷く。

 ギーツを信じられない物を見る様に凝視する三人とのコントラストは大きかった。

「それで、こっちはどうなってんのかな」

 何事も無かった様に神術魔術科の話に戻るギーツは一体何者なのかと思わずにいられない。


 それから暫く経った頃、講習会での出来事をトリーノ妃に語るキニーたちの話に耳を傾けながら楽しく会話していた一同だったが突然教室内が騒がしくなった。

 出口が開け放たれ何処にそんな人がいたのかと思わせる沢山の人々が溢れ出す。


「皆様お待たせしました。それでは慌てずゆっくりと順番に会場内にお進み下さい」

 入り口では案内の声に先頭から教室へ進むが開いたその先は暗く見え、一見天文科に似た雰囲気を感じた。

 ギーツたち一行も流れのままに入り口を通過するが先ほど出て来た人たちと同じく入り切るとは思えない人数を飲み込んで行く。

「こっちも暗幕?」

 天文科で覚えたてのワードで漏らすギーツだが様子が違って見える。

 もっと自然な距離感を一同は感じていた。

「こりゃ本物じゃぞい」

 見上げるそこは満天の夜空であった。


 ギーツたち講習会参加者はファーリナの住人と同じ扱いで北極点オーロラ観測所への出入りも認められていたので扉を抜けた先の昼夜が反転していてもそれを受け入れられる程度には頭が柔らかい。

 だがこの場所は夜空が見えるだけで雪に閉ざされてはいないので北極点オーロラ観測所とは地域が違うのだろうと思わせる。

 そして何より周囲を見る限り草木が一切見えない荒れ地だと判り禁足の地を想起させた。

 しかし同じ時間帯の禁足の地が夜の訳もなく、ここは何処なのか気になる。

 ざわつく見学客たちを余所に全員入ったのを確認した係員が入り口の扉を閉めた。


 入り口から正面になる場所に設置された壇の上では最早見馴れた神光石の明かりが灯り、白いバックスクリーンを浮かび上がらせると階段を上る数人の男女が現れる。

 一旦壇上の後ろの方に並んだ卒業生たちだが中央から代表の男子が一歩前に出た。


「皆さんようこそ神術魔術科へ。ここでは人類初の神術と魔術を研究している学科です。まだ始まったばかりなので全てを手探りで進めていますが私たち人類が手に入れられた新しい力を皆さんに披露したいと思います。それと披露が終わった後に私たちが受けた神術適性検査を望む人に実施しているのでどうぞ最後まで楽しんで下さい」

 モールでの接客よろしく全員で頭を下げると賑やかに拍手で応える客たち。


「それでは只今より神術魔術科一期生による成果発表を行います」

 代表が発するその言葉に会場は盛り上がり壇上の彼らに声援が飛んでいる。

 代表も数回の実践により緊張も解けている様子で笑顔を見せながら来客に応え軽く手を上げて見せる。

 後ろに並んだ同期も前回までの良好な反応から自信を持って彼らの声に笑顔で返していた。


「それでは魔術からご覧下さい」

 代表が告げると後ろの列に並んだ女子二人が前に進み出る。


「ここからは私たち二人がご案内します」

 ペコリと合わせてお辞儀をする。

「魔術とは神の力を必要とせず、人間だけで使える便利な力です」

 右の女性が両腕の袖を捲り、目を閉じ一呼吸してから手を見つめゆっくりと真上の夜空に翳す。

 その動きに合わせて照明もゆっくりと輝きを失い会場はスラゴーの明かりだけになる。

 その姿はスラゴーに手を伸ばし何らかの力を授かる様に祈り(たてまつ)る神官や巫女の様で神秘的な魅力を纏っていた。

 客たちは神聖さを感じるその演出に心を重ねる様に、いつの間にか両手を組んで祈りながら静かになってゆく。

 両手で大きなボールを持っているかの様に、(から)の手をゆっくりと回転させなが見つめ気を高めているのが客たちにも伝わる。

 術者がスッと目を閉じると一拍置いて、


「おおっ」

 大きな溜め息の直前、術者の女性の手の中に、突如拳大の炎が現れた。


 真っ赤な炎に照らされた女性に、胸元で重ねた手に力が入りさっきまでの静謐な雰囲気は一転して驚愕の声に染まる。

 まるで宗教画の如く、人々は不思議な炎に心奪われ手を伸ばしてしまいそうにも見える。

 術者は炎を右手に宿らせゆっくりと観客へと差し出して見せた。

 じっと見つめる観客の瞳に映る炎の揺らぎは神術魔術科の心を擽る。

 これから訪れる、人が神の如き魔術を当たり前として使える時代の到来を人々に知らしめるこの瞬間が彼ら神術魔術科の向上心を加速させて行く。

 彼らは卒業した事で既に神術魔術の研究開発事業部門へと移動が確定している。

 今後は神術魔術科を担当する講師として学校教育に参加しながら今までよりも深い領域の研究へと進むと同時に、時間は掛かるが他地域への教育者育成なども進める事になる。


 炎を産み出して見せた所から水、風、土を順に実演してはそれなりに驚きと羨望の眼差しで見つめられる術者たちは交代しながら実演を続けた。

 



「それでは私たちが選ばれた時の様子を再現します」

 後ろの女性から小さく輝く石を嵌めたネックレスを渡され掲げて見せるそれは誰が見ても神光石だと一目で判る。

 客からは小さな溜め息が漏れ、それが個人に与えられるなど如何に希少な者たちであるのかが察せられた。

 男はそれを首に提げると試験を思い出しながら一通り実演して見せた。

 思いのほか地味なその内容に最初の興奮は沈静化し客たちは静まり返ると同時に真剣に見詰めている。


 実演が終わってみれば何とも呆気なく、男はお辞儀して後ろの列に下ががり女性が前に進み出る。

「次は皆さんの番です。適性検査を受けたい方はこちらへ並んで下さいね」

 笑顔を見せ誘導すると客たちは嬉しそうに列に並び始める。

 わいわいと自分の順番を待ちながら隣り合った人と話をしている客たち。

 そんな客たちの並びの最後尾にキニーやギーツに王族が居た。

 ギーツたちが列に並んだ頃には先頭では検査が始まっており、最初の人は既に脱落している。

「この学校でも合格したのは私たちだけなので適合しないのが普通ですから気を落とさないで下さいね。では次の方どうぞ」

 残念そうだが明るく笑う青年が壇上から降りてくると次の女性が階段を上がり検査を受ける。


 検査は淡々と進むがギーツたちの出番までひとりも合格者は出ていなかった。

 あまりの合格の無さに客たちも諦めムードになりかけた時、ついに適正者が現れる。


 客たちは見た。爺の掌に灯る炎の揺らめきを。

「おおっ」

 溜め息混じりの驚嘆の色が会場に広がる。

「ほっほ。何と、ワシに来たか」

 満更でも無さそうな爺の瞳が輝いているのは炎の明かりのせいだけではない。

 新たな時代の節目と言う局面を若者たちと共に過ごしたこの冬の講習会もあってか新しい力に触れたその気持ちは子供の頃と同じく純粋な新鮮さで満ちていた。

 暖かな炎の揺らめきは、爺の心情を映す様だ。


「ふーっ、次はあたしの番だな」

 ギーツは目の前で成功した爺を見て、何だかわからないが無性に気合いが入ってしまうのを感じていた。

 まるで試合前の選手の様に全身に力が(みなぎ)るのを感じている。

 そんなギーツに壇上から降りた爺は悪戯(いたずら)小僧っぽく笑うとギーツにガッツポーズをして見せる。

「わははっ! どうじゃ、ワシもまだまだ行けるぞい」

「おめでと。次はあたしがやるから見ててくれよな」

 お互いに手を上げて叩くとギーツは爺に続いて自分の成功がイメージとして頭を過る。

 それは優勝してトロフィーを手に入れる様な、そんな華々しさだ。


「ではこちらを首から提げて下さいね」

 担当の女性から神光石のペンダントを受け取り、これが自分の栄光を産み出す物か、などとちょっとだけニヤけてしまうが衆人環視の手前気を引き締めた。

 今まで零司たちとかなり近い場所で何度も見て来た現象を思い出しながら目を閉じ精神集中した。

『いくぜっ!』

 ギーツのやる気に満ちた瞳に炎が灯る。




「それでは次の方どうぞ~」

 順番は既に王族にまで回り、ルールミルの妹ルーミナルに回っていた。

 壇上から苦笑いしながら降りてくるルールミルは爺の横で体育座りしているギーツに声を掛ける。

「お疲れ様。まあ、あんまり気にしない方が、ね。それが普通なんだし」

 魂が抜け落ちたかの如く反応が無いギーツ。

「はははっ、まあ仕方ないじゃろ。あれだけ格好付けて二人分の時間を貰ってたんじゃからのう。若気の至り、かの」

 そう言ってギーツの頭を軽く掴むとわしゃわしゃと荒く頭を撫でた。

「ちぇっ、あたしもカッコ良く決めたかったのに、くっ」

「わはは! 泣くな泣くな。ははは」

 上機嫌な爺のギーツ弄りが荒さを増すが当のギーツはされるがままだ。



 イーノとルールミルを先頭に次の会場へ移動する王族グループは楽しそうに神術魔術科の出来事を話題に花が咲く。

 その後ろでは結果を引きずり落ち込むギーツの肩を抱きながら笑う上機嫌の爺がいる。

 神術魔術の見学会が終わってみれば今回の参加者の中から見つかった適合者は爺ひとりだけだった。

 しかも神光石を使った神術では無く、炎を灯す魔術の方である。

 これは神光石を必要とせず単独で発現出来る方であり、事前知識や訓練も無く一発での発現なのでその潜在力には期待が持たれていた。

「しっかしワシに来るとはのお」

「そんでどーすんの? あの話」

「どーするも何もこれが終われば故郷(くに)に帰るだけじゃろ」

「なんでー勿体無いじゃんか。せっかくあんな力があんのにさ」

「んー、そうじゃな。お主の年頃ならそうしたかもしれんな。じゃがワシに残された時間は短い。この力を伸ばす事に使うよりも若もんを伸ばす事に使った方がましじゃろ。そう言う事じゃよ」

 爺はトーンを下げて肩を抱いていた手でギーツの頭を優しく撫でる。

 ギーツはそんな爺の諦めに悔しさを感じながら爺の代わりに文句を垂れた。


遅れてしまいましたが最後まで読んでくれてありがとうございます。

 .+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.


昨今やることが増えて中々こちらに手を伸ばせませんが完結まで続けて行きたいと思いますので今後ともよろしくお願いします。

それでは皆さんの健康と未来が良いものであります様に祈りつつ。

 (^^)/~~~


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