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170.成果発表会 4

最初に投稿したとき間違えて進行設定をアップしたので慌てて差し替えしました。

お見苦しいものを見せてしまい申し訳ありませんでした。

「食った~」

「はっはっは、また昼過ぎに来るんじゃろ?」

「んー、次は軽くでいいかな。晩御飯が食べられなくなるし」

「まあその辺じゃろ。ところでお前さんの所は帰りはいつ頃なんじゃ」

「あー、うちは領主の息子が入るから入学式を見届けてから出るみたいだよ」

「こっちも同じじゃな。じゃがまあ講習会がまたあるのかわからんが皆で勉強できたのは有意義じゃった。故郷に帰っても確りな」

「任せて。それに良い銭湯建てるからさ、遊びに来てよ」

 照れながら応えるギーツに爺も嬉しそうに笑った。

 賑やかな食堂を離れ、二人は農業科へ向かう。




「なんじゃ、あまり人がおらんのう」

「野菜売り場? じゃなくて食ってるね」

「いらっしゃいませー。学校で育てた野菜を試食してみませんか?」

 卒業生の女子が自信ありげに話し掛けてきた。

「そんじゃもらおっかな」

「まだ入るのか。ははっ」

 勢い良くまた背中を叩かれギーツは前に飛び出した。

「おっと、ごめん」

「い、いえ。大丈夫です」

 話し掛けた女子を押し倒し掛けて、慌てて抱き寄せたギーツの目を見ながら女子は顔を赤くしている。

「おお、すまん。力が入り過ぎたか」

「それで何があんの?」

「はい、こちらのジャガイモは育て易く大量に作れて長期保存にも向いているので主食に使えます。パンと一緒に食べたら腹持ちも良いし栄養もあるんですよ」

「ふーん。これ、カレーにも入ってるよね」

「ご存じなんですね」

「うん、冬期講習会で来てるからね」

「それならここにある物は一通り口にした事はあるのかな…」

「どうなんだろ? ちょっと見せてくれる?」

「はいっ、では次はこちら、ニンジンです。これもカレーに入ってますね」

「だね」

「こちらもたくさん栄養があって良いそうですよ」

「ふーん。こっちの丸いのは?」

「それは玉ねぎです。これもカレーに入ってますね。えーと、こんな形で見たと思いますが」

「ああこれ、不思議な味だよね」

「不思議な味ですか?」

「何てのかな。噛んでるとさ、甘いって言うか、何だか美味(うま)いんだよな」

「それわかります!」

 ギーツと一緒になって喜ぶ彼女の笑顔は眩しい。

 一方、爺はひとりで他の野菜も見て回っていた。

「なんじゃこの長いのは」

 棒状で白と緑に色付いている。

「あっ、そちらはネギですねー。薄く輪切りにして辛味(からみ)付けに使ったり、そのまま火に(あぶ)るだけでも甘味のある野菜なんですよー」

「辛いのか甘いのかどっちなんじゃ」

 そう言って爺は笑う。

「生では辛いですね。焼いたりすると甘味が出ますよ?」

「ほう、仕事の合間に良いかもしれんのぉ」

 お茶(どき)に口にするつもりらしい。

「この緑のは見たこと無いけど」

「そちらはピーマンです」

 案内の女子は複数の来客相手にあちらこちらと切り替えながら説明している。

「主に細切りにして炒め物で使われていますが独特の青臭さがあって肉料理に併せて使うのがお薦めですね。私は肉詰めが好みですけど。はい、どうぞ」

「う、うん。美味しい…かな?」

 受け取った肉詰めピーマンをひと口で食べたが初めての青臭さには慣れが必要なのだろう。

 ギーツの微妙な笑顔に思った通りの反応だと口元を押さえて笑っている。

 一通り並んだ野菜を見てから案内の女子に笑顔で誘導されて畑へと送り出された。


 教室から転移門を抜けて出た先はファーリナと同じくミテールヌ山脈の麓である。

 ファーリナとはあまり離れていないのでミテールヌ山脈の姿もあまり変わった感じはない。

 そのミテールヌを背景に広がる広大な畑や温室(シールド)が見渡せる。

「ひっろいな」

 開口一番、ギーツがありのまま吐露した。

「ここ以外にも数ヶ所ありますよ。いらっしゃいませ、現在作物は温室内だけになっていますので見学はそちらが中心になります。こちらをどうぞ」

 そう言われて入り口に待機していた女子から手渡されたのは案内地図だった。

 簡易的な区分けに栽培される作物の名前と説明付きだ。

 それを見る限り目の前に広がる耕地は本当に一部なのだとわかる。

 二人は地図を手に周囲を確認しながら歩き出す。

「どうぞごゆっくり~」

 送り出されて少し離れた場所にある温室の入り口から中を覗いた。


 そこは案内が数人待機して、奥の方には既に先行していた来客たちで賑わっている。

「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ~」

 まるでモールに来たかの様な対応を受けながら奥へ進むと多くの作物が見られた。

「あれ? これって夏の野菜じゃないの?」

「じゃのう。何でこんな時期にあるんじゃ」

「あっちは秋だよね」

「どうなっとるんじゃ、ははっ」

 不思議な光景に爺は思わず笑ってしまった。

「ここは彼方(あちら)から此方(こちら)にかけて季節感がずれているので一年中何らかの作物を作れるんですよ」

「すっげーな」

「似た施設が白亜()の館とモールにもありますね」

「だからモールは一年中果物があるんじゃな」

「その通りです! しかし先生の話ではこちらのは学習用に特化しているそうですけど」

「ふーん、特化っていうのが何かわかんないけど一年中美味いのが食べられるのは良いな」

「確かにそうですね。でも先生の話では夏の物は夏に食べるのが体にも良いって言ってましたけど」

「どゆこと?」

「何でも夏の食べ物は体が温まり難い物が多くて、秋や冬の食べ物は寒い時でも体を温めるのに良いそうですよ?」

「つまり夏のもんを冬に食べると体が冷え易くなるんじゃな?」

「そうなんだと思います。うちでも冬にここで採れた夏野菜を食べましたが、冬物と混ざっていたせいなのかそんな感じはしませんでしたけど」

「ふーん。で、味も変わってたりすんの?」

「いえ、そんな事は無かった…ですね」

 一瞬目を逸らして思い出しながら答える。

「あっと、こちらで採れた野菜をお持ち帰りできますがどうしますか?」

「んー、どれくらい日持ちすんの?」

「普通の野菜と変わらないですけど今の季節なら結構持つと思いますよ? それにここで採れた野菜料理の冊子を付けてるので知らない野菜も美味しく食べられますし、日持ちがどうって言う前に食べきると思いますけど」

「それじゃ頼もっかな」

「では見学後に出口でお渡ししますね」

 しばらく二人と案内人で作物を見ていると後ろからギーツの名を呼ぶ声が聞こえた。

「おお、零司先生」

「あー、ども」

「良く来てくれた。ゆっくり楽しんで行ってくれ」

「おいっす」

「そう言えばギーツはあれ、どうするんだ?」

「もちろん来るけど」

「そうか。楓たちが楽しみにしてるから気軽に来るといいぞ。それと結婚する気があるなら学校で気の合う奴を見つけるってのも手だからな」

「うっ、うん。そっちは気にしてないかな、あっははは…」

「まあいい、来るって前提でこっちも待ってるからな。それに自分の仕事で困った事があれば素直に皆に相談しろよ。必要ならこっちに相談しても良いからな」

「うん、そんときは…あー、お願いします」

「なんじゃ、急に(しお)れて」

「だってさぁ、もうすぐ家に帰るんだなあって思ったら零司先生たちにこんな話し方してたなんて言ったらかーちゃんに怒られるなって思い出してさ」

 急に力が抜けたギーツに自己紹介していた時を思い出す。

 零司と爺二人で笑ってしまうがギーツにしてみれば笑い事ではない。

「かーちゃん怒るとホントにこえーんだよ」

 額に罫線が入るギーツは本当に辛そうだ。


 その後零司と別れた二人は案内と一緒に雑談しながらゆっくりと一時間ほど掛けて試食しながら見学して回った。

「そんじゃあんがとね。帰りに食べてみるよ」

「はい、見学ありがとうございました」

「ははは、こっちこそじゃ。機会があればまた来てみたいわい」

「その時はもっと美味しい物があるかもしれませんね」

「だと良いな。一二年したら多分ここに来るから今から楽しみが出来たかな」

 お土産が入った簡素な手提げを持った二人は農業科を離れる。




 次に二人がやって来たのは社交科だ。

 楓の薔薇城に招待されたギーツにしてみれば社交のイメージはそのまま薔薇城のお茶会である。

 しかしこの場で見られる社交とは男装した女子と着飾った女子が華やかなダンスを踊り、様式を(なら)いながらテーブル席で菓子と茶を楽しむ硬いものであった。

 その雰囲気は多くの女子にとっては憧れるのに充分すぎる程に輝いて見えるらしい。

 当然だがそこは女子たちが集う場としてギーツや爺には場違いな気がして早々に立ち去っている。

「やはりお主もあんな服を着たいとか思うのかの」

「いやっ! それは無いから!」

 身震いしているギーツに爺は思わず笑ってしまった。




 そしてお隣の芸術科である。

 こちらはまるでおもちゃが並んでいるかの様な雰囲気に興味を惹かれて入室したが他の見学者たちも同じ様で展示物を眺めては楽しそうに話し合っている姿が見られる。

 この世界でおもちゃと言えるのは小さく簡素な縫いぐるみやその辺に転がっている石などであり、主に小さな子供が使う遊具である。

「芸術ってこれ?」

「らしいのう、中々面白そうじゃ。ちょっと見ていかんか」

「だね」

 入り口すぐに並んだ紙製のお面や、動物をモチーフにした紙粘土で出来たファンシーなデザインのペン立て、単色刷りの版画や風景画などと併せ、製作で使った道具類も展示されていた。

「ふーん」

 それが何の為にあるのかわからないが二人はその出来映えに感心している。

 そう言えば、と、ギーツは薔薇城を思い出す。

 あの時のギーツにしてみれば丸みを帯び傾斜した作りの薔薇城はどうやって建てられているのかしか考えていなかったが、こうして芸術科の作品を見ていると何となく薔薇城と作品たちの間に共通する部分を感じ取れた。

 ギーツだって可愛い物を見ればそれなりに可愛いと思うし別に嫌いと言う訳じゃない。

 それに薔薇城の席で楓や王女たちからギーツが将来建てるだろう女性目線の建物を楽しみにしていると言われていたのも思い出す。

 そしてそのヒントが芸術科にあると気付く。

 『そっか、ここで勉強したらあんなのも出来るかな』

 零司と楓が担当しているだけに薔薇城のイメージに通じるペン立てをまじまじと見つめる。

「なんじゃ、そんなに気に入ったか」

 ギーツは卒業生たちが楽しんで作ったペン立てを真剣な眼差しで見ていた。

「うん。何かさ、こう、楓様の薔薇城ってこんな感じで作るのかなって」

「薔薇城? 女たちが騒いでたあれか」

「薔薇城ってさ何てーのかな、普通じゃないんだよね」

「ほう、普通じゃない城のぉ」

「他には?」

「んー、丸っこくて可愛いんだよな」

「ふむ」

「それから?」

「そうだな、どうやって建てたのかさっぱりわかんねえって感じかな」

「大工でもわからんか」

「まあしょうがないわよね。イメージ通りに建てられるんだから」

「「?」」

 おかしな相槌を打つもうひとりに気付いたギーツと爺は声がした後ろを振り向いた。

「ようこそ美術科へ。ギーツさん来てくれたのね嬉しいわ」

「おわっ! 楓様居たんだ」

「そんなに驚かなくても良いじゃない」

「おお、楓様もおいででしたか。ここは何やら楽しそうな所ですな」

「どうも、楽しんでくれてるならこちらとしては嬉しい限りね」

「ところでここに並んでるのはどんなとこに使われるのか知りたいんじゃが」

「あーそれ良く言われるのよね。芸術って言うのは生活に直接必要ではないけど、あれば心にゆとりができる様な物や、気持ちを形にして表す物って言えば良いのかしら。もっと突き詰めて行くと、生活が様変わりする技術に使われたりするわね」

 その場に居合わせた見学者やギーツたちは単語レベルではわかっていても話から実際のイメージが湧かない。

 二人の顔色から話の理解度を察した楓は言葉を続ける。

「例えばギーツさんが見てたそのペン立ての場合は見ているだけでも何となく心が和むじゃない? それにペン立てって名前の通りペンを入れて置く物だから書き物をする時にペンを取ろうとすれば当然目が行くでしょ。その時に可愛いペン立てを見て気持ちを和ませてから手紙なんかも明るい気持ちで書けると思うのよね。それと授業で作った時を思い出して懐かしんだりね」

 何となくわかった様な気がするが楓は更に続ける。

「薔薇城も私がリラックスする為に気持ちのまま形にしただけだし、そう言う意味ではギーツさんが建てる銭湯も興味があるわ」

 この言葉にギーツは『えっ』てなる。

 ギーツは零司から教わるまま実習の銭湯を拡張して湿気に強い木材で在来の建物を建てる気でいたのだ。

 そこに楓から如何にもここに在るデザインの在り方を踏襲する建物を期待されて困惑する。

 だがどうせ建てるなら良い物を建てたいとは思っていたのだ。

 男たちに負けない見返す様なそんな銭湯を建てられたら気分も良いだろう。

 何にせよ爺にも期待してと言ってしまった上に衆目の中で楓にハードルを上げられ梯子も外されてはいるが、要は期待される以上の銭湯を建ててしまえば良いのだから曖昧な仕事ではなく明確な基準が出来たと喜ぶ。

「あのさ。ちょっとで良いから教えて貰っても良いかな」

「良いわよ。但し、どうせ学ぶなら確りとね」

「ありがとう! あ、でも入学式見たら帰んないといけないんだけど大丈夫かな」

「んー、その辺りは零司が何とかしてくれるから気にしなくて良いわよ。それじゃあそうね……ちょっとと言わず今夜から我が家に泊まり込みで頑張りましょうか。みっちり鍛えてあげるから覚悟してね? んっふふ」

「へ?」

 何度も経験したいつもの急過ぎる話の展開ではあるが、帰還を目前にまさかの追加講習であった。

また読んでくれてありがとう。(*´▽`*)


今回はまた用件が増えていつになったら家に帰れるのだろうか。(;゜∇゜)

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