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122.王城へ2 憧れ

 その城はおとぎ話に出てくる様な幾つもの尖塔が建っている如何にも『西洋の城』然としている。

 大きさは今までの城の四倍ほどあるだろうか。

 個々の部分が全体的に大きめの造りなので人が集まる場所としては好都合である。


「驚いたようじゃな。わっはっは」

 王、ご満悦である。


「王様、これは一体…… 零司様ですね?」

 王都の隣街キースルの領主ベロネが応える。

「その通り。先程到着したばかりではあるが一緒に来たネコ殿が一瞬で建てて下されたのじゃ」

「その零司殿とネコ殿はどちらへ?」

トリーノ(王妃)たちと共に内装に手を付けている最中じゃな。どんな風になるのか楽しみじゃのう」

 ホウシラン王は顎髭に手を遣り嬉しそうだ。

「おお、確かに。それは素晴らしいですね」

 ベロネも白亜の館とモールを思い出して未だ見ぬ城内に気が逸る。

 そこへ執事がやって来て王の耳元で何かを囁いた。


「準備が出来たそうじゃ」

 領主たちが期待の声を漏らす。

「早速行くとするかのう」

 王に続いてゾロゾロと歩いて進む領主とその家族そして待機していた従者たち。

 

 入り口の大きな扉はこういった城にありがちな分厚い木製の板を並べて鉄板で補強した物ではない。

 平和なこの世界では防衛の為の強固な扉ではなく王家の紋章を象るステンドグラスでできていた。

 水面のさざ波の様な表面に照明が反射してキラキラと輝いて見える様はサーラが見せた開門を彷彿とさせる。


「おお」

 王家の紋章は城内の明かりを透過してその輪郭をハッキリと見せていた。

 スラゴーの天幕の『花園』と呼ばれる星団をイメージした特徴的な星の配列をバックに咲くユリの様な白い花が人の背丈ほどの大きさで描かれている。

「これは素晴らしい」

 それを見た人々は息を飲んでその美しさに見とれていた。


 皆が扉を堪能した後、頃合いを見て執事が扉を開く。

「おおお!」

 広く明るい通路の奥に純白の広いエントランスホールと幅の広い階段が見える。

 その階段の上には王妃トリーノと第二王女ルーミナルが人々を見下ろしていた。

 ルーミナルと歳の離れた姉妹だと言っても通じてしまいそうなトリーノは並んで手を繋ぎ、階段を一歩一歩確かめながら降りて来る。

 まるで天使の様な二人に心を奪われながら階段の目の前まで進むホウシラン王は階段上を見上げながら二人が降りて来るのを心待ちにしていた。

 あと一段、最下段まで来た二人を一緒に抱き締めてその幸せに満たされている。

 王は暫しその幸せを堪能していると零司たちが来ていた筈だと突然思い出して周囲を見渡した。


 零司たちは皆が注目する階段の二人とは真逆のエントランスホール入り口に近い壁際から見ていたので誰にも気付かれなかったのだがそれは二人を際立たせる為なので計算通りである。

 ちなみに今回の城を創るにあたっては建物と現代風インフラはネコが担当。

 内装調度品は零司が担当して家具類を楓が受け持った。 

 第一王女ルールミルが情報格差のある両者の間を取り持ち、天使のラチェットは歴史的な記録係と言う名のただの見物猫であった。


 王妃たちを抱いていたホウシランは零司たちの方へ向くと領主たちはそれに気付いて王と零司を結ぶ真っ直ぐな道を空けた。

「気に入って戴けましたか?」

 楓は零司の左隣でニコリと笑顔で王へ問い掛ける。

「もちろんだとも楓殿。こんな素晴らしい城を建てて戴き心から感謝します」

 深々と頭を下げるホウシラン王に続いて王妃や領主たちも胸に手をあて頭を下げる。

 見上げれば丸みを帯びたアーチを描く柱に大きなシャンデリアや王家の紋章にあるユリに似た花をモチーフにした彫刻が数々の柱に施され、広々とした壁に繊細な模様の壁紙、植物を象る美しい手摺の装飾、紫譚の様に樹脂がみっちりと詰まった硬い木材で作られた花瓶台などの調度品など、入り口でこれだけのインパクトがあるのだから中はどれ程の物かと期待せずにはいられなかった。


 零司たちにとってこれだけの人から頭を下げられるのは何度もあったがやはり慣れないものだ。

 日本で生まれ育った二十歳に満たない未熟な二人がこの世界の最重要人物として崇められるなど本来あってはならないのだと分かっているだけに逆に申し訳なく思ってしまう。

「皆さんのお気持ちはきちんと戴きました。この国の民を守る皆さんがより良い判断や知恵を出し合える様に王妃様と私たちなりに考えてみたのでその目と手で確かめてその感想を下さい。問題があれば作り直しましょう」

「と言う訳で、まずは飯の続きだ」

 階段を前にしたエントランスの左側には四枚の戸があり、それが真ん中から左右に折り畳まれる様に開いた。


 その奥にはエントランスホールとほぼ同じ造りだが更に広い空間があった。

 エントランスホールですら旧王城で一番大きな会議場を余裕で上回る室内空間があるのに食事が用意された左のホールでは集まった人数で今までと同じ形式の食事をするだけならスカスカと言える収容面積がある。

 ここはパーティー会場であり、今はまだ場所だけしか存在していないが将来的にはオーケストラを配置するスペースやダンスホールとしても使える様にしてあるのだ。


 最初に王妃トリーノはこれほど大きな空間が必要なのかと疑問を持っていたが、楓の話に零司が気を効かせてルネサンス期以降のヨーロッパの城の舞踏会をイメージした映像を見せられた事で一瞬でその虜になる。

 女性にその映像は反則でしょうと楓は思うが既に零司の追加説明にキラキラと少女の様に目を輝かせる王妃トリーノとルーミナルに対して口を挟む事はできなかった。

 当然ルールミルも初見であり親子揃ってその映像に見入っているし天使ラチェットも例外ではない。


「皆様、奥へお進み下さい」

 執事が促す食事会会場は華やかな室内パーティー会場であり、全体が白と金、そして明るい赤で確りとした造りの一枚物のカーペットが敷かれているので明るい照明と合わせてとても輝いて見える。

 旧王城の蝋燭やカンテラの比では無いのだ。

 太陽光とは比べるべくもないが夜の室内に於いて充分に明るく、高い天井から釣り下がっている幾つもの美しく大きなシャンデリアが幻想的な明るさを創り出している。 


 執事に促され零司たちの後を追い、扉を抜けて隣のホールへと進んだ人々は驚くばかりで最早(もはや)声も出ない。

 そう、その広さに呆れているのだ。

 そのホール中央に用意されたのは食事会会場であり、絶海の孤島の様に孤立感の強い会場だった。


「ここは本来もっと多くの客を招いて音楽を流してダンスを踊る様な社交場として利用されるのを前提としている。しかしそれはあくまでも俺たちの世界の話で、こちらでどう使おうとそれは皆で決めて貰えればそれで良い。それじゃ食事の続きを楽しんでくれ」

 ホール中央のテーブルには王城の従事者が付いて、大きな鍋やトレイに入れて持ち込まれた料理を小さな皿に盛り付けていた。

 そこから漂う香りだけでも喉が鳴り、どんな料理が待っているのだろうかと食欲をそそられる。

 零司が説明を終わらせテーブルへと到達すると皆思い々の料理の前に赴き皿を手にする。

 並んだ料理はネコが首を落とした大型クリーテル(鹿の様な獣)の肉を長時間掛けて柔らかく煮込み一口サイズに切り分けて酸味のあるソースを絡めた物や、今ではファーリナの街で一般家庭の料理と化したパスタのホワイトクリーム和え、白亜の館の目の前に広がる湖で獲れた小さな淡水魚や海老に似た甲殻類の唐揚げ、ギャロの畑で採れた野菜の天ぷら、日本人の感覚では王宮で扱う料理とは言い難いが様々な料理が並んでいる。


 小さく盛られた料理を一口で平らげて次々と渡り歩く者も居れば、スプーンで小さく掬い取り少しずつその味を堪能してみたり、人それぞれに料理を楽しんでいた。

 まるで子供に返ったかの様に喜んでいる人々の姿を見守る白亜の館組はその笑顔に満足している。

 しかしこれは王城を含めて少しばかりオーバーカルチャーなのではないかと危惧する部分もあるのだが、今後この世界が様変わりして行く中で世界の中心である王の周囲が遅れては示しがつかない。

 故に今後もそれを維持して貰わなければならないが故にこれも必要な先行投資みたいな物だと零司は考える。


 楓は得意の料理を持ち込んだり、ざっくりとした調理でも良い感じで出来てしまう様な物についてはレシピを渡したり細かい指示が必要な物はルールミルを通じて教えたりしていた。

 これにより王室周辺の食事事情は一変して王族の古い歴史と建物から来る生活の暗い部分が一新されつつあり、その変化は王妃トリーノが許可した事もあり簡単な物から従事者の家族を通じて王都へと広がりを見せている。

 そして新たなメニューは今まで見向きもされなかった植物が注目されて、山菜採り業者の活躍の場を広げた。

 ここで使われる山菜も大量に自生している物で採り尽くす心配は当面は無いと零司が予想しているので楓も安心してレシピを公開出来た。

 それに常に需要があるなら農家に委託してもっと入手し易くする事も出来る。

 そうなればより新鮮な食材として農家も売り易くなるだろう。


 この世界では殆どの場合で料理は母から子へ時間を掛けて受け継がれるので直接教えられない場合でも伝えられるレシピは『ざっくりとしたもの』である事がとても大切なのだ。

 このレシピも何れ各家庭の好みに合った物へとアレンジが加えられる。

 そんな独自の味付けになる事も楓の楽しみのひとつになっているのだった。


 まだ全てを見た訳では無いが城も食事も素晴らしく、夜にも拘わらず晴れやかな気分で皆と楽しく食事を摂り会話を交わす。

 零司たちもその輪に入り一緒に飲み食いして明るい未来を想像しながら語り合う。

 とは言ってもこの後も会議が続くので酒は入っていなかった。

 普段の会議なら酒も出されただろうが今回の会議は神直々の説明があるのだ。

 例え既に多くの領地から講習会の説明を受けにやって来た使者が居て大方の事情と事前に必要な内容を聞いていたとしても、集合当日に不備が無い様にと万全を期す為にも酒は入れるべきではないと判断した。

 判断したのは王城の侍従筆頭で王の執事である。


 だが酒が無くても皆充分に楽しみ嬉しかったのだ。

 そんな中、目を輝かせて最初から食べ捲っていたボーセはお腹が一杯で窓際に設置されたソファに腰を下ろして窓から夜空を見上げた。

「けぷ」

 お腹を擦る。

「食べ過ぎは失敗ね。でもあんなに美味しい物を我慢なんて出来ないよね」

 そんな事を笑顔で呟きながら一休み。

 

 そこへひとりの影が近寄る。

「どう? 美味しかったかしら」

 ボーセはポカンと夜空を見上げた姿勢の首を捻り目線を送る。

 ライトなドレス姿に桃のジュースを注いだグラスを持った楓がボーセの隣に座った。

「カエデ様!」

 相手が楓だと判ると姿勢と服を正してちょこんとソファーに座る。

「そんなに畏まらなくても良いのよ。五日後には(うち)の住人になるんだからもっと気楽に行きましょ。ふふ」

 桃ジュースを一口だけ飲んで軽く一息吐く。

 ボーセは隣に座る楓をチラリと横目で見た時、その仕草が何だか色っぽく感じられて何故か自分の方が少しだけ恥ずかしく感じる。

 この気持ちは何だろうと小さな胸に手をあてると鼓動が早いのを感じ取る。

「それで、食事はどうだったかしら?」

「えっと、とても美味しかったです」

「ありがと、頑張って作った甲斐があったわ」

 楓は簡単な料理を城の従者に任せて少し手の込んだ飾りを施したフランス料理っぽい物を白亜の館で作って来たのだ。


「ただ」

「ただ?」

「こんなに良くして貰って良いのかなと」

「良いのよ。私たちも良くして貰ってるし来年は元の世界に……と、今のはまだ内緒にしてね?」

 少しだけ悪戯っぽく見せる楓の笑顔にボーセはまた鼓動が早くなるのを感じた。

城は当初の予想は旧王城の精々二倍だろうと思っていたがより大きくなってしまった。


今回も開いてくれてありがとうございます。(*´∀`)

毎回遅れがちですがこれからもよろしくお願いします。

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