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120.勧誘と道

今回も開いてくれてありがとうございます。(*´∀`*)

 祭の翌朝、本来は月曜日なので学校がある筈だが祭の招待客の見送りがあるので休校となった。

 零司たちは朝食の後、見送りの為にモールへとやって来る。

 馬車の用意が出来るまでホテルのラウンジで寛ぐ領主たちは零司が階段を上がって来たのに気付くと零司がいるホテルカウンター側へと集まり始めた。

 一番奥のバーカウンター側にいたホウシラン王は領主たちが零司との挨拶が出来る様にと道を空け右手を胸にあてて頭を垂れる。

 最初の内は大袈裟な礼は止めて欲しいと伝えたがそれでは示しがつかないとゴリ押しされたので仕方なく受け入れた経緯があるのだがこの辺りはファーリナ領主のシエルと変わらないらしい。


「おはようございます」

「おはよう零司殿」

「おはようございますホウシラン王」

「おはよう楓殿」

「おはようございますお父様」

「ああ、おはようルールミル」


「お父様、今回はどうでしたか?」

「もちろん素晴らしかったとも。ただ案内が……な」

 ホウシランは顎に手をやり残念そうに目を閉じながら昨日の事を思い出す。

「あなた」

 王妃トリーノに横から釘を刺された。


「とても素晴らしい催しでしたわ。この世界の皆に新しい時代を見せて頂き心からお礼を申し上げます。ね、あなた」

「げふんげふんっ……そうじゃな。正にその通り、何も返せぬ我らにこれほどの恩恵を与えてくれた事に心より感謝を申し上げる。零司殿、楓殿、ありがとう」

 領主たちは王の言葉でより深く頭を下げる。


「それは気にしないでいい、これは全て楓の為だし楓の為なら安いくらいだ」

「楓殿にもう一度、心よりの感謝を」

「お、大袈裟ですってば。もう零司ったら」

 楓は零司の背中を叩き赤面する。

 領主たちが更に深く頭を下げたのは言うまでも無い。


 それから少しの間皆で談笑などしているとダリルが階段を上って来る。

「皆様お待たせ致しました。馬車の用意が出来ましたので一階ロビーまでお越し下さい」

 商店があった一階の入り口前は一部の商品見本と一時的にベンチ椅子しか無いホールとして利用されているので手が空いているダリルたちに配車の手伝いをして貰っていた。

 零司を先頭に王族領主と続き、ホテルのスタッフが見送りの為に降りて来る。

 ロータリーにはモールのスタッフだけではなくファーリナの住人たちも集まり見送りに参加している。


 王族を連れて入り口から出て来たホウシランは軽く手を上げると馬車の屋根越しにロータリーを見回す。

 住人たちは歓喜の声を上げると零司と向き直りガッシリと握手してもう一度空いている手を大きく上げた。

 人々を見つめるホウシランの目は優しく、そして老齢とは思えぬ確りとした強い意思が感じられるそれはまだ若い嫁のお陰かもしれないがこれから発展する時代の最先端を行くファーリナの住人たちに対して心強いものを感じているのは確かだ。

 そして男子が生まれ成長するのをこの目で見るまではまだ死ねないなと微笑む。

「世話になった。次は王城で会おう」

 もう一度ギュッと握手すると馬車に乗り込んだ。


 王に続いて王妃トリーノと第二王女ルーミナルが乗り込み馬車のドアが閉まる。

 ルーミナルが窓越しに姉のルールミルに手を降ると馬車が発車した。

 ロータリーを回って馬車置き場とモールの間を抜けて転移門格納庫へ姿を消す。

 その後は次々と挨拶して同じ様に消え、行き先は神待宮を抜けて王城へと向かうのだ。

 最後に残っていたズィーダン領主のマルテスとその妻マーロが娘のボーセを連れて零司と対面する。

「とても良い時間を過ごせました。ありがとう」

「余裕が出来たらいつでも遊びに来て下さい。歓迎します」

 固い握手を交わす男二人の横で楓とマーロとボーセが話している。

「それでは来週日曜日、いえ、六日後にそちらへお伺いしますね」

「よろしくお願いします」

「お願いします」


 ボーセの家族とは昨夜の内に零司と楓が直接面談に向かいボーセの固有能力に関して話し合いをした結果、本人の意思もあり来年を待たずにファーリナヘやって来る事になった。

 最終的にその能力をどうするかはボーセ次第なのだがボーセの家族はこの話から今までの事を思い返して納得する。

 そしてそのボーセ自身今回の話に危険を感じないと言い、拒否どころか寧ろ乗り気である。

 ただし神格化については今の所は伏せている。

 これは過大な期待を持たせない事と騒ぎになるのを避ける為など色々あるのだが今後ボーセの様子を見ながら打ち明けるべきかを判断するとした。


 ボーセはサーラに関する話を昨日一緒に遊んだ友達から聞かされている。

 その優秀さと零司の寵愛を受ける存在として一種の憧れの様に認識していた。

 サーラと同じく零司から直接勧誘を受けた状況にボーセは困惑したがそれはほんの一瞬だった。

 ここに来た目的と出会った友達、そして憧れの神々に加えサーラと同居すると言う話に内心で歓喜しているのだ。

 当然返事はその場で受諾して自ら親を説得し始めたくらいだ。

 これによりボーセ自身の意向で出来るだけ早くこちらに移り住む事となった。


 話し合いはボーセが眠った後の深夜まで続き、詰められた話では白亜の館で受け入れた後について丁寧な話し合いが行われた。

「零司様。それでその、娘を白亜の館で受け入れると言う事はつまり……」

「そう言う事もあるかも知れませんね」

 楓の答えにマルテスとマーロは色めき立つ。

 漁業をしていると言ってもモールと取引するまでは特に目立った所の無い青い海が広がるだけの、ファーリナと同じく行き止まりの田舎街でしかなかったズィーダンに転機が訪れたと感じた。


「しかしそれは私たちが押し付ける類いの事ではありませんので過剰な期待はしない様に今まで通り普通に接して上げて下さい」

 夫妻は楓の言葉に確かに気が逸っていたと深呼吸して気を落ち着かせる。

「大変お見苦しい所をお見せしました。娘の事はどうかよろしくお願い致します」

「はい、こちらこそ。ボーセさんの力をお借りさせて頂きます」

 楓の笑顔にボーセの両親も明るい笑顔で話は終わった。


 その頃、ボーセは眠っていた……訳が無い。

 こんな超ラッキーな出来事にスヤスヤと眠ってなど居られないのだ。

 零司たちの話し合いはシールドを使った機密空間で行われ隣接する部屋だけでなく同室のボーセが居る部屋へも届く事は無かった。

 とても静かな部屋の大きな窓越しに見るスラゴーの天幕を見上げ浮かれる気持ちのまま先祖に報告していた。


 その後も余りにも嬉しくて気が昂り眠れないので銭湯へと向かう。

 途中、ホテルのカウンターで男女二人のスタッフと目が合い軽く会釈して前を通り過ぎる。

 銭湯は昨日も入っていたので勝手はわかるから指導員も必要無かった。

 ロッカーの前で浴衣と下着を脱ぎ籠へ入れる。

 籠に入っていた手拭いとバスタオルのうち手拭いだけを握り、そろりと中を覗き込む。

 そこはお湯が流れる音だけしかしない湯煙の天国だった。

 他に人が居ないので貸しきりみたいなものだ。

 それにボーセはこの雰囲気をズィーダンの海岸の様だと感じる。


 海に入る時、それはいつも一人だったから。

 こうしてお風呂とは思えないほど広いこの空間で泳いでみたくなる。

 だが待て、その前に汗を洗い流さなくてはいけないと、急いでシャワーの前に立ち蛇口を捻る。

 沢山の小さな穴から噴き出す温かなお湯がボーセの日焼けした滑らかな肌を伝い流れて落ちて行く。

 その気持ち良さに泳ぐ事も忘れて暫くシャワーに打たれたままその感覚を楽しんだ。

 シャワーと風呂の熱気で充分に体が温まるとシャワーを止めて真ん中が大きく凹んだ変な形の椅子に座り体をボディシャンプーで洗う。

 首から足の爪先まで確りと時間を掛けて洗うと今度は髪を洗い始める。

 ボーセは何故二種類のシャンプーが在るのか不思議に思うが神が用意した物なのだから何か意味があるのだろうと考える。

 ボーセの髪は素地から海の潮で痛んでいるがこのシャンプーを使ってから髪が滑る様な気がしていた。

 だがそれはヘアシャンプーのせいなのか、それともボディシャンプーでも体が滑らかな気がするのでどちらのシャンプーも滑る様な感触に成るので滑らかな手触りだけならシャンプーを分けている理由が解らない。

 これからは幾らでも聞く機会はあるだろうと考えるとまた嬉しくなって来た。


 泡をシャワーで流して綺麗になった体を確かめるボーセ。

「やっぱりツルツルだ」

 馴れない肌触りに妙な感覚を覚えるが今は泳ぎたい。

 ボーセはお湯に入り肩まで浸かるとゆっくりと息を吐き出してその気持ち良さに一旦力を抜きそのまま仰向けで浮き上がると天井を見上げる。

 そこには部屋の窓から見たのと同じ様にスラゴーの天幕が見えていた。

 お湯に浮きながら手足を動かし器用に頭の向きを変えると仰向けのまま平泳ぎの要領でゆっくりと奥の方へと進む。

 泳ぐのを止めても勢いのまま漂う日に焼けた体は白い床とのコントラストで目立つが誰が見ていると言う訳では無いので海に居る時と同じ様に楽しんだ。

 違いがあるのは水中に用があるか、それとも見上げる宇宙(そら)に用があるのかの違いだけだった。



「ふうっ。終わったー」

 招待客全員を見送り館に戻った楓はリビングで足を投げ出しソファーで横になる。

「お疲れ様です楓さん。お茶を用意しますねー」

「ありがとう」

「お疲れなのにゃ」

 ラチェットはキッチンへ向かいネコは横になった楓の前に跪いて手を翳す。

「我は願う。我が姉、楓の回復を。にゃ」

 楓が『それはヤバい』と瞬間的に思った時には遅かった。

 既に楓の体は緑の光に包まれる。

 目を閉じて身構えるがいくら待っても例のアレはやって来ない。

 楓は目を開けて目の前に居るネコを見ると首を傾げてこちらを見ている。


「にゃ?」

 ネコは何故楓が体を硬直させているのか分からなかった。

 楓は軽くため息を吐くと投げ出した足を戻して起き上がる。

 元々体は何処も問題無くただ気疲れしただけだったのでネコの回復に意味はあったのかと言われたら答えはノーである。

 そして楓はアレがかなり危ない領域に達しているのを知っているだけに身構えたのだが、いざその時になって肩透かしを食らった気分であり微妙に残念な気持ちだ。

 それに気付いてしまい今朝した(・・)ばかりなのにと思うと少しだけ恥ずかしくなった。


 この間に零司はモールの復元と多目的広場と北極点オーロラ観測所のチェック、それにターボトラックの初の実用で問題が出ていないかをチェックしている。

 サーラは今日も採取された大量の果物類が詰められた木箱を見上げて午後から始まるいつもの商取引窓口の為に準備と、先程発った王族や領主たち招待客にお土産として持たせた商品一覧をもう一度チェックしていた。

 モールは午後から通常営業に戻るので他のスタッフたちも準備は始まっているのだ。



 お昼にモールが開店する頃にはロータリーには二頭立ての大型馬車や通常の定期便の馬車が並び、ロータリー外周の通路も自前の馬車でやって来た人の行列が出来ている。

 とは言ってもモールとファーリナの新しく建った宿屋で受け入れられる観光客は限られているので溢れる分は事前に手前の街、リーデルで抑制して貰う事になっている。

 いくらモールが沢山の人を受け入れられるとは言っても限度はあるし、モールを建てた理由と同じ事態に陥ったら意味が無いので定期便の業者を通じてリーデルに置いた出先機関でモールの客入りの状況を確認して貰いながらファーリナ行きの観光客数に制限を掛けているのだ。


 これにより溢れた人たちは必然的にリーデルへ宿泊する事になる。

 この副次効果によりリーデルにも主要街道沿いに宿屋が増え、拙いながらもモールを意識した観光業が発達し始めた。

 モールの人気は木工産業が盛んなリーデルの街に宿屋とお土産屋が集中した繁華街を産み出す。

 他の地域から集めてモールへ卸している数々の用品や酒などもリーデルの仲卸業者を通しているのでそれなりに品揃えがあり、宿屋で置く酒も種類が豊富でモールの帰りに寄った客たちが買っていく姿がよく見られる様になった。


 一方で以前は行商人くらいしか行き来の無かった街を結ぶ道はリーデル近隣の街周辺で著しい交通量の増加を招き、リーデルに近いほど道幅が広くなり荒れる事態となる。

 リーデルからファーリナへの一本道はファーリナの街に施設した第三の舗装路と同じ物を零司が用意してから大型馬車が二台並んでも余裕がある綺麗で平らな道が続いているのと、先の制限が掛かっている事もありかなり快適な道になっている。

 第三の舗装とは現代日本に見られるアスファルトやコンクリートでは無く馬車が利用するのに問題が少ない、馬の足にも負担の少ない舗装路である。

 それは神だからこそ成しえる道だった。


 そしてファーリナから見てリーデルの向こう側は細い一本道しか無かったのに交通量の増加で酷い轍になった道を避けるべく次々と踏みしめられていない軟弱な横道が縦横無尽に伸びている。

 その現状を空から確認していた零司はこの世界の交通事情を改善しようと祭りで集まった招待客にファーリナ・リーデル間の舗装路をその目で確認して貰い同じ物を各街を繋ぐ既存の街道に施設すると打診した。

 零司が好きにやっても問題無いかを確認しているのである。

 場所によっては現状のまま道を広げては問題があるかもしれないし、より良いルートの選択肢や希望があればそれを取り込もうと考えているからだ。


 この件は個々の領主に各街道を調査して貰い隣接する街同士の協議の後に王へと書類の提出、その後まとめられて正式に零司へと報告する事になっている。

 将来に亘って利用されるのが確定している重要な案件なのだ。

 ただ真っ直ぐ街を繋ぐのでは無く可能な限り資源確保や街の発展に貢献する道にしたいと誰もが思う。

 その具体的な指針や判断基準は零司が祭の前日に指南しているので後は領主たちと王の判断に任せてある。


 そして午後、零司と楓は王城へと招待されていた。

今度は王城ですけど何も決めてない。(;゜∇゜)

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