119.お披露目7 ボーセと歌と花火
週一回になってしまったこの状況を改善したいと思う今日この頃。
今回も開いてくれてありがとうございます。.゜+.(・∀・)゜+.゜
ファーリナの街に午後五時のメロディーが静かに流れる。
その音が目立たないほど賑やかな会場と真夏の日射しは変わる事無く熱を持っていた。
《皆様にお知らせを致します。夕方より始まる白亜の館現地会場への門が開きますので慌てず誘導員に従い移動をお願いします。現地では神待宮の皆さんが案内役を勤めますので遠慮無くお訊ね下さい。繰り返します、夕方より始まる……》
サーラがもう直ぐ開門と告げると人々はゆっくりと移動を始め、露店を回収するとサーラも一緒にその流れに乗り転移門格納庫前へと歩く。
その中で小さな娘を挟んで手を繋ぎ嬉しそうに話をしながら歩いている親子を見るサーラはその後ろ姿に羨望と僅かな寂しさを感じたが今は零司と共にあるのを思い起こして自分を手元に置いてくれた父母への想いは心の奥へと大切に仕舞い込む。
集まる人々の間を抜けて格納庫前まで進んだサーラは扉が開くだけのスペースを確保していたスタッフに軽く手を上げ挨拶して扉の中央前で待つローゼの所まで移動する。
「お待たせしました」
「良いのよ」
ローゼは微笑んで返すとサーラの手を取り、お互いに空いた手を扉に翳す。
詠唱はせずに開門のコマンドを送るサーラ。
いつもの様に扉の模様が虹色に輝き全体へと広がる。
音も無くゆっくりと開きながら扉の隙間から吹き出し足元に広がる雲の様な煙とキラキラと輝く眩しい光に人々は神への礼拝の姿勢を取りながらその光景に見入っている。
モールのスタッフですら見た事が無い|ヴィジュアルエフェクト《視覚効果》に涙を流す者さえ居た。
扉が開ききると煙も光も消えて格納庫内の真っ白な転移門が見えた。
「それでは皆さん、慌てずゆっくりと進んで下さい」
サーラの声を聞いて我に返った人々は立ち上がるとスタッフに促されて格納庫へと足を進める。
サーラとローゼの後を着いて進む先頭グループは転移門を潜ると隣にもうひとつの転移門を発見した。
それは神待宮へと繋がる転移門でありその先は当然閉じられている。
次の扉の前までやって来ると今度は視覚効果も無くただ静かに開いた。
そしてそこには多くの美しい女性が両脇に並び、来客を迎えていたのだ。
「ここから先は自由にご覧頂けますが、必ず案内の指示に従って下さい」
サーラたちは通路横へと移動して客が嬉しそうに進んで行くのを確認するとローゼに館側を任せて露店設置のために湖岸の広場へと向かった。
◻
あと僅かで完全に日は落ちる頃、西の空はオレンジと真っ赤に染まる夕焼けを見せて太陽は解けたアイスの様に地平にへばり着いている。
東の空にはスラゴーの天幕が引かれ、既に多くの星が煌めく。
露店には明かりが灯り、湖前の広場には日本の祭りと同じような賑わいを見せていた。
白亜の館の敷地内は人々が思い思いに散策しているが体験可能な施設では実際にその設備を使ったり環境適応試験段階にある果樹園の作物などを試食したりしている。
運動施設も人気があり零司が派手に演出した事もありスキーは子供たちに人気があって順番待ちで列が出来ていた。
当然トレーニングスタッフとして神待宮の従事者が付き添っているが初めから零司たちの様に滑る者など居る筈も無く、転び方を教わった後にスキー板をハの字にしてゆっくりと滑っている。
それ以外にも準備が簡単で初心者でも楽しめるバトミントンや卓球も人気があった。
そして室内プールでは水泳を習った学校の生徒以外にズィーダン領主の娘、ボーセが混じっていた。
ボーセはここに来て初めて水中で一緒に遊べる仲間を見つけてあっという間に仲の良い友達を作る事に成功する。
最初はボール遊びをしていたが水泳で競争する話になるとボーセはいつも通りの素潜りで水中を進むバサロ泳法に似た泳ぎで他を圧倒した。
誰もそんな泳ぎを習ってはいないし、息継ぎ無しに端から端まで潜りっ放しで泳げる者も居ない。
ボーセにしてみれば泳ぎとは水中を往くものであり何より授業でちょっと習っただけの生徒たちと比べ、生活の一部であり水の中に長時間滞在しながら自在に泳ぎ回る事が必要な遊びを毎日の様に続けていたボーセに敵う筈も無かった。
ボーセの泳ぎは水上で両腕を推進力の中心とするのでは無く、全身をうねらせ最も水の抵抗が少なく切れ目のない推進力の強い全身の力を使い魚の泳ぎで水中を突き進む。
水上水泳は息を吸う為に常に水上に在ろうと下向きに力を分散し、しかも水を掻いて後ろに行った腕や足を前方へと移動させるという逆方向の力を発生させてしまうために純粋な推進力は低くなってしまう。
様々な水上泳法の中で最も抵抗が少ないのはクロールだが、このクロールでさえ進行方向に対して体の軸がずれない様に、足が沈まぬ様にばた足している部分でロスが発生しているのだ。
これは尾翼を使う航空機にも見られるロスではあるが最も御し易い方式とも言えるので広く採用されている。
そしてその対極として息が続く限りではあるが最もロスが少なくシンプルな動作で水の境界面で生じる感覚のズレが無い水中での水の巻き込みによる抵抗の感覚を得易いのがバサロ泳法でありボーセは日常的に素肌でそれを感じてきた。
ボーセの泳ぎはバサロに近い魚たちから学んだ独自のものだが生徒たちと比べてしまえば水に対する馴れの点でも雲泥の差があるのは当然で、水中での活動に適した流麗で強靭な肉体と脳内に構築された運動モデルの最適化により他の者たちから見れば人魚みたいなものだった。
当然ボーセは時の人になる。
もちろんそれはこの室内プールに限っての話ではあるが神である零司たちも知らないだろうと思い込み、ボーセを持て囃す生徒たちにボーセも嬉しさを感じていた。
ズィーダンの友達と比較する訳ではないが此方なら同じ楽しみを共に分かち合える、そんな気がするのだ。
ファーリナに来てから目にした数々の見慣れない進んだ建物や地元とはまた違う人々の明るい笑顔、それに美味しい食べ物も以前父親が言っていた話から想像するのを遥かに越えていた事もあり段々と一緒に遊ぶファーリナの人たちと共に暮らし、勉強をしてみたいと思えて来た。
実際の魔王零司たち神々は思っていたよりもずっと友好的であり、もし神であると知らずに接していれば近所のお兄さんお姉さんと紹介されても信じてしまいそうである。
そんな神々だからこそファーリナの街が発展しているのだろうかとボーセは思う。
過去やって来た多くの神々や天使たちは人々に対して基本的には命じるだけの存在である。
人々は天からの指示には従うが、余りに無体な命令や行為について人々に伝わらないのは神待宮のおかげだ。
それだけ神待宮はこの世界にとって重要な防波堤となる施設だった。
過去に凄惨な結果になった巫女グループも存在しなかった訳では無い。
それらは神待宮内の共同墓地へ埋葬されているがそんな行為ですら受け入れなければならない場所が神待宮なのだ。
神待宮の話など王城や領主以外あまり外には出ないのでボーセの様なまだ未成年の少女には王都から伝えられる神待宮の現状など伝えられず、専ら街の噂話だけしか知らない。
しかも噂話など楽しいとも思えないので『ふーん』と聞き流す程度にしか知らなかった。
そんなボーセの一般人以下の緩い知識と共通の話題が持てる友達の存在で入学願望は膨らんでいく。
◻湖前 夏祭り会場
陽が完全に落ち、空はスラゴーの天幕に覆われた。
会場の湖(東)側に設置された小さな子供の背丈ほどの高さの舞台上で巫女やラナたちの踊りや演奏が続く。
ラナに教えた踊りは比較的簡単なものであり、同い年より年下くらいの小さな子供も舞台上に招いてバックダンサーの様に踊っている姿にファーリナの住人たちも一緒になって楽しそうに踊る、そんな姿も見られる。
ラナたちが嬉しそうな笑顔の子供たちと共に踊った後、誰も居ない舞台に袖から現れたサーラは舞台中央まで進むとペコリとお辞儀する。
《このあと零司様楓様を筆頭に白亜の館住人による演奏と合唱が行われますので少しの間お待ち下さい》
人々の目を引いていた舞台は一時の休憩に入り、各施設に散らばっていた客も殆どがこの会場へと足を運んでいた。
その一方で王族や領主たちは白亜の館本館の二階、南バルコニーでゆったりとした会食の最中である。
給仕は手が空いているモールのスタッフと王城や各領主のメイドなどが手伝い、館に二つあるキッチンを使いながら対応している。
手伝いで来ているスタッフたちは先進的で明るく衛生的なキッチンの造りに感動しつつ神の住まう館と言う事もあり緊張しながらも一生懸命に従事している。
こちらの総括はクーリスであり、料理に関してはローゼ率いるモールのレストランチームが担当していた。
それ以外の神待宮従事者は担当区域に人が居なくなると奥の方から順に離れて来客者と共に夏祭り会場へと移動している。
彼女たちはこの仕事が終われば会場で来客共々祭を楽しむ様にと言われているので会場へ行くのを楽しみにしていた。
そしてこの時もこちらの会場に来られないモールに残るスタッフたちの為に各部署に大型テレビサイズのモニターを設置して他の地域に流されている映像を映して少しでも雰囲気を味わって貰おうとしている。
そんな中、見回りをしていたリリとマリーもそろそろ会場に来る様にと召集が掛かる。
果樹園に居た最後の客を神待宮の助っ人と共に送り出すと、リリたちは先に会場の舞台裏へと転移した。
「ん、来た」
リリは零司の袖を指先で摘まんで報告する。
「ご苦労さん、リリたちのお陰で迷子は出なかったみたいだな。助かった」
「ん」
零司の役に立てた事に喜びを感じるリリは少しだけ頬を染めて零司に凭れる様に抱き着き甘える。
それを見ている楓も幸せそうなリリを暖かく見守っていた。
「後はルーたちだが「お待たせしました」」
「おっ待たせでーすっ!」
「ちょっ、イーノ!」
二人だけの時の様に零司たちに報告するイーノに小声で叱責する。
「てっへへ」
久し振りに家族と会えた事で多少気が緩んでいるがそれでもイーノはここだって自分の家族が居る場所なのだと実家と同じ気持ちだったのだ。
「気にしなくても大丈夫よ、ふふっ」
「ん、大丈夫」
何故かサムアップするリリ。
「よし、集まったみたいだな。それじゃもう一度確認するぞ」
零司は手順を確かめてサーラにOKのサインを出す。
《皆様お待たせしました。只今より白亜の館の住人による演奏会を開始します》
サーラのアナウンスが全館に流れ、世界中のスクリーンに舞台が映し出される。
それを前にする人々は期待で胸を膨らませる。
ちなみに各街のスクリーン前には祭の会場ほどでは無いが小規模ながら会場と同じスタイルのモールの食材を使った露店やくじ引きが用意されていたので、映像の向こうの世界に指を咥えて眺めているだけではなくそれなりに一緒に楽しんでいたのだ。
零司たちは各々獲物を持って舞台へ上がる。
中央前列に立つヴォーカルの楓と一番後ろの端っこに居るドラム担当の零司が対照的だ。
「皆さん我が家へようこそ。今日は最後の花火が終わるまで沢山楽しんで下さいね。それじゃ最初はこの曲から」
楓の掛け声に始まる曲はゆっくりとした笛と弦楽器を使った牧歌的なリズムで楓と並んだネコとラチェットが歌う現地で最も有名な曲だった。
現地人の心に刻まれた緩やかで暖かな曲は、それを見ている人たちに神々が自分達の文化を受け入れてくれていると喜び、一緒になって体を動かし声に出して歌っている。
「一緒に歌ってくれてありがとう。次は私が育った世界の歌を贈ります」
楓たちが歌うのはこの世界で受け入れ易い緩やかな曲調と平和な歌詞の物だけで、島唄、カントリーロードなど五曲である。
当初零司の悪ノリによって真っ先に候補に上がったエレキギターとドラムを最大限に生かすへヴィーメタルやパンクの様な現地人の教育と心臓に悪い物は出さない。
これもやろうと思えばネコにエレキギター、ドラムは零司、キーボードは楓でヴォーカルはリリ+αで出来てしまうのだ。
そんな零司の計画を完全にシャットアウトした楓の努力を知らない観客は足踏みしたり体を動かしたり目を瞑って自分の人生の情景を思い浮かべたりと様々に楽しんでいる。
「皆さん最後まで聴いてくれてありがとう。このあと花火が終わるまでゆっくり楽しんでいって下さいね」
手を振って舞台から降りる楓たちに世界中の人々から拍手が贈られる。
全員が降りると舞台は光の粒になって消える。
舞台で隠されていたその向こうにはスラゴーの天幕の輝きをさざ波に映す広大な湖が見えた。
それは海にも等しく感じられるほどの大きさである。
ファーリナの人々の多くは小川かそれより少しだけ気を盛った程度の川しか見た事が無いのでこの広さには面をくらっていた。
しかしそれはファーリナの人々だけではない。
この世界にはこれほど大きな湖など無かったので海を見た事がある者以外は全員同じ様なものだった。
先日湖創りの時に一緒に居た王妃たちも話では聞かされていても、実際の広さにまさかこれほどになるとは考えもつかなかった。
会場に居る皆はここに来る過程で白亜の館から延びる道を歩く時に日の光に照らされキラキラと輝く濃い青を湛える広大な湖を見ている筈だが改めて見る夜の湖に目を奪われ、さっきまで歌で賑わった会場が僅かに静かになる。
そして目線の先にある小さな島から一筋のブレた線を描きながら空へと舞い上がる光の筋の様な物を見る。
光が消えたかと思った次の瞬間、巨大な火の花がスラゴーの天幕をバックに出現した。
(ひゅ~ ドンッ! ぱっかー……)
花火が炸裂した直後に打ち上げた音がして、その直ぐ後にやって来た重低音の波が人々の体を直接揺さぶる。
一瞬の悲鳴の様な声も、事前にやって来た美しい花火の光で緩和されて直ぐに歓声へと変わる。
湖岸の会場を見下ろす白亜の館二階のバルコニー席に座る招待客も会場と状況は変わらなかった。
幸せそうに暮らすファーリナの人々を見る王族と領主の関係者たちはその光景に我が街の民もこうして平和に幸せな未来がやって来るのだと零司たちに感謝と期待をしながら美味しい料理と美味い酒、楽しい会食と幸せなファーリナの民を見て明るい未来を夢見るのだった。
何となく某有名ハルヒのあれを思い浮かべてしまいまして。ヽ(´▽`)/新聞紙




