117.お披露目5 湖観光
少しだけペースが上がったかな?
今回も開いてくれてありがとうございます。
楽しんで貰えれば幸せです .+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.
客を乗せたターボトラックは多目的広場から冬期研修会場をゆっくりとした速度で通り抜ける。
建物や造成した林を抜けた先に出るとそこはまだ焼け爛れ真っ黒く炭になった幹の形だけが残った木がポツポツと見えるがそこかしこに雑草が生え始めている。
リリの炎で地中深くまで焼かれたにも関わらず自然の再生力は素晴らしいものがあった。
あちこちから飛来する鳥たちが齎す種や、地中深く根を張った植物が湖から滲み出す水分と夏の日差しに助けられる形で急速に緑化が始まっていた。
だが育っているのは草ばかりであり零司が創った施設周辺のような高く繁った木などは存在していない。
丘や窪地、小さな山など、うねる大地とは異なり真っ直ぐ伸びる平坦な舗装路を殆ど揺れらしい揺れも無く軽快なエンジン音を響かせてトラックは進む。
その速度、時速二百キロ以上。
湖側を見ている者には余り変化の無い風景だが、陸地側を見ている者にとってはとても信じられない光景が展開されている。
『鳥になったかのようだ』
目の前であっという間に後方へと消えて行く鳥たちを見ながら、そんな言葉が消し飛ぶ光景を見ている。
「はーい皆さん、湖をご覧頂けますかー?」
乗客は壊れた人形の様にギギギと音がしそうな動きでラチェットに顔を向ける。
「この湖は零司様が漁場を確保する為に創られたもので、将来的には数倍の大きさになると言われています」
乗客たちが湖を見る時、自分が移動していると感じられないくらいの雄大さを誇るこの湖があと数倍も大きくなると言う。
「沢山のお魚が地元で獲れるようになるので皆さんの食卓に変化が起きるかも知れませんね」
乗客は食べ物の話で正気に戻ると『おお』と声を上げてラチェットの言葉に興味を示す。
改めて湖を見れば美味しい魚の料理が脳裏に浮かんで、何だか喜びに顔がにやけて喉が鳴ったりする。
「それに獲れる魚は種類が豊富で、もしかしたら別の場所で試験中の異世界の魚も放たれるかもしれないそうですよ?」
乗客はその魚料理はどんな味なのだろうとしか考えられなくなっていた。
「こちらが白亜の館になりまーす」
ラチェットに促されるまま目をやると本当に白い建物が見えてはいるのだが、その周囲は全体的に木が生い茂り建物上部しか見えなかった。
初めて見る零司たちの住まいに色めき立つ客たちだが頭の天辺だけしか見えない事に落胆はあった。
だがそんな憂いも比較的平坦な筈の真っ黒の大地に上り坂があった。
ターボトラックは局地見学用に速度を落としてその坂をゆっくりと登り始める。
この日の為に零司が創った見学専用の高架橋である。
高架橋なので直接白亜の館へと行く事は出来ないがその見張らしは素晴らしいものがあった。
最高度地点で停車するターボトラックはエンジンを止めて完全に駐車状態に移ると周囲は静かになり鳥たちの声も聞こえてくる。
夏場の強い日差しは平地に上昇気流を発生させて、その気流に乗って大型の鳥が上空で円を描く。
この世界には存在しない鳥が遠くにも数羽、同じ様に円を描いていた。
その鳥は監視用のロボットであり安全確保を目的として湖周辺に配置されている。
舗装された道の先は陽炎が揺らいでいるが白亜の館周辺は木々が生い茂りシールドで護られているので強い揺らぎは見られなかった。
それはこの高架橋もシールドに護られている事を示している。
そして高架橋の上にある車高の高いターボトラックの荷台は更に見晴らしが良い位置になる。
そこから見渡す白亜の館の敷地は広大であり、館方面を見渡す限り建物や植物園、実験と試験を兼ねた果樹園や広大な床の白い風呂場など、どこかのネズミーランドなど一番小さな施設に余裕で収まってしまう広さがあった。
その中で最も近い場所にある白亜の館本館の南に広がる花壇は最も目を引く場所でそこには何人もの人の姿が見えた。
各施設を次々と紹介して行くラチェットに合わせて目を向ける客たちは各街の代表だけでなく自分達もその中に入ってみたいと思うのだが相手はいくらフレンドリーと言っても神である。
今まで家族として認めた者を中心にその関係者しか立ち入る事の無かった領域に、それ以外の全く無関係な人々の中から有力者だけでも入れたのはあくまでも神の好意だからに他ならないのだ。
それを神が齎す利益を一方的に受けとるだけのただの一般人が自分もその場所に招待して欲しいだなどと言える筈も無い。
少なくともその内部を映像だけではあっても一般に公開しているのと、中には入れずともこうして直接見られるのだからそれで満足するべきだった。
しかし、そんな事は物事の分別を弁えた大人が考えることであり、小さな子供には関係が無いのである。
「わぁーきれー。おかあさん、あそこ行きたい」
椅子に座る母親の腕に抱き上げられていた少女が口にした。
母親も本心ではそう思っていたのだろう、娘に同意してポロリと溢す。
「綺麗な所ね、いつか行ってみたいわねぇ」
親子の自然な会話とその笑顔にラチェットは考える。
『何で一般人は入れないのでしょう?』
ラチェットはこのイベントの為に鍵の指輪に追加された通新機能を使って零司に連絡を取る。
《零司さん、今いいですか?》
ラチェットの声が念話の様に届く。
《何だ?》
《今トラックで館の前まで来てるのですが小さな女の子が花壇へ行きたいなって言ってるんですけど入れちゃ駄目ですか?》
少しだけ間を置いて返事が来る。
《それなら夕方からの祭りをこっちでやるか。と言う訳でみんな協力を頼む》
《了解。それで何をすれば良いのかしら?》
《ん、何でも任せて》
《こちらは神待宮から応援を連れて参ります。人手集めはお任せ下さい》
《頼む》
《アタシは休むわよ》
《ああ、運転手は大変だからな。それが終わったら好きなところで休んでて良いぞ。サーラは会場の手伝いたちに連絡して夕方以降は会場を移すから全員こっちに来る様に伝えてくれ。ローゼ、モールは最底限必要な人員以外は休んで良い。何かあれば連絡を寄越せ》
《《お任せ下さい》》
《それじゃ予定はこうだ。日が暮れる前に門を開いて客の迎え入れ、これはジーナたちに案内なども任せる。会場の調整はサーラ、招待客の相手は楓に任せた。花火を湖上に打ち上げるから見張らしなどを考えると湖側に会場を確保した方が良いかもしれないな、場所を決めるのもサーラに任せる。会場の建設はネコがやってくれ》
《了解にゃ!》
《零司はどうするのかしら》
《俺か? 俺はこのまま接客や全体調整、日が沈んだら花火を上げながら館のバルコニーで爺さんたちの相手だ》
《ずっるーい! お酒ね! アタシも混ぜなさいよ!》
《好きにしろ。ルーたちは王妃たち女性陣の相手を頼む》
《はっ、はい! お任せ下さい! (ルーって呼ばれたぁぁぁぁ!)》
《私もお手伝いしまーす。むひひ》
《ああ、イーノも頼んだぞ》
《魔王様、『何でも任せて』って言ったのに私とマリーには何も無し?》
《そうだなぁ、二人で犬連れて見回りを頼む。客たちと触れ合って一緒に楽しんでくれ》
《分かった》
《見回り忘れるなよ》
《!むー!》
《ええっと、零司さん。それで私はどうしたら……》
《ラチェットは言い出しっぺだからな。子供の相手を頼む》
《了解です!》
《それじゃみんな頼んだぞ》
零司だけ楽している様な気はしないでもないが今夜の予定は決まりそれぞれに動き出す。
「えーっと乗客の皆様、たったいま今夜の予定が変更になりました」
白亜の館を眺めていた客たちはラチェットへと向き直る。
ラチェットが夕方からの予定を案内しながらマルキウスはエンジンを始動して出発を待った。
夜にはあの場所へ行けると判り嬉しそうに母親と正面の花壇を見ている女の子の笑顔にラチェットも嬉しくなってくる。
「それでは次の目的地へと向かいます」
ターボトラックはゆっくりと加速して湖周回道路を走ると突然両側が湖になった。
湖が大き過ぎる上にここから北側はまだ何もないのでショートカットするのだ。
そして湖上を走るトラックは水上を進んでいる訳では無い。
零司がやろうと思えばそれくらいは出来るだろうがこの道は将来一般人も利用するのを前提にしているので確りとした堤防の上を通る道であり陸路なのだ。
だがその道は直ぐにシールド製チューブに突入して水中へと向かう。
突然水面下に入ったトラックの周囲は一気に暗くなり深い青色の空間を進む。
水に落ちたのかと思うくらいに乗客たちは驚くが事前にラチェットが説明しているので体が水に浸かることもなくパニックにはならなかった。
ゆらゆらと頭上から伸びる光の筋は北極点オーロラ観測所で見る光のカーテンの様で美しく感じられた。
そして青い世界の光の中を宙を飛んでいるかの様に泳いで見せる魚の群れはキラキラと鱗を煌めかせ幻想的ですらある。
人間にとっては死の世界でしかなかった水中を水族館の様に楽しんで地上に戻ると眩しい日の光を浴びて多目的広場の出発地点へと向かう。
「皆様、左手に見える苗木が何か判りますか?」
速度を落として走るトラックから見るそこは、焼けた広大な土地の土が掘り起こされてきれいに均され、植林してからまだ日が浅いのが判る。
子供でも手で簡単にへし折れてしまう程度の太さしかない幹は、何の為に植林されているのかも判らずこれからどれ程の時間を掛けて利用可能な大きさになるのかも見当が付かない。
「こちらの苗木たちはメープルと呼ばれる木で大きくなると蜂蜜の様な甘いシロップを作ってくれる木なんです。驚いたでしょう? シロップが採れるまで三十年くらい掛かるので皆さんの成長と一緒に楽しみにして下さいね。あ、でもシロップだけなら来年春には少量ですが生産されるので機会があれば召し上がってみて下さいね。因みにメープルは楓様のお名前の別名でもあります」
メープルの和名はカエデでは無くサトウカエデが正しいのだが、乗客は眺めているメープルの植林地が将来どんな森になるのか神からのプレゼントに心の底から喜びがこみ上げて来るのがわかった。
◻
ターボトラックは一通り観光を済ませ簡易宿泊施設裏に停車するとそこには既に次のグループが待機していた。
「ご搭乗ありがとうございました。お忘れ物が無いようにお手元の確認をお願い致します」
ラチェットが乗客の降車を促しながら乗客の間を進み後ろまで行くとエレベーターを操作する。
「ふぅ、思ったよりも緊張するわね」
運転していたマルキウスは緊張していた肩の力を抜いてハンドルから手を離した。
「お姉ちゃん上手だったよ?」
「そーお? ありがとね」
マルキウスの妹の一人、緑のサランがマルキウスの肩に乗り、両手で揉み解そうとしているが小さな体では全く効果は無い。
サランとは現地語で森や草などの大まかに緑を意味する言葉である。
自然に対する親和性が高く四人のシスターズの中で最もマルキウスに近い能力を持つ。
そして体力的には無理でもその力でマルキウスに癒しを与える。
本来精霊に必要は無い行為も今のマルキウスには嬉しくて、最初は面倒臭いと思っていた妹たちの世話も妹たちが生まれた理由から判る様に姉思いの妹たちに本当の家族として温かく受け入れているのだ。
他の三人、赤のバルメ、白のウルネ、黄のルーンはラチェットの手伝いへと向かい乗客の誘導員として動いている。
ちなみにマルキウスは今でもマルキウと呼ばれることも多いのだがそれはそれで会話の流れ的に意図が通じるのでマルキウスはあまり気にしていなかったりする。
◻
サーラは忙しい。
零司から頼まれた仕事を完璧にこなすべくマーリにお祭り運営メンバー召集を伝え、集合するまでの間に段取りを考える。
露店従事者以外の集合出来たメンバーに予定変更の内容を伝えると手が離せないメンバーへと伝えに行って貰う。
夕方から会場の移設が始まる事を客たちにも伝えなければならない。
だがその役目はマーリにやって貰う。
《会場の皆さんに夏祭り予定変更のお知らせです。夏祭り会場は夕方より白亜の館へ移動します。こちらの会場は白亜の館転移門が開き次第閉じますのでお客様は白亜の館へ移動をお願いします。露店運営の皆さんは時間が来たら来客の皆様と共に白亜の館へ向かい、現地の露店で継続をお願いします。不明な点がありましたら運営本部までお越し下さい。繰り返します……》
この放送で会場は盛り上がる。
噂話とスクリーンでしか知る事の無かった白亜の館へ直接行けるのだからこれで盛り上がらない筈が無かった。
案内放送を終えたマーリは舞台周辺で待機している本部運営スタッフに後を任せてサーラと共に転移門前に移動する。
そこはまだ開くまで時間があるせいか人気がなく、ただひとりローゼが待っていた。
「お待たせしました」
「私も今来たところだから気にしないで。時間が惜しいわ早速行きましょう」
「はい!」
ローゼは右手で軽く扉に触れる。
鍵の指輪が小さく光ると同時に扉が音も無く静かに開き始める。
ローゼは人が通れるだけの十分な幅が確保出来るとサーラとマーリに先に進む様に促し最後に自分も進む。
開ききっていない扉にもう一度触れて閉じる操作をするときちんと閉まったのを確認してから二人の後を追った。
その間に先に進んだサーラが次の幻影扉を開いてローゼを待っていた。
「行きましょう」
追い付いたローゼと共にマーリを引き連れてサーラは会場予定地の視察に向かうのだった。
コロコロと変わる状況。一寸先は闇。
人はそれをご都合主義と呼ぶ。
だがこの作者にそこまでの知恵は在るだろうか? ブハァ




