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12.露天風呂にカエデは禁物

 黒い土地の境界線から五キロほど入り込んで地面に降りる。

 浮いてからここまで僅か十秒足らずだ。

 そこは見たままの焼け焦げて乾燥しきった真っ黒な大地だった。

「よし、ここなら大丈夫だろう」

 この土地に魔神が居るとギャロは言っていたが上空から見ても果てが見えないほど広かったし、この辺り数キロに生命体がいないのは鑑定で確認済みだ。


 無限倉庫を開いてギャロに与えたのと同サイズの小さな神光石を取り出す。

 原石を割り力を流し込むと光を発して粘土のように柔らかくなった。

 純粋な神光石を手に持ち神力を加え続けると急に抵抗がなくなる。

 零司が何をしたいのか?それはもう分かって頂けただろう。

「これならいけるか?」

 自分の保有する神力は極僅に減った気がする程度だ。


 力を加え続けると光は徐々に強さを増して足元もはっきり見えてくる。

 蛇口から底抜けのバケツに水を注ぐように力を流し込み続けると、突然光が掻き消えた。

 その瞬間、神光石が僅に膨らんだ気がした零司はとどめとばかりに急速に力を流し込んで力一杯に投げる。

 その衝撃で零司の周囲は大型爆弾でも落ちたかのように吹き飛んだ。

 投げ出された神光石は自らの光ではなく大気との摩擦熱で光を発して水平より若干上向きに飛んで行く。

 そして二秒後、辺りを真っ白に染め上げる小さく強い光を発した直後に巨大な爆発が発生した。


 零司は爆発と同時に神光石を中心に半径五百メートルのシールドを展開して外への影響をシャットアウトしている。

 シールド内は力の拡散ができずに超高温状態が一分程度続いていた。

 しかし大地に伝わる振動までは考えておらずかなり強い揺れが発生。

 爆心地(グランドゼロ)は直径二百メートルのクレーターができて地面は高熱で溶け赤く煮えたぎっている。


 爆発の威力は当初の予想では大きくても精々家が吹き飛ぶ程度だと思っていたのだが力を注いでいくうちに自然とそんなものでは済まないと感じるようになり、最後に光が消えた時点で爆発の規模が直感で分かった。

 そんな爆発を街の近くで起こすわけにはいかないと全力で投げた上にシールドを張ったのだ。

 投げた速度は隕石の落下に等しい速度であり今回の場合は平均で秒速十キロメートル付近だった。

 それ故に発射地点には途轍もないエネルギーが放出された。

 そしてシールドもあまりに狭い範囲で押さえつけると破壊の危険性があったので余裕を見た半径五百メートルにしたのだがそれでもギリギリだった。


「うぉぉ、マジでヤバイな」

 神光石の扱いは注意が必要だなと本気で思う零司だが、そもそもそんなに力を注ぐのは零司くらいだ。

 鑑定で表示されているのにわざわざそれをやるなどアホであった。

 だがこの世界で唯一その実態を確認した者として見れば優秀なのか。


 実験が終わったので楓の家に帰る零司。

 後は飛んできた経路を戻るだけの簡単なお仕事だ。

 零司は山頂付近の明かりに向かって一直線に戻るとそこには災いが大きく口を開けて待っていた。


 楓の家の上空数メートルまで明かりを目印に飛んで帰ってきた零司の目に飛び込んできたのは露天風呂だった。

 黒い土地へ行くときは逆を向いていたのと露天風呂を創ったのを知らなかったので全くの事故である。

 丸見えの露天風呂、そこで湯に浸かっていたのだろう女子達はさっき発生した爆発と地震の影響か少し慌ただしい感じだ。

 降着寸前にネコがこちらに気づき声をあげようとしたので咄嗟に自分の口の前に人差し指を交差させて黙れと命じる。

 そして事故とはいえ見てしまったことを悟られないように静かに降りて忘れたら良い。

 自己申告で死刑宣告される必要もないだろう。


「揺れたな」

 食器洗いしていたのを装いリビングに戻る。

 ギャロはソファに突っ伏していた。

「何してるんだ?」

 恐る恐るといった感じで顔をあげるギャロ。

「何って、さっきのはこの世の終わりかもしれないじゃないですか! あんなことは初めてですよ!」

 この辺りは地震がないのなら興奮しているのも仕方がないか。

「あれくらいなら大丈夫だろ。それにあれは実験…」

 そこまで言って止めた。

 世の中には知らない方がいいこともある。


 ギャロが落ち着くように零司は自分の世界の話を始め、あの程度の地震なら大したことはないのだと説明する。

 ついでにとばかりに第二次世界大戦も大雑把に話した。

 するとギャロは青くなりさっきよりも震えている。

「どうした?」

「い、いえっ、何でもありません!(ヒュッ)」

 息をするのも苦しそうだ。


 そこに楓達が戻ってきた。

「れーじ、お風呂空いたわよ」

 きゃっきゃと騒ぎながらゾロゾロとリビングに戻ってくる女たち。

 何故か全員お揃いのピンクのパジャマを着ている。

 零司が気づくと風呂上がりの楓のピンク色の肌が更に色合いを増す。

「どう、かしら?」

 目線を逸らして見せたいのか見せたくないのか分からない動作で零司に感想を求めた。

 目線を楓からミティまでスッと動かして全員のバランスを考察したり、楓のパジャマを見つめて縫製はどうなっているのか、縫い目は、とか真剣に考える零司。

 わたしだけを見れば良いのにと想いながらも真剣にパジャマを見ている零司を何故かひっぱたきたくなる理不尽な楓。

「良くできてるな」

「そ、そう? なら良かった」

 自分で訊ねておきながら羞恥心からひっぱたきたくなったことなど一瞬で忘れ、今度は嬉しくてもっと見ろと言わんばかりに振る舞う。


 最後に出てきたミティを見たギャロもさっきまでの恐怖を一瞬で吹き飛ばし、ミティに掛けよって誉めちぎっている。

 今夜は熱くなるかもしれないからひと部屋間を空けておこうか。

「それじゃ俺たちも行くか」

 ギャロに声を掛けて風呂へ向かうと楓が二人のパジャマも脱衣所に置いてあるそうで今着ているものは籠に入れっ放しにしておけば朝には綺麗にしておくと言われた。

 何だか食材さえ確保できたら十分自活できるくらいになっている楓は既に主婦レベルだなと零司は思うと同時にその楓をしっかり護るのが自分の役目だと再認識した。



 (カコーン)

「どう見ても銭湯だな」

「セントウですか?」

 腰にタオルを掛けてスケベ椅子に腰かける零司とギャロ。

「ああ、金を払って入るお風呂だな」

「わわ、お金足りるでしょうか?」

 ギャロは風呂と言えば資産家や貴族が入るものだから払いきれるのか心配になってしまった。

「あ、済まん、そう言う意味じゃない。この造りの風呂は少額のお金で入れる庶民向けの風呂なんだよ。まあ楓も金を払えなんて言わないだろ」

「はぁ、良かった」

 大きく息を吐いて緊張も解けたようだ。

「風呂は心も体も汚れを洗い流す場所だから体を洗ったらゆっくりと湯に浸かって疲れを癒すといい」

「はい、やってみます!」

 初めての風呂は挑戦するものだったらしい。


 湯に浸かると全身の筋肉が(ほぐ)れて気持ちが良い。

「ふぁー」

「ふー」

 二人とも広い湯船に体を伸ばしてから落ち着く。

 ガラス越しに露天風呂が見える。

「あちらは池でしょうか?」

「あれは露天風呂だな。

 野外で風呂を楽しむのが目的だが元々風呂は温泉が元だからあっちの方が正しい風呂だと言えるかもしれないな」

「オンセンですか?」

「自然に湧き出るお湯の池を風呂として使うのが温泉だよ。銭湯は街で庶民が利用する風呂として作られたからこの形なんだ。この後各家庭で利用できる小さな風呂も普及したけどな」

「それは凄いですね!

 こんなに気持ちいいなら僕の家にも欲しいですよ」

「造りは簡単だが薪が必要になる。

 この世界でお湯をつくるのに薪を燃やす以外で何か方法はあるか?」

「うーん、薪しか思いつきません」


 風呂の造り方を後で教えると約束して今度は露天風呂へ向かう。

「うーんっ! こっちも気持ちが良いですね。風に吹かれるのが心地良いです」

 美しい光の幕を広げる夜空を見上げながら伸びをする。

「これで桜や楓でもあればまた風情があって良いんだがな」

 (ひゃー、楓さんにいて欲しいそうですよ!)

 (ラチェットさんシー! 静かにして!)

 (こんなことして良いんでしょうか)

 (零司様と楓様はぴったんこ~にゃ)

 (ちょっ! ネコも静かにっ!)

 (にゃ~)

「何やってんだあいつら…」

「済みませんうちのまで」

「楓とラチェットがごり押しでもしたんだろう、気にするな」

 (ばれたら面倒なんだからネコも静かにしてよね)

 (さっき零司様も見てたにゃ)

「ネコ!黙ってろって言っただろ!」

 終わった。

「れーいーじー、どう言うことかしらぁ~?」

 いつの間にかレンチ片手に後ろで仁王立ちしている楓。

 露天風呂に楓は鬼門か。

 紅葉(モミジ)が舞い散る露天風呂だった。

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