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116.お披露目4

 楓からの合図に全員で頷き合うとラナを先頭に三人がV字形に並び滑降を始め、仕立て直されたばかりの滑走面はきれいにスラロームの跡を残して行く。

 その姿に何が起きるのか期待していた客たちは一斉に感嘆の声をあげて雪面を軽快に滑るラナたちに見入っていた。

 雪が積もれば人々の生活は滞り、春の訪れを待つばかりであった人々にとっては驚くべき新たな技術が示されたのだ。

 積もった雪の上を素早く移動する彼女たちはパッと見ただけでは二枚の板と棒を装備しているだけにしか見えない所も驚きである。

 だが場所が場所だけに神術が施されて特殊な力が作用しているのかもしれないと、考えを口にするのはまだ止めておこうとするので『おおっ』とか『まあ』とか、そんな声が漏れるだけだった。


「彼女たちは特別な力を使っている訳では無く、スキー板とストックと呼ばれる棒を装着しているだけです。それだけであの様な移動が出来る様になります。ただし訓練は必要ですけどね」

 楓の説明に驚きながらも質問の仕方、要点を絞り出しながらそのタイミングを探る領主たちに微笑んでから楓はもう一度手を挙げた。


 頂上に残っていたエルと従者はラナがたちが滑った中央の平らな場所とは違い端に寄った波打つ場所を滑り始める。

 凹凸を避けながら障害を縫う様に滑る従者と、その逆にモーグルとまでは言わないが変化のきつい凹凸を腰下で吸収しながら激しい動きで滑走するエルの姿は零司のカメラを通じてズームアップした映像が世界中に流されていた。

 今まで考えもつかなかった新しい移動手段はそれを見る人々の心に新しい時代の幕開けを更に強く印象付けている。

 特に子供たちにとってはまるで野生の動物が自由に跳ね回るようなその姿により強く目を惹き付けられているのは仕方の無い事だろう。

 そして真打ち登場とばかりに零司が頂上に転移で現れ、その身には、いや、足にはスノーボードがあった。


 固定されていなかった左足で蹴り出してアイススケートでもする様に片足のまま滑りながら左足を固定具に蹴り込む。

 両足を固定したところで目の前に用意されたハーフパイプに勢い良くジャンプしてから突っ込み、反対側のトランジション(斜面)を勢い良く昇って行く。

 そのままリップを越えて垂直に打ち出されると世界中で歓声とも悲鳴とも取れる声が響いた。

 宙を舞い、複雑な回転で、人々の目を釘付けにする。

 スクリーンはテレビを三つ横に並べたサイズであり、中央に零司、左右にラナとエルのグループが映っていたが、ダントツで中央の零司が目立ちまくっていた。


 ラナたちは危なげ無く無難に滑り終えて楓たちの元へと辿り着く。

「お疲れ様。凄く上手だったわよ」

 楓に誉められ優しく包み込まれたラナは嬉しそうに楓に抱き着き甘えた。

 そのあと直ぐにエルたちも到着、零司も帰って来た。

「お疲れ、三人ともカッコ良かったわよ。ふふっ」

 零司は迎えた楓を軽く抱き寄せる。


「雪の季節も工夫すれば出来る事は幾らでもある。これから少しずつでも基本的な情報や技術を流そう。それらを使って自分達で考え皆で助け合い明るい未来を築いて欲しい」

 零司の宣言と希望は人々の胸に確りと刻まれた。

 それはまだ零司たちに頼りきった望みではあるが、ファーリナの人々を見る限りきちんと確かめながら進めて行けば何れ自分達で進んで行くだろう。

 問題があるとすれば未知の領域への扉は慎重に開く様に事故予防の観念を確りと刷り込んでおかなければならない。

 日本の工事現場で良く見る標語『安全第一』である。

 零司と楓はやらかしてしまったが、それはとても重要な事なのだ。



◻多目的広場


 壇上には舞台の反対側の端に壁が立ち、幾つかの丸い的が取り付けられていた。

 舞台上には戦の女神リリと幸運の女神マリーが二人揃って弓を持っている。

「さあ、戦の女神リリ様と友人マリーの勝負です! それではマリーさんからどうぞ!」


 マリーは並んでいるリリと目を会わせて真剣な目をした。

「本気で行くよ」

「ん」

 小さく頷くリリ。


 身の丈よりも少し小さな弓を大きな動作で引き絞り狙いを定める。

 観衆が見守る中、何の変化も無かったかの様に唐突に矢が射出される。

 そして飛んでいった先は五十メートル強。

 一瞬遅れて観衆の声が漏れる。

 ストッと僅かに的の中心からズレて刺さる矢に歓声と拍手が贈られると恥ずかしそうに小さく手を振って一歩後ろに下がる。


「負けない」

 凛々しい笑顔を見せて前に出たリリはマリーと同じく弓を引き絞るが身長のせいで少し小さめの弓を使っていた。

 しかしその弓は強力でありマリーの弓よりも力を必要とする。

 だがリリにとって、と言うよりも神々にとってはこの程度は力を入れている内には入らないのだ。

 特に戦の女神であるリリにとっては全く問題とならない。

 寧ろ弓を壊さない様に気を使う程度であった。

 そして放たれる矢は弧を描く間も無く的に命中する。


 (ズパンッ!)

 的は中心から真っ二つに割れて壁の前に落ち、観衆は突然の炸裂音に悲鳴を上げるか固まるかの二択しかなかった。

 まさか一矢放っただけで大きな丸太を分厚く輪切りにした標的が真っ二つになるなど思いもしなかったからだ。


 しかしこれはマリーたちから見れば最初から判っていた事であり、狩りを主体にするマリーは獲物と同じ程度の感じであれば良いので藁を束ねた物を使ったが、リリは戦闘、それも相手を確実に仕留める為の鎧をも突き抜ける鉄の矢が突き抜けない様に丸太の輪切りを用意したのは当然の事である。

 表面には的の同心円を描いた紙を貼り付けてあるので見た目は余り変わらなかったが中身は全くの別物だったのだ。


 マリーの筋肉質な体から絞り出される一矢をリリは華奢な小さく細い体で難無く越えて見せた。

 観客は人間だと思っているマリーとの余りの違いに大きな歓声で応え、魔神討伐の記憶を甦らせる。

 感謝の声や只々リリの名前を叫び続ける人々にリリは笑顔で応えて軽く手を振って見せた。

 これら一連の流れも零司たちのスキーの後に放送されて各街のスクリーン前は大いに賑わっている。


《続きまして会場の(まと)側半分を使い、弓でくじ引き大会を行います。生活で役立つ様々な景品を用意していますので腕に自信がある人も無い人も振るってご参加下さい》


 マーリの場内アナウンスに再び壇上は人が集まり、マリーとリリの弓矢も自由に使える様に客に貸し出している。

 二人の弓は自前の無限倉庫でコピーした物で、もし壊れても特に問題は無いので安心して貸し出した。

 最初の客は当然と言わんばかりにリリが使った小さな弓と鉄の矢を選ぶが、矢をつがえる所までは出来ても引く事が出来なかった。

 そんな姿を見ていたジャリが畑仕事と(きこり)で鍛えた体を見せつける様にしゃしゃり出てくる。

 ジャリは零司たちが初めてファーリナの街に来た時にギャロの隣で店を出していた筋肉逞しい男で、今はモールの商店でダリルの補佐をしながら家の仕事もこなしていた。

 そんな街でも力持ちの部類に入るジャリが弓を受け取り矢をつがえて引いたがある程度までは引けるのだがそれ以上動かない。

 何度か試すが顔を真っ赤にするだけで結局的に当てるどころか射出する事すら出来ない。

 客たちは屈強なジャリが諦めたのを見て、引く事は出来なくてもせめてその弓に触れたいと順番待ちして手に取り、その次にマリーの弓を持ってみるがやはりこちらの弓も長年使い続けたマリーの甚力に特化した専用弓であり、マリーたちの半分以下の距離であるにも関わらず的に当てられる者が居なかった。


 しかしそれではゲームが成り立たないしそんな事態は最初から想定されていたので全くの初心者でも扱い易いずっと張りの弱いオモチャの弓と矢が用意されている。

 的は藁でオモチャの矢でも充分に刺さるから何も問題は無く、寧ろ誰でも楽しめるので喜ばれた。

 そうして次々と景品を勝ち取っていく参加者たち。

 三回射って最高得点を判定の対象とするルールで、参加賞はノートと鉛筆、それに様々な食料や道具の中から二つを選ぶと言う物だった。

 的の外円は祭りの露店無料利用券、中円はレストラン一日食べ放題、中心はスラゴーの部屋一泊二日利用券だ。


 (ヒュゴオォォォォォォ)


 突然遠くで聞こえる凄まじい音に人々は驚く。

 しかし零司たちが仕切る祭りの最中に聞こえると言う事は予定されているものなのだろうと皆同じく考えているので突然の音に驚いただけだった。

 その音は会場の隣から聞こえてきて、うねる様に音を変化させながら段々と近付いて来る。

 会場の北西の角、簡易宿泊施設の裏手、普段は閉ざされている大きな扉が開け放たれていた。


 最初に聞こえた音よりもかなり抑えられてはいたが、その音がゆっくりと正体を現す。

 門から出てきたのはあのカミオントラックだ。

 馬車を大きく越えるそのサイズで人々の目を引き、聴いた事も無い低音と高い連続音が鳴り響く。

 簡易宿泊施設の裏で停車すると観客が様子を確かめながらジワジワとにじり寄り、トラックをまじまじと眺めている。

 見物人に囲まれた中でトラックのエンジンが止まる。

 次第に小さくなるその音に安心して更に近付く人々。


 そんな中、運転席のドアが開いて中に人の姿が見えた。

 次の瞬間、開いたドアから小さな何かが四つ飛び出して宙を飛び交い、キャビンの天井にある新設されたグラスルーフが開くと天使のラチェットが飛び出した。

「じゃっじゃーん!」

 ラチェットを囲み、合わせて一斉に両腕を広げて見せる五人。

 人々の目線が一番目立つラチェットに集まった。


「お集まり頂いた皆さんようこそ!」

「「「「いぇーい!(パン! パン! パン! パン!)」」」」

 クラッカーを鳴らして景気付けするマルキウたち。

「これからこの『とらっく』で湖一周、観光案内します! 乗りたい人は事前に配られたチケットを提示して下さいね。順番はそちらの簡易宿泊施設で受け付けた順になります。一緒に乗りたい人が居たら必ず組んで受け付けして下さい。順番が来たら放送で案内するのでずっと待っている必要はありませんよ~。それでは受け付け開始です!」

「長いのよ!」

 運転席に座るマルキウスは憤慨する。


 並んで受付を済ませた最初のグループが地上に降りたラチェットの前に集まった。

「それじゃこちらへ来て下さいね~」

 マルキウたちに囲まれた第一陣の二十名がトラックの後ろへと移動して降りて来た足場だけのエレベータに五人ずつ乗って荷台へと上がる。

 荷台は外殻が外されてオープンデッキとなっているが代わりにシールドで守られている。

 次々と乗り込む人々は横四席×五列の簡易シートへ着席して回りを見回しながら乗り合わせた人たちと楽しくお喋りしていた。


 全員が無事乗り込むとパッセンジャーシートへ移動したラチェットがバスガイドの様に案内を始める。

 楓の記憶から学んだバスガイド風に話を始めるラチェットはノリノリだ。

「本日は『たーぼとらっく』ご乗車ありがとうございまぁす。当ターボトラックは零司様が創り上げた超高性能荷車です。そのターボトラックで皆さんと一緒に零司様が創り上げた湖を案内しながら観光したいと思います。運転手は大精霊マルキウス様、ガイドはわたくしラチェットとマルキウ種族の皆さんと共に進行します。短い時間ではありますがよろしくお願い致します。それでは『えんじん始動』、出発の準備をお願いします!」

「長いわよ!」


 (ゴゥン! ヒュゥゥゥゥウウウグォォオオオオオオ)

 スターターが多段圧縮ファンを回し回転が上昇していく。

 そして始動に充分な回転に達するとエネルギーがエンジン内に放出されて取り込んだ外気を爆発的に膨張させる。

 その圧倒的な圧力の流れは後方のファンを力強い回転力に変えてトラック上方へと排出されると同時に回転は遊星ギアを通じて減速されて外気を取り込む多段圧縮ファンへと伝わる。

 それ故に多段圧縮ファンの一番前にある大きなファンは分速数千回転なのに対して爆発直後の最も高速な回転を得るファンは分速一万回転を越えた。

 これら多段のファンの回転数がそれぞれに違う事で高音から低音のファンを回すギアと燃焼の音が重なり軸流タービン特有の音を響かせる。

 数分経つとアイドリングレベルに達して音も澄んだものへと変わった。


 (ヒィィィィィィィィ……)

「良いわよ」

 大精霊マルキウスの報告にラチェットがマルキウたちに指示を出す。

 マルキウたちは外に飛び出して周囲に居る人々に離れる様に誘導している。

 Uターンするのに充分な空間を確保したとマルキウたちは宙返りして合図した。

「それでは皆様お待たせしました。これより湖一周観光へと出発します」

 乗客は初めて聴くエンジン音の中で緊張しながらも興奮して昂る心はラチェットの言葉に歓喜を覚えた。

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