109.平和な朝
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。.+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.
新しい通常の食堂へやって来た零司たちは待っていた楓の出迎えを受ける。
「来たわね、皆おはよう」
「お早うございます楓様」
「おはよう楓」
「零司様、私は朝食の準備へ向かいます」
「ああ。頼む」
サーラは深くお辞儀をして扉の向こうへと消えた。
「それで、ポケットの中に居るのがマルキウさんの妹たちね?」
「そーね」
「この人も知ってる! 楓よね」
「そうよ、私は森山楓って言うの。よろしくね」
「よろしくされるわ!」
「私も!」
「私もよ!」
「よろしく、楓お姉ちゃん」
「私がお姉ちゃん?」
僅かだが驚きを見せる楓。
「そーよ?」
「「「「ねー」」」」
生まれたての精霊に姉呼ばわりされて固まる楓に零司が補足する。
「俺の事もお兄ちゃん呼びだからな。それと同じなんだろ」
「この子たちは生まれたばかりだからそれでいーんじゃない?」
「そう、それじゃそっちもよろしくね」
「「「「よろしくね!」」」」
四人揃って手を挙げている。
◻
「大体一年はマルキウスに面倒を見て貰ってその後でサーラに任せようかといったところだな。立ち位置的にはサーラの下になる」
「サーラさんの部下って事?」
「そんな感じだ」
「アタシ公認だから大丈夫よ」
「まあ、こいつらはマルキウの記憶をある程度は引き継いでるらしいから直ぐに生活にも馴れるだろうが一応先人のマルキウスに付いて色々学んで貰うぞ」
「ねえ、さっきからマルキウスって聞こえるんだけど」
「ああ、それは「良く気付いたわね!」」
楓の目に前に飛んでビシッと指差すマルキウス。
「マルキウスはアタシの新しい名前よ!」
「新しい名前?」
「ええ! 正しくは精霊マウキウ種族の大精霊マルキウスよ!」
腕を組み宙に浮いて仁王立ちしている。
「妹たちも自分の事をマルキウって言ってたからな。詳しくは食事の席でする事になってる。その方が手間が省けるしな」
少しだけ考え込んだ楓だったが直ぐに切り替える。
「それじゃ改めてよろしく、大精霊マルキウスさん」
「ええ、よろしくね。それとありがとう楓」
マルキウスは楓のおでこにキスをした。
◻
朝食の席で集まった住人全員にマルキウが増えた事を大まかな説明で紹介して新しい家族として迎え入れると宣言する。
それに対して皆は温かく迎え入れてくれた。
「「「「いただきまーす」」」」
「召し上がれ。口に合うと良いんだけど」
小さなマルキウたちはサーラが食べ易いサイズに切り分けた零司の果樹園で採れたフルーツを頬張る。
口の中のフルーツを確りと堪能しながら声にならない叫びの様な呻き声を漏らし甘美なフルーツに酔いしれている。
食事が終わったグループ毎にマルキウたちの前に並んで挨拶をして行く。
特にそう決めた訳でも無いのだが彼女たちは自発的に自己紹介などを済ませるとこの後の準備の為に食堂から立ち去って行った。
月曜日なので皆それぞれにやる事があり、全くの自由な立場はマルキウたちしか持っていないのだ。
「そろそろ俺たちも準備しよう。待ち合わせは隣のリビングだ」
「分かったわ。皆、行きましょう」
零司はまだ残っていたルールミルやサーラが無言で会釈し楓に続いて食堂を出て行くのを見送った後で食堂の片付けを始める。
「いつ見ても凄いわよね」
配膳台の上に重なる大量の食器類と大きな鍋や釜は見守るマルキウたちの目の前で一瞬の内に新品同様になっている。
それらを丁寧に重ね直してから収納すると厨房に移動して鍋類の調理具を置いてから隣の納戸の様な部屋に入り、沢山並ぶ食器棚の空いている場所へと並べる。
その部屋には多種多様な食器が所狭しと並び、一番奥には普段は使わない高級な装飾が施された食器類が並んでいた。
零司は空いている棚の前に来ると最近創った英国風茶会セット一式が入った創庫型の小さな箱を置いて、またひとつ楓が望む事を叶えられる道具を用意した。
楓がその道具を使い嬉しそうに茶会を開いている様を想い、零司は少しばかり心を満たして自室へと転移する。
「着替えるからポケットから出てろ」
リトルシスターズは零司に言われるままポケットを飛び出してベッドの上で跳び跳ねたりしながら遊んでいる。
マルキウスは零司の頭に乗ったまま着替え中の零司に話し掛ける。
「ねえレージ。この子たちどうしたら良いと思う?」
胡座をかいて腕を組みながらも脱力し、目を閉じて思案している様に見える。
「お前がいつもしている事を見せてやれば良いんじゃないか? お前が今まで培った沢山の人達との信頼関係をきちんと教えるとか、後はそうだな……各街に連絡はするがお前たち自身できちんと皆に紹介はしておく必要があると思うぞ」
「やっぱりそーなるわよね」
ガックリと肩を落とすマルキウス。
零司はネクタイの無いスーツ姿で全身鏡を見てチェックする。
「こっちはどうだ?」
零司に問われマルキウスは目を開く。
「いつも通りだしいーんじゃない? それにしても零司たちの世界って毎日着替えるの面倒じゃないの?」
「それが普通だったから特に気にした事は無いな。寧ろこっちの世界でも毎日着替えて清潔で居られるのは助かる」
「ふーん。浄化使えばその必要も無いと思うんだけど?」
零司は襟口を直しながら鏡の向こうのマルキウスを見て軽く微笑む。
「それはそれ、これはこれ、だ。俺たちが育った世界に住んでみれば解る。その日を楽しみにしていると良い」
「面倒くさいだけじゃないの?」
零司はにやけてもう一度マルキウを見る。
「行ってみれば解る」
「む!? ナニよ、レージの癖に生意気なんだから!(ペシッ!)」
「そう言えば通達用の手紙で妹たちの紹介をするのに写真を付けるから今の内に撮っておくか」
「写真ってあの本物みたいな絵の事?」
「ああ。だがお前たちを見分けるのは普通の人には無理だろうな」
「でしょうね。私の顔も知らない人の方が多いんだし」
「思いきって色分けでもしたらどうだ? おい、妹たち」
「「「「なーに?」」」」
布団で遊んでいたリトルシスターズは一斉にその動きを止めて零司に振り返る。
「人間たちはこの世界にマルキウは一人だけだって思ってるのは知ってるな?」
「「「「知ってるー!」」」」
「後でお前たちの紹介文を各街に送るんだが日常的に会う事の無い人たちからすれば全員同じに見えるから区別が付かないと思う」
リトルシスターズはそれに何の不都合が? といった感じで零司を見上げて聞いているその様は幼さが感じられる。
「そこでお前たちをきちんと分けて覚えて貰えるようにそれぞれ自分専用の特徴的な色を決めたらどうかと思ってな……マルキウス」
「ナニよ」
「お前は何色にするんだ?」
「そーね、やっぱり水色かしら。いまだって水色だし」
「まあそうなるか。それじゃお前たちは何色が良い?」
「「「「わかんなーい」」」」
「ま、普通に考えたらアタシと一緒よね」
「だろうな。うーん、この件は少し時間が必要だな。今は時間が無いから帰ってからだな。それまでに出来ればお前たちで自分の力を調べたり色を決めておいてくれ。それじゃ楓たちも来る頃だろう、リビングに行くぞ」
再び零司のポケットへ入るリトルシスターズを確認してエントランス横のリビングへ転移した零司たちの目の前にはジーナたちが横一列に並んで待っていた。
「零司様、本日も元巫女の回復はなさいますでしょうか」
「ああ、今まで通り準備しておいてくれ」
「承知致しました。他には何か御座いますか?」
「他の予定は無いな」
「分かりました」
「あら零司、もう来てたのね」
ジーナが話終わろうかというタイミングで楓が扉を開けてリビングに入って来る。
その後ろには他の全員が居た。
「ついさっき来たところだ。楓たちは連絡事項は無いか?」
「うーん、食事の席で話してるから大丈夫かな」
「他はどうだ?」
全員が零司に顔を向け、笑顔を見せて問題無い事を伝える。
「良し、それじゃ行くか。ジーナ、後を頼んだぞ」
「お任せ下さい」
玄関前でズラリと並ぶ美人揃いの巫女たちが一斉に会釈して零司たちを見送る様は壮観である。
「行ってらっしゃいませ」
◻
零司はモールへの転移門格納庫内を皆と一緒に歩きながらマルキウスに話し掛ける。
「それじゃマルキウスも確り妹たちの面倒を見てやれ。暇ならあの車で遊んでても良いぞ」
「そーね、それも良いわね」
「きちんと妹たちの面倒は見ろよ?」
「わ、分かってるわよ! アンタたち、そろそろ行くわよ」
「「「「はーい、零司お兄ちゃんまたねー」」」」
「確りな」
皆で後ろに飛んで行くマルキウたちを振り返って見送るとマルキウたちはマルキウ専用の転移門へと向かった。
「兄ちゃん?」
零司の前でじっと見上げるリリ。
「ああ、そうだな」
特に答えと言える返しもせずにリリをお姫様抱っこすると右腕だけで抱えて左手で楓の手を取り歩き出す。
リリは零司に抱かれるまま落ちない様に首に手を回して抱き着く。
それを楓は『まあ仕方ないか』と溜め息を吐いて幸せそうなリリを見ていた。
サーラにより開かれる門は輝き、その間にリリは姿を消す。
門が開くと零司たちは歩き出して門が閉まり始めるとリリは零司の耳元で囁いた。
「もう行く」
「ああ、頼む」
零司は唇に柔らかい物が触れたのを感じるとリリの重みが消えた。
「リリさん行ったのね」
「ああ」
楓はリリの姿が見えないのでいつもの様に姿を消して職場に向かったのだろうと考えた。
そこに聞き慣れた女性の声が聞こえる。
「皆さんお早うございます」
「お早うございますローゼさん」
「おはようにゃ!」
「お早うございます」
「お早うローゼ」
零司はその場でインフォメーションチップを表示するがこれは他人に見えていない。
そして疲労が溜まっているのを発見して持続性回復を掛けた。
普通の回復とは違い回復速度は遅いものの長時間に亘りゆっくりと回復するので、あの緑の淡い光やその場で直る明確な感覚も無い。
「たまにはうちで一緒に夕食でもどうだ?」
「良いのですか?」
ローゼはチラリと楓を見る。
「ええ良いわよ。寧ろ是非泊まって行って欲しいわ。たまにはミティさんたちも呼んでまた夜更かしでもしましょ」
「ローゼが遊びに来るにゃ!」
「そうだな。俺も久し振りにギャロとバンの所に飲みに行くか」
「ありがとうございます」
笑顔で返事するローゼに楓が提案を加える。
「どうせならローゼさんもうちの家族になる? 私としてはその方が安心出来るんだけど」
楓はローゼが働き過ぎだと感じている。
彼女の健康を考えたり大切なお相手探しの時間を取れないのではないかと気を掛けていたのだ。
そこでもしローゼにその気があるのなら、彼女の貢献に酬いたいと考えている。
昨夜バーの発言で必要以上に受け入れてしまった感のある楓だが零司の言葉に後押しされる様にローゼにも感謝を伝えたいと思う。
「え!? ええ!?」
両手で口を隠して目を見開き零司に目線を向けるローゼ。
脈ありと捉える楓。
「それじゃローゼさんの都合の良い日にお引っ越しね」
楓は良い笑顔でローゼの両肩に手を置く。
ローゼは絶句したまま目の前の楓を凝視した。
「えぇぇぇぇぇ!!」
「ローゼもネコの家族にゃぁ!」
ネコもローゼに抱き着いて大喜びだ。
「それじゃ待ってるわね」
そう言って零司の左腕に抱き着くと楓は気分良く歩き出した。
「良いのか?」
学校へ続く転移門を抜け、生徒側のサーラやルールミル、イーノと別れた後で訊いた。
「良いも何もあれだけ頑張ってくれてるのよ?」
「いや、そこじゃなくて迎え入れるってとこだ」
「零司はローゼさんを嫌いなのかしら」
「嫌いな訳無いだろ」
「じゃあこの話はこれでおしまい。後はこっちに任せて」
零司は良い笑顔の楓に大きく溜め息を吐いて承諾した。
「お早うございます」
「ああ、お早うございます皆さん。昨日の教室は上手く行きましたね」
「おはようにゃ!」
「お早うございますぅ」
「お早うございますケイン先生」
「ええ、予想外の事態でしたけど何とかなって良かったわ。これも手伝ってくれた皆のお陰ですね。勿論零司にも感謝してるわ」
楓は零司に向き直ると笑顔で首に手を回して、ちょんと飛び上がって零司の頬にキスする。
本当は朝の確認で満たしたかった気持ちをこれで代用した。
「朝から仲がよろしいですな。ははは」
「ふふ、勿論。ん」
零司にもう一度キスして離れる。
「おやおや、朝から見せつけるわねぇ、あははは」
講師の老人たちも横から参加して楽しいお喋りが始まった。
零司がモテすぎてるw




