108.カミオン
まさか大晦日にアップする事になるとは。ははは(゜∀゜;)
零司はリムジンを創った時よりも短時間でそれを造り上げた。
事前に用意してあった数々の部品を無限倉庫から取り出した後でそれらを基礎部品として一台の車両を造り上げる。
出来上がったのはどんな荒れ地でも余裕で走れそうなパリダカールラリーのトラック部門『カミオン』クラスの大きなトラックであった。
それは普通のトラックよりも遥かに高性能なトラックであり、過酷なパリダカールラリーの花形となる乗用車タイプの整備用機材を乗せて同じコースを走るサポート車両なのだ。
とは言っても後部の箱部分は簡易折り畳みシートが大量に設置してあり、必要に応じて大容量のカーゴスペースへと用途変更出来る。
「古い方のギャロの家より大きいわね」
「そして仕上げはこれだ」
零司の手には拳大の神光石がある。
そして鍵として使われる神光石とは異なり光の加減を考える必要も無く『爆発しなければ良い』程度にガンガンと力を注入して行く。
「「「「キレー!」」」」
「ホントに綺麗ね。サーラが門を開ける時みたいだわ」
「これを埋め込む」
零司は高い位置にある運転席に登るのに手摺りに掴まりタイヤに足を掛けて乗り込む。
目の前にあるインストルメントパネルを開くとその中にあるソケットへと神光石を差し込みパネルを閉じた。
「サーラ、来い」
「はい!」
サーラは呼ばれるまま宙に浮いて零司が居る運転席に、零司の膝上に座る。
「…… サーラ? 助手席に移動してくれないか」
失敗したと俯いて真っ赤になっているサーラと、今までなら思いも付かない行動に出たサーラに驚いた零司は微妙にぎくしゃくしている。
サーラはマルキウスに対して羨ましいと言う感情を持っていたので零司に呼ばれた時に嬉しくてついマルキウスの真似をしてしまった。
「申し訳ありません」
サーラは礼司から離れるのがとても名残惜しいが主と定めた零司に言われては離れざるを得ない。
しかしその気持ちは零司に確り伝わってしまった。
「いや、そのままで良いか。これから運転するからそこで見て操作を覚えろ。マルキウ、お前たちは隣に乗れ」
思わぬ結果に夢なのかと喜びのあまりサーラの心は一瞬だけ何処かへ行ってしまった。
零司はマルキウたちが乗り込んだのを確認すると説明しながら二つ並んだボタンのうちパワーオンのボタンを押す。
神光石に貯蔵された力がトラックへと流れると各種のインジケーターランプ類が光を灯して、一部を残し一通りシステムチェックが済んだ事を告げる。
ひとつひとつのランプに対応する状態を説明した後でブレーキペダルを踏み込み、スタートボタンを押した。
(ゴン! ンゴォォォォォ……)
「ナニよこの音は!」
軽い衝撃とギアが噛み合う低く抑えた音がその周波数を上げていく。
サーラは初めての事に緊張して体を捩り零司の胸に頬を寄せた。
「大丈夫だ、問題無い」
(ヒィィィィィィン)
その音は次第に軽く小さな高音の唸りへと変化を遂げる。
それはまるでジェット旅客機の室内で聞くエンジン音の様であった。
「ここまでは問題無いな。エンジンは一応慣らしも済ませてあるが暖機しておくか」
このエンジンは零司がターボシャフトエンジンを模倣して一人で開発した物であり、神力を効率良く運動エネルギーに変換する為に自然に存在するリソースを取り込んで利用しているのでエンジンを回しているだけなら千年程度は維持出来るだろう。
そんなエンジンも熱による歪みから度外視して良い程度にだが僅かながら磨耗が発生する可能性はある。
それを考えると最初は万全を期してチェックしようと考えている。
そしてこんな特異な状況で何もする事が無くじっと座っているだけで居られる程マルキウたちの行儀は良くない。
「ねえレージ」
マルキウスは零司の頭の上に移動して零司の顔を覗き込む。
「なんだ」
「つまんない」
「「「「つまんなーい!」」」」
いつの間にか零司の両肩を止まり木のようにして妹たちが座っている。
「もう少し待て」
そう告げるとサーラは耳元で聞こえる零司の声、背中越しに感じる体温とその居心地の良さに甘い吐息を吐く。
「大丈夫か?」
肩越しに聞こえる零司の声はサーラの耳には甘い囁きのように響く。
「ふぅっ!」
堪らず小さな声が漏れる。
零司はサーラの気持ちが分かって居ながら知らない振りをしつつハンドルに置いた手を離してサーラのお腹を優しく抱える。
サーラは自分の口に手をあてて声が漏れない様にしていたが零司がサーラに向ける親愛の念を純粋に受け取っている。
零司と心を重ねるサーラは零司と結ばれるこの状況に次第に落ち着いていった。
マルキウスは零司がサーラを想うのは当然だと思っている。
あの時、零司を救ったのはサーラであり、サーラには零司から愛される権利があるのだから。
だがサーラは零司に対してそれまでと変わらず接しているし自ら零司に対して要求する様な事も無い。
寧ろ零司がそれまで以上にサーラを想い遣るようになった。
だからマルキウスはサーラから零司を求めたとしてもそれを邪魔する事は無いし絶対的な信頼性を持つその関係性を羨ましいとまで思う。
零司に対する絶対的な信頼で言えば恐らくサーラが一番だろう。
次にネコであり、楓の場合は零司と想い合う関係だとしても、それでもやはり心で結ばれている訳では無いので不安はあるのだ。
暫く黙ったまま静かにサーラを抱き抱えていた零司だが、エンジン温度が正常値に入ったのをインジケータランプで知らせて来たので針式のアナログメータで実温度を確認してから告げる。
「そろそろ良いな」
「はい」
恥ずかしそうに静かに答えるサーラ。
零司はエンジン温度が運行用の正常値に入ったのを告げたのだがサーラには自分に対する言葉だと受け取ったらしい。
それを態々否定する必要も無いのでサーラが感じ取ったままの言葉として話を進める。
「それじゃ動かすぞ。基本的な操作はさっきのカートと同じだがこっちは大きい分だけ回りが見え難いから動かすには注意が必要だ」
ひとつひとつ説明する零司にマルキウスは意味は良く解らないので丸暗記していく。
零司はサーラの両手を取り、操作に必要な手順を軽くトレースする。
サーラはさっきまでの零司を感じたいと言う気持ちを押しやり、真剣に運転の習得に勤めた。
「最初は周囲の安全確認からだ。周りに人や邪魔な物がないのを確かめろ」
零司が言う通りにサーラだけでなくマルキウたちも一緒になって運転席から周囲をチェックする。
サイドミラーや周囲に取り付けられたカメラの映像が写し出されたセンターコンソールに取り付けられた大きなMFD(Multi Fanction Display : 多目的ディスプレイ)をチェックする。
「……確認出来ました」
「出来たわよ」
「「「「できたー」」」」
リトルシスターズはMFDの目の前で零司を見上げて答えた。
「次にブレーキペダルを確りと踏み込んでレバーを前進に入れる」
ペダルは手の様に重ねて操作は出来ないので零司が一人で行う。
レバーはハンドル軸に沿って取り付けられたコラムシフトタイプであり、AT(Automatic Trancemission : オートマチックトランスミッション = 自動制御変速機)を採用している。
零司はサーラの手を取り、シフトレバーをコクン、コクン、コクン、とそれぞれのノッチで役割が違う事を教えながら三段手前まで引き寄せパーキングレンジからリバース、ニュートラルを経てドライブレンジへとシフトしつつポジションランプで現在の選択位置を確認する。
「次はカートと同じくパーキングブレーキのレバーを戻す」
この車両ではサイドレバーではなくプルロッドタイプであり、サーラの手を重ねて手を伸ばすと零司がサーラの小さな体に覆い被さる様に密着する。
「これを捻るとロックが解除される」
「はい」
パーキングレバーから手を離して通常の運転姿勢に戻った。
「これで準備は終わった。後の操作はカートと同じだ。違いは車体の大きさだけだがカートの様にキビキビとは動けないからそこは注意しろ。まあ操作してれば馴れるだろうがな」
零司は様子見しながらゆっくりとブレーキペダルをリリースする。
アクセルペダルを踏み込んでいないにも関わらずトラックはスルスルと滑らかに発車した。
「動いたー」
リトルシスターズはトラックが動き出すと平らなダッシュボードの上に乗り、シールド製のフロントウィンドウ越しに前方を眺めている。
動き出したと言ってもそれは最高でも人が歩く程度の速度である。
「まだアクセルペダルは踏んでないがこのATの特徴としてこのクリープ現象が発生する。この特性のお陰で大きな車体でも色々と使い易さを向上させているがカートと違って人が乗っていなくても動いてしまうから気を付けてくれ」
その言葉の後にもう一度静かにブレーキを踏み込んで停車させる。
「降りる時は必ずブレーキを踏み込んで完全に停車させてからシフトレバーをパーキングの位置に戻して、パーキングブレーキを引いておくように」
零司が話しながら確認しつつサーラの手を取り操作するとサーラは真剣にそれを頭の中で繰り返して記憶を確かなものにして行く。
同じ手順でもう一度発車すると今度はアクセルペダルを踏み込んだ。
ただしそれはほんの僅かである。
ゆっくりと加速してさっきの速度より早くなるがそれでも人が走る程度のものだ。
そんな速度でも平坦に均された土地の端に辿り着くのにそれ程の時間は掛からない。
軽くブレーキを踏み込み充分に速度を落とし、ハンドルを右に回してゆっくりと旋回する。
元の位置まで戻るとトラックを完全に停止させて駐車状態にした。
「サーラ、交代だ。今のと同じ事をやってみろ」
「はい!」
助手席に移動した零司はサーラ用に座席位置を調整して指示を出す。
「始めろ」
「はい」
マルキウスは自分で運転してみたいのもあってサーラの頭の上に寝そべり、その様子を見学している。
サーラはさっきまでの手順を思い出して頭の中で二回繰り返す。
「始めます」
一言告げるとパワーボタンを押して各種インジケータの状態を声を出して確認する。
エンジンをスタートしてエンジン温度を確認してからシフトレバーとパーキングブレーキを操作していつでも走り出せる状態にした。
「零司様、準備出来ました」
両手でハンドルを握りまっ直ぐ前を見たまま零司に報告する。
マルキウスは零司に目線を向けて答えを待っている。
一連の操作をチェックしていた零司は許可を出す。
「良し、次は必ず周囲を確認してから発車する様に」
「はい!」
左右ミラーにセンターコンソールのMFDから死角を確認した。
「全て問題ありません。発車します」
無言で頷く零司にサーラはブレーキを離す。
エンジン音とは別にスルスルと静かに動き出すトラックは零司の時と同じく進む。
次にサーラはアクセルを踏み込んだ。
(ヒィィイイドゴォォォォォ!!!)
カートと同じ要領でアクセルをペタンと一番奥まで踏み込まれたエンジンは最高出力へと一気に駆け上がろうとする。
極めて効率の良いエンジンは瞬間的にロケットカーの様な強烈な加速を示し二人ともシートに張り付けられる。
マルキウたちは一斉に後ろに飛ばされてシート裏のバックパネルに叩きつけられた。
と思われたが、この事態を予測していたのか零司が事前に緩衝術を仕掛けてあったので怪我などする事も無く、ただのじゃれ合い程度の衝撃で済んでいる。
そしてシートに張り付けられた事でアクセルから足が離れて出力も落ち、急速に速度が落ちた事で今度は前方に投げ出されるがこちらも緩衝術のお陰で事無きを得た。
この時アクセルがもう一度踏み込まれるが通常のダイレクトなワイヤー式では無くフライバイワイヤーであり、制御プログラムを瞬時に書き換えて運転者の状態をチェックしてアクセル操作を無効化、自動でブレーキを掛ける様にした。
これにより敷地内の平坦なスペース内で止める事が出来た。
「大丈夫か?」
大丈夫なのは判っているが一応はサーラに確認を取ってみる。
「は、はい」
何が起きたのか解らず驚いている様だ。
「もー、ナニやってんのよ」
「きゃはは、面白ーい。もう一回やって!」
「面白くないしもう一回も無いわよ!」
ほぼ同じ見た目のマルキウ同士でも実年齢の分だけは差があるようだ。
「申し訳ありません零司様、マルキウス様」
「いや、こっちの方が悪かった。カートとは違って力があるから少しずつ踏み込まなければならないんだが最初は加減が難しいかもしれないな。だが乗っていれば何れ馴れるだろう」
「はい、きちんと扱える様にして見せます。それで相談なのですがこの『自動車』をコピーしても良いでしょうか?」
「ああ、禁止していない物でお前が必要だと感じるなら俺に確認を取る必要は無いぞ」
「ありがとうございます」
「ただこれはまだ完成とは言い難い出来だからある程度煮詰めてからの方が良いな」
「分かりました」
その後サーラの練習は順調に進み、続いてマルキウスも練習して朝食の時間になる。
「「「「あー面白かった!」」」」
「面白くないわよ!」
暫く放置され、今年再開されたこの物語を楽しんで頂けたでしょうか。前作の「もののけと僕と注連縄さん」と同じく短い物語の予定筈が描いて行く内に肥大化しました(;゜∇゜) 何となく内容も似ている気がしますけど注連縄さんほど危うくはないので良いかなとw それとタイトル詐欺になってる気がします。温泉旅までがまだ遠い、早く皆で仲良く湯煙を楽しみたいところです。
さて今年もあと数時間、忙しい方もいらっしゃるかと思いますが、この物語で少しでも楽しんで頂けたら作者にとってはそれがとても嬉しいです。他の作者さんたちの作品と比べるべくも無い拙いお話ですが、これからも楽しみにして頂いている読者の皆さんの為に、私が描きたい物語を描き連ねて行きたいと思います。
それでは皆様、良いお年を ヽ(*´∀`*)ノ




