11.お客さん
あれからギャロ達が泊まる部屋とキッチンを増やして女性陣が料理を担当しながら男二人はリビングでこの世界の話をしていた。
「なるほど、大体の事情は分かった。神様向けの観光で利益を得ているとはなぁ」
具体的には旅行で楽しませる代わりに対価を貰えたりするそうだ。
旅に必要な物は用意すると言ったがオプションが存在するらしい。
自分の世界では体面上できなくてもこの世界なら大丈夫ということだ。
簡単に言えば保養地、温泉街といった感じの位置付けらしい。
「レージ様も必要ならガイドが用意してくれる筈です。純潔な少女が選ばれますし彼女達もそれを望んでますから」
この世界は発展途上ですらないのかもしれないな。
もしかしたら世界の階位とは文明の水準なのか?
それと気になることがあった。
この世界にやって来て落下していたときに見た西側の真っ黒い土地だ。
「あれは人が入ってはならないとされる土地です。神様が決められたのですが魔神が眠っていると言われています」
それなら後でラチェットに聞いてみるか。
□
「お待たせー」
楓が料理を載せた大きなトレーを持ってやって来る。
「良い匂いなのにゃー」
ネコも楓の真似してフォークが入った小さな籠を、ラチェットがピッチャーとマグカップ二つ、ミティはマグカップ四つを持ってきた。
楓が持ってきたのはピザで三枚あった。
それぞれに具が違い食べ比べするらしい。
初めての食材を試しながら作ったそうで時間がかかったのも頷ける。
楓が料理できるなんて知らなかったがどんな味か楽しみだ。
零司と楓、ネコとラチェット、ギャロとミティが並んで座る。
最後に水を配り終わると異世界組が手を組んでお祈りを始める。
この辺りは西洋文化に近いのだろう。
それにしても神に恵みを感謝しているのだとしたらラチェットは誰に感謝しているのだろうか?などと考える。
「みなさん、頂きましょう」
ラチェットがそう言うと今度は日本組が言った。
「「「頂きます」」にゃ」
食事中は食べる前の感謝の仕方の違いが話題になり、その後はとりあえず今晩と明日の予定を話し合う。
寝室は大部屋ひとつ、小部屋が三つになったので割り振りした。
とりあえずギャロ達に小部屋を与える。
ベッドはもちろんダブルだ。
さて、ここからが楓の苦悩の始まりだ。
大部屋には家主である楓が寝るのは当然として、残りの部屋は二つ。
三人をどうやって割り振るかである。
単にもうひとつ部屋を増やせば良さそうなものだが、それでは楓のモヤモヤが解消されない。
本人も半分気づいているのにまだ認められないその気持ちが部屋の割り振りを難問に仕立て上げてしまった。
まずは楓とラチェットが同室だとする。
当然零司とネコが個室に入るのだが、ネコがひとりでいたら絶対に零司のベッドに入るだろう。
一輪車のままであったならそれも許せるが今は楓そのままの体なのだ。
一緒にベッドにはいるなど許せない。(主に零司を)
ではラチェットに小部屋へ行ってもらいネコを呼んだとする。
楓は鏡を見るようにネコと一緒に眠る羽目になる。
そして何となくラチェットに小部屋で寝てもらうのが申し訳ない。
最後の選択肢、本当は素直に誘えたら良いのだがそこまではまだムリ。
部屋を作るときに望んだ淡い期待が具現化した物がこの大部屋なのに。
今それが目の前にあるのに選べないのは歯痒くて仕方がない。
「楓さん、遠慮せずに零司さんを選んではいかがですか?」
「ラチェットさん!? と、突然何を言い出すの!」
大声で狼狽する楓は零司を横目で見ながら顔が真っ赤だ。
「何も同じ部屋じゃなくてもキュッ!」
「あなたは黙っててくれるかしら?」
楓は真っ赤な顔でわなつき焦っている。
確かに否定はしたけど望んでいない訳じゃない。
しかもそれを零司に冷静に言われたくなかった。
本当は一緒に居たいくらいの言い回しくらいして欲しかった。
まあそんなことを言うほど女性に慣れてないからこそ信じられるのも事実なのだがこんなときくらい何かあっても良いだろうと思うと悔しい。
自分の腿に顔を埋めて気を失っている零司の後頭部を照れながらペシペシと叩く。
結局大部屋には楓とラチェット、ネコが泊まり、零司は小部屋へ。
残りひとつ小部屋が空いているがそれは気にしない。
部屋割りは決まったが、それとは別にその決め方を見ていたギャロ達は楓の攻撃に恐怖していた。
ふたりは明日の朝がやって来るのを願わずにいられない。
それと楓は気づいていないがラチェットレンチが欲しいときにだけ手元に現れるのでいつの間にか異次元倉庫のような術を獲得していたようだ。
次は明日の予定だ。
明日は麓の街に行くことになっている。
ギャロの話ではこの辺りを歩き慣れた彼らなら日が出てから出発して暗くなる前には着くそうだ。
下りというのもあるのだろうがきちんと道ができているのかもしれない。
なので明日は夜明けには起きている必要がある。
この世界はテレビやネットもなく夜中まで起きている理由もないからこの後は風呂に入って寝るだけだが。
街に行ってからの話は歩きながらでも良いだろう。
よし、明日の予定も決まったし風呂の時間だ。
しっかり時間をかけて食べたからお腹もこなれているし大丈夫だろう。
「「「ごちそうさまでした」」にゃ」
「ミティさんお風呂入って行ってね。こっちにあるわ」
「ええっ!? お風呂ですか?」
「ええって、そんなに驚くことじゃないと思うんだけど?」
「いえいえいえ、お風呂ですよね? 話は聞きますが見たこともないですし!」
「うそ…。それじゃぁ入り方なんて知らないよね?」
「はい」
風呂場はミティに入り方を教えるために銭湯並に拡張された。
ついでとばかりに露天風呂まで作られ気分は温泉宿である。
「それじゃ先に貰うわね。ミティさん行きましょう」
「ああ、ゆっくりな。ネコも行っていいぞ」
「ネコ、いらっしゃい」
「行くにゃ!」
「ラチェットさんも行きましょう」
「はい! 異世界のお風呂楽しみです!」
風呂へ向かう女子を見送り、食器の片付けを始めた零司に驚くギャロ。
「片付けはいつものことだから気にしないで休んでてくれ」
まさか神が食器を片付けるのを見る日が来るとは思っていなかった。
ガイドのラチェットが言った通りこの神様達は何かが違う。
何と言うか普通。そう、普通っぽい。
神の威厳が全くなくてフレンドリーなのだ。
していることは確かに人間離れしているのだが人間にしか思えない。
だがその辺りを聞くのはさすがに失礼だろうとは思うのだ。
キッチンにやって来た零司は食器を洗おうとは考えていない。
単に新品の食器を思い浮かべるだけだ。
「これでよし」
洗っていると思える時間の分だけ少し外に出掛けようと思う。
勝手口から外に出ると既に日は落ちてすっかりと夜の帳が降りていた。
見上げれば数多の星が輝き、異世界なのだと実感させる光景がある。
そこにはオリオン大星雲のように光の幕が広がっていた。
その光景に少しばかり感動すると本題に移る。
空を見上げたまま宙に浮くイメージを作る。
すると加速感もなくイメージ通りに地上百メートルくらいまで浮いた。
なぜ浮いたのかと言えば例の黒い土地に用があるからだ。
何もない焼け焦げただけに見える広大な土地なら実験にちょうど良い。
明日には街へ移動してしまうので今のうちに用を済ませよう。




