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106.精霊マルキウ3 五人のマルキウ

遅れがちですがアップできました!


楽しんで貰えたら嬉しいです(*´∀`)

 東の空が白み、山の稜線を境にコントラストが強くなる。

 鳥たちは新しい朝に仲間たちと呼び合いお互いの無事を歌う。

 スラゴーの天幕は緩やかに西へと幕をあけた。


 ミテールヌ山脈奥地にある前人未到の泉周辺は尽きる事無く湧続ける地下水により一年を通して殆ど温度変化が無い。

 地下で僅かに温められて湧き出す水はそれなりに暖かく、真冬なら湯気が上がる程度には温かかった。

 とは言っても真夏の盛りならそれなりに涼しく感じるだろうそんな温度である。


「ん、んー」

 鳥たちの声に続き明るくなってきた周囲に目を覚ますマルキウは久し振りに戻って来たマルキウの島の居心地の良さにもう少し寝ていたい気分だ。

 だがその心地良さは眠った時と何かが違った。

 暖かく包み込む優しさはマルキウの花とは違っている。

 それに安心出来るこの感じはもっと切実に求めていた様な気がする。


 『ナニこれ……』

 目を瞑ったままその柔らかな温もりに身を任せて寝返りを打って俯せになる。

 嗅いだ事のある好きな匂いと浜辺に打ち寄せる波の様にゆっくりと揺れる暖かなベッド、安心できる安らかな寝息にそれに……ベッドに耳を着けると聞こえるゆっくりと確かに脈打つ心音。



『……!!』


 マルキウはこの心地良さが何なのか気が付いた。

 しかしそれが思い違いかもしれないと思いながらももし本当にそうだったらと思うとあんな事を言ってしまったのが怖くて目を開ける事が出来無いでいる。


「起きたか?」

 仰向けで寝転がる零司は夜明けの空を見上げながらシャツの首から頭を出して寝ているマルキウに声を掛ける。

 零司はあれから寝る前にボートをもう一艘出して二艘の間に板を渡して簡易的に双胴船の様に仕立ててその板の上で寝転がっていた。

 他のマルキウたちも零司が横になると楽しい遊びの様に一緒になって零司の腹の上に寝転がり暫くお喋りしていたがいつの間にか上着のポケットに入り込み眠っている。

 生まれてまだ片手程度の時間しか経っていないので疲れていたのかもしれない。


「うん。レージ、あのね……」

 マルキウはシャツで顔を隠して言い辛そうにボソボソと話す。

「何だ?」

 零司のいつもの調子の声に安心するマルキウはシャツの中で深呼吸してから話を続ける。


「昨日はごめんなさい」

 生まれて初めてのきちんとした謝罪の言葉。

 その言葉に無事に事態が終息したと零司も安堵して息を吐く。

「あの事はあまり気にするな。楓もマルキウの事はちゃんと認めてるから安心して良い。今すぐは無理でもきちんと貰ってやるからな」

「ありがとうレージ」

 マルキウはさっきとは違う意味で顔を隠している。


 これでもう大丈夫と零司はもう一度大きく息を吐いて次の話を切り出した。

「ああ、それとマルキウには重大な知らせがあるぞ?」

 確り頭まで零司のシャツを被りながら聞き耳を立てて零司の言葉の続きを待っていると零司は左手で上着の上からマルキウを優しく押さえて上半身を起こした。


「マルキウ、起きろ」

 当のマルキウは零司が二人で会話をするには少し大きな声で何を言い出すのかとシャツの中から頭だけ出して零司の顎を見上げる。

「起きてるわよ?」


「んー。ナニよー、あ、朝だわ!」

「ぐー……」

「ふぁーあ……あ、ホントだわ。ねー、あんたも起きなさいよ」

「まだ眠いぃ……もう少しだけ……ぐぅ……」

 上着のポケットで眠っていたマルキウたちが零司の声に目を覚ました。


「今のはナニ!?」

 マルキウは慌てて零司の胸元から飛び出して、声がした零司のお腹辺りを見下ろす。

 そこには左右二つのポケットに二人ずつ並んで仲良く顔を出しているマルキウたちが居た。

「なっ!? ナニよアンタたち!」

 顔色悪いマルキウがマルキウたちを指差して戦慄くその様は背景に雷を背負ってそうだ。

 そして両手で四人を一度に指差すその指はラッパーか某まことちゃんの様に人差し指と小指以外を折り曲げて指差しているのである。


 マルキウたちは嬉しそうにマルキウを見上げる。

「あー! お姉ちゃんが起きてる!」

「んー、眠い」

「思ったより元気そうだわ」

「……ぐぅ」


「お姉ちゃん!? なんでアタシがアンタたちのお姉ちゃんになるのよ! そもそもアンタたちって……あ」


「察しの通り! 昨日生まれたマルキウでーす!」

「アタシもよ!」

「「……」」


 マルキウの花から生まれたのは理解出来るとして、それでも四人一度にとはどう言う事なのかとマルキウ姉(仮)は起きてる二人に問い質した。


「「それは零司お兄ちゃんに聞いた方が良いと思うけど?」」

「お兄ちゃん!?」

「「そーよ? だってお姉ちゃんはお兄ちゃんのお嫁さんなんだからお兄ちゃんでしょ?」」

「およ、およ、お嫁……?」

 解ってはいたが面と向かって他者から言われると嬉しいのか恥ずかしいのか全身真っ赤になって吃ってしまった。


 いつも楓に遮られる事も、寧ろ肯定して圧してくる二人の純粋なマルキウ妹(仮)たちに対して逃げ腰になりながらマルキウ姉(仮)は零司に目を向ける。

 零司はマルキウを優しい目で見ながらもいつもは強気のマルキウがたじろいでいる姿に少しだけ笑ってしまった。

「な!?」

 恥ずかしさで更に赤くなるマルキウは零司の頭にドスンと落ちる様に上から勢い良く飛び乗るとポカポカと頭を両手で叩く。

「もー! 何なのよ! レージのバカ! バカバカ!」


 叩かれながら笑っている零司と何が起きたのかとポケットから飛び出す二人のマルキウたちは姉の不可解な言動を見て遊びだと思ったのかマルキウを挟んで楽しそうに笑いながら一緒になって叩いた。

 二人のその真似にヤケになるマルキウ姉(仮)は何だか馬鹿馬鹿しくなってピタリと止める。

 それを見た二人のマルキウも零司を叩く手を止めて次は何をするのかと期待に目を輝かせる眼差しを向けた。


「ふん!」

 マルキウ姉(仮)は二人にチラッ、チラッと目を向けてからそっぽを向いた。

「「ふん!」」

 それを真似る二人。

「もー! 何なのよ!」


 そんな事を暫く続けて疲れたマルキウ姉(仮)は脱力して黙ったまま零司の胸に潜り込むとシャツから小さな両手を出して襟首を掴み、頭だけ出してムスッとしている。


「帰る」

 マルキウ姉(仮)は気分を害したまま拗ねる様にボソッと言った。

「何処に」

「……みんなのところよ! 悪い!?」

 ウガーっとか言い出しそうだ。

「いや、良いと思うぞ。こいつらはどうするんだ?」

 頭に乗ったままの二人を優しく掴まえてマルキウ姉(仮)の前に持ってくる。

「「ちゃんとマルキウって呼びなさいよ!」」

 マルキウ姉(仮)は頭を抱えた。


 零司は四人のマルキウにここを離れても大丈夫なのかを確認して館に連れて行く事にした。

 最初のマルキウが強い意思や形も無い精霊から始まったのと比べると妹(仮)たちは全てでは無いにしてもマルキウの記憶を一部継承しているので人の街で生活するのも特に問題は無いとマルキウ妹(仮)たちは主張し、マルキウ姉(仮)は突然出来た妹たちの面倒を自分が見る事になるのだろうと頭を抱えて項垂れている。



◻白亜の館


「「「「ただいまー」」」」

 バルコニーへと転移した零司たち。

 嬉しそうに四人揃って帰宅の挨拶をしている。

 

「アンタたちが言うのはおかしいわよ!?」

「「「「知ってる家だもーん」」」」

「アンタたちは……」

 零司のシャツの中から頭だけ出して下を見ているマルキウは呆れて昨夜の零司に抱かれたいという願望どころでは無くなっていた。


「あまり気にするな。とりあえずこれからの事を決めてしまおうか」

 零司は無限倉庫内にあるソファーセットの中からルールミルの部屋にも使った普通の物を選んでマルキウタグが付いたフォルダに倉庫内コピーする。

 それを縮小してマルキウサイズに仕立てバルコニーの白いテーブルの上にコピーを取り出した。


「お前たちはそこに座れ」

 マルキウ史上初の専用椅子を与えられ、大喜びで零司のポケットを飛び出すマルキウリトルシスターズ。

「お前もだ」

 胸元のマルキウにも移動を促す。

「なんでアタシまで……」

 渋々テーブルに降りたがソファーで遊ぶリトルシスターズが邪魔で何処にも座る場所が無い。


「おい妹」

「「「「なーに?」」」」

「そっちの一人用は姉のマルキウ専用な。お前たちはそれ以外の場所に座れ」

 いわゆる上座である。

 その上座は零司の対面にあるので対話するには都合が良い。

「「「「はーい」」」」

 リトルシスターズは手を挙げて零司の命令に素直に従っている。


「ふーん、悪くないわね」

 上座に座って周りを見るマルキウ姉(仮)は何気に気に入っている模様。

「ねえお兄ちゃん、何を決めるの?」

「まずは名前だな」

「みんなマルキウだよ?」

「それじゃ他の人がお前ら一人一人を区別出来無いだろ?」

「「「「?」」」」

 リトルシスターズはマルキウ姉(仮)の一人だけの記憶しか無いので複数の自分達という現状ですら全て自分と認識していた。


「お前たちが将来別々に行動する時にきちんと一人ずつ分けておかないと問題が起きるからな。それにお菓子とか一人で全員分食べてしまって他は食べられなくても良いなら構わんが」

 リトルシスターズは自分(マルキウ)が全部食べたら幸せだと考える。

「「「「それで良い!!」」」」

「はぁ~」

 大喜びするリトルシスターズと深い溜め息を吐くマルキウ姉(仮)。


「そうか、ならこれを一人用の椅子に座ってるマルキウ一人だけにやる」

 零司はドーナツリングを作る時に出た真ん中の丸い部分で出来たドーナツを五つ皿に載せて白いテーブルに置いた。

「えっ! これ食べて良いの!?」

 ドーナツを見つめていたマルキウ姉(仮)は、はたと四人を見回してもう一度ドーナツを見る。

 リトルシスターズは記憶の中にあるドーナツを食べる感覚を思い出してその感覚だけで涎が口に溢れた。


「遠慮無く食え」

 姉(仮)に振り返るリトルシスターズ。

「それじゃあ貰うわよ?」

 ソファセットと零司の間に置かれた皿に寄って一口食べる。

「ん! んんーーー!!」

 口の中はドーナツでいっぱいなので言葉に出来無いがその甘さに声が漏れる。

 黙ってそれを見つめているリトルシスターズは何故か分からないが羨ましくて仕方が無い。

 実際には食べた事が無い記憶の中にだけあるその味覚や満足感は確かにマルキウ(自分)のものでありマルキウが食べているのだからそれで良い筈なのに何故か羨ましいと感じてしまう。


 そして一人が気付くとそれは瞬時にリトルシスターズ全員の意思として認識された。

 記憶の中にあるのはマルキウ一人食べれば幸せだった。

 しかし今は自分が一人のマルキウとして存在し、記憶の中のマルキウとは別人であり目の前で食べているマルキウの幸せは今の自分の中には無いのだ。

 そんな妹たちの視線を強く感じながら一人で食べるのは流石に気まずいと最初から妹たちに食べさせる為に五つ用意した零司を意地悪だなと思いながら誘ってみた。


「ねえ、アンタたちも食べなさいよ。そうすればレージが言ってた事が少しは解るんじゃない?」

 リトルシスターズは喉を鳴らして浮き上がると他には何も目に入らないといった様子でドーナツの目の前にやって来た。

 ドーナツを目の前にしてもう一度大きく喉を鳴らしてマルキウ姉(仮)を見た。

「食べて良いわよ」


 リトルシスターズは恐る恐るドーナツにかじり付く。

「「「「!!!!」」」」

 最初の一瞬固まったが、その後は様々な声を上げながら食べきるまで止まらなかった。



 ドーナツを食べ終わって至福の余韻まで堪能したリトルシスターズは皿に寝そべり砂糖粒塗れになってお腹を抱えている。

「どうだ? これでも一人に全部行っても良いか?」

「「「「だめ!」」」」

 飛び起きて叫ぶ。

「だろうな。もし名前が同じままだと五人分の美味しいお菓子も一人で食べてしまっても分からないんじゃないか? 五人の内一人だけが五人分の良い思いをしても他の四人は何も無いんじゃ嬉しくないだろ?」

「レージ、この子達もレージが言いたい事が少しは解ったんじゃない?」

 四人とも本当に理解しているのか確りと首を縦に振った。




「と言う訳で、今からマルキウたちには名前を付けて貰う」

「ねえレージ。アタシは良いのよね?」

 『妹たち』では無く『マルキウたち』だった事に嫌な予感がして零司に問い質してみた。


「お前もだ」

「どーしてよ! アタシは元々マルキウなんだからね!」

「「「「きゃあ!」」」」

 マルキウが皿の縁を叩いたら皿に乗っていたマルキウたちが飛び上がってしまい驚いた。

「あ、ごめん」

 今までなら自分よりも遥かに大きな人間相手にして来た事も、同じサイズの相手だと被害が大きくなるのに気付いてその場で謝った。


「お前に名前を付けるのもその四人と同じ理由だが、マルキウはファミリーネームにしたらどうだ? それが嫌なら種族名だな。それならあの花も含めて全てマルキウだし追加でもうひとつ固有名が出来るんだから良いと思うぞ?」

 マルキウ姉(仮)は考えている。

共通認識じゃなくて同一認識かな…(;゜∇゜)

でもこれってキリストがひとつのパンを百人で… 止めておこうw



次回、出来るだけ早めにアップしたいと思います。

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