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105.精霊マルキウ2 増殖

今回も開いてくれてありがとうございますヽ(´▽`)/

 雪解けと共に山中の水源地にある祠までやって来た麓の街の人々は突然現れた掌に乗ってしまう程小さな人に見える羽の生えた生き物に驚愕して固まっていた。

 当然だがこの世界で初めて誕生した精霊を人間が知る筈も無く、その小さな人に対してどう接して良いのか分からない。


 精霊は木の上から自分とそう大きさの変わらない小動物が何事もなく果実酒を口にしているのを見ていた。

 精霊は木から飛び降りると小動物と同じ様に転がった果実酒の瓶の口に近付く。

 瓶の口を両手で掴まえると瓶を揺らして果実酒を外に出す事に成功する。

 精霊は地面に溢れた果実酒を両手で掬って口にするが土の味が混じったそれはコップで飲んだものとは比べるべくも無い酷いものだった。

 そこで人間たちは驚異ではないと思えたので祠に供えられたコップに飛び移り早速それを口にする。

 それはいつもの果実酒であり安心して飲む事が出来た。

 精霊は全てを呑みきっていつも通りに祠の中で眠ってしまう。

 人間たちはその一部始終を黙って見ていたが小さな人の様な生物が寝てしまうと静かに立ち上がり祠に集まってその生き物を皆して眺めた。

 いつも参拝に来るリーダー格の人間が精霊をまじまじと見た後で以前一度だけチラッと見えた影を思い出してその相手が目の前の小人だと確信した。

 人間たちは自分達に警戒心を持たないだけでなく同じ飲み仲間になったこの小さな生き物に対して孫でも出来たかの様に優しく暖かな目を向ける。

  

 そんな出来事があってからはそれ以降の参拝では人間がやって来ると精霊が嬉しそうにその周りを飛び回り、食器を小川で洗う時もお供え物をする時もそれを傍でじっと見つめていた。

 そんな小人が居るのをきちんと認識しながら見つめたりしない様にいつも通りに参拝を終わらせる。

 この後は荷物を片付けて帰るだけだが今日は違った。


 人間は背負子に載せた荷物の中から真新しい小さなテーブルを引っ張り出すとお供え用よりも大きなコップを二つ取り出して果実酒を並々と注ぐ。

 更に焼き魚やお供えにも使った穀物で作った団子や木の実、野菜や果物など色々な食べ物を並べた。

 それは人間が食べる為というよりも小人にもお裾分けといった意味もあるのだが歳のいった男性には参拝でただ往復するだけだったこの場所で出来た友達と楽しい時間を共有したいと言う気持ちの現れであり、その友達は何が好みなのか分からないので適当に何種類かを持って来たのだ。

 人間が精霊の目の前に並べた食べ物の中から果実酒のコップを手に取り美味そうに飲み始めると精霊はその味を思い浮かべて喉が鳴る。

 そして下を見ればどう見ても余っているもうひとつのコップが目に入り、当たり前の様にコップに取り付くと早速飲み始めた。

 その臭気と飲み込んだ果実酒に気持ち良くなり人間を見上げてみれば小皿にある物を食べているので真似をして色々と手を出した。


 最初に手を出したのは野菜の切れ端だった。

 それは今朝採りたての新鮮な葉野菜で甘味がある瑞々しい物ではあったが繊維質な為かあまりお気に召さなかったらしい。

 次にここに来る途中の沢で捕まえた魚で、焼いてから大きな葉に包んであったのだが精霊が小さな手で千切り取ると脂でベタベタになる上に臭いが酷かったので手を付けただけで口にしなかった。

 他にも簡素ではあるが様々な料理に手を伸ばし、最後に精霊が持つとバスケットボールを抱えているくらいの大きさになる木の実を口にすると余程気に入ったのか良い笑顔でがっつき始める。

 結局精霊は木の実と果実酒だけを口にして満足したのか眠ってしまった。


 それからは精霊も人間もお互いに馴染んでゆき、洗い物をする時には精霊が水を出してあげると人間は驚き『水源地の主』と崇められる様になる。

 交流が始まってから数百年経つ内に『水源地の主』は人の言葉を覚えて日常会話の中から他の街などを知り興味本意で活動範囲を大幅に拡げた事で呼称も『ミテールヌ山脈の主』へと変わり、お互いに利益を与え合える良好な関係と永く生きる存在である事から神に近い存在として『様』付けで呼ばれるようになる。


 因みに『マルキウ』とは現地語で『水源地』を意味する言葉と『護る者』『主』『領主』の様な高位の立場の者を意味する言葉を重ねた造語であり、如何に人間たちがこの精霊に対して信愛感情を持っているかが窺い知れる。



◻マルキウの島


 ギャロの家から真っ直ぐに飛んで来たマルキウは生まれ故郷の島に着地する頃には疲れ果てて生い茂る花の中に倒れる様に眠ってしまった。

 そして眠ってからどれくらい経ったのだろうか、未だスラゴーの美しい天幕を降ろしたまま幕が上がる気配も無いこの時間、湧き水が揺らす水面の僅かな音と虫たちの鈴音のような小さな羽音、時おり聞こえる動物や鳥たちの鳴き声が聞こえるだけの筈だった。

 しかし誰かがせわしなく会話する声が眠っていたマルキウの意識に少しずつ割り込む様に聞こえて来る。


「ねーねー、遊ぼ?」

「だめよ! 私と遊ぶんだから!」

「お迎えに来たの?」

「皆静かにしてよ! 起きちゃうでしょ!」

 何やら似通った声質の四人は抑える気があるのか無いのかそれぞれに好き勝手に話し合っている。

 騒がしい声に何故そこに居るのかも忘れて眠っていたマルキウは目を擦りながら起き上がった。

「「「「あ、起きた!」」」」


 マルキウが声の方を見るとそこには自分と同じ見た目の精霊が四人いてマルキウを見ている。

「……夢ね」

 そう言うと疲れが残る体を横にしてまた眠ってしまった。


「寝ちゃった」

 静かに眠るマルキウを四人の精霊が取り囲み顔を覗き込んでいる。

 更にその四人の後ろから零司が覗き込む。

「マルキウ寝ちゃったわよ?」

 静かに零司の耳元で囁くマルキウに似た精霊たち。

「そのまま寝かしておいてやれ。それと話があるから少し離れるぞ」

「「「「はーい」」」」



 零司がこの泉に転移して来たとき、島には既に四人の精霊が居てマルキウを取り囲み何かを話し合っている最中だった。

 しかし零司が来たのに気付くと一斉に詰め掛けて捲し立てる様に話し出したのである。


 今は島から離れた泉の縁に居て零司が出した二人乗りの簡素な木製ボートに乗っている。

 水面に浮かぶボートは人が踏み荒らしてはいけないと思える周囲の環境に配慮したものであるがそれだけならボートなど出さず宙に浮いていれば良いだけだ。

 しかし零司は四人の精霊に座って話せる落ち着いた場所を用意すると言う前提があったのでボートを出したのだ。


 その四人の精霊は何故か初対面の筈の零司にとても懐いている。

 しかし人々やマルキウ自身の話では他の精霊の話など聞いた事は無いし、そもそもこの世界に精霊は一人、マルキウだけの筈である。

 にも拘らずこの四人の精霊たちはマルキウに対して知り合いであるかの様に話し合っている。

 更にマルキウはこの四人を見て『夢ね』と、彼女たちの存在を否定していた。


「それじゃ始めるか。まずお前らだがマルキウと同じ精霊で良いんだな?」

 この問い掛けに精霊たちは零司が座る反対側の腰掛けの縁に座り会議が始まった。

「ねーねー、あのひと私たちを精霊かって聞いてるよ?」

「何よ! 精霊に見えないって言うの!?」

「どう見ても精霊なのにね」

「皆で教えてあげよーか?」

 目の前で零司に対面する形で横一列に座りながらやっている会議は思いっきり零司に聞こえている。


「精霊だと言うのは解った。だがこの世界に精霊はマルキウだけじゃなかったのか? それときちんと答えて欲しいんだが」

「しょーがないわね! 私が教えてあげるわ!」

「「「私も!」」」


「「「「せーの、精霊はマルキウだけよ!」」」」

 事前に示し合わせた様に見えないのに確り息が合っている。

 ならばそれに最初の掛け声は必要だったのだろうか。

 それに精霊たちが言う『精霊はマルキウだけ』とはどう言う事だろう。

 マルキウだけが精霊だと言うのなら目の前に居るこの四人は精霊では無いと言うのだろうか。

 しかしさっき自らを精霊だと言っていたではないか。

 もしかしたら言語形態が違う可能性もあると考えるが、この世界にやって来た時に普通に会話出来ていたのだから恐らく神格化した副次効果で相手の意思を正確に捉えている筈だ。

 それは古代ローマへ行った時に確認済みなのだから。

 では何故『精霊はマルキウだけ』なのか。

 考えていても埒があかないだろう問題なら目の前の当事者に聞いてみるのが早いだろう。


「どう言う事だ?」

「「「「精霊はマルキウだって言ってるでしょ!」」」」

 話がさっぱり通じないのでゆっくりと時間を掛けて話を聞いた。



「要するにお前ら全員マルキウって事か」

「そーよ、それと私たちを生んだあの花もね!」

「「「「ねー」」」」

 どうやら目の前のマルキウは生まれる前から最初のマルキウの記憶や体験など一部を継承しているらしい。

 そしてこの四人はほぼ四つ子であり記憶などもほぼ等しい事もあり個々の差異が希薄なのと潜在部分で繋がっているそうだ。

 それ故に前置きの無いあの「せーの」だったのである。


 だが何故このタイミングで生まれたのだろうか。

 少なくとも零司が来る一時間以上前には居たらしいので零司がやって来た影響で生まれたとは考え難い。

 ならば後は今は眠っているマルキウの影響という事なのだろう。

 確かに零司とのやり取りの後でマルキウは精神的に不安定だっただろうがまさかそれが原因なのかと。


 ここで零司は周辺地理に関して様々な情報の収集を始める。

 バックグラウンドで進む処理はひとつの明確な理由を導き出した。

 それはこの場所、この泉が広大なミテールヌ山脈の霊脈と言うべき流れの吹き出し口であり、その中心にある島に自生する花はその力により固有種へと変化を遂げ枯れる事無く咲き誇り、精霊を産み出すほどの力を持っていた。


 ただ不思議なのは今眠っているマルキウが生まれた時は一人だけであり少なくとも今までの数千年の間に他のマルキウが現れた事は無い。

 にも拘らず突然四人ものマルキウが生まれるなど不可解だ。

 しかしその霊脈の流れに乗る力を良く調べてみると黒い土地からの流れが非常に強いのが判った。

 最初のマルキウが生まれた数千年前から今までこの世界は殆ど進歩と言える変化は無かったのだが去年から強い力が流れ込んでいる。


 そう、それは零司たちの力でありこの世界の力だけでは得られない数千倍近い濃度で流れ込んでいたのである。

 最初のマルキウが生まれてからずっと霊脈に沿って循環しながら蓄積された力は零司たちがやってくる前の時点でもマルキウ一人を産み出すのに程遠いレベルだった事を思えば驚異的な事である。

 そして何故突然四人も生まれたのかがハッキリとしないと年に四人のマルキウが生まれ続ける事になり、寿命の概念が無い精霊(マルキウ)が増え続けた場合どうなるのかと考える。


「それじゃ次の質問だ。何故お前たちがこのタイミングで生まれたのか知っているか?」

 この質問は普通の人間の感覚で言えば破綻しているのは解ってはいるが生まれる前のマルキウの記憶と感覚を継承しているらしい四人のマルキウたちなら知っている可能性はある。

 ただその記憶や感覚が何処で継承または共有されているのかと考えてみればそれは恐らくあの島に咲く花たちなのだろう。

 極端な話ミテールヌ山脈の出来事全てがあの花たちに記憶されていてもおかしくはなかった。

 動物と違い意思があるのか不明な生命ではあるがマルキウたちの言葉を信じればそう言う事になる。


「あったり前じゃない! マルキウが悲しんでたからよ!」

「「「「ねー」」」」

「それは今日マルキウがここに来てからか?」

「そーよ」

「つまりマルキウの花には意思があるって事か?」

「花には無いわよ?」

「どう言う事だ?」

「言葉のまんまだけど」

 そして首を傾げるマルキウシスターズたちとゆっくり言葉を重ねる。



「ふむ、記憶はあるが意思は無い、だが何らかの力が加わるとそこに意思が生まれ(・・・・・・)て精霊になるのか」

「「「「そーよ!」」」」

 四人のマルキウが一斉に人差し指で零司を指す。

「それなら最初のマルキウはどうして生まれたんだ?」

 零司の歴史を閲覧する能力ではその当時の個々の意思までは解らない。

「皆が望んだからよ」

「皆とは?」

「皆は皆よ。他に何があるの?」

「具体的に例を挙げてくれ」

「例えるも何も周りを見れば分かるでしょ?」

「……まさか植物全てか?」

「「「「正解!」」」」


 意思と呼べない程の小さな願いも広大なミテールヌ山脈の霊脈に乗りやって来るそれはマルキウの花に記憶される。

 それはとても長い年月を掛けて小さな動物程度の意思を生み出し、植物たち全ての願いを叶える精霊として誕生したのだ。

 マルキウとはミテールヌ山脈全ての植物たちにとっての夢そのものでありビッグバンに於ける最初の神の一撃に等しい存在であった。

 そして今回生まれた四人のマルキウたちは最初のマルキウの気持ちがトリガーになっていた。

マルキウが一気に五人になりました。

どうするんだろうコレ……(゜ω゜;)

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