104.精霊マルキウ1
お待たせしました。今回も開いてくれて有り難うございます。(*´∀`*)
楽しんでもらえたらそれが一番嬉しいです。ヽ(´▽`)/
零司たちは届いた酒を飲みツマミを口にしながらバーの責任者バンと近況報告や世間話などとりとめも無く話して時間が過ぎて行く。
四神たちの席に近く話し声が聞こえる者たちは自然と聞き耳を立てながら話題の話をしようとするのだが話題の話の多くは直ぐそこに居る四神に絡んだものばかりなので安易に口にする事が出来ないでいる。
そして今回皆が知りたがっている噂の婚約話をバンが訊ねた。
「俺から正式に求婚したのは楓だけだ。他は楓が許したから受け入れているだけだな」
零司はビアグラスを傾けグラスの三分の一を一気に喉へ流し込む。
「零司、言い方ってあるよね?」
零司に向ける楓の笑顔は怒気が含まれていた。
「ん? 楓がそこまで言うならきちんと受け入れよう」
「うん、それで良し。(んぐ、んぐ) ぷはー」
エールを飲みながら見せる笑顔は本心がそのまま現れていたが何気にオヤジ臭い。
その言葉を信じられない物を見る目で見ているリリ。
「……良いの?」
「良いのも何も、あの時きちんと言ったでしょ? 最初に結婚するのは私。それは譲れないわ」
暫しの沈黙の後、リリは真面目に応えた。
「分かった。魔王様に愛されるなら私は二番目で良い」
「にゃ!? にばんめはねこにゃ!」
既にぐでぐでになっているネコは楓に抱き着いて寝ていたがリリの発言は看過出来なかったらしい。
しかし直ぐにまた眠ってしまった。
「……私もネコと一緒の二番目だ。よろしくな」
「ねこもいっしょにゃ~。ぬゅふふ……」
寝言なのか起きているのか判らないがそんなネコを慈愛の目で見ているリリは何か吹っ切れた様だ。
「魔王様」
「なんだ?」
「マルキウを迎えに行ってあげて欲しい」
リリの要請に零司は楓を見る。
「私に気を使わなくても良いわよ、マルキウさんも大切な家族だし婚約者でしょ? 零司が私を想ってくれる様に私も皆が大切なんだからね。だから私からもお願い、マルキウさんを迎えに行ってあげて」
楓はこの世界にやって来た日の先行き不明な環境下で不安定な感情から零司を縛り付けてでも一緒に居て欲しいと思っていた気持ちも、今までの安定した生活の中で得た充分な信頼関係と安心感からか懸念でしかなかった他の婚約希望者も言葉だけでは無くきちんと受け入れても良いかなとマルキウやリリの気持ちを汲む方へと考えを改めた。
◻ミテールヌ山脈奥地
ミテールヌ山脈は奥深い。
未だ人が辿り着けない程の険しい奥地に美しい水を湛える泉があった。
スラゴーの天幕の光が照らし出すその泉はどこまでも透明であり決して浅くは無い底の白い砂が見える程だ。
底から湧き上がる豊かな水は常に水面を揺らしてキラキラと輝いている。
泉の周囲には人里では見られない数種類の小さな花たちが咲き誇り、泉の中央付近には小さな島があって、たった一種類の花で覆われていた。
花の名前はマルキウ、ここにしか生えていない固有種だ。
元々名前など無かったが精霊マルキウがそう呼ばれた事からマルキウが生まれた花をマルキウ自身がそう呼んだ。
当然だが人間はこの花の存在を知らないので人間が名付けるルールに縛られる事も無かった。
この小さな島から出られない花の中から産み出された外の世界へと飛び立つ小さな意志は最初は姿形など無かったが花に集まる昆虫を真似、何百年とミテールヌ山脈を漂い、より能動的な人間と出会った事でその形を模倣して今の姿になったのだ。
元々動植物に興味を持っていた精霊は普通の動物たちとは異なる複雑な様式を持つ人間に対して強い興味を持っていた。
生まれたてのヒヨコが動くものや周りより目立つ存在に興味を持つのは自然であり彼ら人間が行く先を追い、人の生活を知った。
人間の社会に憧れを抱き山の中に自分で家を建てたりもしたが道具を持たない精霊が作れたのは鳥の巣の様な小さな枝と葉っぱで出来た原始的な家である。
それでも精霊にとっては初めて自ら作り手に入れた快適な住処でありその出来映えに満足した。
しかしこの家は強風に敢えなく崩壊して実体を持った精霊も飛ばされてしまう。
その後も何度か巣作りに挑戦するが上手く行かず、中には鳥に奪われた物件もある。
精霊が暫く振りに帰った家は乗っ取られていたので取り戻そうとしたがその鳥は必死に牽制していた。
鳥が立ち上がった瞬間に白くて丸い卵が幾つか見えたので事情を察して仕方無く退散する。
こうして家を作っても結局は労力に見合わない結果にしかならないと判り家は諦めたのだ。
元々家を必要としないが人の真似をしてみたかっただけなので特に痛手と言う事も無い。
その後は山にやって来る人間を見つけると彼らが何の為にやって来たのかをぼんやりとだが考える様になる。
彼らを見る限りその殆どが動物や魚を獲ったり果物や山菜に木材などを採りに来ていた。
しかしたまに山から持ち出すのでは無く逆に山に何かを置いて行く人間を見るようになる。
この辺りの水源地になる湿原の近くにある少し拓けた場所は何度もやって来ただろう人間によって踏み固められて草木も殆ど生えていないが周囲の木々の根だけが張り出し地面に凹凸を造り出している。
鬱蒼とした木々の中にぽっかりと空いたそこは日の光が差し込みまるでステージの様だ。
北寄りの一番日が射す暖かなその場所に小さな家の様な木の箱がある。
その箱の前で人間は暫く座り込んだ後に何かを置いて帰って行くのだ。
精霊は人が見えなくなるまでその後ろ姿を見送ると、人間が置いて行った物は何なのかを確認する為に箱の目の前に移動した。
そこにあったのは小さな皿に乗せられた穀物で作られた質素な食べ物と小さなコップに入った果実酒だった。
精霊は人間の街で同じ物を見た事があり人間はそれを口にしていたのだ。
その光景を思い出した精霊は躊躇も無いままに人間の真似をしてそれらを口にする。
穀物の方は特に何も感じなかったが香りが強い果実酒は口にする前から心惹かれていた。
果実酒を口にした精霊は衝撃を受ける。
この世界に生まれて数百年、果物の風味を凝縮した自然には有り得ない初めての味覚に急速に自我を獲得した。
この瞬間こそが精霊マルキウをマルキウ足らしめた瞬間だったのだろう。
今まではただ流れるまま、目に入るままに何かをしていただけだった。
しかしこの果実酒が主張する濃厚な果実の香りと口の中に広がる味覚、そしてフワフワとして来る不思議な感覚に今までの精霊とは異なる明確な差異が生じた。
精霊はその日を境にその場所から動かなくなった。
またやって来るだろう人間を待つ事にしたからだ。
それからひと月後、精霊の願い通りに人間がやって来る。
人々が神樹として祀る真っ直ぐ天に向かって伸びる大きな一本の木の前に据えられた箱に近付くひとりの人間。
一度箱の前で膝を着き、背負った荷物を下ろすと手桶くらいの入れ物を出して供えてあった供物が載った小皿とコップを手に取った。
人間はいつもなら残っている供物が綺麗に無くなっているのを確認すると小皿と小さなコップを手にしたまま神樹を見上げた。
精霊はその神樹の上から見下ろしていたので慌てて身を隠す。
人間は何かが動いたのを目にするがそれは何なのかまでは判らないが小動物だろうと思い、この水源に住む生き物がお供えを食べたのならそれはそれで満足だった。
それはきっとこの地を護るもの、またはその使いだろうと思ったからだ。
この当時の世界で実在する神『スプロケット』と天使は既に広く知られているがそれとは異なる日本の八百万の神に近い精神的な信仰にも似た『恵みに感謝』してその根元たる水源地や山その物を祀ると言う原始的な自然崇拝は良くある事だった。
そのあと人間は近くの小川へ向かい、そこで小皿とコップ、手を綺麗に洗ってから水を飲み、手桶に水を入れて戻って来ると木の箱『祠』を洗い始めた。
暫く擦って綺麗になった祠を離れもう一度手と手桶を洗い、戻って来る。
手を拭いてから背負子の荷袋の中に手を突っ込むといつも通りに皿とコップを用意して供物を祠に並べた。
準備が終わると人間は精霊が上から見ているのも知らずに静かに祈りを捧げる。
精霊はそれが何を意味するのかなど考えてもいないが祠に置かれたあの飲み物が気になって落ち着かない。
やがてお祈りが済んだ人間は荷物を片付けて背負うと来た道を帰って行った。
精霊は前回と同じく人間が見えなくなるまで見送ると祠の前に降り立ち、さっそく小さなコップに注がれた液体に顔を近付けて鼻をひくつかせて香りを楽しむ。
その香りは前回の記憶を呼び起こし直ぐに果実酒を飲み始めた。
どこに入るのか判らないが小さな精霊の体積を余裕で越える果実酒が半時程で消えてしまう。
果実酒を飲み干した精霊は口から顎にかけて果実酒でベタベタになっているがそのまま祠の中で眠ってしまい目が覚めたのは翌朝だった。
何をしていたのか記憶が飛んでいる精霊は僅かに残る果実酒の臭いで思い出す。
そしてまたあの人間がやって来ないかなと次の来訪を心待ちにしながら神樹の上で今日も待っている。
そんな事を何度か続けていると雪が降る季節になった。
これまでの記憶からそろそろ人間がやって来る筈であったが人間が来る前に雪が降り始めあっという間に深く降り積もる。
結局人間が再びこの地を訪れたのは日が射さない物陰に雪が残る程度になった頃だった。
人の気配に気付いた精霊は歓喜する。
冬の間ずっと焦がれたあの飲み物が早く飲みたくて仕方が無いのだ。
木々の間から姿を現したいつもと様子が違う人間に目を見張る。
なぜなら今回は今までと異なり人間が五人居たからだ。
ゾロゾロと列を成して細い獣道をこちらに向かって歩いて来る人間たち。
一同は祠の前までやって来ると一様に祠に向かい姿勢を正した。
先頭に居るいつもの人間が片膝を着くと他の後ろに居る四人もそれに倣って膝を着き祈りの姿勢を取った。
精霊はいつも通りに神樹の影から彼らを見守り果実酒が供されるのを今か今かと心待ちにして居るが人間たちは祠の手入れだけでは無くその周囲の草取りや伸びている木の枝などを伐採している。
それらの作業も終わり一段落すると今度こそ祠に供物が供された。
人々は来た時と同じ様にお祈りを済ませると今度は荷物を片付けるのでは無く逆に袋から色々と取り出している。
それはお供えされたのと同じ穀物で作った簡単な食べ物を幾つか串に通して焼いた物でキリタンポに似ている。
そしてもうひとつ、お供えにも使われた果実酒が入ったペットボトルサイズの土瓶が取り出されて別の者がコップを取り出した。
精霊は人間が何をしているのか分からないが果実酒が沢山あるのを知り居ても立っても居られない。
精霊は次々と配られる果実酒に涎を垂らして眺めていた。
人々は大きな声で話し、笑い、キリタンポに似た食べ物を頬張り、果実酒を飲み交わしながら楽しそうに騒いでいる。
今まで静かだった森林に人の声が響く。
近くに居ただろう動物たちはその声に離れるものと逆に何事かと様子を見に近付いて来るものがいる。
中型から大型の少し頭の良い動物は態々異常な場所になど近付かないが小動物の中には好奇心そのままに物陰から覗き見したりする。
しかしそれは精霊も同じであり、そしてそれは起こった。
果実酒の匂いに釣られたリスの様な小動物が人間の輪の中に入り込み土瓶の口に取り付いた。
それを見た人間たちは追い払うどころか酒飲み仲間が増えたと笑いながら喜んで様子を見ている。
土瓶の口が小さ過ぎて頭が入らず美味しそうな匂いの元に辿り着けずに一生懸命に姿勢を変えたりしてそのうち暴れる様に体を揺すった。
勢いで小動物もろとも土瓶が転がり果実酒がドクドクと溢れ落ちる。
地面に溢れたその果実酒を直ぐに舐めとる動物はあっという間に地面に染みて消えてしまった果実酒を探した。
そんな小動物を嬉しそうに見ていた人間たちだが今は楽しそうにしていた笑い声も笑顔も消えている。
地面に消えた果実酒を探す小動物の横に透明な羽がある小さな人の姿があったからだ。
これってファーストコンタクトになるのかな?
次回もできるだけ早めにアップしたいと思います。\(^o^)/




