103.世界
開いてくれて有り難うございます。(*´▽`*)
ここは地上三万六千キロメートル。
いわゆる静止衛星高度と言われる地球直径の約三倍に当たり、実際には距離と呼んで良いのではないかと思える高さだ。
シュガードーナツ号の椅子に座り電車の窓から外の景色を見る様に外の景色を眺める第二王女ルーミナルと一緒になって外を見ている姉のルールミルの姿は何処にでも居る普通の姉妹の様に仲が良い。
「私たちの世界は丸いと言うのは本当だったのですね。それにあの両方で光るあれは……」
王妃トリーノはスラゴーの天幕に浮かぶ三日月の様に見える地球と遠くで輝く沈んだ筈の太陽、そして地球の両極に発生しているオーロラを眺め息を飲む。
「お母様、あれがオーロラです。後でもっと良く見える所へご案内しますね」
ルールミルは嬉しそうに説明している。
「それにここは死者の世界、零司様のお力が無ければ生きては居られないのです」
『まあ』と口に手をあて驚く王妃とルーミナルたちに零司が付け足す。
「理屈としては人が水の中で生きられないのと同じで呼吸が出来ないのが主な理由だが、それ以外にも地球は生命が存在出来る様に非常に都合良く出来ている。例えば地球は空気の膜に覆われているお陰で地球の外からやって来る様々な物から守られているんだ。その一つがあのオーロラにも現れているな。太陽からやって来る光に含まれる生き物にとって有害な電磁波の大半が大気のお陰で侵入を阻止されている。その大規模な現象があの光だ。まあ、ルールミルが案内する場所はこの乗り物と同じ造りだから安心して良い」
マルキウが居たら激怒しそうだ。
それから一通り軽く解説すると地上へ向けて降り、目的の場所へ向かった。
◻
「ここで良いだろう」
そこは地上五十メートル、眼下にショッピングモールが見える元禁足の地であり零司が建てた建物や農地以外は真っ黒に焼け爛れた土地である。
「暗視向上」
シュガードーナツ号の乗員全員の暗視能力を上昇させると昼間の色彩とはかなり異なるものの明るい映像を得られる様になった。
零司は意図的に術の名前を口にしたのは、それをやったのは自分であり驚かせない為なのだがそれでも王族側から驚きの声が漏れる。
「これで見易くなったと思うがどうだ?」
「はい、いつもとは違っていますがハッキリと見えます」
ルールミルは興奮を抑えながら零司に向かって報告した。
湖造成予定地は、北はミテールヌ山脈、北西は白亜の館、南はファーリナの西にあるモールからファーリナの街まで続く非常用連絡路に接する十キロ単位の広大な土地である。
ちなみにファーリナからモール、モールから白亜の館はそれぞれ地形による効果もあるが地平線の彼方であり最初に零司たちが降り立った山頂からなら『角度的には見える』範囲だ。
しかしいきなり広大な湖を造っても現地の魚を用意するのが大変なので最初は繁殖目的となり雄と雌の出会いが発生し易い小さめなサイズに抑える事にしている。
とりあえず最初は予定地のモールに接した部分から半径百メートルの範囲の土地が本来の色を取り戻すと同時にその中心に直径五十メートル、深さ二メートルの深さまで土を回収して水で満たした。
僅か一分足らずで出来上がる湖と呼ぶには小さ過ぎる大きな池が出来上がる。
しかし湖かどうかは兎も角その一部始終を見ていた王妃トリーノと第二王女ルーミナル、そして従者の三人は毎度の様に言葉を失いその様子と出来上がった池に目を奪われている。
「最初に用意出来る魚も少ないから自然繁殖させようと思う。それには魚の餌となる虫や小さな水性生物、微生物に水草などが無い事にはどうにもならないからそれらの繁殖を促進させる為に今はまだ小さくしてる。きちんと増えたら様子を見ながら徐々に規模を大きくして行くつもりだ」
そして川などの外来の水は後回しにして保水は出来るのかを確認する為に水で満たして別の場所で採取した川の土や植物などを適当にばら撒く。
将来的には転移門を使ってミテールヌ山脈から引いた多目的広場に流している水を必要に応じて切り替えたり、ミテールヌ山脈から禁足の地の地下へ消えている川まで湖を広げてしまえば何とかなるだろう。
零司の説明を聞いていたリリは何か思うところがあったらしく珍しく難しい顔をして唸る一方で王室組は初めて見る神術に興奮してルールミルとイーノは質問攻めに遭っている。
「それじゃ今日はここまでだな。帰るぞ」
皆が零司の言葉を聞いて理解しただろうタイミングでシュガードーナツ号は転移して皆が乗り込んだバルコニーに横付けされていた。
昇降口が開き近い者から続々と降りて行く。
全員が降りるとシュガードーナツ号を異世界転移門の格納庫まで移動させて扉を閉じた。
「零司様、今回はルーミナルの願いを叶えて頂き有り難う御座いました」
礼をする王妃トリーノとそれに倣う王族側の五人。
「気にしなくて良い。これからも時間が許すなら要望は受け入れる」
王族に対してのこの物言いに楓は『零司はまったく』と零司の後ろで呆れている。
もう一度礼をした王族はこのあと着替えて北極点オーロラ観測所へ向かうと告げバルコニーを後にした。
◻北極点オーロラ観測所
「この世とは思えない眺めね……」
二階一番奥の大きなベッドの縁に腰を掛けて夜空を見上げる王妃トリーノの感想はシンプルだがそれ以外どう言い表して良いのか判らないがスラゴーの天幕をバックに靡く光のカーテンは美しくさっき地球を見下ろしたあの場所の本当に死の世界を思わせる冷たさとは違う脈動のようにダイナミックな力強さを感じている。
「世界は不思議な事だらけなのですね」
第二王女ルーミナルも彼女なりに感じ入るものがあったらしい。
「そうね、零司様の世界もとても不思議だったわ」
ベッドには王妃を挟んで二人の王女が腰掛け、第二王女ルーミナルは母の王妃に抱き着きながら見上げていたがルールミルの一言に惹かれるままに目線を変えた。
「お姉様、零司様の世界とはどの様なところだったのですか?」
ルーミナルに訊ねられた姉のルールミルは零司の世界の話を口にしてしまった事を後悔した。
零司の世界、それは非情であり人同士が殺し合い、奪い合い、他者を売買する様な世界だったからだ。
そして口にした『不思議な場所』とは高度に進んだ建築物や芸術を持っているにも関わらず先の様な人間性で成立している世界という意味だったのだがあの世界へ行っていない者にこれを伝えて良いとは思えなかった。
零司が言った『この世界とあちらの世界の取引』をどうするかの選択はルールミルに判断して貰うと言われたので今後の『はいきんぐ』も常に同行すると決めている。
ルールミルはこれからあの世界の様々なものを見た後で取引可否の判断を迫られる以上はきちんと見ておかなくてはならない。
そんなルールミルだが妹のルーミナルを騙す様な事を言いたくはないし、かと言って良い所だけの間違った印象で警戒無くあの世界を捉えて欲しいとも思わない。
白亜の館よりは大きくとも王が住まう城として見れば決して大きくはない城から眺められる城下街ですら良く知らない妹の期待に満ちたその目を直視出来ないルールミルはオーロラを見上げながら考えるが何れは知る事になるだろう零司たちの世界について母親のトリーノも居るのだし丁度良いのかもしれないとオブラートに包みながらでも誤魔化さない様に話す事にした。
ルールミルはラナたちとの出会いは暈しつつも感情を抑えながら非常に大きな建築物や建造物、芸術的な装飾や絵画など、こちらの世界では見られない数々の素晴らしい話を聞かせると共にそれらを築いた人々はこちらの世界とは比べ物にならないくらいに広大な土地で沢山の国家と人種が生活しておりそれらの国々が奪い合い争っていると伝える。
初めは期待で目を輝かせた妹のルーミナルだったが今は奪い合いをする人々というのが良く解らずそれなりに良い事では無いと感じると隣に座る母のトリーノに強く抱き着きながら緊張して姉のルールミルの話を聞いていた。
そしてこれからも発展し続けると言われるその世界を見続ける為に今後の『はいきんぐ』も零司たちに同行すると告げ、最終的にその世界と取引などをするかの判断を委ねられていると伝えたルールミルは自分にそんな大役が務まるのかは分からないがその時には零司たちもきちんとフォローしてくれるしこの世界の皆にも一緒に考えて貰いたいとその胸の内を明かした。
◻モール ホテルカウンター前
今夜のバーはバンガローの宿泊客も来ているらしく空席が無くなり立ちながら飲んでいる者たちも居るくらいに混雑していた。
とは言っても元々テーブルや椅子は少なく空間が広々としていたので日本の居酒屋並に席を用意したらまだまだ余裕がある程度なのだが。
そんな賑わいを見せるバーに階段を上がって来た零司たちが姿を見せると波が引く様に静かになり皆一様に祈りの姿勢になってしまった。
「俺たちの事は気にしないで続けてくれ。それと席が足りてない様だからこれを使ってくれ」
零司はテーブルと椅子を並んでいるのと同じだけ無限倉庫からコピーで取り出すと客から感謝の声が聞こえる。
ほとんどの客は噂話でリリ以外の三神は普通の人間と同じく友好的だと聞いているので直ぐに元の雰囲気で飲み始めた。
しかし後からやって来た『戦の女神リリ』は殆ど人前に姿を見せる事が無く、ファーリナの住人ですら四神感謝祭でしか見た事がない人だらけであり親しい関係にある一部の者くらいしか日常的な場では見ないのだと言う。
しかも手を伸ばせば触れてしまえる様な距離でなど今まで誰も近付いた者は居ないかもしれない。
そんなリリに視線が集中するのは仕方の無い事なのだが、外来の客にとっては非常に貴重な体験であると同時にその美しい姿に目を奪われて会話も止まりがちになる。
零司はカウンター横の空いている場所にもうひとつテーブルセットを取り出して置くと皆次々と座って行く。
零司、楓、リリ、ネコ、猫ラチェット、サーラが居る。
ラチェットは楓の膝上で撫でられてゴロゴロと喉を鳴らしていた。
「そう言えば零司、マルキウさんはどうしたの? 確か一緒にミティさんの所へ行った筈よね?」
楓は零司の隣の席から話し掛けた。
「あー、それな。事故で話が拗れてどっかへ飛んで行ったな」
「事故? 何があったのか全部話して」
零司は事の成り行きを楓に話した。
「はぁ……」
深い溜め息を吐いた楓は頭を抱えた。
「そう言う時は直ぐに追いかけなくちゃ駄目よ」
「相手が楓だったらそうしてただろうな」
楓はまだ酒を飲んで無いのに顔を赤くする。
「だがその時の様子なら楓だって同じ事をしていた筈だ。それに行き先は判ってるから帰って来なかったら頃合いを見て迎えに行けば良い」
そこに顔を出すバーの責任者バン。
「んー? 何があったんだ? あと注文取りに来たぞ」
すっかり脂も落ちて良い感じのおっさんになったハゲ面のバンはいつもの様に話し掛けて来た。
「注文は後か?」
「後だな」
ニカッと笑って見せるバン。
これに楓が適当に略して答える。
「マルキウ様がねぇ……。まあ俺たちじゃ何もしてやれんなぁ、またいつもみたいに戻って来て欲しいが。ふむ……」
腕を組んで相談役の様に物思いに更けるバン。
「俺はエールだ」
「おっと、忘れてたぜ。はっはっは!」
「そうねぇ、私もエールをお願い」
「もも酒」
「ネコもにゃ」
「私はコーラをお願いします。それと少し手伝いして来ます」
「それじゃカウンターへ注文を伝えておいてくれるか?」
「はい、では注文はこれで良いでしょうか?」
「あと枝豆人数分を大皿ひとつで頼む」
「畏まりました」
サーラは軽くお辞儀をしてカウンターへ消えた。
「もも酒に枝豆……」
小さく呟くリリ。
「ふー、サーラが成人してたら少し手伝って欲しい所だが兄ちゃんはサーラをここに寄越すつもりは無いんだろ?」
「無いな、他にやる事が山積みだし大体にして俺の所に来てから眠ったのは片手くらいじゃないか?」
「片手? 五日か!?」
無言で頷く零司。
「そんなに寝なくても大丈夫なのか? まあ兄ちゃんが居たら大丈夫か。だがそんなに何する事があるんだ?」
「平たく言えば勉強だな……俺たちの母国語だよ。サーラの強い意思もあって普通の会話や読み書きならもう充分になってる。だから今は俺たちの世界で広く使われる別の言語の勉強中だ」
「別の言語?」
「俺たちの世界にはこっちの世界人口の百倍以上居るからな。それに国の数も言語も文化も様々だ」
「なあ兄ちゃん。それって兄ちゃんの世界は他の世界と幾つも繋がってるって事か?」
「似た様なもんだな。この世界はひとつの大陸とひとつの王国しかないが、向こうは六つの大陸のうち五大陸で国家が成立してる。その内のひとつオーストラリア大陸がここと同じくひとつの国家を成してる」
「海を隔ててって意味で言えば確かに異世界かもね。実際に私たちの国『日本』はここよりずっと小さな島国で他の大陸の国から陸路では来られないから似た様なものよね」
楓の膝上に居るラチェットはすっかり良い気分で眠っていた。
ぬーん、最近アップが遅い… ( ̄▽ ̄;)
二日に一回のペースに戻したいけど今はちょっと難しい感じですがこれからもよろしくお願いします。




