101.イベントの後
またしてもぶっ熊ありがとうございます。.+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.
楽しんでもらえたら嬉しいです。
光の粒となり消えてしまった調理機材を見ながら残念そうな顔をしている人物が居た。
その人物は赤毛ロングのポニーテールの男でまだ若そうに見える。
男はさっきの光景に歓喜したり広場に上ってはしゃぐ子供たちなどざわつく人々を避けながら簡易宿泊施設の食堂へ向けて足早に歩いて行く。
食堂前まで来るともう直ぐ注文受付を締め切ると案内が流れた。
その案内に何故か食べたばかりの人たちももう一度並び始めて長蛇の列が出来上がる。
既に目の前まで来ていた男は先頭付近に並べたので番が回って来るのが早かった。
「いらっしゃいませ~ 何にしますか?」
朝からずっとそこに居るだろう注文窓口の女性は全く疲れを見せず明るい笑顔だ。
そんな彼女にこれからする問いをして良いものか分からず不安だった気持ちも何故か一瞬で吹き飛んだ。
「注文ではないのですが……」
「はい、何でしょう?」
注文用紙に書き込むつもりで待っていたイーノは視線を客に戻して瞬きすると少し目を見開いて訊ね返した。
「もし良ければ道具を譲って頂けないかと思いまして」
真剣な目付きで問い掛ける男にイーノは何の事かと客を見つめながら考えていたが直ぐに意味を理解すると客に少し下がって待つ様にと伝え、後ろに控えていたエルに目配せすると次の客の注文を受け付けた。
エルは零司の前にやって来たが楓とリリが零司に抱き着いたまま睨み合っている。
零司はネコに伝票を持って来たのでは無く自分の目の前でこちらを見つめたエルに目線を移した。
「零司様、ドーナツ作りに使った道具を譲って欲しいと言う者が来ましたが如何致しましょう」
少し考える零司。
「あれに使っていた神光石は小さいから直ぐに熱源が無くなるぞ。それに薪を使ったら引火し易いから引き渡しは無理だな」
零司が言っているのはフライヤー(油揚げ器)部分である。
電気やガスが使えるなら簡単で良いのだが薪の様に炎が大きく上がってしまう熱源では熱せられた油は容易に引火してしまい大変危険な結果を招き易い。
しかし考えてみればこの世界では零司たちが管理する場所以外ではドーナツを作れる環境が無く教室を開いてもドーナツは作れないのだ。
会場で使っていたのは元の世界の調理器具と同じ金属製だったがこれを薪で使うと炎の範囲が広くてフレームやパネルを変形させてしまい長期的に見れば天面が傾く可能性高い。
そこで竃型にする事で解決を図る。
幸いな事にこの世界には鍛冶屋で使われる耐熱煉瓦も造られているので自分で作る竃の設計図を書く。
零司の目の前に現れるディスプレイに映し出される3D画像による組み立て手順や目で見る材料一覧、基本構造と取り扱い方、注意箇所など次々と幾つも追加されて行くディスプレイ群に、マルチスレッドで多数のシミュレーションを駆使し安全な扱いが出来る寸法や組み立て時の要点を並べ編集して行く。
エルは零司の前に立ったまま宙に浮いた光の板に次々と映し出され変化する映像が何なのか分からないままに眺めていた。
楓とリリの小さな声での言い合いも気にならずスルーする程に。
そして五分も経たずに作り出される一冊の小さな薄い冊子。
その冊子を無限倉庫に取り込んで百冊単位でコピーした。
「これを配れ」
「はい! お任せ下さい!」
零司の指示に姿勢を正して兵士を思わせる返事でエルは元の持ち場へと戻る。
ネコが座るテーブルの反対側に積まれた二百冊の冊子の中から五十冊を抱えてラナと一緒に外に出たエルは冊子を配る手順を考えてラナに教えた。
「お待たせしました。あの器具は神が居ない場所では使えないそうです」
エルのその言葉に落胆する赤髪の青年。
「ですが代わりにこちらを用意して下さいました」
差し出された冊子を見てこれは何だろうと初めて見る代物を受け取る。
「それはあの器具の代わりになる竃の作り方が書かれています。その通りに作れば良いと言われました」
エルの言葉に頭上に感嘆符が三つくらい飛び出しそうなくらいに驚いている青年はその場で冊子を開いた。
見た事も無い程白く綺麗な紙とそこに実物があるかの様な精密な図解、綺麗にまとめられた分かり易い文章と滲みの無い文字列。
赤毛の青年の冊子を持つ手が震える。
「こ、これはお幾らになりますか」
青年は冊子に目を奪われエルを見ていない。
「配布せよとの命令を受けていますので代金は頂きません」
赤毛の青年だけでなくさっきから見ていた周囲の客の動きが止まりどよめきが発生した。
そのあと青年は深く感謝するとその場を後にしてバンガローに戻り冊子を熱心に読み始める。
ラナは受け取り窓口横で冊子を必要とする人に手渡し、エルはテーブルや広場内を歩いて配布した。
その後食堂は閉店し残った冊子は簡易宿泊施設二階のカウンターに少しとモールのラウンジに残りを置いて零司たちは白亜の館へと帰った。
◻白亜の館 奥の食堂
今回の会食は四神と王妃トリーノ、第一王女ルールミル、第二王女ルーミナルが席に座る。
ホスト側はサーラをチーフに巫女のお付きたちが、ゲストの王族の後ろにはそれぞれの侍女が待機している。
「トリーノ王妃、大変お待たせしました。遅くなってしまいましたがゆっくりと楽しんで行って下さいね」
笑顔の楓の言葉に会食が始まる。
並ぶ料理はレストランにも置いていない料理であり一品辺りの量を少なくして数多くの手の込んだ目から楽しめるコース料理仕立てである。
王室でも中々口に出来ない新鮮な海の幸や零司の果樹園、畑で育てた一般にはまだ出回っていない素材を用いた料理など多種多様な品が出てくるのだ。
それらは毎日口にしたとしても健康に問題が出ない様にと気遣われながらも味は素晴らしく、女性にとっては心と体を十分に満たす品々であった。
食事中は皿が出されるとその都度会話が盛り上がり楓は説明をしながらゆっくりと時間が過ぎて行く。
食事が終わるとお茶が出され楓たちの話題はお菓子作り教室に集中した中で砂糖の生産量が少なく一般ではあまり使われないと言った話が出た。
その話に楓は黙って聞いていた零司に顔を向けて見ると意を汲んだ零司がこれに応える。
「それならうちの試験場で育てているサトウキビをお渡ししましょう。ルールミル、後は頼む」
トリーノに向けていた目線をルールミルに向けて言うと零司はそれだけで言葉を終わらせた。
果樹園で試験場を担当しているルールミルとイーノは担当として受け持ってからまだ二ヶ月足らずだが零司からそれなりに教育を受けていたので『サトウキビ』とは何なのかを知っていたし、この世界への作付けも問題が無いのを確認していた。
ただし作付けする土地に関する情報についてはまだ細かい部分までは知らないものの育成に必要な大体の環境も日常的に接して知っていたのでそれら条件を母のトリーノに説明しつつ最も適しているだろう南の街での生産を推奨した。
「お母様、サトウキビは後日準備してお渡しします」
「ありがとう、ルールミル」
隣に座るルールミルに優しい笑顔でトリーノは感謝する。
そしてそれらを創り出した零司に目線を戻す。
「零司様、この世界に多大なる恵みを与えて頂き心より感謝致しております」
「楓の為にやってる事のついでだから気にしなくていい」
自分の為にしていると言われ楓は頬を染める。
「ありがとう、零司」
「むー」
小さな声で不満を訴えるリリ。
「リリやルールミルも必要な事があれば言えって言っただろ?」
その言葉に王族側は神が自分達の願いを叶えるなど本当にそんな事があるのだろうかと絶句してルールミルを見つめる。
王妃トリーノと第二王女ルーミナルの二人は、第一王女ルールミルが戦の女神リリと同じ扱いを受けている事に驚きを隠せない。
そして和やかだった会食の場には更に爆弾が投下される。
「そうね、ルールミルさんも零司と婚約してるんだから我儘くらい言っても良いのよ?」
ルールミルとイーノを挟んだ四人の頭上に大量の感嘆符と疑問符が飛び上がり一瞬にして食卓は静まり返る。
ルールミルはあれから二週間も経っているのに親族にはまだ話せないで居た。
それはイーノもだったがルールミルを立てるイーノにして見ればもう家族に手紙を書きたくて仕方がなかったのだがルールミルの考えでは本当に受け入れて貰えているのかハッキリと確認出来ずに居たのでイーノには手紙に書かない様に念をおしていたのだ。
そして今、こんなタイミングで零司が受け入れてくれていたのをきちんと確認出来たのである。
「ありが「それじゃ今夜は私の番」……ございます……」
ルールミルの感謝の言葉が遮られ目が点になった王族がリリを見た。
「ダメよ」
「楓のケチ」
喜色に溢れた筈の王族側が一気に消沈し何と無くぐだぐだの内に幸せな報告も流されてしまいガックリとしている。
「あっ」
王族側の落ち込みに気付いて話を切り替える楓。
「ルールミルさんたちのお陰で家の果樹園も順調に行ってるし代わりと言っては何だけど何かあれば零司だけじゃなく私も出来る事ならしてあげるつもりよ? だから安心して言ってね」
もう一度花が咲いた様に笑顔が輝く王族だった。
◻
会食も終わり食堂に居た女性全員で南国ビーチ風露天風呂へと向かい、零司は食事の後片付けをしている。
いつも通りのイメージで新品に戻すのでは無く今回は浄化でやってみたが結果としては同じであり差異は見られなかった。
ただし二つの術の消費神力量はかなり大きな隔たりがあるのだが零司の神力保有量が非常に大きいので数値表示しながらでもなければ零司がその差を感じる事は無いだろう。
初めて南国ビーチ風露天風呂に入る王妃たちは親子三人で楽しんでいる。
イーノの方は同じ侍女二人に説明しながら世話をしているので三人ともリラックスなどしてる暇は無い。
楓たちは親子の邪魔をしない様にと少し離れて固まっていた。
「楓様、背中流すにゃ」
「ありがとう頼むわね」
「ハイなのにゃ!」
ニコニコと嬉しそうに楓の背中を洗うネコ。
「楓、髪洗って」
楓の横でじっと見つめているリリは当たり前の様にそれを期待している。
最近はマリーと仲が良く一緒に入る事が多いのでお互いに洗いあっているのだが今日は遠征でもしているのか顔を出していなかった。
そのせいで以前と同じく楓に頼んで来たのだ。
「良いわよ、こっち来て」
しょうがないわねと、まるでリリの母親になったかの様にそれを受け入れて初めて一緒に風呂に入った時の様に優しく時間を掛けて洗った。
リリは楓と喧嘩している様に見えても信頼しているし美味しいご飯やこうした日常的なスキンシップで親愛感情を持っているので充分に家族と言える間柄になっている。
サーラは周囲を見ても自分が手を出すべき場所も見当たらないので久し振りに一人でゆっくりと体を洗っている。
それでも一番で湯船と呼んで良いのか不明な湯に浸かりスラゴーの天幕を仰ぎ見る。
こうして温かく幸せな毎日を送っている自分があるのは今は無き両親のお陰でありスラゴーの天幕に居る両親を想い感謝してまた心が温まるのだ。
◻果樹園 試験場
片付けが終わった零司はルールミルたちが日々観察したデータからサトウキビに関するデータと採集したサトウキビから砂糖を抽出する方法、精製して白糖にするまでの行程を一冊のノートに書き込んで行く。
書き込むのは見開き左側だけであり右頁はこのノートを活用する者の為に空けてあった。
それと当然だがそれらノートにある一連の作業をルールミルたちに実践して貰い、直接サトウキビに接する事で知った要点なども書き込んで貰いたいと考えている。
そしてもうひとつ、零司はお菓子、甘味と言うキーワードで重要な物を思い出した。
カナダや北海道など雪に埋もれる地域で生産しているので同じ気候のファーリナにとっては都合が良いのだ。
しかも土地なら幾らでもあるのだからやらない手は無い。
◻ミテールヌ山脈裾野 ギャロ宅
「遅くに済まないな」
「ホントよね」
「いえ、零司さんでしたらいつでも歓迎ですよ」
頭の上にマルキウを乗せ居間で茶を飲みながら和やかに話しているが、やって来たとき二人は楽しんでいる最中だった様だ。
確りと外まで聞こえていたが知らない振りをしておこう。
妙なところでぶった切り! (ノ^∇^)ノ




