99.ドーナツ作り教室 はじまる
ぶっ熊ありがとうございます!( 〃▽〃)
最近遅れがちですが何とかアップ出来てます。
あと今回は少しアレなので苦手な方は飛ばして下さい。m(._.)m
お菓子作りイベントの前夜、零司は日を跨いだ頃に久し振りに空いた時間を使ってサーラの部屋へと向かう。
サーラが部屋で自習しているのを確認した零司はサーラにそちらに向かうと伝えて迎え入れる準備が出来るまで少し時間をおいてから転移した。
零司はサーラの気持ちがある程度分かる。
例えば零司がサーラの頭を撫でた時にサーラが幸せを感じたとする。
その感情はそのままそっくりではないが零司にも伝わっている。
これは子猫を撫でたら喜んだのを良い事にもっと撫でたくなる感情に似ているのだが相手は神格化したとはいえ少女であり単純に頭を撫でて喜ばれてしまった時にその感情は零司にも流れ込む。
その嬉しさに囚われもっと撫でたりもっと喜ばせたいなどという考えがエスカレートすると非常に不味い事になる。
だがそれはサーラも同じであり零司に撫でられた上に更に零司が自分の感情で同じく幸せを感じ取っているのが伝わってくるのだからサーラはその幸せも何も直接零司とのやり取りがある時には努めて平静を装おおうとしている。
そうしないと抑えが効かなくなってしまいそうで怖かったのだ。
零司と楓の婚約以来、毎朝の強い感情のうねりはサーラを喜ばせると同時に悲しませていた。
零司が感情を向けている相手が楓であってもその感情をサーラも受け取ってしまうのだ。
その喜びは零司にもフィードバックされるが零司は楓との交わりで感じているものとして受け止めているのでまさか楓と一緒にサーラまでも満たそうとしているとは思いも寄らなかった。
零司からのとどまる事を知らない欲求と結ばれ満たす喜び、その感情を余す事無く受け止め続けるサーラは精神レベルでは楓よりもずっと濃厚な喜びを得ていると言える。
それでも二人分満たそうとする零司に抱かれているのは楓であり大変な事になっていると言う訳だ。
そしてそれはネコも同じなのだが元が一輪車なのでネコ自身はその感情に対して元人間のサーラ程には感じていない。
とても些細な事でも大きな喜びを感じる反面で一定以上の強い感情に対してはそれを理解していても線引きが行われる様に行動へと現れる事は無かった。
精神レベルは幼いのかもしれないが受け取った感情を『癒し』で短時間に凝縮して使うのでそれを受けた女性は大変な事になってしまうのも頷けるだろう。
しかもネコが感じとる感情は体の組成データのベースとなった楓からだけでは無く零司からも感じ取っているので実質二人分の感情を受け止めている。
そんなネコの現在の『癒し』は考えるだけでも危険な領域へと到達しているのだろう。
零時から連絡を貰ったサーラは風呂上がりのままパジャマ代わりの薄い紗一枚で出来た浴衣姿で零司が部屋に来るのを待っていた。
「お帰りなさいませ」
ドアに向かって背筋を伸ばして立っていたサーラは零司が転移してくると同時にゆっくりと挨拶する。
「ああ、ただいま。勉強の邪魔をして済まないな。どこまで進んだか見るから続けてくれ」
零司はサーラが勉強していたのを知っているだけにそれを邪魔したいとは思わない。
「はい!」
しかしサーラにとっては邪魔な筈も無く寧ろ以前の様に朝まで付きっきりで勉強を見て貰いたいとすら望んでいる。
サーラの夜間勉強と言えば日本語一教科だけだったが日常会話+α程度には自在に使える様になっていた。
今はそれを越えた『嗜み』や古代ローマに行った事もあり英語や向こうの世界の歴史にも触れ始めている。
サーラは久し振りに零司が隣に座り見守られながらの勉強が嬉しくて仕方がなくそれは横にいる零司にも見た目だけでも分かる程だ。
今まで溜め込んだ疑問を零司へ向ければそのひとつひとつに丁寧に教え必要なら身振り手振りで、それでも足りなければ写真なども用意して教えている。
そしてサーラにとってもっとも大切な心暖まる掛け替えの無い時間が過ぎて行き午前三時を回った。
この季節になると午前三時半過ぎには東の地平に太陽が顔を出すので外はそれなりには明るくなつている。
その事にサーラは幸せなこの時間もそろそろ終わり僅かばかりの寂しさを胸に抱きつつも零司に楓が待つ部屋に帰り易い様にと話しを振る。
「零司様、外が明るくなって来ました」
「ん? そうだな」
零司が居るのは窓側なので勉強を見ていた零司はこれに気付いていなかった。
「今日はこの後もう一度取引窓口をチェックしようと思っていますので勉強はここまでにしたいと思います」
「そうか、わかった。それなら俺も見に行こう」
「いえっ、それは一人で大丈夫ですから零司様はお休み下さい。ただ、ひとつだけ……」
「ひとつだけ?」
「はい、ひとつだけお願いがあります」
サーラの迷っている様なその瞳に零司は何かあったのか心配になる。
「私に……を頂けませんか?」
サーラは零司を揺れる瞳で見上げて居た。
零司はそれに似た光景を最近よく見ている。
多分この後もそれを見る筈でありサーラが零司に親愛の情を持っているのは既に知っているので零司はサーラの消え入りそうな声で願ったその望みに応える。
隣に座る小さなサーラの華奢な腰に手を回して抱き寄せた零司はその小さくきれいな手を包み込み耳元で一言呟いた。
「……」
サーラは零司がどれだけ自分を大切にしてくれているかを知っているし実際に抱き寄せる時も優しく扱っていた。
包まれる様に零司の体温を薄い生地越しに感じながら零司のそれを受け入れて幸せを感じている
「願いを叶えて下さりありがとうございました」
「気にするな。サーラの事は大切に思っているから欲しい時はいつでも言うといい」
「ありがとうございます」
既に立って向かい合っている二人。
サーラは笑顔で浴衣の乱れを直してから零司に深くお辞儀をした。
ほんの僅かな時間だがサーラにとってはとても大切な心を満たす重要なイベントだった。
夜の勉強の終わりに『回復』して貰えたのは久し振りであり寂しさを感じていたのを理解している零司が確りと抱き締めながらだった事もあり今はサーラも落ち着いている。
取引窓口の話など零司が自分に気を使う事無く楓の下に向かえる様にする為の思い付きでしかないのだがその一方で予想外に抱かれてしまったあの時はこのままずっとこうして居たいと思ってしまう。
しかしそれは今はまだ叶えられない望みだと解っているのだ。
◻
静かな従業員専用通路を大口商取引窓口に歩いて向かう。
零司は自室で楓と始まっていた。
楓は零司に抱かれ揺られながら目線が外れたタイミングで窓の外に目を遣ると上気したその目でニヤリと微笑む。
「くぬぬぬ、生意気」
「楓はいーなぁ……」
「ば、ばれてますぅ!」
ネコは自室で二人の夢を見ながら眠っていた。
◻朝 多目的広場
「きゃははははは!」
「こっちだよ~」
「まてー!」
「あはははは!」
朝早くから他所の土地から集まった子供たちは知らない子同士でも直ぐに馴染んで中央の一段上がった広場で元気に追い掛けっこしてはしゃいでいる。
簡易宿泊施設一階の食堂は昨日担当したメンバーが来て今日も同じメニューで販売しているが今後こちらはある意味ジャンクフードスタイルで行こうかと零司は考えている。
「一通り終わったか?」
「はい。私たちもそうですがお客様たちも大分馴れてスムーズに行ったみたいです」
ルールミルが分析を交えて淡々と答えた。
「お菓子作りが待ってるから抑えてるのかもしれないな。まあそれはそれで準備時間に余裕が出来て楽になるから構わないんだが」
「ではこちらは一旦閉めちゃいますね~」
イーノが窓口を閉じるとルールミルも外を確認して閉じる。
「それと広場の準備をするから全員手伝ってくれ」
手順を話し合い零司は地上百メートルに転移する。
他のメンバーは広場に居る人たちに準備をするから段の下へ降りる様にと伝えに向かった。
今回もエルたちと一緒にやって来たラナもエルに着いて行き一緒に声を掛けて回っている。
その時衣装が統一されていたお陰か直ぐに従業員として認識されて素直に言う事を聞いてくれていた。
全員が広場から降りたのを上空から確認した零司は先週の練習で使った機材をコピーで並べると最後に並べた機材と簡易宿泊施設の間に六畳くらいの段を創りそこにも機材を置いた。
ネコにその壇上へ上がる様に指示するとその真上に広場の幅の半分くらいのスクリーンが現れる。
何の支えも無く浮いているスクリーンに突然ネコの上半身が大きく映し出された。
ここまで次々と突然現れる機材などに驚く参加者たちだが子供たちは面白い見せ物であるかのように喜び親にあれが何なのかを訊いているが分かる筈も無かった。
「零司様これで良いのかにゃ?」
イベント会場で使われるマイクロホンや大型スピーカーよりもずっとリニアで自然な音声で聞こえるネコの大きな声に人々は更に驚く。
零司は調理中の楓の位置取りをネコにトレースさせて数々のカメラ位置を決めてゆく。
カメラと言っても物質的に存在する訳では無いので周囲からは全く感知出来ず悪用禁止と注意書きが必要な代物だが零司は神であり魔王なのでそれを止められる者が居ない以上はやりたい放題である。
しかし零司には下劣な欲求よりも中二病の願望を満たす素晴らしい事の方が断然魅力的でありそちらに時間を費やしているので魔王でありながら闇落ちする事は無いのである。
そしてお菓子作りの準備が終わった頃には簡易宿泊施設の北側通路に面する駐車場には楓たちと手伝いの学生たちが集合を完了していた。
◻
楓の説明と零司のカメラワーク、手伝いの学生たちによりお菓子作り教室は問題無く進み一時間半でドーナツとクッキーの二品を作る事が出来た。
そのあと三十分で客の入れ換えと材料と器具を補充して次が始まる。
今回この教室で使ったドーナツの型抜き器具はお土産として無償配布した事もあり参加者からはとても喜ばれた。
ただし、お菓子作りに必要な砂糖はあまり出回っていないので一人辺りに小分けされた砂糖一壺と制限を掛けて安価に販売もしているのだが同時に砂糖の持つ麻薬に似た特性を説明して注意を払う様に促している。
砂糖が持つ麻薬に似た特性とは何か。
まず第一に人間が生きる為に必要とはしない物であり多量に常用すると身体に大きな影響を与える物であると言う事が挙げられる。
摂取すれば疲れが取れたり頭がスッキリとしたり良い影響を与えるが度を越せば虫歯や糖尿病などの身体を蝕む存在であると言える。
しかも精神的にそれに依存し易く体に悪い影響が出ていると理解していても摂取を止められなくなる。
場合によってはこれが原因で死亡する事もあるのだ。
そして少なくとも砂糖を摂取しなければ虫歯にならないという事実が全てを物語っていた。
それ故に砂糖を使った物を食べた後は出来るだけ速やかに口を濯いで糖分が口内に残らない様にして歯肉が痛まない程度に歯も日常的に綺麗にしておく事を推奨している。
これは学校の一学年の生活の授業で教えているので二学年の生徒なら誰でも知っている事だった。
その後、二時間毎に繰り返される教室は途中参加は出来ないのでその間にやって来た者はバンガローへ誘導されて自分達の番が来るまでの間に食堂やモールで時間を潰したり今広場でやっている事を熱心に見ていたりするのだ。
一階食堂は広場の準備が出来た時点でスタッフに戻って貰い再開すると同時に食事の提供はネコにやらせて皿の回収は余裕のあるエルたちの方でやらせているが見ているだけだったラナは飽きたのか中の作業を手伝っている。
散発的ながらやって来る客にそれほど忙しいと言う事も無く淡々と進めながら空いた時間で親睦を深めるスタッフメンバーたち。
サーラは商取引窓口が失敗しないようにとモール内の状況視察や零司から教えて貰ったデータベース構築で今日の予想を立てていた。
ラチェットはネコの姿で背中にマルキウを乗せてモールと多目的広場を駆け回ったり人が寄り付かない少し高い場所で日向ぼっこしながら人々を眺めているがこんな姿を上司のスポークに見られたら説教されそうである。
ネコラチェットの背中に跨がっていたマルキウはラチェットのお腹に凭れ掛かるとポーチから出来立てのドーナツを取り出して美味しそうに頬張った。
その美味しそうな匂いに釣られて起きたラチェットは小さい精霊サイズでは食べきれないその残りをマルキウに貰って口にすると幸せそうに欠伸をして眠ってしまった。
リリは相変わらず管理室でゴロゴロとしながら大量のドーナツを口にして監視任務を続けている。
楓のお菓子作り教室を終えバンガローに戻った家族は出来立てのドーナツとクッキーを味わってとても嬉しそうな笑顔だった。
集まった客の中には他の街で商売をしている者や領主の召使いなども混じっており当然王城の人間も含まれていたりする。
多様な人たちを皆等しく扱いお土産も同じく配布されているので型抜き器具等は各街の鍛冶屋で直ぐにでもコピーされるだろう。
でもそれに待ったを掛けたりはしない。
現段階のこの世界では零司たちの世界の資本主義をごり押しする気は無いので甘々な経済観念であってもそこから生まれる問題は充分に解決出来る程度の余力がある。
その理由はこの世界の住人が極端に利己的な者が存在しないと言うのも挙げられるだろう。
遠い国々を船や商隊で渡り未開の地を切り開き命を懸けて富を求める様な極端な対価を求める者が居ないのだ。
大金を用意して貰っておきながら未開の地へ到着しても金になる物が無く文明が発達していない地域の人々を奴隷として連れ帰るといった事も無い。
大陸ひとつで済ませたこの世界の怠惰な創造主のお陰で他の世界では当たり前だった『より多くの信者を持つ者が優れた神である』と言う強迫観念による誘導を受ける事も無く平和そのものだったのである。
ただし他所の世界の神が自由に往き来出来てしまう最底辺の文明レベルではあったがそれも今や零司たちの降臨によって急速に他の世界との差別化が進んでいた。
恐らく十年後にはこの世界へと訪れる神が居なくなるのではないだろうかと言える位の速度で変化を遂げているのである。
このままこの世界の主神が帰って来ないとなると本当に戻れなくなる可能性があった。
大丈夫か主神スプロケット。
色々詰め込みすぎてかなり散らかってますね。あはは…( ̄▽ ̄;)
あとスプロケットの話は伏線ではありません。設定上も空気なのでw
それでは次回も少しお待たせするかもしれませんがよろしくお願いします。




