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98.忙しい零司

ブックマークありがとうございます! ヽ(´▽`)/

すっかり遅れてますすみません、言い分けはしませぬ。

 スラゴーの天幕が東の空にはっきりと見える頃、多目的広場の簡易宿泊施設は照明が点いて辺りを明るく照らしている。

 そのせいか一階食堂に集まっていた人々はお腹を満たした後も知らぬ者同士談笑していたり見た事も無い不思議な明かりの中で小さな子供たちはしゃいで走り回ったりしている。

 この頃になると食堂の注文窓口には客も来なくなり窓口が閉じられて外からは中が見えなくなっていた。



「零司様、回収終わったのにゃ」

 扉を開けて入ってくるネコ。

「全員揃ったな、それじゃ家に帰るぞ」

 その言葉と同時に席を立つ零司は全員を連れて白亜の館のエントランスに転移した。


 リビングへ移動すると楓たちは食事中で楽しそうに会話していた。

「戻った」

「(んぐ) っおかえりなさい零司、思ったよりも早かったのね」

 口の中の物を飲み込んでから応える楓に続いてサーラたちも挨拶する。

「お帰りなさいませ零司(ご主人)様」

 席を立ち零司の下にやって来るサーラは嬉しそうだ。

「その様子なら向こうは上手く行ったみたいだな」

「はい、全て零司(ご主人)様のお陰ですありがとうございました。どうぞお席へ」

「いや、俺はまだやる事があるからいい。それよりこいつらに良い物を食べさせてやってくれ」

「零司、『こいつら』は無いんじゃない?」

「あー済まん。彼女たちに特別美味い物を出してやってくれ。俺は向こうへ行ってくる」

「了解。さあ、そんな所に立ってないで席に座って。ネコも手伝って頂戴」


 零司は南棟のリビングを後にして北棟のリビング前に来た。

「お待ちしておりました。どうぞお入り下さい」

 クーリス(お付き長)が扉を開けるといつも通りに年老いた神待宮の関係者がソファに腰を掛けていた。

 その席でもいつも通りの地獄の蓋が開き若返った元老人たちの黄色い歓声が飛び交うのだ。


 零司は気付いて無いが元老人たちから、いや、神待宮の全ての女たちから我が神と崇められているのだった。

 ラチェットの父、スプロケットは三千年以上人々の前に姿を現さなかったので現状この世界における神として崇められるのはファーリナの四神だけでありラチェットはこれを把握していない。



 零司は多目的広場の簡易宿泊施設二階へとやって来た。

「お疲れさん、こっちはどうだ?」

 階段上がって直ぐのカウンターに一人で立っている男に話し掛ける。

「お疲れ様です零司様。今のところ半分埋まったくらいですね。皆さん疲れていたみたいでもう寝ているかもしれません」

「そうか。そろそろ日が落ちるからもうひと波来るかもしれないが頼むぞ。何かあったらこれを使えば応援に来る。それと差し入れだ」


 もうひとりの男もカウンターに立つ男の後ろで控えて二人の話を聞いている。

 男たちは学校とモールの両方に来ているが零司の事は学校では先生、それ以外では様付けで呼んでいる。

 そんな彼らが零司から受け取ったのはまるでリモコンの様な物体で真ん中に大きなボタンがひとつだけ付いた呼び出し装置だった。

 機能は単に零司が持つ専用受信機で呼び出し音が鳴るという物で実際に作動させて覚えさせると共に、夜食用にサンドイッチの詰め合わせと零司特製魔法瓶に入った紅茶とカップ類、それにサーラが商人たちに振る舞った菓子が付いていた。

「ありがとうございます!」

「ごちそうさまです!」

「そんなに騒ぐような事じゃない。一応夜中と朝に見に来るから頼んだぞ」

 二人に回復を掛けて疲れを取り除き次に向かった。



「来たぞ」

「おお、待ってました」

 掘っ立て小屋の様な建物の入り口前に突然現れた零司に柔らかく挨拶する白髪の老人。

 老人と言っても上半身の筋肉が発達して肌の色艶が良い(じじい)だ。

 長い髪は紐で縛ってあるが根本できっちりと留めている訳では無いのでかなりざっくりとしている。

 顎髭は生え揃っている様に見えるが実際は焼けているだけなのに何故かきちんとした体裁に見えるのである。


 その爺が零司を待っていたのには理由があった。

「これが今回の(ぶつ)ですな」

「ふむ……」

 作業用だとひと目で分かる分厚く傷だらけでいろんな色が滲み付いた大きなテーブルの上に高さ二十センチくらいの人形(ひとがた)の像があった。

 それは頭身の度合いで子供に見えるがヒラヒラの服を着ていながら手には剣と盾を持ち、その剣を高く掲げている。


「良い出来だ。これで行こう」

 手に持っていた木製の像をテーブルに戻した零司は許可を出す。 

 するとテーブルの向こうで若い男が無言のガッツポーズをした。

「聞いたな、ここからがまたひと仕事だ!」

「はいっ、がんばります!」

「はっはっはっは!」

 大声で笑う爺に背中を叩かれて若者は咳き込むが嬉しそうだ。


 この木工細工屋で作らせていたのはリリの像である。

 本人に許可など取ってはいないが零司がファーリナで進める利益還元事業に関わる基礎技術習得の一環で行われていた。

 これはその一端でありこの後も別の工房へ行かなければならない。



 ここは少し大きな工房で幾つかに別れているのだが、そのひとつの部屋は煉瓦で建てられており床すらも煉瓦で出来ていた。

 その中央には魔法使いが使う様な大釜よりも大きく分厚い釜が置かれてその周囲が一段高く盛り上がっていて更にそこから土竜が通った跡の様に盛り上がった床は一直線に工房の外に向かっている。


「言われた通りにはなってる筈だ」

 零司は現場長の言葉を聞きながら構造を透視して問題が無いかをチェックする。

 釜の底より少し上の周囲には幾つもの小さな穴が開いていて放射状に斜め上へ向かって穴が伸びている。

 その穴の先は窯を取り巻く太いパイプに繋がっていて、そのパイプが床に沿って工房の外へと続いていた。

「ふむ、ここは大丈夫そうだ。次に行くぞ」


 工房の外に出てひとの背丈程の階段を降りるとそこには水車小屋があった。

 木製の水車小屋に入ると外の水車から伸びる回転軸に沿ってその下に三つの四角い筒があり、そこへ釜があった工房から続くパイプが繋がっていた。

 ただ水車と伸びている軸とは直接繋がっておらず中間にドッグクラッチを挟み込んでいるので四角い筒がある軸は回っていなかった。


「動かしてくれ」

 零司の言葉に現場長はそこの担当だろう男に合図すると男はクラッチを操作して軸を接続した。


 (ガゴンッシュゴーシュゴーシュゴーシュゴー……)

 軸の回転に合わせて四角い箱に突き刺さる棒が上下する。

 箱はをれぞれタイミングが等分にずれながら空気を吸い込みパイプへと吐き出す。

 三相圧縮された空気が単相よりも滑らかな送風を可能としていた。

 パイプは木製であり気密を保つ様々な工夫がなされているが現代日本の様に簡単に気密を維持出来るとは言えない。

 そこで稼働状態で工房を含めて透視すると空気の流れを可視化したり送風圧で変形するパイプを変形度合いに応じた色分け表示でチェックしたりと継続使用に耐えるのかを見ている。

 そして工房の釜が本来の使用実態に沿ったシミュレーションを行い僅かな時間で数百の異なる条件を与えて繰り返したが重大事故に至る結果は出なかった。

 小さな事故は幾つか確認されたがそれも事前に注意を払えば充分に安全の範囲内に収まると判断出来た。


「止めてくれ」

 満足そうな顔をしている零司を見て現場長は安心した。

「これなら百回以上は持つだろう。まあ百回あれば充分に用が足りるな」

 緊張していた者もこれで肩の力を抜く事が出来た。

「後は型作りの方を頑張ってくれ。俺はこれから材料の回収に向かう」



 地上百キロメートルから大地を眺める零司は各街に配布したある物の所在地を探して走査(スキャン)する。

 全ての位置を特定すると手を翳して対象を一覧にして評価するとその場で全部まとめて一気に回収した。

 そして評価した査定額と配布したある物を商取引窓口で使われる箱に入れてそれぞれの場所へ戻す。

 神からの依頼と自分達の未来の為に使われるのを知っているのもあり各街の人々は極めて協力的で品質や採取に関する制限などをきちんと守ってかき集めてくれた様だ。


 各街に配布されたのは永久磁石であり砂鉄集めに使って貰ったのだ。

 これさえあれば砂鉄など取り放題なのだが持ち歩きに負担が無い程度の大きさなので集めるのには時間が掛かった事だろう。

 そしてもうひとつ、上質な炭だ。

 この二つが揃えば何をするかは直ぐに分かるだろう。

 答えは製鉄だ。


 利益還元事業で実施する冬期講習会の中で使うのと同じ釜をおみやげ(・・・・)に用意する事になっているのでその材料集めをしていたのだ。

 釜を製作する時に極力その土地の素材を使おうと思っているので素材は街の名前を付けたフォルダに突っ込んである 後は出来上がった釜を間違えない様に渡すだけだ。


 今回集まった素材は全てシミュレーションで導き出された要求項目を余裕で満たしているので製作に問題は無い。

 問題が出るとすれば製造段階以降なので失敗した時の為にコピー素材を使うのは当然とする。


 素材の回収を終えた零司は今度は地球全体を走査する。

 毎日数回の定時走査でマントルの動きから海流、気候変動、魚、動物の動き、植物の変遷までもデータベース化して行く。

 これは新しい大陸を創り出すのに重要な事だと考えているのだ。


 例えばどこかの海底を陸地になるまで持ち上げたとしよう。

 その時その場所に依存していた生物は移動させるとしても、海面上昇、海流や新たな陸地の出現による気候変動、そしてマントルの対流に大きく影響を与えた事で生じる地震や全く予期しない自然災害の発生を考えるとどうしても充分なデータを元にしたシミュレーションを必要とした。


 その一方で零司が『これでOK』と思えばそれが正常に機能するかもしれないしまたはサーラの権能の様に正常ではなくても正常と認識されてしまうかも知れないのだがそれでは零司たちの異世界転移と同じで余りにも行き当たりばったり過ぎる。

 少なくとも天地創造自体は問題無く実行出来てもそれは『人が居ない場所なら』の話でしかないのだ。

 それだけに元の世界への帰還に費やした時間や力と同じくこの世界に住む人々の生活や未来に自然発生的な意味での悪影響が出ない様に慎重に事を進めているのだ。


 そもそも今の大陸でさえ人口を支えるのに全く問題無いのに何故こんな事をしているのかと言えばこれから到来するだろう高度な文明社会の構築にはそれなりの土地と人間そして資源が必要だからだ。

 特にエネルギー問題は重要であり石油を用いるとすれば人手の不足と重工業化は不可避であり一時的であれ土地や空気が汚れる未来を受け入れる必要がある。

 その汚染も出来るだけ悪影響を少くする為に広大な土地が必要なのだが汚染を回避するのに最も適しているのが神術と魔術でこの二つの力は行使の際に汚染物質を排出せず極めてクリーンなのだ。


 二学年の選択教科で神術と魔術の授業を教えているが今のところ零司の力を込めた神光石を使っても小さな術の行使しか出来ずシミュレーションを用いてもあまり大きな力を持てる様になれる結果は出ていない。

 授業参加資格であるあのテストを零司の予測を上回る人数で合格者が出たその生徒たちもまだ五回の授業では変化と呼べる違いは出ていない。


 だがその反対に魔術では神光石を使わなくても人本来の力で神術を大きく上回る術の行使を確認した。

 具体的にはファンタジー作品でよく使われる生活魔法と呼ばれる小規模な魔法だ。

 薪の火付けや料理に使う水の確保に加え緩やかな風や踏み締めていない土の僅かな掘り起こし程度なら出来る生徒が出て来た。


 この生徒だけでなくこの世界の全ての人の魔術適正を調べてみたが、誰一人として魔術に関する記述を見つける事は出来なかった事から魔術に関してはそれがどういう物かの認識が確立しないと適正と言う概念その物が存在しないと言う事なのだろうかと考える。

 少なくとも神術の適正はインフォメーションチップで確認出来たしそもそもこの世界では神が実際に人の前に現れる。

 神術自体はかなり古くから認識されていたので魔術とは土台が異なっていた。


 そして魔術とはその名の示す通り『魔の(すべ)』である。

 この世界に魔物や悪魔は存在しないが魔王は存在するのだ。

 それにリリが『焔の魔神』と呼ばれ、実際にあの姿と術は魔術で形作られていたのだ。

 リリの世界では魔術が発達していたのでもしかしたらリリがやって来た時にこの世界に新たなガジェットとして魔術が組み込まれたのかもしれないがそれは今の零司には判らない事だった。

 この魔術を使える人間がどれ程いるのかは未知数だがこの人数と能力次第では新大陸も汚す事無くより高度な社会を創れるかもしれないのだ。


 だがどんな前提であれ、零司は新大陸創造と言う中二病全開のイベントをやってみたいとかなり乗り気であった。

零司の大体いつも+αと今回は時間を取られる作業自体は少な目な感じの夜でした。


次回は当然お菓子作りイベントになる、と思います。


※この中で描かれる製鉄炉は「たたら製鉄」の炉であり、大衆浴場の風呂釜を鋳造出来る量を得られません。大量の鋳造を行うには転炉や高炉と呼ばれる炉が必要になります。

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