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10.来訪者

 楓が創ったメルヘンチックな家へと誘われて移動しようとしたとき、遠くから人の声が聞こえた。

「ラチェット、この辺りに誰かいたのか?」

「えっとすみません、そこまで把握していませんでした。それに普通高い場所は生活に不便で人は寄りつきませんし」


 零司は声が聞こえた方を見る。

 『この辺の人を探せ』

 やや右、岩棚が一段下がった向こう側を二人の若い男女が歩いているようだ。

「二人いるな」

「零司、その二人は何してるの? 街までは遠いんでしょラチェットさん」

 振り返って聞いてみる楓にラチェットもちょっと困惑しているようだ。

「はい、今から街まで歩いても着くのは明け方くらいですね」

 そしてその二人を観察していた零司も答える。

「直接見えないがまだ中高生くらいだな。

 それと食料を持ってるぞ」

 楓がちょっと反応したようだ。

 様子見がてら腹を空かせた楓のために行ってみるか。

「ちょっと様子を見てくる。楓とラチェットは家で待っててくれ。ネコ、行くぞ」

「ネコも行くのにゃー」

「気を付けてね、行ってらっしゃい」

 そう言って零司を送り出してからあることに気付いて顔を赤くした。

 そしてなぜ零司は見えない相手のことが分かるのかなど今の楓にとっては気にもならない。

 なぜなら今の零司ならその言葉を信じられるからだ。

 確かにネコの予期せぬ問題は発生しているが『それはそれ』なのだ。



「おおー!近くで見るとホントに大きな建物だなぁ」

「きっと神様が作ったんだわ。あのキレイな光は絶対神様が降りてきたのに違いないもの」

「だよね、あれなら街からでも見えたんじゃないかな? もし神様に会えたら中を見せてもらえるかな」


 零司達一行から離れた段差の下側に十五六歳くらいの男女が歩いている。

 二人の目的地はネコが打ち立てたマンションだった。

 男は特に特徴のない普通な感じで女は男より少し背が低くポニテだ。

 服装は二人ともシャツとズボンの上に腿までのオーバーオールを重ね短い前掛けとリュック状の大きな袋を背負っている。

 山へ採取に来た者達のようだ。

 グループ間には丁度線引きしたように人が乗り越えられない段差がある。

 そのせいで迂回せざるを得ず声は聞こえても段々遠ざかっていた。

 そしてこの二人は揃ってマンションと足元を交互に見ながら進んでいる。



「零司様、ネコは何すればいいにゃ?」

 目の前を歩く零司の後を歩きながら訊ねる。

「お前は俺の横であいつらに顔を見せておけばいい。こちらも女連れなら警戒心も薄れるだろうしな」

「分かったにゃ」

「そろそろご対面だな」

「ご対面なのにゃ!」

 ご機嫌なネコは零司の左腕に飛び付くように抱き着きご満悦である。


「よお、君達はどこから来たんだ」

 零司は来訪者二人の少し前方、岩の上から姿を現して声を掛けた。

「ひゃわっ!」「うわ!」

 女が零司の声に驚き、その声に驚く男。

 岩の上から飛び降りると抱き着いたネコが重力反転して衝撃を打ち消す。

「あー、驚かしてすまん。ちょっと話がしたいんだがいいか?」

 二人とも零司に話し掛けられたとき丁度後ろの方に見えるマンションを見上げていたので前方に出た零司に気付かなかった。

 女は奇声をあげてしまい恥ずかしそうに男の後ろに隠れてしまう。

 しかし男の方は背中を押されてるのが良く分かるくらいに揺れている。

「は、はいっ!」

 外れてはいないのだが男は相手が神様だと思い緊張していた。

「それじゃ遠慮なく。もう夜になるこんな時間にこんな所へ何しに来た?」

 男は零司の横にいる猫耳のネコに驚きながらも答えた。

 


「空から光が落ちた後にこれ(マンション)ができたから気になって来たのか。なるほどな、それじゃ家は近いのか?」

「いいえ、街に近い山際に住んでます。山の中腹くらいで採取をしてたのでそこから来ました」

「それじゃ帰りが大変じゃないのか?良ければ朝まで俺達の家で休んでいくと良い。それに明日街まで案内してくれると助かるんだが。報酬もきちんと払うぞ、これで良ければだが」

 そう言って懐に手を突っ込んで小さな石を取り出す。

 男は石ころを見て怪訝な表情で見る。

 後ろに隠れていた女も男の横から顔を出して石を確かめた。

「これは何ですか?」

 まさか報酬がただの小石ではないだろうと失礼がないように確認した。

「これはな」

 零司は少しニヤけて石を足元の一枚岩に置き、近くにあった大きめの石を上から落とす。

 小石は大きく火花を散らし弾けた。

 もちろん楓と離れてここに来るまでの間に試した不可視シールドで回りを囲ってあるので割れた石片が飛び散る事もない。

 落とした大きな石を退()けるとそこには全体は見えないものの神光石が見えていた。


「これは… 神光石だわ!」

 直接見たことがなくても光が宿っていたので分かったのだろう。

 そして光が宿るということは近くに神がいる証拠だ。

「これを報酬としたいんだがいいか?」

 神と思われる人物から直接報酬を賜る機会などほとんどあり得ない。

 それに想い到り声も震える男。

「こ、こ、こんな貴重な物を、本当に良いのでしょうか?」

「ああ、もちろんだ」

「ありがとうございます! こんなに素晴らしい物なら教会に持っていけば街の皆も喜びます!」

 思ったよりも価値があったようで何よりだ。

 これで道案内は大丈夫だな、なら次は食料だが。

「ところで何か食料は持ってないか? 何も持たずにここまで来たから今日は何も食べてないんだ。良ければ分けてもらえたら嬉しいんだが」

「それなら採取に来てたんで二人で二三日分くらいならありますよ。ただお腹が膨れるかと言われると厳しいですが」

「大丈夫、それで十分だ。それじゃ家に行くから着いてきてくれ」


 ここはまだ暫く先まで上に上がれる所がない。

 そこでネコに階段を作るように命じた。

「零司様できたにゃ」

 マンションを一発で打ち立てたのだからこれくらいなら簡単なのだろう。

 何せ元は工事現場で使われていたネコ(一輪車)なのだから。

 そのネコは嬉しそうに零司に抱き着き頭を擦り付けている。

「よくやった」

 そんなネコの頭を撫でて壁面をえぐるようにできた階段を登る零司。

 当然ながら街から上ってきた二人は神の力など見たことがない。

「え、ええええええ!」

 男は呆然として声も出ないようだ。

「あ、すまん、気にせず着いて来てくれ。家に着いたら仲間を紹介するよ」

 零司は呆然としている二人を置いて家に向けて歩き出す。



 楓は皆がリビングで寛げるようにと猫のソファを改良した。

 二人が余裕で座れるサイズのソファ二つを向かい合わせて設置する。

 外で創って二人で運び込み、位置決めしてやっと一息ついたところだった。

 コンコン

「帰ったぞ」

 扉を開けて入ってくる零司。

 立ち上がり零司に近寄る楓。

 楓を見つけて抱き着くネコ。

「ちょっ、ネコ、もう、仕方ないわね。おかえりなさい零司、ネコ。どうだった?」

 自分そっくりのネコに戸惑いながらもやさしく撫でながら聞いてみる。

「話はしたが暗くなるしとりあえず連れてきた。家に入れても良いか? ダメなら向こうに連れていくが」

「いいけどどんな人たちなの?」

「普通だし問題ないと思うぞ」

「そう、なら良いわよ」

「と、言うわけだ。入ってくれ」


「み、皆さんはじめまして。僕たちは麓の街の近くで暮らす夫婦で僕はギャロ、こっちは妻のミティです」

 ネコにそっくりの楓を見て驚き、更に天使のラチェットに驚く二人。

「紹介ありがとう。遅れたが俺は零司だ」

「わたしは楓よ」

 自分達より年下のギャロとミティが結婚していることに楓は驚きながらラチェットに新婚と言われたのを思い出して少し恥じらう。

「わたしはラチェットと言います」

「ネコはネコにゃ!」

「何もないがとりあえず座って寛いでくれ」

「あ、椅子とテーブルが足りないわね。

 直ぐに作ってくるからラチェットさん手伝ってくれる?」

「はい、行きましょう」

 既に手順も操作も慣れあっという間に作り上げると部屋に持ち込んだ。

 それをまた呆然と眺める二人だった。



「やはり皆さんは神様だったのですね」

「ああ、そうらしいな」

「そうですね、こちらの神様はなかり珍しい来訪のされ方をしましたので今までとは違ったことが起きるかもしれませんよ。わたしはそれを楽しみにしているんですけどね」

 何か嬉しそうにしているラチェット。

 どうもこの世界では神が来訪するのは一般人でも知っていることらしい。

「あちらの大きな建物も神様が建てられたのですよね?」

「はい、あれはこちらのネコさんがお建てになりました」

 ラチェットは隣に座るネコに手を向けて紹介する。

「そしてこちらの可愛い家は楓さんがお建てになられたんですよ」

 零司の左に腰を掛けた楓は照れながら『お恥ずかしい』とか言っている。

 説明したラチェットは自分のことのように喜んでいる。

 しかし、零司の建てた館は紹介しようとはしない。

 なぜならどう見ても禍々しい悪魔の住む館にしか見えないからだ。

 もし来訪者の二人が気づいてないのなら是非スルーしたかった。

評価ありがとうございます。

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