食卓
「ただいまー」
玄関の方から声が聞こえた。ソファから立ち上がり、廊下に繋がるドアを開ける。
「おかえり。尚ちゃん、大樹君。もうすぐご飯できるってさ」
尚ちゃんから白杖を受け取り、折りたたむ。大樹君が尚ちゃんの手を引いて部屋まで誘導していく背中を見つめた。
「大樹君身長伸びた?尚ちゃんより高くなってる」
この家に大樹君が住み始めた時は尚ちゃんより低かったと記憶している。173cmの尚ちゃんより高いとなると、もう175cmはあるのではないだろうか。
「そうなんよー、俺もビックリしたわー」
嬉しそうに笑う大樹君と「マジかぁ」と悔しがる尚ちゃんの後ろ姿に「早く戻っておいでね」と声をかけた。今日は皆大好き肉じゃがだ。キッチンの方からお母さんに呼ばれる。
「紫苑さーん、はよ戻ってきて箸並べてー」
「はいよー、今行くー」
八膳の箸を持ってテーブルに並べていく。同居歴がそこそこ長いからか、どれが誰の箸かなんてもう考えないでもわかるようになっていた。慣れって恐ろしい。
皆テーブルに揃ってご飯を食べ始める。隣の心葉の話を聞きながら静かに咀嚼をする。そんな時、心葉が思い出したように爆弾を落とした。
「そう言えば母の日にあげた花束さー、なんではやとんはカーネーションにしなかったのー?」
喉がグッとなった。正面のお母さんが驚いたようにこっちを見る。心葉は気付かないで話を続けた。
「やっぱ母の日といえばカーネーションだと思ってたからすごい謎でさー。薊の花言葉ってなんかあったっけ?」
花束は実家からの帰り道に花屋があった心葉に買ってもらった。はやとんが心葉に変更を頼んだのは知っていたし、わかっていたからこそここでその話が出るとは予想だにしていなかった。
「あれって、紫苑さんじゃな…」
「独立」
口を開いたお母さんに被せるようにはやとんが声を上げた。いつもの3倍は大きな声だった。
「薊の花言葉は独立だよ。竜也さんにピッタリだよね。もちろん他の意味もあるけど、俺はそういう意味であげたつもり」
はやとんと心葉が紫苑さんを挟んで会話をしている。視線は目の前のグリーンピースのまま箸を動かす。目の前からの威圧は気にしない。もちょもちょと白米を噛み、飲み込んだ。箸でグリーンピースをつかみ、口に放り込む。
「ごちそーさまでしたぁ。お皿は流しに置いといて。後で洗っちゃうわ。紫苑さんはちっとコンビニ行ってきまぁす」
立ち上がり、キッチンへ向かう。半ば投げるように皿を流しの桶に入れた。茶碗がゆらりと沈む。
「何かついでに買ってきて欲しいものとかある?」
テーブルについている7人に声をかける。特に無いようだ。それぞれ首を横にふったり、大丈夫と返してきた。
「じゃー行ってきまーす」
玄関でポッケの中身を確認しながらリビングに声をかけると、六人分の「行ってらっしゃい」が聞こえた。




