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平日昼間

「人生字を識るは憂患の始め、という言葉を知ってるか?」

いつも通りパソコンを構いながら、背中合わせの灰色パーカーは声をかけてきた。平日の昼間から部屋に引きこもり、ダラダラとしゃべくりながら酔生夢死の過程を歩んでいく。

「あー、何も知らんほうが生きてくのが楽だっていうやつだっけ?字を覚えて学ぶといろいろな悩みが増えてくとかなんとかかんとか」

なんとなくで覚えている意味を口に出す。それがどうかしたの?と振り返ると、向こうもいつものジト目でこちらを見ていた。

「何も知らず盲滅法に生きていくのと、色々な事を知って怯えて生きるのでは、どちらが楽なのかなと思ってさ」

自分が首を傾げたのがなんとなくわかった。行動は無意識でも、首が右に傾がっているのも、目をいつもより少し開けて驚いた顔をしたのも、自覚してしまう。

「僕は、前者になりたいな」

ジト目の瞳が微かに揺れた。はやとんの首の後ろに手を回し、フードを掴んで乱暴に被せる。

「はやとんが後者みたいだから、そうすればバランスがとれるでしょ?」

歯を見せ、目を糸みたいにして笑うと、はやとんの口角も少し上がった。

「そう、だな。仕方ないから俺が紫苑さんの手綱を握っててやるよ」

「はやとんなら安心だねえ」

自分のパソコンに向き直る。少しずつ文字の並びが整ってきている文が目に入った。それでもまだ、意味の持たないものが多すぎるな。

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