ありふれた平日の朝
「ほら、起きて。紫苑さん」
体を揺すられて目を開けた。目覚めきっていない視界にぼやけたお母さんがいる。
「紫苑さん、夜更かししたでしょ。目の下のクマやっばいよ」
うつ伏せのまま眼鏡をかけながら向けられた鏡を覗き込む。目の下が少し黒くなっている。
「…お母さん、パンダがいるぞ」
「それはお前だ、紫苑さん。俺もう学校行くから」
お母さんはそのままドアに向かった。いつも通り、を装っている。昨日の薊を気にしているのか。
「…薊の花言葉ってさ、触れないで、らしいよ」
ドアに手をかけたお母さんが振り向いた。眉間のシワが深い。
「お母さんにピッタリじゃない?」
こちらを睨む三白眼がそらされた。伏せられた目は震える拳を眺めている。僕はその様子をいつもの薄ら笑いで見据える。
その拳と一緒に、腹ん中全部ぶつけてくればいいのに。
「…行ってくる」
いつもより低い声で、お母さんはそう告げた。
「行ってらっしゃい、竜也君」
ドアが閉まり、足音が遠ざかる。それを聞きながら重力に従って頭を下げた。
「百年河清を待っていたって仕方がない、か」
ウチの参謀はまだ寝ているだろうか。忘れないうちに話しておきたいのだがな。




