2人の時間
深夜2時。学校や仕事に行く人達は寝静まっている時間。大抵この時間に2人は話す。
「流石に薊はアウトだったねー。お母さん、花言葉調べたらしいよー」
かたや、不登校を極めた主人。
「マジか。何か言われたの?」
かたや、24時間365日無休で引きこもる参謀。この時間に起きて日常生活に支障をきたさない人間達。
「アレ、花言葉は復讐じゃん?何を気にしてるのかわからないけどさ、お母さん、紫苑さんが何か復讐してくるんじゃって疑っててさ」
電気の消えた暗い部屋、2人のパソコン画面だけが明かりを放つ。
「薊は見た目綺麗だけどね。綺麗な薔薇には棘があるってか」
はやとんは背もたれに体重をかけた。安物の椅子がギシギシと音をたてる。
「薊だってば」
はやとんのメガネにうつる文字を眺める。絶えず変動する数字達。その奥で瞬きするジト目。眉間にシワが寄っている。目薬を買い与えた方がいいだろうか。
「あまり見ないでくれるかな?そういうの慣れてないから、紫苑さん相手でも照れる」
左手で顔を隠すはやとんから目を背けた。
「ごめんごめん、やっぱはやとんイケメンだよねー。告白とか受けないの?」
数字達の奥の眼光が1段とキツくなった。ああ、触れてはいけない所だったか。
「俺は前から好きな人いるし…それに、引きこもってるから告白してくる人なんていないよ」
僕は自分のパソコンに視線を戻した。意味を持たない文字列が乱れ散っている。
「…そうか、愚問だったね」




