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カーネーションと薊

「いやー、お母さんが紫苑さんのお出かけに付き合ってくれるなんて珍しいねー」

不機嫌そうな顔で斜め後ろを歩く男の子を見た。眉頭が寄りすぎて眉間のシワが深い。

「合意のもとではないがな。その馬鹿力どうにかならないのか」

僕は買い物の後、他の3人より早めに家に帰ると、担ぎ上げるようにお母さんを連れ出した。今頃家では3人がカレーを作っているはずだ。

「俺はこれから晩メシ作らなきゃいけないし、課題も残ってるし…まあ不登校の人間にはわかんないんだろーけどっ」

振り返ってブツブツとボヤくお母さんの鼻をつまんだ。よりいっそう鋭い目で睨まれる。気の抜ける笑顔を意識する。

「おかーさん、眉間にシワ寄ってるよー。それに、人は笑ってる方が可愛いよ」

パッと手を離し、眉尻を下げる。口角を上げて、情けない笑顔を作る。

「…俺、男なんやけど?」

「まーまー、ウチの子皆可愛いからー」

あんまり中身の無い返事を返し、その辺をフラフラと歩く。お母さんはアヒルの子の様に着いてくる。

「なんだかんだ言って、帰らないもんねー。紫苑さんのこと大好きかよー」

「お前を放置したら何があるかわからないからな。晩メシは最悪紫苑さんの奢りで外食にしよう」

スマホを見る。もう夕食の時間帯だ。

「それは嫌だなー。そろっと帰ろーか」


家に入るといい匂いが漂っていた。お母さんが驚いた顔をしてる。先程お母さんがメッセージアプリのグループトークに誰か晩御飯を作って欲しいと書いた時は皆拒否した。

「あー、帰ってきた?おかえり」

大樹君が玄関横のリビングの扉を開けて出迎えてくれた。

「ただいまー。皆揃ってる?紫苑さんは1回部屋行ってくるから先準備してて」

スリッパに履き替え、階段を上がり、一番奥の自分の部屋に入る。棚の中から一つの箱を取り出す。綺麗にラッピングされた小さな箱。

「…ま、喜ばないと思うし、渡せる気はしないけどねー」

そのまま元の場所に放り込んだ。家の鍵を机の所定の位置にしまい、リビングに戻る。

「お、戻ってきた。早く食べよーぜ」

ドアに近い和己さんが僕が戻ってきたのに気付いた。席につくと、各々カレーを食べ始める。目の前の席のお母さんがこっちを見てくる。薄ら笑いを浮かべつつ首を傾げると、視線をそらしてしまった。

「ま、母の日だしね」

それに気付いていた隣の心葉が机の下から小さな花束を出した。6本の赤い、カーネーション。その中に1輪、薊。

「おお…ありがとう」

お母さんは素直にその花束を受け取った。いつも言う「俺はお母さんじゃない」の言葉も飲み込んだように見える。3人が作ったカレーも、心葉が手渡した花束も、やけに素直に受け取った。

「いっつもありがとーねー」

ヘラっと笑うと、目の前の男の子も少し笑った。

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