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お母さんの日

季節が全然違いますが、この物語の始まりは本当に年度の始まり辺りの設定なのであしからず。

「人参、ジャガイモ、玉ねぎ…」

「大体揃ったんじゃね?レジ行こう」

カゴの中身を確認してると、はやとんに袖を引かれた。その逆の袖を大樹君が掴む。

「カレールー買ってないやん。今楼君に取り行かせたから待っとこ」

「やべー、気付いてくれてありがとう」

両方の手を離させて大樹君に礼を告げる。しっかり者がいると助かるなぁと思いつつ、カゴを持つ手を変えた。

「竜也さんは今日が母の日だって気付いてる?」

サラっとカゴを受け取り、はやとんが聞いてきた。重いでしょ、だって。イケメンかよ。

「それは知ってると思うよー。尚ちゃんと和己さんは母親に会いに行ってるし、心葉は電話してた」

んーと考え込むような声を出すと、はやとんはそのまま脳内宇宙モードに入ってしまった。

「ルー持って来た…うわ、勇人さん宇宙モード?」

戻ってきた楼君が嫌そうな声を出した。この家1番の天才と言われるはやとんが考え込み、凡人ではわからないような高度なのかなんなのかよくわからないことを脳内で練ることをこの家では宇宙モードと呼んでいる。一度何を考えているのか聞いた楼君は、1晩よくわからない話を聞かされるという被害を受けた。今でもそれはトラウマ(笑)として残っているのだろう。

「早くレジ行こうぜ、もー勇人さんの宇宙モードに巻き込まれたくない」

カゴを半ば奪い取るようにして持ち、大樹君を引きずってレジに向かう楼君の背中を見送る。男の子とは言え、まだ中学一年生だ。親から離れて暮らすのは、辛いだろうか。

「あまり楼君の前で母の日の話題を出さない方がいいかな」

はやとんに話しかけると、パーカーのフードを掴まれた。そのまま移動しながら返事を待つ。レジの前からある程度離れた所で声は聞こえた。

「…楼君のここに来た理由は聞いてないけど、あの様子じゃ竜也さんを母親として割り切ってはいないからな。この手の話は大樹さんと俺だけで留めておいた方が懸命に見える」

今朝、"母の日"だからお母さんにカレーを作ろうと言った時、楼君は1番に顔をしかめていた。

「ウチの天才が言うんだからそうなんだろうな」

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