表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/21

おやすみ

「ほら起きろ馬鹿野郎」

ドアが開閉する音で目が覚めて、声と共に頭に拳が叩き込まれた。普通に痛い。

「…お母さんおはよ」

僕の膝を枕に和己さんが寝ている。風邪を引かないようにかけられたパーカーは右手で握りしめられていて、取れそうにない。

「おはよう、じゃない。こんな所で寝て馬鹿じゃないの?酒まで飲んでさ」

そう言いながら缶を持ち、キッチンに向かうお母さんを眺めた。これから皆の朝食を作るのだろう。眠そうなのに、ほぼ毎日任せっきりで申し訳ない。和己さんの頭をそっとどけて立ち上がった。

「朝食、いいや。紫苑さん今から寝直す」

ヨロヨロと歩くと派手に壁に衝突した。ぶつかったおデコが痛い。

「うるさっ…ちゃんと目ぇ開けて歩けよ。朝食要らないならリンゴ切っとくから。起きたら食べろよ。ウサギでいいの?」

初めてリンゴを切ってもらった時、ウサギのリンゴがいいと言ったのをまだ覚えているんだろうなぁ。

「いや、大丈夫。ありがと」

ドアノブの位置を感覚で探り当て、そのまま手探りで風呂場に向かった。洗濯機の横の水道で手を洗う。コンタクトをしたまま寝るとは不覚だ。目が痛い。

「…紫苑さん、おはよう」

コンタクトを外し終え、眼鏡をかけながら振り向くとはやとんが立っていた。なんだか不機嫌そうだ。

「おはよう。なんだか虫の居所が悪そうだね」

はやとんはパーカーをぬいで肩にかけてくれた。半袖のTシャツにサロペットだけで寒かったので、ありがたく腕を通す。

「寝不足なだけだよ。それより、俺の部屋来てもらっていい?」

んあー、と欠伸混じりに返事をした。クスッと笑われる。

「眠そうだね、おんぶしようか」

しゃがみこむはやとんの背中に体重を乗せた。身長は代わらないのに背中が広い。フワッと立ち上がるはやとんは珍しく男らしく見えた。

「はやとん引きこもりのくせに謎に体力あるんだよなぁ。鍛えてるの?」

「まあ健康的に生きたいからね」

ふふふと笑いながらはやとんの肩に顔をぐりぐり埋めた。階段を上がる音が心地いい。

「あれ、勇人さんおはよう。紫苑さん寝てるの?」

ドアの開く音と共に、楼君が声をかけてきた。珍しく早起きだ。昨日は夜更かしをしなかったらしい。

「おはよう、リビングで寝落ちてたからおぶってきた」

「そっかー。話したいことあったんだけど…」

楼君の声が少し低くなった。ずり落ちつつある僕をおぶり直しながらはやとんが答える。

「メッセージアプリで送っといたらどうかな。紫苑さんのことだし起きたらすぐ見るよ」

返事を聞いて、その場を後にした。廊下を進んではやとんの部屋に入る。そのままベッドに降ろされた。

「とりあえず寝たら?徹夜したんでしょ?スマホ充電しておくから」

ポケットの中のスマホをはやとんに渡し、そのまま目を閉じた。

「おやすみ、はやとん」

「…おやすみ、紫苑さん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ