モモの成敗記録
こんにちは。
まずは自己紹介をば、失礼致します。
私の特徴は、なんといっても愛くるしい目。小さな体と華奢な手足。栗色の毛はふわふわです。
誰もが私の虜になること間違いなしです。
ああ。きっと誤解なされるでしょうから、先に言っておきます。
私、初老のおっさんです。
そして、人間ではありません。
とは言っても、私は人間の体を手に入れたのです。
「早く人間になりたーい」と某妖怪人間の物真似をしていたら、本当に人間になっていたのです。世の中ってすごいですね。
え? 元々何者だったか、ですって?
私の特徴を思い出して下さい。答えはひとつでしょう。
私、チワワだったんです。
さて、なぜ私が某妖怪人間の物真似をして「早く人間になりたーい」などとのたまっていたかというと、人間に恋をしたからなのです。
チエちゃん。
私に似たつぶらな瞳で、桃色のほっぺをしたかわいらしい方。
私は彼女に愛を伝えんがため、こうして人間へと姿を変えたのです。
しかし、愛を伝える前にやらねばならぬことがあります。
目の上のたんこぶがいるのです。何をするにも邪魔でやっかいな存在。
彼女に愛を告白する前に、やつを成敗せねばなりません。
というわけで、私は今現在、ここにいます。
「……おっさん、誰?」
紹介しましょう。もう昼過ぎだというのにパンツ一丁で寝ているこのわいせつな男こそ、私の飼い主、カズオです。
「おっさんではありません。モモです」
あ、私の名前です。名は体を表すと言いますが、まさにその通りな名前でしょう?
「モモ? おっさんのくせに、キモッ」
お前にだけは言われたくありません。
「あんた誰だよ? なに人んち勝手に上がってんだよ」
もさもさ頭をかく姿は、マリモのようです。こんなナリのくせに彼女がいるなんて生意気にもほどがあります。しかも彼女は私の愛するチエちゃんなのです。今すぐ成敗して海の藻屑にしてやりましょう。阿寒湖で眠るが良い。
なんてことだ。阿寒湖は湖だ。
「私はあなたが飼っていたモモです」
「モモは老衰で死んだんだぞ! なんでモモのこと知ってんだよ!」
老衰とは失礼な。私はまだまだ現役バリバリです。去勢されてますが元気です。
やはり成敗奉らん。お前はもう死んでいる。
「私がモモなのです。死んだように寝ていたら、人間になりました。世の中は摩訶不思議」
私がモモであるという証明を話すことにしました。私が集めたカズオの弱みをご披露です。
カズオは顔を赤くしたり青くしたりして私の話を聞いていました。
非常に気持ち悪い顔をしておりました。やはり抹殺せねばなりますまい。
「……で、お前が本当にモモだとして、何しに来たんだよ?」
「あなたに言いたいことがあったのです」
そうです。カズオには言いたいことが山ほどあります。
「私のゴハン、緑黄色野菜入りのぺディ○リーミキサーにして下さい。こう見えても健康にはこだわりたいのです」
「死んでんじゃん」
なんということでしょう! 緑黄色野菜入りのぺディ○リーミキサーを食べられないなんて! まさかのビフォアアフターです。
「私がもよおしている時に、ニタニタ笑いながら見るのはやめて下さい。変態ですか」
「見てねえよ!」
顔を赤くしました。変態で確定です。おっさんがふんばってる姿をニタつきながら見るなんて、どう考えても変態街道まっしぐらです。
「ム○ゴローさんの真似して『よーしよしよし!』とやるのはやめて下さい。似すぎています」
「う、うるせえ」
面差しも似ています。将来はム○ゴロー王国を作るとよいでしょう。そしてライオンに食われろ。
その時でした。玄関のチャイムの音が聞こえてきたのです。
この足音! どう考えても愛しのチエちゃんです。
私は即座に玄関へまっしぐらです。こういう時に作る表情というのは非常に大事です。
まずはお目目を最大級にウルウルさせます。そして、キュウンと一鳴き。この時、舌を少し出すとさらにキュートです。
明日からぜひ実践して下さい。
そんなわけで、私は死ぬほどきゃわいい顔でチエちゃんを出迎えたわけです。いつもならチエちゃんは私をすぐに抱きしめてくれるのですが、今日は違いました。
「なにこのちっこいおっさん! キモッ」
幻聴です。もう初老ですので。
早くチエちゃんに愛を伝えなければ。カズオをまだ成敗していませんが、カズオなんてカスですから、放っておいて問題無いでしょう。
私はチエちゃんに抱きつきました。
ああ、チエちゃん。あなたを抱ける日が来るなんて。目の端に涙を溜めながら感慨にふけっていたら、カズオに頭をはたかれました。
「この変態が!」
お前にだけは言われたくありません。
チエちゃんに思いを伝えたからでしょうか。もうあの世にいかなければならないと誰かが囁いています。
残念です。
「チエちゃん、愛していました」
「キモイー」とか言った気がしますが、幻聴です。初老ですので。
「カズオ。あなたは私のライバルでした」
カズオ。
「むかつんだよ!」と言いながら蹴った机で、足の小指を骨折したことを覚えていますか?
友達には「喧嘩さ。名誉の負傷ってやつ。ふ」とか言っていましたね。あの時、全員半笑いでしたよ。完璧に馬鹿にされていましたね。
カズオ。なんだかんだいって、あなたは私の愛しき主でした。
もう、行かなければ。
私にとって、人と生きた日々は輝いていたのです。人のそばにいる幸せを、私は知っています。あなたといた幸せを、私は天国に行っても忘れやしない。
「カズオ。最後に言わせて下さい」
カズオの目が少しだけ潤んで「バカヤロウ。モモ、大好きだ!」とか言っています。
ああ、カズオ。
あなたと離れるのは、本当に寂しい。
「あなた、ホモだったんですね」
さようなら、カズオ。
はやくチエちゃんと別れろ。
お読みいただき、ありがとうございました!
遊びすぎかなーと思って、こちらを出すのをやめたのですが、元々は5分企画用に書いた作品です。
なので、5分で読めるようになっています。
ご意見、ご感想お待ちしています。