そんな虫さんの良い話
ぶい~~んっと、羽音が当たりに響いてます。そんな音も今では心地よく聞こえてしまってます。
今、私は街に向かって虫さんに運んでくれてます。速く、そして穏やかに。私をどこか気遣いながら運んでくれてます。
もう私は虫嫌いとは言えません。だってこの虫さんは大好きなんだもん。命の恩人、恩虫?であり、そのうえ街のほうまで送ってくれてる。帰れる。それだけで気分が高揚してる。
ふと考えるとこの一週間があっという間だった。気づいたら私の苦手な虫。その上でかい。
でもその虫さんはとっても優しく、力強くてどこか人間くさい。そんな見た事も聞いた事もない生き物でした。それはたまにどん引きしちゃったけど・・・。自分より大きい魔物を目の前でゴリゴリと音を立てながら食べられたら誰だってそう思う・・・。私は慣れちゃったけど・・・ハハハ・・・。
あっ
街が・・・見えてきた。西門近くだ・・・。
あ、あれ?嬉しいはずなのに・・・。なんだろう、この気持ち。
ふと、歩けばすぐの場所、森の切れ目で虫さんは私を降ろした。まだ人目が付かない辺りだ。あ、・・・そうか私を気遣って・・・。ほんとうに、もう。この虫さんは・・・。
私を降ろすと私をちょっと見て飛び立とうとする。私はまた、泣きそうになってしまった。
そうか寂しいんだ、私。
・・・せめて、せめて名前を。
「む、虫さん!!」
気づけば私は虫さんに叫んでた
「私!私の名前!!リア!!リアっていうの!!」
私は私を指差し、何度も言った。
「リア!!リーアー!!」
覚えてほしいその一心で。
でも、虫さんは首を傾げる動作しかしない。・・・やっぱわかんないよね。
どこか人間くさい虫さんなら解ってくれる。そう思ってしまってた。やっぱり、魔物だもんね・・・。
虫さんは羽を広げて飛び立った、するとこちらに何かを投げてきた。慌てて私はそれをキャッチする。
「うわっとと。・・・あ・・・ネクタル・・・」
虫さんは私にネクタルをくれた。まったく。そういった所が人間くさいんだよっ。
「ありがとう!!虫さん!!本当にありがとう!!!!!」
私は力強く手を振りながら虫さんに別れを告げた。涙を堪え、また会えると信じて。
虫さんは最後に空で止まって私のほうを見て、鳴いた。虫が鳴く音。それだけ。
ただそれだけなんだけど。
私には【リーアー】といってくれてる気がした。