窮地
「大いなる揺り籠に住まわす神の使いよ!我が声を聞き賜いて敵を貫く力と成れ!!!『ハイウインド・ショット』!!」
ネネさんの詠唱と共に風の不可視の弾丸が敵めがけて放たれる。中位風魔法のハイウインド・ショット。大木すら貫くその威力は、速度はかなりの物だ。それなのにいとも容易く、避けられる。
「うそでしょっ!!なんなのよこいつら!!」
「おそらくCクラス相当と考えるべきだなっ!!かなり手ごわいぞ!!ばあいによっちゃあBだ!!!」
モルブさんが敵と対峙しながら大声でそんな事を言う。私じゃ対応しきれない。せめて足手まといにならないように補助や敵にけん制を主に動く。
ダイア・ウルフ。それが私たちの対峙している魔物。単体ではDクラスの魔物ではあるけど、群れることによってその脅威度は上がっていく。今のランクはC以上とするべき。
そうモルブさんが叫ぶ事によって残りの二人も更に気を引き締めて戦う。やはり、異常は起きていた。
ほんの少し中に入っただけなのだ。それなのにいきなりダイア・ウルフと出会ってしまった。しかも8匹。2~3匹でもかなり脅威なのにそれが8匹。誰よりもいち早く硬直から立ち直ったモルブさんが出会い頭に1匹を排除。それに腹を立てたダイア・ウルフが襲い掛かってきた。なんとか5匹までに数を減らしたところさらに数が増えた。これはまずい。
「各個撃退しつつ撤退の準備!!氾濫の前兆は起きてる!!それがただ単に中部より奥よりってだけだ!!すぐに逃げられる準備だ!!!!」
モルブさんがすぐに皆にそう叫ぶ。私もすぐに撤退するべきだ。そして報告するべきだ。これは下位には手が負えない、と。
そう思った時だった。急に空が翳った。何事かと、私たちもダイア・ウルフも見上げてしまった。そこにいたのは大の大人二人が両手を広げても尚、端から端まで届かない大きさの怪鳥。パーティーランクC推奨のボルトニングバード。
「撤退!!!!!」
有無を言わさぬ態度でモルブさんが叫ぶ。パーティーランクC推奨という事は全員Bかそれ以上でないと危ない相手という事に他ならない。
全滅。それが頭によぎった瞬間、電撃があたりに散りばめられた。何匹かのダイア・ウルフ、それにヘンリーさんが感電してしまった。
「ヘンリーッッ!!!」
ネネさんの悲痛な声が響き渡る
「逃げろぉぉっ!!俺が殿をするっ!!」
モルブさんがヘンリーさんをかばいながらこちらに背を向ける。逃げなきゃ駄目だ。それは解ってるのに足が痛みですくんで上手く動けない。正確に言うとダイア・ウルフに噛み付かれた痕がある
「あ、あし、が・・・う、うご、かない・・・」
「なにやってるの!!ほら立って!!!」
ネネさんが立たせてくれようとしたその時、後ろからボルトニングバードが迫ってくるのが見えてしまった。
「ネネさん!!!!」
私は思わずネネさんを突き飛ばしてしまった。すると私に向かってボルトニングバードが迫ってきた。これは・・だめ、かも。
「オラァァッッ!!!!」
するとモルブさんが裂帛の声と共にボルトニングバードに切り掛った。
モルブさんの一撃が羽を裂いた。それに腹を立てたのかボルトニングバードが咆哮を上げると同時に電撃を散りばめた。私はそれと同時に気を失ってしまった。