セクトア大森林
~Side人間さん~
なだらかな草原、雄雄しい山々、どこまでも広がっている大森林。見渡す限りの大海原。そんな雄大な自然に囲まれた暮らしを謳歌する街、商業都市ミディエール。
グランディオ連邦という幾つもの都市国家郡が連なっている国の一つとして所属するミディエール領の領主がいる街。これが私の住む街だ。
ここはとても豊かだ。自然に囲まれているおかげかどこか牧歌的な雰囲気はあるものの、農業も狩業も鉱石類をつかった産業や海に出ての漁業も行い、街としてはかなり豊かだと思う。
そりゃ貧困の差はないとは言い切れないけど、そこまで酷いわけじゃない。貧乏だったとしても、みんな凄く笑顔だ。いつだって皆楽しそうに日々を過ごしている。それがとても嬉しくて、そして誇りに思う。何故なら私は領主の娘だから。
リリアーノ・ミディエール、それが私の名前だ。
父はとても凄いと思う。ここまでこの街を豊かにしたのは父だからだ。私が生まれる前はそれは酷い暮らしだったそうだ。それを少しずつ改善、改良してここまで持ってきたそうだ。この話しをするときの父はとても無邪気に語る。あぁ、父もこの街が好きなんだな。そう思えるほどに。
私はそんな父の力になりたいとは思う。でも、思うのは簡単で、実際にやろうとすると凄く大変だ。だからコツコツと街の事を覚え、自分を強くしていき、いずれは父のために働きたい。
だからまず色々な事を覚え実行し、様々な形で活躍する事が出来る冒険者になった。幸い強さにはそこそこ覚えがあった。幼い頃から父の護衛に鍛えてもらっていたからだ。
そのおかげかCランクまでは結構早い段階で上がっていけた。この時私は天狗になっていたと思う。だから無謀な事をし、仲間を失ってしまったんだと思う・・・。
でもそのおかげで出会える事もできた。
とても不思議でとても強くてとても人間くさい虫の魔物さんに。
「森の調査?」
「そう、セクトア大森林中部付近までの、ね。」
とある日にギルドカウンターでいつものように依頼を受けに来たとき受付嬢のティアさんに開口一番そう言われた。
「最近魔物の動きが活発になってきたのは知ってるかしら?活発になってきているっていう事はそろそろ【あの時期】なんだと思うの。場所が毎回決まってるわけじゃないからその兆候の出所を探ってる段階なんだけど、なぜかセクトア大森林だけ活発というより少なくなってきているのよ」
「あの時期って・・・あぁ氾濫ですね。そっか、もうそろそろなのかな?・・・あれ?セクトア大森林だけ少ない?」
この街付近でよく起こる騒動、氾濫。魔物が群れを成してミディエールに向かってくる一大事だ。でも、そんなに慌てる事はない。理由は幾つかあるけど、一番の理由は冒険者だ。
ミディエールにいる冒険者は高ランクの人が凄く多い。周りに大自然が溢れているわけか強い魔物も多数存在し、自分自身の腕をより高める事を目的とした人達が多く集まるからだ。
強い魔物の素材は高く売れる為、必然的に商人も集まってくる。
更に都市の周りには資源が豊富。だからこそ魔物の素材や自然にあふれる資源により一攫千金も狙える都市だから。
ある意味自分の命より富や名声を目指す人達の頂点に近い人達。そんな強者は氾濫の時期にこぞって集まる。【稼ぎ時】ってやつだから。氾濫は毎年起きるわけじゃないけど、その兆候が必ずある。魔物の動きが活発になる。
すると、更に強い魔物も誕生し、そこかしこで縄張り争いが発生する。縄張りが多数形成されると、どんどん数が増えてくる。どんどん数が増えていき、やがて決壊する。
狭くなった縄張りから溢れるかのごとく魔物の数が増え、一定の数が縄張りから居なくなるまで魔物がミディエールに向かって動き出す。
それが氾濫だ。
ミディエールはこの動きが出た瞬間からすぐに高ランク冒険者を招集してすぐに動ける体制を作る。こういった素早い動きを行っているからか、都市に対する被害はほとんどない。
その為住民が慌てる事はあんまりない。・・・そう、それなのにだ。
「そう、いつもの氾濫ならセクトア周辺も活発になってる。というかセクトアだけじゃなくてコルピー砂漠方面もウォールト草原もオルゴ山脈も大体が活発になってるの。なのにセクトアだけなぜか大人しい・・・というか少ないのよ。あまり前例がないことがだから念には念を押して調査隊を組む事にしたの。3隊ほど組みたいんだけど、それなりに練度がない人に任せるつもりが無い以上リアに頼めないかな?と思って」
そういうことか・・それなら私に言うのも納得だ。自慢じゃないがセクトア大森林は他の人より地理を把握してる。私の小さい頃からの遊び場兼修行場だったから。周りはそれを知ってるしギルドの受付嬢であるティアも当然知っている。だから勝手知ったる私に言ったんだ。他ならぬ友達のティアの頼みだ。私は引き受ける事にした。
「良いよ。引き受けるよ。でも私は良いとして他のメンバーは集められるの?」
一人では当然出来る仕事じゃないので仲間の存在は重要だ。だからティアにそう尋ねた
「受けてくれるの?やった!ありがとうリア!うふふ、仲間なら既に集まってるわよ。リアが入ってくれるパーティーはなんとCが二人にBが一人よ!」
調査にB!?随分と大盤振る舞いなメンバーなのね。BやCが居るメンバーなら確かに足を引っ張る人はいれられないわ。・・・これは私自身が足を引っ張らないようにしなきゃ。
「そんな凄い人達が居るなら大丈夫そうね。解ったわ。いつどこに集まればいいの?」
「フフッ流石リア。話が早くて助かるわ。そうね。明後日の朝6時から西門に集合よ。調査期間は一週間を目安に考えてるからもし帰ってくるのが遅れた場合は一応後追いの調査隊は派遣するけど亡き者として派遣されると思って頂戴。まぁこれはいつものことね。リアなら大丈夫だと思うけど気をつけてね?」
いつもの文言を付け加えながらティアが気を使ってくれる。毎回言ってくれるけどそれがどこか嬉しくて微笑みながら私は頷く。とりあえず明後日なら準備時間があるから今からじっくり考えながら準備しなきゃ。