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きみのありか  作者: 兎角Arle
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ぷろろーぐ:彼岸

ざっ、ざっ

と歩くたびに地面の砂が音を立てた。


サーッ、という引いたり満ちたりする水の音に耳を傾け、

私はぼんやりと水平線を眺めていた。

首にかけたヘッドフォンからは造語の歌が流れ、不思議と私の心を落ち着かせた。


まっすぐ前へ進み、膝くらいまで水に浸かった時にふと、携帯電話を取り出した。

全ての履歴を、「何となく」なんて単純な理由で消し去り、メモ機能を開く。

其処にカコカコと、感情の籠っていない4文字の言葉を表示させ、一応そのメモを保存した。


私は振り返り一瞬悩んだがすぐにその煩悩を振り払い遠くへ力いっぱい携帯電話を投げ捨てた。

柔らかな砂の上に落ちたのを確認して、再び水平線を向く。

少し、ほんの少し、携帯電話につけていたお気に入りのストラップだけは残しておけばよかったと後悔をしたが、

今更後悔しても携帯電話を取りに戻る気は更々無かった。


シャッフルで再生されていた音楽が切り替わり、造語の歌から別のトラックへと変わる。

私はヘッドフォンを正しい位置に装着し、その声に耳を傾けた。

音楽プレーヤーの再生バーは止まり、無機質な声音だけが聞こえてくる。

そう、これは幻想なのだ。

空想、フィクション、ファンタジー。

それでも私にはその声が聞こえたのだから、聞こえているのだということにしておこう。


そんなどうでもいい思考を一廻りさせて、急に「何だか勿体ない」という気持ちで溢れてしまったので、渋々と足を来た道へ戻した。

水が来ないだろうところを探し、其処にヘッドフォンと音楽プレーヤーを置いた。

これで本当に手持ちはすっからかん。

財布もお金も無い。

“外出許可証”もびりびりに破き名前の確認さえ出来ない程にして何処かに飛んで行った。


誰も私を知る人がいない心地よさに、我ながら気持ち悪いが、笑みがこぼれた。



私は再び膝まで水が来る所まで行き、さらに歩みを進めようとする。

けれど、どうにも私の心は移ろいやすいようで、今更、「やっぱりやめた」と口にしてしまった。

そのまま私は仰向けに倒れ、全身を盛大に濡らし、水面をプカプカと浮かんでいた。


いくら南の方とはいえ、この時期に全身水浸しは寒いなあと、考えながら青い空を見上げ、ゆっくり目を閉じた。



ああ、



「このままどこかに流されてしまおう」



こうして、私の短い人生は、何ともあっけなく、原因不明に幕を閉じてしまったのだ。

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