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【新】元クラスメートが異世界でハーレム勇者になっているようなんだが。  作者: 首夏
【新】元クラスメートが異世界でハーレム勇者になっているようなんだが。
8/12

08.公平のち、逃走

 城が落ち着くのを待ってたら、春が終わってしまう。バレていたようだし、挨拶も済んだし、ミナハさんの許可もおりたし、私は勝手に出ていくことにした。ミナハさんの言う通り第二重要図書もある程度制覇したことだし。


 覚悟も決まったし。


 結局、結城くんは、私のところには訪れなかった。

 自分がほんの少し知識欲旺盛であるという自覚はあるが、あんな居心地の悪いところに長くいる趣味はない。すっからかんにしてても私に面会を求めていた人がいたことくらいには気付く。私を煩わせることもなく穏便にその場を治める召使いさんは優秀だ。


 それでも、待っていたのは――


 私はどうやら、思っていた以上に結城くんにやられているらしい。

 なんでよりにもよって、と思ってしまうが落ちてしまったものはしょうがないのだろう。諦めよう。


 そう、諦めて腹を括ろう。


 私は事なかれ主義の小者だが、まわりに煩くギャーギャー言われて黙っていられるほど寛大ではない。

 “あるお方”が言っていた。言いたいことは今のうちに言っといた方がいい、と。

 誰かが言っていた。また会うかもしれないし、会わないかもしれない、と。

 憂さ晴らし。腹いせ。八つ当たり。なるほど結構。

 じゃあ、私もしていいんじゃない?


 私の所には訪れなかった。それを答えととってもいいだろう。


「証明書や推薦状はあるのか?正式な手続きをして貰わなくては困る。それに今は…、いや、君には関係ないことだな。

 取り敢えず、名だけ聞いておこう」

「ええ、そうなんですか。あー…セナとナツキ、どれがいいですかね?」


 だが、それがなんだ。それとこれとは話が別だ。結城くんの気持ち(それ)私の気持ち(これ)が違ったって関係ないのだ。


「勇者様との面会を申し入れたいのですが」


 見張りの方と押し問答をしていると、目の前の扉が開いた。そこから現れた人物に、私は目を見張る。



 ◆ ◇ ◆



「姉ちゃん、名前はナツキで合ってるよなぁ?」

「………。」

 ニタニタと気持ち悪く笑う奴に答える義理はないとそっぽを向く。肯定しても否定しても結果は同じだ。


 さっさと城をあとにした私を待ち受けていたのは、浮かれモードの市民を鴨にしようと浮かれている阿呆共だった。言っておくが、私はそんなに狙われやすい質ではない。伊達にあちこちふらふらしておらず、器用に厄介事を避けてきた。今日とて善良な一般市民面をしてお天道さんの元を歩いてきたわけだが、


「あれだろ?アンタ勇者一行の一人なんだろ?」


 どういうわけか、私が頭をすっからかんにして匿われているうちに、随分と名前が売れてしまっているらしい。

 城でも門番などに名を名乗ればいつもと違う反応が返ってきた。野次馬根性を覗かせた様子に不快感を覚えたものの、深く追求しなかった。優先順位が低かったもので。

 やっと都におり、気持ちを落ち着かせようと思えば往来のど真ん中で大声で呼び止められた。ここは王都。残念なことに治療師としての知り合いが沢山いるのだ。


『ナツキー!』

 無視を決め込もうとしたが、相手は許してくれず遠慮なく私を捕まえた。正直、空気が読めない奴より私はこちらにちらちらと――いや、がっつりと視線を寄越す周りの反応が気になった。確かに騒がしいが、こんな雑踏では特に珍しい光景でもない。

『ナツキ、お前勇者の治療師してたんだって!?給金いくら!?』

『ばっ…!声が大きい!』

 なんで知ってるの、と問えば、読んだ!という元気なお返事。聞いた、ではなく、読んだ?

『何焦ってんだよ~。周知のことじゃん。

 しかも勇者射止めたんだろ?やるな~。てか、なんでそんな奴がこんなとこにいんの?』

 突っ込み所満載だが、私はぐっとこらえ、奴の胸ぐらを掴んで優しく尋ねた。顔を赤黒くさせた奴が最後の力を振り絞りながら差し出したものは、新聞。


 そういうことである。


 この世界に写真の類いのものはない。絵姿くらいはあるが、それが真実を写し出すとは限らない。旅の途中に見かけた結城くんのそれに、私は顔を覆って肩を震わした。記念に買おうとして凄い勢いで取り上げられた記憶はそう古くない。

 イメージとは一人歩きするもの。結城くんも悪くない部類に入るはずなのだが、それでもイメージ(理想)の勇者には劣るらしい。私だったら尚更、言わずもがな、だ。どうやらあの美女達に勝利したヒロイン的立場らしいし。私は生まれてこのかた自らの顔にこれほど感謝したことはない。

 要は名前を言わなければいいわけだ。問題ない。ただ、手当てが出るかどうかは確かめてはみる。

 しかし、思い出して欲しい。往来のど真ん中で私の名前を叫んだ奴はいなかっただろうか。


 そういうことである。


「姉ちゃん、随分とご立派なお方らしいじゃねーか。懐はさぞ潤ってるんだろうなぁ。その尊い心で俺らにお恵みを授けてくれねぇかなぁ」

「おいおい、あんまりいじめちゃうと怖がっちゃうじゃねーか」

 ゲラゲラと下品に声をあげる彼らを横目に私はこっそりため息を吐いた。仮にも世界を、ひいては彼らを救った勇者 (のパーティーのメンバー)になんという仕打ち。なるほど、彼らは私の給金が目的らしい。確かに治療師ときけば他よりは下っぱ感があって、親しみが湧くかもしれないが、しかし腐っても勇者パーティーの一員。勇者とも当然知り合い。私がそこそこ対抗する力を持っていたり、パーティーメンバーに助けを求める可能性は考えていないのだろうか。浮かれるにもほどがある。

 悔しいことに私は対抗する力も助けを呼ぶ相手もいないけれど。

 王城ではバタバタしていたし、気持ちも不安定だったが、給金丸々持ち歩くほど抜けてはない。半分以上はミナミさんに預かってもらっているし、残りも証明の必要な小切手や権利書に分配している。あと、有り金の殆どは既に、彼らにとっては価値がない薬に変わっている。旅の始めだから多めに現金を持っているが、取られても大した痛手にはならない。……それくらい貰ったということだ。

 いい感じの路地裏に連れ込まれたので、通りすがりの人に助けを期待するのも難しそうだ。私だったら、こんないかにも、な路地は通りすがらない。

 痛い目みるよりここは穏便に済ませてしまおうか。お金を払ってでも、早く一人になりたい気分だった。こう見えて、尻尾を巻いて逃げ出したばかりなのだ。

「しっかし、大した上玉にも見えないが、あの噂を本当なのか?」

「やっぱデマなんじゃねーの?」

「世界が違うとオンナの趣味も違うってか」

「………。」

 人が忘れようとしていることをどいつもこいつも掘り返して。というか、何故それを知っていて私に絡もうと思ったのか。明らかなガセだから?まあ、反論はしないけどね!

 品定めをするような粘ついた視線がひたすら不愉快だ。何故結界を張っておいて、外への音の遮断しかしなかったのか甚だ疑問だ。何故そこで器用さを発揮してしまったのか。

 可哀想なことに、飛火を某勇者にまで飛ばしていると、男達がなんてことないように言葉を続けた。


「ま、異世界って時点で得体が知れないがなぁ。」


 ゲラゲラと笑う男達の声が酷く耳につく。


(だからこんなこと、言われてしまうんだよ)


「……あぁ?なんだその面は」

 上機嫌だった男達が眉をひそめた。彼らのその反応で自分の表情に気付く。力の籠った目尻を努めて緩める。噛み締めた唇が痛い。随分と感情の制御が下手くそになったなと瞼を伏せた。

 私の大人しい態度がただ怖がっているからではないと気付いたのだろう。男は苛立ちを露にこちらを見下ろした。

(無傷じゃ済まないかもなぁ)

 けれど、もう大人しくやられてあげる気は毛頭ない。少しくらいやられてやってもいい。だから、

「ねえ、その言葉、撤回して」


 お前らが、彼の何を知っているんだ。


 舌打ちをすると彼らは顔を歪めながらこちらに手を伸ばした。挑発するように彼らを睨んでいると、視界の端に何かが映った。なんだろうと目を凝らす。黒い影は、人間の形を描いていた。


「汚い手で触らないで貰えますかね」


 上から声が、落ちてきた。

 聞き覚えのあるその声に瞳を瞬いた。口の中で唱えていた詠唱は消える。視界に映る地面には私と男達のものとは違う人の影があった。

 私達が間抜け面で口を開けて頭上を見上げたときには、その影は地面に降り立っていた。そして、私と男達の間にするりと入り込む。男達は一瞬驚きの表情をみせたが、それは直ぐに引っ込んだ。彼らにしてみれば鴨が自ら飛び込んできただけのことだ。

「おいおい、どうした兄ちゃん。ヒーロー気取りか?」

「…って思ってくれたら嬉しいんですけどね」

 ニヤリと笑う男達に、彼もへらりと笑みを返す。

「な、んで……」

 思わず溢れた言葉を耳聡く拾ったらしい彼と一瞬視線が絡むが、すぐそらされた。


「なあ、瀬名。唇、血ぃ出てる」


 目線は男達に向けたまま彼は言う。自らの唇を舐めてみると確かに鉄の味がした。

「あぁ、気付かなかった。

 あ、これは、自分で勝手に噛んだだけであって」

 彼の背中からただならぬ気配を感じて慌てて言い募る。唇って舌よりは鈍感なんだよ、と勢い余ってどうでもいいことも付け足す。頑張ってるんだから、ふーん、で済まさないで。

「瀬名、こいつらは知り合い?」

「……。あー…お金を恵んで欲しいんだって」

「へえ。じゃあ、」


 やっつけちゃっていいよな。


 彼――結城くんは男達の“ヒーロー”という言葉を借りて、そう言った。


 見つかってしまったのならどうしようもない。私は邪魔にならないように、後方に下がり避難した。力の差があれば、あまり被害は出ないというし。

 私は先程とは違う風に音を立てる心臓を強く押さえた。残念ながら、安心とは程遠い。

次で『元クラ~』はラストになります

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