01.辞令のち、再会
2014.05.09に投稿しました、『【旧】元クラスメートが異世界でハーレム勇者になっているようなんだが。』の大幅改訂版となります。大幅です。
大幅なので、【旧】と一緒に読むと大いに混乱が生じると思うので、私としてはそれはおすすめしません。
『【新】元クラスメートが~』の後は、『【旧】幼馴染みの親友』の改訂版を載せさせて頂く予定です。
拙い文章でありますが、お暇潰しになれば幸いです。
「あ」
「あ」
目の前の光景に目を疑う。間抜けに溢れた呟きの後、まともな言葉はなかなか出てこなかった。色々な経緯の末、この年齢の割りに経験豊富といっていい私はあまり物事に動じない。動じてもそれを隠せる程度には動じない。動じて堪るものかという意地もある。
けど、これは流石に想定外だ。
ガヤガヤと煩い外野の音はどこか遠くにあるように感じて、自分の心臓の音ばかりが世界を占める。
「カズキ様!」
高い声が響いた。瞬間、世界がまた動き始める。他の音も割り込んできて、少し安心する。
深く息をして、いつもの調子を必死に呼び戻す。彼の周りに美女達が群がっていくのを視界の端で確認する。
ほう、なるほど。
〖元クラスメートが異世界でハーレム勇者になっているようなんだが。〗
私は所謂転生者だ。
前世でちょっと早目に死んでしまった私は、神様の粋な計らいで前世でいうファンタジーな世界に転生してしまった。転生したという自覚がある通り、前世の記憶は所持したまま、前世の意識の続きからのスタートである。
どうやらこれは現実(?)らしいと気付いた――気付かされたとき、私は自分の馬鹿な失態に激しく後悔した。物心はついてるというのに、体は意思に素直に従ってくれず焦れったいし、言葉も話せない。他人にオムツを変えられようが、何をされようが傍観することしか出来ないのだ。どうか私の精神的ダメージを推し量って頂きたい。泣いてしまうレベルである。それが赤ん坊の仕事であるが、なんか違う。
なんだってこんなことになったというと、私が神様らしき方とそのように交渉したからだ。
元々体が弱く、私の最期は眠りにつくようなものだったらしい。私は自身の最期を覚えていない。痛い思いをしなかったことは喜ぶべきことなのかもしれないが、なんとなーくいつの間にか死んでいたというのも複雑だ。
そんな明確な区切りがないのに加え、寝たきりが多かった私は読書が好きで、ファンタジーも大好きだった。その頃転生ものを読んでいた私が、
うわー、転生の夢みるとかちょっと痛いわー。まぁ、夢だし、いっか☆
という考えになるのはしょうがないと思うのだ。責める奴は一歩前に出て欲しい。じっくり語り合おう。
私だって、現実(?)だと分かってたら前世の記憶なんて道連れにしなかった。たぶん。きっと。
そんなイレギュラーなモノを携えた私の子供時代は気楽なものではなかったが、前世同様器用な私は、周りからちょっと出来のいい子、大人びた子、という認識程度まで抑え、科学ではなく魔法が主流の世界でスクスクと成長した。
ファンタジー世界を希望しただけあり、魔法に憧れていた私は治癒の魔法を扱う治療師となった。他がてんで駄目な分、治癒の能力が特化しているらしい私は割りと順調に人生を歩んだ。
そんな私は気付いたらそこそこ有名な治療師になってました。
◆ ◇ ◆
「ナツキー、手紙だよー」
「はーい」
馴染みの郵便配達の子の声に間延びした返事で応える。この町に訪れて大分経つ。そろそろ引っ越そうかなぁ、と呑気に考えながら表に出た。
因みにナツキは私の名前だ。
「そいや、ジェームズさん家の奥さんがぎっくり腰再発したんだってさ」
「え~。うーん……癖になっちゃったかなぁ」
手紙を詰め込んだ鞄を漁りながら言った少年の言葉に私は顎に手を当てた。強めの痛み止めの薬はあっただろうかと薬箱の中身を思い出していると、目の前に手紙が差し出された。
どうも、とそれを受け取った後も、何故か少年の手はなかなか引っ込まなかった。私は暫し考えた後、理解したとばかりにそれに手を重ねる。
「……。」
少年もお年頃になったのだなぁ、とニコリと笑ってやるとすげなく手を叩き落とされた。ちっげーよ!とぷりぷりと肩を怒らす少年を適当に諌める。年頃の乙女に対して失礼な、と思いながら懐を探る。何故お礼をジェームズさん家ではなく私に強請るのかと言ったところでどうしようもない。
懐からでてきたものに、一瞬、しまった、と思うがすぐに、まぁいっか、と決着が着く。
「……。はいはい。
ご褒美ですよ~いいこですね~」
私のふざけた対応に少し顔を顰めつつもクッキーを渡してやれば、途端に少年の顔は明るくなる。眩しい程の素直さに私の胸がキリリと痛んだ。
「……ッ!おま、これ…!」
「健康にはいいんだよ」
口を押さえ呻く少年に口早に弁解した私は、手紙に視線を移した。真っ白な紙は肌触りも良く、印は細かく意匠を凝らしてある。田舎では滅多にお目にかからない代物に私も少年と共に呻く。
手紙は王都からのようだ。嫌な予感しかしない。
手紙にはこう書いてあった。
『第二等治療師・ナツキ殿
貴殿を勇者パーティーの治療師に任命する。』
他にも如何にこの任が崇高なものか、光栄なものかなどごちゃごちゃ書いてあるが、結局言いたいことはこれだ。
「うっわー。だから昇格したくなかったのにぃ」
この世界では、誰でも魔力を持っている。しかしその魔力の量や魔法を操るセンスは人によって違い、特別力を持つ者は国の試験を受け、力に応じて称号をもらう。称号によって扱いが違い、称号が上な程特権があったり、国からの依頼があったりするのだ。
私は他が全く駄目な分治癒の力が高いらしく、第二等治療師の称号を持つ。第一等治療師が一番上の称号なのだが、それは王族、貴族付き治療師にしか与えられないので民間では一番上ともいえる。また、第二等治療師も貴族付きが多い。私は誰にもつかず一人で気ままにやってるので、使い勝手がいいのだろう。小娘一人の力なんてそんなもんだ。
(第一級医療書の誘惑のせいだ…)
昇格するのは乗り気ではなかったが、貴重な資料読みたさでつい。
私が遠い目をしてるうちに、なんとか回復したらしい少年が勝手に手紙を覗きこむ。
うおー、とか言葉を漏らした少年は満面の笑みで私にぐっ親指をみせると町の広場の方へ走っていった。言いふらしにいくのだろう。どうせこの小さい町ではすぐ広まることなので、放置する。
しかし、きっと私は彼のことを数年は忘れることは出来ないだろう。いくら私特製の不味いと評判の滋養クッキーの被害者だとしても、彼のことは忘れない。忘れないぞ、少年。
◆ ◇ ◆
「初めてまして。このパーティーに派遣された治療師です。セナと呼んで下さい。
不束者ですがよろしくお願いします。」
愛想笑いを振り撒き、ペコリと頭を下げる。頭上から感じる視線をどうにか耐える。
一応お国の方に抗議――相談してみたが、一刀両断。とりつく島もなかった。
いいけどねー。別にー。最初から分かってたしー。つか、途中参加ってどういうことだよ。前任者どうした!出てこいや!
無駄に喚いたところで自分の益にならないと自らに言い聞かせ、ふて腐れつつ私は旅途中の勇者たちと合流した。勇者たちの旅が終わったらまた好き勝手にふらふらする気満々なので、偽名で通せるように国にお願いした。
これくらいの我が儘は許されよう。許されよう。
顔を上げると、案の定鮮やかな瞳達が私を見つめていた。勇者パーティーの皆様、特に女性陣の見つめる先がどうも顔に集中しているのは気のせいだろうか。
うわー、なんか美形ばっかり。美形しかいない。何、勇者パーティーの基準、顔?あ、私が入らされた時点で違いますよね。はい。
値踏みは無事終了したようで、パッと顔を明るくした皆様(特に女性陣)は、自己紹介をし始めた。何故明るくしたのかは、問わないでおこう。日本人は調和が大好物なのだ。
自分達を基準にしないで欲しいな!
まずは、第4王女のリリアンヌ様。色素の薄い瞳と髪。細っこい身体は力のかけ方を誤れば折れてしまいそうなほどだ。なるほどこれが儚いというものか、と思い知らされる。私もどちらかというと色素の薄く出来ていて、よく儚い容姿だと形容されていた。姫サマのようなホンモノを見れば、私なんかが見た目詐欺と称されることもなかっただろう。
すらりとした長身の女騎士のフェリシア殿。フェリシア殿と讃えたいようなひんやりとした美貌の持ち主だ。クレアさんが楽しそうに教えてくれた情報によると、王都にはお嬢様方によるフェリシア殿ファンクラブがあるらしい。絶対『お姉様』と呼ぶような方向のファンクラブだ。まあ、分かるよ。私も入りたいもん。
色っぽい姐さんのクレアさん。真っ赤な唇で弧を描く妖艶なその笑みに私の心臓が音を立てる。元女スパイだそうだ。なるほど、そのドキリ。いや、お美しいのもあるのだけど。採用していいのか、国よ。
柔和な雰囲気のミナハさん。柔らかな笑みはお手本のようだ。きっと彼はブレイン的存在なのだろう。いや、別に他の人がバカそうなわけではない。そんなこと思ってない。
勇者様が現れた里の娘さんのディアナ。なんでここにいるのだと思わないで頂きたい。彼女は誤って予定と違った場所に召喚された可哀想な勇者様が森のなかでさ迷っているのを発見し、命を救ったという正に命の恩人。そして、その里とは、竜を操る秘境の里らしい。流石勇者様。転んでも(誤ったのは勇者様ではないが)ただでは起き上がらない。もしかしてお願いしたら、本物の竜を見れたりするのか…?もしかして、万能薬と言われる竜の鱗なんかも貰えたり……おっと涎が。
他にも非戦闘要員の侍女のマーシャとサリーとハンネ。パーティーのメンバー達の身の回りの世話をしてくれるらしい。対象は明白だが。
簡単にまとめると、儚い系姫さまと、クール美人系フェリシア殿と、お色気系クレアさんと、可愛い系ディアナだ。あと、侍女3人でおっちょこちょい系、内気系、電波系が取り揃えてある。ほぼほぼコンプリートだ。
なかなかの大所帯だ。そして女性が多い。私の前任者も女性だったらしい。前任者は何系だったのかな…。
「ところで、勇者様はどちらにおられるのですか?」
一番に紹介されるであろう勇者様はここにはいないようだ。
「何、アンタ。カズキに色目つかうつもり?」
私は礼儀として尋ねたのだが、女スパ…元女スパイのクレアさんが睨んでくる。美人の睨みは迫力がある。そしてなんて理不尽。
「え、いやいや。というか、カズキ、様?はどなたなんですか?」
「えぇ、びっくりぃ。治療師さんは、勇者の名前も知らないのぉ?」
「そんな勉強不足で、よくパーティーに加われたな」
ディアナがおおげさなほどすっとんきょんな声をあげる。その瞳には嘲りが浮かんでいるように感じるのは私だけか。フェリシア殿のお言葉が胸に突き刺さる。くう、そういう感じのお姉様か。私虐められるは楽しめないタイプだからファンクラブ入らないかも。あと、クスクス笑わないで下さい、侍女×3さん。確かに田舎者ですが。
見かねたのか、苦笑を浮かべたミナハさんが説明してくれる。
「カズキは勇者の名前ですよ。
知っておられるかもしれないですが、取り敢えず説明させてもらいますね。」
勇者様は異世界者で、最近活動が活発になってきた魔物たち、ゆくゆくは魔族、魔王を倒すためにこの世界に召喚されたらしい。
その後小声で、勇者の名前はあまり知られてはいませんよ、と付け加えられる。なんだ、新人洗礼か。私もそれに気付かない程度には勇者様のことを知らないけれど。
ご丁寧な説明ありがとうございます。ミナハさんが頼りですよ。お礼をいうと、ミナハさんは謙虚に首を振った。すみません、という言葉はパーティーメンバーのことを言っているのだろか。確かにここまでアクの強い面子だとは思っていなかった。
異世界からってどんだけファンタジー。しかし、召喚された人としては堪ったものではないだろう。
どういった経緯があるかは知らないが、引き受けた勇者様はとんだお人好しだ。
私は他人事のようにそう心中で呟いた。事実、他人事だ。
「悪い!寝坊しちゃって!」
私の後ろの方から声が聞こえた。その声に意識を向けるより先に目の前の女性陣の反応に気がとられる。美女達が一勢に顔を輝かせる様はなかなか壮観だ
「噂をすれば、ですよ。あちらが勇者です。」
わっと湧いた女性陣は私を放って私の後方――勇者様に駆け寄った。
「心配しましたわ、カズキ様。お体の調子は如何ですか?」
「カズキ、随分お寝坊さんだな」
「もぉ、何やってんだよ、カズキー」
「カズキ!ディアナ寂しかったぁ」
『おはようございます、カズキ様!』
ワントーン上がった可愛らしい声もここまで集まると少し煩い。
ミナハさんの苦笑から、これはいつも通りの光景だと窺える。
こんな美女達を手玉にとる女たらしの顔を拝もうと私が勇者様の方を振り返ると、
「あ」
「あ」
知った顔がありました。
暫しの沈黙。
私の頭が動き出した時には、相手――勇者様は目を白黒させて口早に捲し立てていた。
「え、瀬名!?
え!?なんでここにいんの!?」
「え、え。いや、こっちの台詞なんだけど。」
いや、ちょっと待て。他人の空似だろ。なんでここにいんだよ。世界すら違うぞ。あ、だから異世界者。なるほど。
「お二人はお知り合いだったのですか?
あ、セナさん、勝手に引き返さないで」