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第一の幕間「主人公は出会った時からわりと異常」

 これは、いわばゲームの裏設定。

 誰も知らない、物語。



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 2年前。


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 中学校生活で一番楽しめる時期であろう2年の夏休み。俺は特に何もせず、毎日を過ごしている。

 こんな暑い中、アイスを食べたいとか考えなければよかった、と今では後悔しかしていない。

 蝉うるせえ… こいつらのおかげで暑さが倍以上になった気がする。

 いつもより遠く感じるコンビニまでの道を、これからの中学校生活のことなどを考えて気を紛らすことにした。

 

 なんかクラスメイトから印象悪い気がすんだよなあ… 別に交流が嫌いなわけではない。

 ただ、少し協調性に欠けるかもしれない。基本的に一人の方が楽しいし。

 でも、やっぱり小声で「ヒィ!」って言われるのはつらいでー。


「やっぱり顔か… 顔なのか…」


 上り坂がきつい。暑さで思考もおかしくなったか。

 乱杭歯に見えそうな八重歯を隠すため、夏でもマスクをする俺はやはり異質なんだろう。あと目つき悪いらしいし。あと愛想もよくすべきか。無表情はやめて。



 そんなことしたら俺じゃなくなる。却下だな。

 

 自問自答の自己完結を繰り返し、ついたコンビニでアイスを買って帰る。

 溶ける前に帰らなくては…

 


-----


 

 で、帰り道久しぶりに魔物に会った。魔物に一対一で出会うなんて、そうそうあることじゃない。

 目の前には鷲みたいな鷹みたいな、でもちょっと首が長い変な鳥っぽい奴。

 明らかに俺に危害を加えようとしている。ここまで敵意むき出しな奴も珍しい。

 悪いことが起きる前兆じゃないといいが…

 

 道をふさがれてしまったので、無視するにもできない。

 空を飛んでいる間に逃げるか? すぐに追いつかれるだろう。

 めんどくさいけど、つい最近メサイア支部には入れた俺には「魔物を攻撃する権利」がある。ここで殺しても文句は言われまい。幸い、周囲に人気がないので絶好のチャンスだろう。


 アイスが溶ける前に倒さなきゃな…

 とはいえ、今手元には護身用のサバイバルナイフが1本のみ。普通の人間ならば、空を飛んでいる魔物を倒せる装備じゃない。


 ただし、それは普通の人間(・・・・・)の場合だ。


 「工作員」というジョブは最弱と名高い。その理由は、固有の武器がないことや、特に目立った行動ができない、器用貧乏な性能であることだ。

 

 だがそれは、どんな武器でも扱える、総合性能に優れた兵士… だと思う。

 

 人間だけに限らず、どんな生物も「不意打ち」には弱い。

 このナイフを「斬るためのもの」と相手が認識している限り、俺の勝利は当然のものになる。

 明らかに弱そうな俺を鷲(仮)はナイフしか警戒していないだろう。


 工作員は、この慢心を好機にする。俺だけかもしれないけど。


 今すぐにでも斬りつける、と言わんばかりの殺気と構えで鷹(仮)を挑発する。

 相手が勝利を確信したその時こそ、絶好のチャンス。ようは、必殺の一撃をするとき。

 つまり、今右斜め上からやってくる雁(雁)に向けて、ナイフを投げつけた。


 ナイフを「斬るためのもの」と認識している相手に投擲する。これ以上の不意打ちはないはずだ。





 あ、かわされた。


「…」


 だっせえええ、くそだっせええ。何が「不意打ちはないはずだ」ドヤアだよ。死ね、5秒前の俺死ね!


 自分への怒りが抑えられないが、不測の事態に耐えてこそ工作員。

 さっき拾った石を親指ではじく。この至近距離、外すわけがねえ。


 そうして、俺は石をはじき放て――――― なかった…


 空から美少女、ではなく鉄パイプを持った男子中学生が舞い降りたからだ。

 舞い降りた、というより落ちてきた、の方が正しいかな。

 あ、しかもおな中じゃないっすかー。ってはあああ?


 悪い予感がする、てフラグだったな。今思えば。


 男子中学生は鉄パイプで殴りかかる、が、足を怪我してるようで、うまく動けていない。

 こいつどこから落ちてきたんだろう…


 げ、こいつ同じクラスだ、てか前の席のやつだ。


 神野竜平。友達が多いイメージはないが、コミュニケーション能力は高かった気がする。1人が好きなのか? あと、こいつよく屋上にいるけど、なぜかその時だけ先生が来ないということを除けば普通の中学生。

 俺が屋上に行くと先生来るんだけどな。運いいんだな。

 

 ていうかなんだろう、この胸にこみあげてくる感情。そう、スーパーでお母さんと買い物してる時にクラスメイトに会った感じ。そうか、この感情こそが…  死にたい。


 死にたい。なんてゆーか、死にたい。クラスメイトにかっこつけて魔物と戦ってるの見られたとかクッソ恥ずい。


「おい! 大丈夫か!?」


 いやお前が大丈夫か。主に頭。あと足。


 とりあえずこいつに当たらないように援護射撃として石を投げる。敵には当たる。そりゃそうだ。

 

 竜平がまた鉄パイプで殴る。物騒だ。普通なら通報ものだ。

 メサイア支部に通報しておくべきだった、と今更ながら自分の判断力の低さを改めて知る。


 こいつ強いな… そういう才能があるのか知らんが、反射神経がすごい、敵の攻撃を完全にいなしている。


 しかしスキをつかれて逃げられた。今日はホント最悪だな。


 てかこいつ俺のこと気づいてないな。名前わかんないだけかもしれないけど。

 今までかかわってこなかったのに、人生何が起こるかわからん。

 

「メサイアの隊員か? すげーな、俺も一応メサイア目指してるんだけどさ」 


 とりあえずうなずいておいたけど、もう帰ろうかな… 今なら誰にも文句は言われまい。

 もはや逆に気づけ。なんか悲しいから。主に俺が。


「いやー、知らなかったよ。まさか月詠がメサイア隊員だったとはな~」


 は?(困惑)


「あ、気づいてないのか? 俺だよ俺、クラスメイトの神野竜平」


 は?(威圧)


「気づいてたのかよ…」


「そりゃあ、結構会ってるし。あんま会話したことはなかったけどな。じゃあ、俺、これから用があるから」


 おいおいおい。急に出てきて、急に帰るとか… てか足大丈夫か?

 はぁ… もう完全にこいつのペースだな。まあいい、学校で話をつければいいことだ。夏休みになったのに制服を着てるってことは、どうせ補習なんだろう。頭いいイメージないし。


「最後に一ついいか?」


「なんだ?」


 明日会えるとはいえ、俺はどうしても聞きたいことがあった。



「――――なんで俺を助けた?」


 





 沈黙が続く。やべぇ、こんなにシリアスにする気はなかったんだが…


 沈黙を破ったのは、どこかキョトン、とした竜平だった。


「なんでって… 当たり前だろ?」


 なんでごはんを食べるのか、を聞かれたかのように、質問の意図が分からないかのように、竜平は答えた。


「困ってる人がいたら助ける。当然のことだ」


 なんで断言できるんだ? そのために命を落としたらどうする?

 わからない。俺にはこいつが一生わからない、そんな気がした。 


「じゃあな」


「おい」


「まだ何かあるのか?」


「足… 病院行っとけよ。あと…」


 面と向かって言おうとすると照れくさい。どんだけ人とかかわってこなかったんだろう。それでも、伝えなきゃいけない気がした。


「ありがt「ガラガシャーン」…」


「ん? なんかいったか?」


「やっぱいい…」


 なんで今このタイミングで猫が缶を蹴落とすんだよ… ま、いいか。

 いつでも会えるのだから、いつでも伝えられるだろう。


 そう、思っていた。

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