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第六話「主人公と人類と魔物」

「秀人、魔物ランクC以下が数体出現してるわ。場合によっては避難勧告もあるから、一応、本部に連絡しといて!」


「了解」


 成瀬から連絡が届くまで2分ほどしかかかってないところから、よほど近場と見える。

 とりあえず本部に通報し、目の前にいる二人からどうにかしなくては。


「魔物… 殺すの?」


「は?」


 日向の肩が震えている… 怒っているのか、悲しんでいるのか、その表情を読み取ることは俺にはできない。


「魔物を! 殺すのかってきいてるの! 助けないの、あのときみたいに…」


「…」

 

 おそらく、竜平と成瀬は魔物を殺すだろう。

 魔物が、人類の平穏を脅かすから。

 魔物が、人を殺せるから。 

 世界を、救いたいから。


 だが、俺には、何も言うことができない。

 魔物も、平和を望んでいるはずだから。

 魔物も、生きていたいだろうから。


 今にも泣きだしそうなこいつに… かけてやれる言葉もない。


「日向、行こう。今宮はここにメサイアが来るまで待っててくれ」


 返事は聞こえなかったが、俺は日向の手を強引につかみ、魔物のいる場所まで急ぐ。



-----



「そんな…」


 日向の消え入りそうな声に胸が痛めつけられる気がする。


 無理もない。目の前は、逃げ惑う人々の喧噪で埋め尽くされている。

 古くから同じ地球に住む種族でも、まだまだ人々にとって魔物とは脅威なのだ。

 たった5体の魔物だが、人を殺すには十分な力を持っている。

 にらみつけ、吠えるだけで人を圧倒する狼のような魔物、フェンリル。

 この魔物たちは何も知らず、自分たちが殺されないようにしているだけかもしれない。

 だが、数々の発達によって、対等であったはずの力関係を優勢へと傾けた人類は、魔物を殲滅しようとしている。

 そうでなければ、メサイア本部の隊員に、「魔物を討伐する義務」は与えれなかっただろう。


「メサイアができた当初から、この未来は決まってたんだと思う」


「どうして、一緒に生きようとはしないんだろう…」


 きっと、もう戻れないのだ。

 人類が「正義」となってしまった世界で、人類に逆らった魔物という「悪」は生きられない。


 それでも…


「竜平は、戦っている」


「え?」


「アイツは、全てを救おうとしている。いつか、人類と魔物が共存する日を夢見て、そのために、戦っている」


 竜平が、魔物を切るとき、一瞬の迷いが生じた。とどめをさすときの苦しそうな顔は、1年たった今でも、変わっていない。

 救える命は救う。それが、彼の純粋で、強い思いなのだから。


「秀人も、でしょ?」


「さあ、どうだかな」


「ボクも、世界を救うよ。いつか絶対、救ってみせる」


「そうか」


 竜平が残り三体にとどめをさしに行く。

 堀さんに魔術を使って炎をまとわせ、力を籠める。


「「剣よ、我らを幸せへと導く光であれ!」」


 堀さんと竜平が心を通わせ、一気に決める。


「「炎剣の軌跡!!」」

 

 聖剣が、輝く竜のような炎をまとって、狼たちの首に食らいつく…



 しかし、血しぶきを上げることもなく、狼は安らかに昇天した。

 いろいろと理屈はわからないが、竜平曰く、聖剣の力らしい。




 ――――太陽はすでに大きく傾いて、夕日に輝く聖剣が、竜平が英雄である証のような気がした。

 



 技名叫ぶのは好きになれないけど、技名言う前に、なんか言うのかっこいいな。俺も今度使おう。


 戦闘は終わった。成瀬も刀をしまい、竜平は少し、堀さんと会話を交わす。


「なんだ、もう終わっちゃったのか」


凰雅(おうが)さん!?」

 

 急に背後から声がした。気配を全く感じなかったので、内心動揺していた。

 竜平が驚くのも当然だろう。


 瀧上凰雅(たきがみおうが)は第1小隊の隊長兼戦士部隊隊長だ。 

 俺も生で見るのは初めてだが、メサイアで彼の名を知らない者はいないだろう。

 クセの強い第1小隊をまとめる、20代後半ながら、圧倒的カリスマを持つ瀧上凰雅を称賛する言葉は数知れない。

 斧を使い戦う姿は、ジョブ:戦士の中どころか、メサイア隊員中最強を誇る。しかもイケメン。

 実質メサイアのトップであり、世間一般からしたら、メサイアの顔である。 


 武器に選ばれこそしたものの、英雄としては堀さんの審査段階である竜平をのぞけば、今、最も英雄に近い男といえるだろう。


「誰?」


 日向が小声で聞いてくる。


「多分メサイアで今一番強い人。普通、こんなところに来ないんだけどな…」


「凰雅さんはどうしてここに?」


 竜平の質問も当然である。

 メサイアの顔ともいえる彼がここにいるのは、確かに異様だ。

 今日はイベントもないし、ましてや、この付近の人々は一時的に建物内に避難しているため、誰もいない。


「いや、ただ《聖剣使い》君を見に来ただけだよ。それに、この前、うちの隊員が迷惑かけたみたいだしね」


 竜平も有名になったものだ。この前のことは、俺らにも非がある気がするので、なんだか申し訳ない。


「あと… その《聖剣使い》君に模擬戦を申し込もうと思ってね」


「模擬戦!?」


 びっくりした… 竜平よりも先に成瀬が食いついてきた。さすが戦闘狂。

 メサイア最強の彼と戦う機会なんて、そうそうあるものではない。

 だが、今の竜平では勝ち目がないだろう。


「といっても、君と僕とじゃ差がありすぎるから…」


「ですよね」


 成瀬がっかりしすぎだろ。まあ、いつかの機会にとっておこうじゃないか。


「君は、そこの彼と組んで、2対1のハンデを付けようか。どう?」


「あ、それなr「よろしくお願いします!」


 何気に俺巻き込まれたし。成瀬必死すぎだろ。

 まあ、模擬戦となると、観戦自由の場で凰雅さんの戦闘が見れるからな。成瀬がそうなるのも無理はない。

 成瀬がいる時点で、竜平と俺に拒否権などないのだ。

 凰雅さんもこれには肩をすくめている。一つ一つの動作が様になっている。イケメンはすごい。


「じゃあ、よろしく。日時は後々伝えるね」


「よ、よろしくお願いします」


 竜平が差し出された手をおずおずと握る。


「そんな緊張しなくていいから。あと、敬語もやめてほしいかな」


「じゃあ、よろしく」

 

 竜平が、もう一度、差し出された手を握る。


「君も、よろしくね」


 俺の前にも手が差し出される。

 

 無言でその手を握ると、華奢そうな体つきなのに手はごついんだな、というどうでもいい感想しか出なかった。


「じゃあ、僕は本部に戻るから。またね」


 いつの間にか停まっていた車に乗り、去っていった。



「はぁ…」


「なんかどっと疲れたわね」


 成瀬、お前は半分楽しんでたろ。


「てか模擬戦とか、勝てるきしねぇよ…」


「あら、勝つ気でいたの? 無理に決まってるじゃない。あっちはランクAを1人で倒す化け物よ」


 まあ、一撃食らわせれたら上等だろう。てか帰ろう。


「帰るか」


 竜平の言葉を合図に成瀬と竜平は武器を竹刀袋にしまって帰路についた。帰るとこ同じだけど。


 途中、今宮に竜平が連絡をとると、もうすでに帰宅した、とのことだったので、そのまままっすぐ家に帰る。

 あと、みんなの帰りを優香が一人でずっと待ってたらしく、ものすごく拗ねていた。



-----



「寒い…」


 寒い。何が楽しくて冬休みという長期休暇に外出しなきゃいけないんだろう。

 

「ほら、行こうよー」


 日向、お前は雪ではしゃぐ小学生か。

 あ、ほんとに雪降ってきた。寒い。


 これも全部、竜平ってやつの仕業なんだ。



-----



 今日から冬休みか… 模擬戦の約束も結局忙しくて1月入ってからになったし、特にすることもないな。

 ぐだぐだ炬燵でパソコンやって過ごそう。

 メサイアの仕事もほぼ非番だし。


「ねえ、せっかくの冬休みなんだからさー、どっか行こうよー」


「そうだな… どこ行く?」ズズズ


 竜平、お茶飲んでるとこ悪いが、補習って知ってるか?


「あんたは補習があるんでしょ…」


「忘れてたのに…」


「…私も、補習…」


 兄妹そろって補習とは、仲が良いことで。

 何やったら補習受けれんだよ。


「私も行きたいけど、メサイアのほうで、侍部隊で活動があるのよね…」


 よし、このままぐだぐだ炬燵ルートでエンディングだな。めでたしめでたし。


「あっ」ガシャ


 あ?


 竜平のお茶が… 竜平のお茶がああああ!! 俺のパソコンがあああああ!!!


「わりぃわりぃ」


 はぁ!? 殺すぞくそ野郎が。

 俺の冬休み返せ。そして死ね。


「…兄さん… 秀人の殺気が…」


「ヒィ!」


 気づくのおせーよ。なんか力抜けた。パソコンどうしよう… 電源つかねぇ。


「秀人、修理しに行こうよ!」


 なんで日向はテンション高えんだよ。


「明日でいいや…」


 竜平に新型で弁償してもらおう。



-----



 竜平の補習のこと忘れてたんだよ。完全に。


 結局、日向の買い物に付き合いつつ、電気屋に足を運ぶことになった。


「寒い」


 帰りてぇ。


「秀人、見て見て、あれじゃない?」


 記憶喪失者ってなんでも新鮮に感じられるんだな。新しい発見だ。


「ああ、そうだ」


 最近、日向のあしらい方がなんとなくわかってきた。最初は、何も知らないこいつに一生懸命説明してたけど、あんまりその必要ねえな。こいつ勝手に覚えるし。


 とりあえず、パソコン売り場に足を運び、修理可能か聞いてみる。

 その間にも、こいつは未知の世界を探検してるかのように目を輝かせていた。


「ああ… 修理代、このくらいかかりますけど、どうします?」


 この値段だったら、新しいの買うか。そろそろデスクトップにしたかったし。


 新たにデスクトップのパソコンとタブレットを注文し、店を出る。

 メサイアでは魔物討伐ミッション参加で10000円ほどもらえる成果主義だ。小隊に入っていれば、ミッションの受注機会も増える。

 それなりに貯金もたまってきたので、そこまで痛い出費でもない。

 メサイアは魔物を討伐さえできれば、中学生でもなれる。しかも給料もある。


 ただ、死の危険性がないとはいえないため、基本的に20代から30代の人が多い。


 あとは、日向の買い物に付き合うだけだ。


 日向はなぜか俺の家の前で倒れた時に金をいくらか持っていた。そろそろ尽きそうだから、早く保護者見つけるかメサイアで働かせるかしないとな。


「ねぇさ、おなかすいたし、なんか食べよう」


「買い物はいいのか?」


「いいの、今おなかすいてるし、午後からでもできるしね」


 午後まで付き合うのか…



-----



「んーおいしい」


 目の前にいるこいつを見ると、無邪気という言葉しか出てこない。


 悪く言えばアホっぽいだけだ。口元にご飯粒を付けてる姿は。


「口の周り、ついてるぞ」


「ひゃひは(何が)?」


 ホントにテンプレなアホだ。


「食い物を口に入れてしゃべらないという礼儀も忘れたのか」


「ひゃふん(たぶん)」


 いいから飲み込め。行儀が悪い。


「で、ご飯粒取れてる?」


「気づいてたなら早くとれ」


「いや、ここは男子が『ついてるぞ』とか言って取って食うところでしょ?」


 どこで得たんだその知識。

 俺なら絶対にそんなことしないけど。なんかイタイし。竜平はやりそうだな。


「…」


「なんか反応しようよ!」


 だりぃ… あ、電話なってる。誰だ? 竜平か。


「もしもし、竜平か? 補習はどうした… え? わかりました、すぐ行きます」


「どうしたの?」


「うちの竜平が交通事故で病院送りだってさ」


 なんか、病院送りが日常になってきてる竜平、のそばにいる俺ってそのうち死んじゃうんじゃないかな…



-----



 日向を1人にしておくわけにもいかないので一緒に病院へ向かう。

 成瀬二はきっと連絡が言っているだろう。

 買い物ができなかったことを謝罪すると、また二人で行ければいい、と言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。


 この街の中央病院に行く道は竜平のおかげですっかり覚えてしまった。初めて竜平に出会ってから四捨五入して10回は来ているはずだ。

 

 受付を済ませ、いつもと同じ部屋に行く。

 いつもどおり、竜平は相部屋の窓際のベッドにいた。もはや特等席だな。


「よう」


「おっす」


 軽ーく挨拶をすると、軽ーい挨拶が返ってくる。大したケガではないのだろう。


「お、光咲も来たのか」


「交通事故なんて、どうしたの?」


 どうせまた何かを助けようとしたんだろう。

 そんなことでもなかったら、こいつがけがをするとか考えられんし。


「ああー。なんか前を歩いてる人がトラックに轢かれそうだったんで、つい…」


「馬鹿かお前」


 なんで自分の体の心配をしないんだろう。

 こうやって飛び込むやつって飛び込むかどうか考える前に体が動いてるらしい。噂だけど。

 ま、どうせ助かったんだろうこいつも、助けられた人も。


 待てよ…


「おい竜平、助けた人ってどんな人だった?」


「え? 小学5,6年生ぐらいの女子だったと思うけど」


 こ、こいつ、ついにロリにも手を出しやがった…

 これでフラグがまた増えたな。うん。

 異性に命救ってもらうとか運命だろ、その人にとっては。


「で、その人にけがはなかったの?」


「あ、それなら…」


 日向の質問に竜平が返そうとしたとき、病室のドアがノックされた。


 さて、お礼に来たロリか、それとも無茶をした竜平に激怒した修羅(成瀬)か―――――




 どっちでもいいか。うん。


 なんにせよ、竜平は救い続けているのだ。そう、初めて出会った時からずっと。

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